連載
【島国大和】ゲームと他のメディアは何がどうちがうんだー!というお話
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
「ゲームは他のメディアとは違うんだよ!」
みたいな話をする機会がたまにあります。これでも一応はゲームを飯の種にしている,島国大和でございます。
ちなみに投資家への出資説明などで“ゲームの特徴”を話すとき,「アニメより短期間で利益回収できる」だとか「制作期間も映画より読みやすい」とかフカす人がいるそうです。私が知っているゲーム業界とは違う世界の話ですね。……まぁそんな特徴もゲームにはあるかもしれませんが,どうにも嘘っぽいわけで。
というわけで,今回のお題は「ゲームの特殊性(主に物語を語るメディアとしての)」。ゲームの特徴/特性はこうだーっというあたりを,遊ぶ側と作る側,それぞれの視点から語ってみたいと思います。あ,投資家様のことは知りません。
他メディアと比べたゲームの特殊性
いきなり結論ですが,やはり「インタラクティブである」という一言に尽きます。
ところがどっこい。ゲームはプレイヤーが世界に干渉する事が可能です。
映画をDVDで早送りして見ても。漫画を違う順番で読んでも,お話の筋は変わらないし,バグりません。
しかしゲームというのは,その自由度に程度の差こそあれ,プレイヤーがコントローラーを握って操作をしてそれに答えるわけです。
まぁ「ここであんな事をしたら」「このタイミングでこれをすると?」といった部分を,全部「そんなことは出来ませーん」と突っぱねることもできるのですが,ゲームは「インタラクティブである」が最大の特徴なので,突っぱねてばかりではゲームの長所を放棄することにもなりかねません。
ともあれ,このプレイヤーとゲームの相互干渉,インタラクティブ性を持ち得ることこそがゲームの特徴であり特殊性なわけです。
ゲームの特殊性 インタラクティブのメリット
映画や小説や漫画などをひっくるめた娯楽全体でみた時,ゲームほどのインタラクティブ性があるものはそうは無いでしょう。ですから商売としても,このインタラクティブ性がウリとなります。
人が遊んでるのを見て,自分も遊んでみたいと思う。人から話を聞いただけでは味わえない快感。これはゲームの大きな“強み”の一つです。
んで,インタラクティブ性を駆使した快感として,「達成感」という要素が上げられます。
個人的には,この「達成感」こそがゲームのカギだと思っています。他のメディアで達成感を表現するのは大変ですよ。本当に達成感が得たければ,それなりの努力をしなければなりませんし,努力した所で達成できるとも限りません。現実は厳しいんです。
Webサービス等はインタラクティブなメディアですが,これを達成感に結び付けるのは割と面倒です。検索が難しくて欲しい情報を引き出すのが大変だったら,情報を引き出した時に達成感が得れるかもしれませんが,それじゃ単に不便なサービスでしょう。
一方でゲーム(=ビデオゲーム)は,「ほぼ保障された達成感」を作り出せるメディアです。克服出来るぐらいの困難,ちょうど解ける謎。ゲーム屋というのは,そうした仕掛けをあの手この手で作りだすのも仕事なわけです。
もし達成感を,漫画などの他のメディアで体感させようとしたら,主人公に感情移入させたうえで,主人公が努力をして目的を達成する。そしてそれを見て,視聴者が擬似的に達成感を感じる……などといった回り道が必要です。
こんなブ厚い本を俺は読んだ! こんな真面目な映画を俺は見た! という達成感のあり方も存在しますが,それはメディアの持つ快感じゃないので割愛します。
ゲームは,プレイヤーが自身の努力で,ほぼ“確実に達成感を得ることができるメディア”です。そしてゲーム屋は,この達成感を与えるための手法を駆使してゲームを作ります。インタラクティブ万歳!
