連載
【島国大和】「ハリウッド式」ゲーム制作について考える
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
どうも皆様またお会い出来ました。島国大和でございます。
PS初期の頃は,ゲームメーカーは大手も中小もこぞって参加して,お祭り的な賑わいがありました。ゲームショウのための隠し玉なんかもわざわざ用意されていたりして,メディアでも大変盛り上がっていた記憶があります。
ここ最近は,ゲームシーンのトレンドが携帯ゲーム機やオンラインゲーム,あるいは任天堂(東京ゲームショウには不参加)のゲーム機に移行したこともありますが,かつての主役であった据え置き型ゲーム機の出展数も,大手の限られたタイトルのみになってきた印象があります。
ゲームの内容がどんどんリッチになっていく一方で,中小のゲーム会社は,開発費高騰などでそうした「ハイエンドなゲーム」にはついていけなくなってしまっているんですね。
「制作費かかってしゃーねーよ!」「そもそも,そんな大作作るのってかなりキチーよ!」という,ゲーム屋の魂の叫びが聞こえてきそうです。いや,私の幻聴かもしれませんが。
というわけで,本題は「ハリウッド式でゲームが作れるか」
ゲーム製作のコストがうなぎ登り,でも売価は据え置き(というかスーパーファミコンの頃より安い)という昨今。ゲーム会社の皆様は,いかがお過ごしでしょうか。私は,たまにサジを投げたい気分になります。いや,真面目に。
とはいえ,このゲーム開発における「制作コスト」をどう抑えるかというのは,ここ数年,業界では大変ホットな話題です。ゲームの開発者もみんな普通の人間ですから,結婚したり子供がいたりします。みんなそれぞれの生活があり,ゲームを作ることで日々の糧を得ているんですね。だから,このコストの問題というのは,ゲーム業界にとっては大変重要な部分でして。
そうした中で,ここ最近,コスト対策の手法として良く聞くようになってきたやり方が,いわゆる「ハリウッド式」と呼ばれる制作手法です。今回は,このハリウッド式について考えてみましょう。
ハリウッド式とは
まぁまずは,ハリウッド式とはなんぞや,ということを説明しておきたいのですが,これは単純に言うと,
【プロジェクトごとに適切なメンバーを集めて制作。作り終わったら解散】
こういう制作方式を「ハリウッド式」と呼ぶ事が多いです。
具体的には,まずは,ハリウッド映画のように小人数によるプリプロダクション(プリプロ)期間を設け,その出来映えによって予算を獲得。本格的な制作段階に至って,はじめて人材を大量に投入するというやり方を指します。
プリプロでは,映画でいえば,脚本,絵コンテ,スタッフ/キャストの確定,詳細なスケジュール算段あたりまでのことを決めていきます。とくに映画では,このプリプロの時点でどういう作品が出来上がるかがほぼ確定するので,そこを小人数できっちりと固めていくわけです。
それを踏まえたうえでゲームの開発工程を考えてみると,ガッチリと仕様を固めたうえで,使用ツールや制作方法の選定,スタッフのアサイン,そしてスケジュールの作成……といったあたりまでが,映画でいうところの「プリプロ段階」と言えるでしょうか。
ちなみに,このプリプロ段階を設けるメリットは,映画もゲームも同じで,小人数で良いのでコストが安く済むこと。小人数でしっかり企画を練り込むので,大金を投入する前に,善し悪しの判別がしやすいという部分なんですね。
なるほど,ゲームを作る環境/プロセスとしては,確かに理想的な感じ。
……そういえば,世界的なヒット作を連発しているあのBlizzard Entertainment社は,ハリウッド式とはちょっと違うけれど,人を増やしたり減らしたりといった開発体制を,かなりフレキシブルな形でやっているそうです。
ゲームって,関わる人数が多ければ多いほど,意見の調整と仕様のすり合わせに四苦八苦するので,まずは小人数でガッチリ固めるというのは,私のような疲れた企画屋の目にも,大変魅力的に写ります。
ハリウッド式,素敵じゃないか!
