連載
【島国大和】ハリウッド方式の洋ゲーに“先”はあるのか?
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
それもそのはず,昨今の洋ゲーの開発費は,日本の一般的なゲームとは規模が全然違います。スペクタクルなんですよ。
それにあっちは労働者の流動性が高いから,「よっしゃゲーム作るぜ。こういうスキルある奴集めよう」って言ったら集まるわけですよ。その点,日本ではなかなか人材は集まりません。さらに「思ったより能力低いな。おまえクビ」とか「デザインパートの人手が足りねーな。足そう」っていうこともあちらならやりやすい。
大規模な予算と,その予算の中でさらにフレキシブルに人材をやりくりするということに関しては,北米(というか英語圏)は,抜群に取り回しがいいというバックボーンがあります。
そもそも英語圏と書きましたが,英語を喋る人間の数は日本語の比じゃないですよ。あたりまえだけど。人材も豊富なら,英語圏はお客さんも豊富です。沢山売れる可能性があるから,大金をかけてゲームが作れる。
日本人は技術が低いとかアイディアがないとか,そういうレベルの問題ではなくて,昨今の日本のゲーム業界が劣勢に立たされているのには,そういうマクロ的な要因が見逃せません。
「洋ゲー強ェェェー!」という状況になるのも道理なんですよね。
……とまぁ,ひとしきり洋ゲーをと持ちあげた後で言うのもなんですが。洋ゲーって,今後も大丈夫なんでしょうか(そうでもない)。
というわけで,皆さま,またお会い出来ました。島国大和でございます。
明けても暮れてもハリウッド方式
この場合のハリウッド方式とは,「大金をかけて」「人材の流動性を利用して」「分業して」「大作をカッチリ作る」事を指します。
日本は,市場が狭くなったから「大金をかけられず」,社会的に組まれている構造上の理由から「人材が流動せず」,会社の仕組みからは「分業しにくく」,結果として「大作をカッチリ作りにくい」んですね。
しかしこの「カッチリ作る」ってのは,例えハリウッド式で作るにしても,そんなに融通が利くものではないのが難しいところで。「カッチリ作る」には「カッチリ作りやすい」ゲームである必要があるわけです。
例えばFPSは,完成度が非常に高いゲームシステムなので,仕様書をカッチリ書くのは不可能では無いです。もちろん既存のツールや既存のエンジンを利用した上でないと,やはり大変ですが。まったく新しいゲームを作りよりは,トライ&エラーの回数は格段に少なくて済みます。
発売日(9月15日)が迫る人気FPSシリーズ最新作「Halo: Reach」 |
そもそも私みたいなゲーム屋の目から見ると,ある程度動いた後で調整したであろうシステムが多く見受けられるのが,FF13の大きな特徴でもあります。あれはかなりスクラップ&ビルドを繰り返したんじゃないでしょうか。
他のタイトルを挙げれば,3Dになって以降のゼルダも,カッチリした仕様書を書くのが相当に難しいゲームだと思います。任天堂は一度大枠を作ってから,それを参考にもう一度1から作り直すという噂があります(本当のところは知りません)が,あのゲームの構造を見ていると,「さもありなん」という気がしてしまいます。
実装して,遊んでみて「うーん」,ちょっと直して「うーん」,実装変えてみて「うーん」みたいな事が,あちこちで行われていることでしょう。
全部が全部そうじゃないけど,毛色の変わったゲームや,手触り重視のゲームなどは,どうしても,作っちゃ壊しのスクラップ&ビルドが必要になります。
新しいことに挑戦するゲームでは,確実にキッチリ作れる保証がないんですね。予算と期間がたくさんあれば何とかなりますけども。ただ,大金を使っておいて「保証できません」なんて口が裂けても言えません。
なので,大金を使うようなゲームは,原則として「キッチリ作れるゲーム」以外の選択肢が取りにくかったりします。そして確実に「キッチリ作れるゲーム」と言うのは,結構限られてくるわけです。
開発においても,同じ人が同じチームでずっと仕事をする訳ではないですから,スクラップ&ビルドしていい箇所が限られますし,だからどうしても既存のゲームに似てしまいます。そんなわけで,大作と言われる洋ゲーにある程度似たゲームが増えてしまうのも,いたしかたない印象です。
そんなカッチリ洋ゲーもコストがキツイ
そんな風に洋ゲーというのは,「売れる」ジャンルのタイトルを「大金をかけて」「カッチリ」作ってきたわけですが。売れる量には限界があります。
例えばゲームが1本あたり7千円とするじゃないですか。ゲーム人口が1千万人として,全員が買ったら700億円です。ひゃっほー。
……そんな簡単な話では無いのは皆さんご存知の通りですが,ここで言いたいのは「上限が決まってる」と言うことです。700億以上かけてゲーム作っても,絶対700億以上は儲からないから赤字ですよ!(当たり前)
そして,長年右肩上がりだった北米ゲーム市場も,昨年はついに縮小に転じました。要するに「上限がいったん見えた」という見方も出てきたんです。結果,市場の拡大が支えてきた開発費の高騰も,それによって見直される空気が生まれてきました。
しかし「だったら,安く作ればいいじゃない」という訳にもいきません。
競合他社,他ソフトとのユーザー獲得競争に勝たねば,まったく商売になりません。 勝つためにギリギリまで予算を突っ込んで,さらに突っ込んだ予算以上の利益を出さなければならない。これはキツイ。相当“胃にくる”類の闘いでしょう。