ゲームの特殊性 インタラクティブのデメリット
とはいえ,インタラクティブって良いことばかりではありません。よく指摘される問題点としては主に2つ。1つは「開発コスト」,もう一つに「複雑化」という問題があります。順番に説明してみましょう。
まず開発コスト。
映画なら2時間程の画面に“写っている所”だけ作りこめばいいわけです。裏に回ったらベニヤ板で構いません。スターウォーズの新三部作などは,出来上がったCG画像で違和感のあった箇所は,コマ単位で片っ端からレタッチを入れていったと聞きます。約2時間として,計172800コマ。もちろん,それはそれで莫大なコストと作業量が必要ですが,その気になったら出来ない量ではありません。でもゲームじゃ無理っす。インタラクティブなので,全てのユーザーが見るであろう画像を完全に把握することは,制作者にできません。
ゲームは種類によっては,そこにあるオブジェクトは,全方向から見る事が出来たり,すべて壊せたりと大変です。
ネットゲームだとAさんとBさんが何かをしている最中にCさんが横からツッコミを!など,さらにありとあらゆる「想定しておかなければいけない事態」が発生します。
もっとシンプルなゲーム,例えばパズルなんかでも,そこはやはりプログラムですから,この瞬間に操作をしているとバグります!みたいなのが出てきます。
「ゲームのローディング中にCDトレイのフタを開けたら止まりました」とか,当たり前だー!とツッコミ入れたくなるバグでも,ある程度の対策をしなければなりません。
もちろん,プレイヤーが「あれしてみたい」「これをやったらどうなるの」と思う事にはできるだけ答えた方がいい。「ゲームはインタラクティブである」が最大の特徴なのですから。「こんな事をしてみたい」とかプレイヤーに思ってもらえないと逆にツライです。
ということで,良いものを作ろうとすればするほど,コストは何乗にもなってしまうんですね。
んで,複雑化の方。
プレイヤーが何でもインタラクティブに操作できるようにしていくと,一方で「何をしていいかわらないプレイヤー」というのをどうしても生み出してしまいます。どれだけ頑張って丁寧に説明しても,説明書やチュートリアルはもちろん,ゲーム中の説明を読まない人も多いわけですしね。
そんななか,昨今流行の携帯電話のソーシャルゲームなどは,びっくりするほどシンプルなものが多いです。サイコロ振って判定してるだけじゃないのこれ? みたいな。でも逆にそれぐらいだからこそ,誰でも遊べるとっつきやすいゲームになっている側面もあります。あんまりインタラクティブな方向に気合を入れていくと,遊べない,遊び方が解らないって人を増やしてしまいますから,これはこれで一つの戦略です。
先ほど映画の話をしましたが,制作費ってゲームより映画の方が莫大なの多いじゃないですか。何故映画は莫大な金をかけて作れるかと言うと,
インタラクティブな部分がないので,誰にでも楽しめる訳です。最初から,ゲームより市場(想定されるパイ)が大きい。
つまりですね。ゲームの最大の弱点は,ゲームならではの利点(インタラクティブであるがゆえの難しさ)から発生してる訳です。
世の中,ゲームに人生かけてるゲーマーやゲーム貴族ばかりじゃないので。これが,ホドホド遊べる程度のインタクティブ性が良いとされるゆえんですね。
そんなわけなので,ゲームからは難しさを極力排除,ゲーム性部分にもインタラクティブ要素を多く設けず,プレイヤーキャラクターの衣装(アバター)やアイテムで選択肢を増やしてインタラクティブな部分を確保する,ってのが最近の流行っぽいです。
最後に与太話
凄く昔の話ですが。SFが大人気だった頃,「SF論争」なるものがありまして。ある作品を取り上げては「これはSFか否か」というのを論争してた時代がありました。「科学に基づいていないからSFじゃない」「いやフィクションとして許されるレベルだ」みたいな。
で,そうこうしているうちにSFは滅んだわけですが(滅んでません),ゲームにおいてもそういう論争はあるわけです。「こんなのはゲームじゃない」「いや,ゲームだ」みたいな。
でも,そういう議論に果たしてどれだけ意味があるのか疑問です。今しがた「ビデオゲームの最大の特徴はインタラクティブだ」という話を書いたばかりですが,「それは最大の弱点」でもある。娯楽として広い視野でゲーム産業を捉えた場合,それだけにこだわると色々ツライ。以前にもどこかで書いた気がしますが,結局はさじ加減。
それになんというか「もうなんでもゲーム。自称ゲームは皆ゲーム」……という扱いの方が,プレイヤーにとってもゲーム業界にとっても実は幸せなんじゃないかなと思います。
なぜならそうしておけば,ゲーム市場はまだ当面膨らみっぱなしってことになるじゃないですか。未来は明るい! ゲーム業界バンザイ! あっはっは。……自分たちの可能性を,自分たちで狭める必要はないですよね。
そんなわけで今回はこの辺でー。どうもありがとうございました。
■■島国大和■■ 有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。日頃,オンラインゲームのことを「“ネットゲ”と呼ぶ島国氏だが,Twitter上で「そんな略称あまり聞いたことない。“ネトゲ”や“オンゲ”と略すのが一般的ではないか?」と振ってみたところ,それを見ていた他の人が,Googleでそれぞれのヒット件数を調べてくれたことがありました。曰く,「ネトゲ:約11700000件,オンゲ:約399000件,ネットゲ:約64500件」とのこと。いやー,インターネットって便利ですね(棒読み) |
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