日本の開発がなぜハリウッド式を採用してないか
そんな感じで,いい事ばっかりな気がするハリウッド式なのですけれど,日本のゲーム会社は,なぜかあまり採用していません。個人的には,これは以下の理由からなのではないか,と考えています。――すなわち,
・日本のゲーム業界は,あまり人材の流動性がない
・ディレクションができる人材が足りない
・そもそもゲーム開発は,とにかく計画通りにはいかない
などですね。以下,一つずつ説明していきましょう。
・日本のゲーム業界は,あまり人材の流動性がない
これはゲーム業界に限った話ではないし,どちらかというと,アメリカにおける人材の流動性の高さの方が無茶だとは思いますが,世界という視野でみれば,英語を喋る人間というのは,日本語を話す人間の何倍,何十倍いると言えるわけで。だからこそ可能な側面もあるとは思います。
例えば,
■拘束期間約1年
プログラマー:
C++で書けて3D描画に強い人10名。ゲーム開発経験者をさらに2名
アートデザイナー:
強烈に絵の上手いのを2名。3Dツール習熟者を40名。ベテラン3名
ゲームデザイナー:
仕様書の記述とスクリプト言語の使用が可能な人。10名
みたいな求人で,人が集まってしまうというのが,まず驚きなんですよね。そんでさらに,「開発終わったら解散」という厳しい条件?まで付いている。日本じゃなかなか考えられません。いやはや,恐ろしい。
日本の場合は,そういった人材の流動性がないので「プリプロ中は人数要らないからコストが安い」って状況が発生しません。いわゆる労働法周りは,労働者保護でがんじがらめですし,「会社」というものの考え方も,アメリカと日本ではまるで違います。
例えば,開発者を社員として雇う形だと,当たり前ですが,その社員を抱えるためにかかる経費は,会社として見れば“常に掛かるコスト”なわけです。企画を少人数で練り込む段階でも,開発後期の総動員体制でも,会社からの視点で見れば,掛かるコストは一緒。なぜなら,社員の人数(=給料)は,プロジェクトの状況に関係なく固定だから。
また,仕事が少ないからといって,デザイナーやプログラマをそのままにしておくわけにもいきませんから,「その人達の仕事を作る為の仕事」が発生したりして,会社の中核メンバーが,プリプロを満足に進められなかったりもします。
要するに,日本におけるゲーム会社の組織体制では,そもそもハリウッド式でいくには無理があるんですね。
・ディレクションができる人材が足りない
これも難しい問題です。というのも,今のゲームって物凄く複雑なのですよ。3Dグラフィックスやら,デバイスの制御やら,通信関係やら。求められる知識や決めなきゃいけないことのなんと多いことか。
そんな状況のなかで,プロジェクト単位で一気に集めた,初顔合わせ集団でもって仕事を滞りなく進めるというのは,意思疎通とか目的共有といった部分が相当大変な作業になります。
普段から仕事してる奴ら同士なら,なんとなく仕事を進める事も出来ますが,新しいメンバーだと,まずは共通言語の構築からスタートです。
新規メンバーだけで仕事を回すには,プリプロの段階でしっかりした骨組みが必要ですし,その“しっかりした骨組みを作る”作業そのものも,大変難しい作業です。
そういう仕事をキッチリとやれるディレクターが日本には何人いるやら。いや,いないわけじゃないですが,その人に投資しようって人がどれぐらいいるか……。
・ゲームってのは計画通りには出来ない
映画はバグらない。ゲームはバグる。これも,個人的にはハリウッド式でゲーム作りにくいと感じる理由の一つです。スケジュールがグズグズになりやすいというか。いや,映画にも映画の大変さがあるのは重々承知しておりますが。
でも例えば,ハリウッド映画は,シナリオを複数人で制作して,絵コンテを仕上げるまでを重視するそうです。この出来が良ければ,キャストやスタッフ,期間を決めて撮影が開始されます。
映画の絵コンテというのは,いわば映画の設計図です。絵とセリフなどで撮影すべき内容が書かれています。これにしたがって1カット1カット撮影すれば,基本的に映画は完成します。
最近だと,アニメ映画の「サマーウォーズ」の絵コンテが500ページぐらいだったそうです。絵コンテを読むのにも技術は必要ですが,とりあえずちゃんと仕上がった絵コンテがあれば,映画の完成系は想像がしやすいしょう。
ゲームの場合なら,仕様書が映画でいう絵コンテに当たるのかもしれません。会社によってその形式はピンキリですが,なにしろゲームはインタラクティブなメディアです。
ああした場合,こうした場合とプレイヤーの操作によって流れが枝分かれするため,絵コンテほど単純には書けません。
例えば,シュワルツェネッガーが悪漢を撃ち殺すシーンがあったとします。映画であれば,それはそういうシーンの絵コンテがあればいいわけですが,ゲームの場合はえらいこっちゃです。
・まず,プレイヤーがシュワルツェネッガーを操るので,悪漢を撃ち殺す
のに失敗する場合がある。
・外れた弾が別の所に当たったら。壁とかは壊す? 材質の判定は?