実際,海外の大ヒットタイトルが,数百万本売れてなお赤字だとか,いろいろ恐ろしい噂も舞い込みます。しかも開発費ではなく宣伝費で赤字とか。いやはや,恐ろしい。
ただまぁ,一定以上良く出来たゲームは,そこから先は周知にコストをかけるしかユーザーを獲得する方法がないのも事実で。
ゲーム本編はそもそもカッチリキッチリ作ってるんだから,もうここからコスト下げるのは乾いた雑巾を絞るが如くです。ここでさらにケチって,いろいろ使い回すとまた既存のゲームに似てしまいます。
もう,何をどのように作っても予算がキッツイ。
100億円を使って110億円の儲けを出す類の商売の危うさは,最前線で戦っている北米圏のパブリッシャこそが,今まさに痛感していることなんじゃないでしょうか。
ネットゲームやソーシャルゲームが何故流行るか
Facebookでサービス中の「ZOO☆World」は,なんと7000万人以上もの登録者を抱えるソーシャルゲームだ。7月にはmixiアプリとしてもβ版サービスが開始されている |
だけどしかし,売れる量に限界がない(ように思える)商売もあります。それこそが「アイテム課金」です。ゲーム内の「経験値倍増アイテム」や,武器,おしゃれ衣装など,さまざまな「形のない消耗品」を販売するわけですね。
MMORPGのアイテム課金では,アジア勢に遅れをとっていた洋ゲー勢ですが,Facebook上のソーシャルゲーなどは,凄い勢いで市場を形成してきました。小チーム編成で短期間で開発できますし,システマチックにプログラムを作って,絵を差し替えて,ちょっといじって別ゲームとかは,海外の開発者達は超得意なんですよ。
上記でも述べたとおり,現在とこれから先のゲーム市場を見据えた場合,もう何十億円もかけてパッケージのゲーム作ってる場合じゃなくなっています。だってどれだけの名作を作ったとしても,儲かるであろう最大の額は知れてるんですから。
ところがアイテム課金のゲームだと,上手くハマると,天井知らずで儲かるわけです。1人がゲーム1本買ったら終わりだった市場が,1人が何個も何個もアイテムを購入するからです。
開発費が高騰し続けるゲーム業界としては,これはもう差し込んだ一条の光です。神か悪魔か知りませんが。そしてMMORPG等で猛威をふるったアイテム課金は,今はソーシャルゲームで流行っています。
これは洋の内外を問わず似たような状況を見せていて,例えば国内の事例で話をすると,
「動かない2D絵の魚を釣るのに,2000円もする竿を何本も買うユーザーがいる」
とか,そういう商売が成り立っているわけです。もう凄すぎますね。
ちなみにソーシャルゲームのアイテム制作コストは,MMOのそれよりもはるかに安いです。でも売値は同じか,より高いくらいのものが多いです。ウハウハですね!
するってぇとどうなるか。何十億かけてパッケージの大作つくるよりも,利益率がデカイ可能性があり,初期投資が少ないソーシャルゲームやブラウザゲームに,開発者と資金がなだれ込むわけです。
博打(投資先)としては全然ワリがいいですからね。
また,言いたくはないですが,開発が比較的カンタンなので,既存の大ヒット作品があれば,数か月でコピー品が作れます。いわゆる「パクリ」ですね。ソーシャルゲーム市場を見渡してみても,すでに結構出回ってますよね。それも大手から。市場がコアゲーマー向けではない為,誰もパクリなんて気にしません。そして,(今はまだ)それでもなお儲かってしまうのが,昨今のソーシャルゲーム市場なんです。
つまり,リッチでスーパーでオリジナルなパッケージソフトを作る意味が,果てしなく薄れている訳ですよ。頑張って大作ゲームを作ることが,リスクに見合わないビジネスになってしまった。
「寒い時代だとは思わんか」てなもんです。
ゲームはこのまま進化をつづけられるのか。
他にリスクが少なく利益が出る方法があるなら,企業がそちらに傾くのは当然ですからね。
大作感溢れる洋ゲーもこの先はやばいかも!……とはいえ,日本のゲームはもっとヤバいんですけどね。てへ。
もうね,ゲームを「進化させるメリット」がなかなか「コストを越えない」んですよね。新機軸のゲームを作れば売り上げに繋がって,それがゲームそのものの発展に繋がる……そんな幸せなケースが少なくなってしまいました。
そんなわけで「おッこれはスゲェ!」ってゲームが好きな自分にとっては,ツライ時代となりつつあります。
ただ,いろいろ言われているゲーム市場ですが,産業の規模自体はそんなに変わってないんですよね。主戦場が移動し,プレイヤー(メーカー)が変わっているだけで,デジタルによるエンターテイメントの熱量は以前のままです。むしろ昔以上かも。
熱量が落ちてないのが救いです。一発芸による一発大逆転が残されていますからね。毎回希望的なオチを探すのが大変になってきた気もしますが,「まだだ,まだ終わらんよ。ゲーム業界は!」ということで。ご静聴ありがとうございました。
■■島国大和■■ 有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。最近,PlayStation 3の「torne」に頼り切った生活をしているという島国氏。なかでも録画ランキングは,話題のアニメやドラマをチェックするのに便利ですよね。ちなみに本連載の担当編集もtorneユーザーの一人ですが,撮ってる番組「水曜どうでしょう」に「美味しんぼ」,それにアニメ版の「名探偵ホームズ」のみ。……私のような人を懐古主義者というのでしょうかね。 |
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