・通りすがりの犬に当たったらどうしよう。
・撃ち殺されなかった場合悪漢は逃げるのか反撃するのか。
・悪漢は,急所とそれ以外で,ダメージが異なるのか。
・というか,あたり判定ってどれぐらい細かくチェックする?
・そもそもシュワルツェネッガーのモデリングって何ポリゴンまで使ってOK?
・着弾のエフェクトってパーティクル? ビルボード?
・てか,この辺のデータってどうやって保持しておく?
……ね。ウンザリするでしょ。
ゲームの1シーンというのは,莫大な情報の塊なんですよね。しかもユーザーにとっては,大概がどうでもいい情報だったりします。でもこれを把握してコントロールしないとゲームは完成しないし,手を抜くとやっぱりそれはゲームを遊んだときの感触にも影響します。そんで,どっかでミスると「バグだー!回収だー!」ってなるわけです。
映画などの受動的なメディアは,完成してしまえば“イレギュラー”は発生しません。お客さんは鑑賞する以外にすることがないですから,予想外の状況というのはありませんよね。
しかしながら,ゲームはインタラクティブなメディアなので,プレイヤーがゲームにいろいろと関わってきます。プレイヤーは,何をするか解らないのでイレギュラーまみれです。だけど,それこそがゲームと他のメディアを分ける部分なので,手を抜けません。
しかも,初期にたてた計画が無謀だと,ゲームとして成立しないことすらあります。
「思ったよりポリゴンでねぇや」
「あ,メモリ足りない」
こういった事態は,ゲームの内容をごっそりと変更しないといけない可能性につながります。
さらにさらに。
何か致命的なバグ,例えば「理由は分からないけど時々データが消える」みたいなことが発生したら,当然そのまま発売は出来ません。とにかく直るまで延々と時間(=コスト)を食い潰していきます。映画とかだと,そこまで不安定な要素はないんじゃないでしょうか。
というわけで,単純に映画を真似て「ハリウッド式でやれるか?」と考えると,結構不安もあるんじゃないかなぁと。
今後の日本のゲーム開発はどうなるか
とはいえ,一部のタイトルに関しては,日本でもハリウッド式になってくんじゃないかなとも思います。
任天堂などは,表に出ているインタビューを見る限り,プロトタイプを作って評価,その後に本制作に入る形が徹底されているようですし,プロジェクトを途中でお蔵入りにすることも日常茶飯事のようです。予算のある所は違いますな。
またこれも任天堂がらみですが,ゲームデザイナーの桜井政博氏が中心となっている「プロジェクトソラ」なども,プロジェクト終了と共に解散するという,まさにハリウッド式的な開発体制を公言しています。その他の会社でも,わりとそういう動きがあること自体は耳にしています。
ゲーム市場の主戦場が海外に移ってきたこともあり,大がかりな作品は,そうでもしないとにっちもさっちも行かないという事情があるんだと思いますが。
個人的な話をすれば「開発終わったらオサラバよ」ってやり方なら,それなりの報酬を貰えないと,なかなか「ハイハイやります!」とは言えない感じです。生活がありますからね。
会社なんていつ潰れるか解らないし,景気の動向だって解らない。魅力的なプロジェクトで,面白そうな事をやらせてもらえるんなら……,と考えちゃったりはしますけれど。
ただ開発者ってのは,大抵はいつも何かを開発中なので,なかなか足抜けするタイミングというのはありません。そういう意味でも,ハリウッド式は難しいなと感じるところではあります。
あと,これも個人的な見解で恐縮なのですが,いろいろと日本の事情を踏まえて考えてみると,「日本版のハリウッド式」制作方式は,もっと協力会社にグロスで投げるような形で進むんじゃないかなと思います。
社内はコアメンバーのみ。本格開発に入ったら外注に出す,みたいな。まぁ,これはこれでそれぞれの思惑が絡んで大変なのですけどね。
ともあれ,そうしたゲーム屋の事情なぞ吹き飛ばす勢いで変化し続ける,昨今のゲーム業界。自分の身が明日はどうなってるかも分からぬ勢いですが,頑張って生きていきたいと思います。
それでは今回はこの辺で。お付き合いありがとうございました!
■■島国大和■■ 有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者。「仕事自体はワリと好きなのだが,出勤するのが死ぬほどキライ」という島国氏だが,考えてみると,雑誌の編集者にもそういうタイプの人間が多いかも。……どっちも堅気の仕事じゃないってことでしょうか? |
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