連載
【島国大和】パチンコや麻雀,そしてソーシャルゲームからゲーム業界が学ぶべきこと
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
ここのところ,旧来から続くゲーム業界は不景気な話ばかりで,今回の東京ゲームショウも凹むかなーと思って心配していたんですが,ほんと良かった良かった。
そんなわけで,ちょっと安心している島国大和です。今回もよろしくどうぞ。
さて,そんなゲーム業界を横目に,最近はやたらめったら景気が良い所があります。ソーシャルゲーム界隈とか,携帯界隈とか。羨ましい限りです。
CEDECでは,GREEがゲーム業界からの転職をオススメしてるチラシを配ってたそうですね。飛ぶ鳥を落として焼き鳥にするみたいなもんでしょうか。
いやー,我々も負けていられませんね!
というわけで今回は,旧来のゲーム業界はもっと他から学ぼうぜ,ということで,自分が常々優れてるなーと思っている「パチンコ」「麻雀」「ソーシャルゲーム」から,これが良いよね!と思う所を抽出してみました。お気楽にご覧あれ。
パチンコの何が優れているか
パチンコはギャンブルだから面白いんだ,とは良く言われるところ。でも,それだけであの行列は作れません。
パチンコは誰にでも遊べるという利点があります。ハンドルひねるだけの連続くじ引きシステムなので,誰だって大当たりを引く可能性がある。
しかし,確率は激しく変動し「当たる可能性」を「細かく伝える演出」がプレイ感覚に波を作る。
「当たりそう,当たりそう,当たりそう,外れた。今度こそ。」
「当たりそう,当たりそう,当たりそう,当たりそう,もう少し,当たった!」
演出の意味を知っていれば,さらに深く遊ぶ事が出来る。しかし知らなくても遊べる。 ただの「くじ引き」を,ここまで楽しそうに演出する技術に学ぶべきところはあると思います。
自分は,脳髄の奥までコテコテのゲーム屋なので,ゲームのルールを考えるときは,ゲーム的なメリットを,「ゲームのルールを理解したご褒美」として用意してしまいがちです。例えば,「敵の弱点に当てたらクリティカル」とかね。
でも違うんですよね。それがすべてではない。
なぜなら,より多くの人に遊んでもらいたい場合は,「ルールを理解してない人にもご褒美が必要」になるからです。
だから例えば,「弱点に当てたら」じゃなくて「20%の確率でクリティカル」とかした方が,誰でも遊べるわけです。RPGが何故万人に受けたのか,そして今は何故受けないのか。何となくわかるんじゃないでしょうか。
もちろん,ゲーム性よりくじ引きだ!というつもりはないです。しかし,すべてのゲーム中のご褒美がルールの熟知を必要とするなら,そんなゲームは息が詰まります。
ゲームはまず楽しくなければいけません。ゲーム道を求道するゲーム貴族ならいざ知らず,普通の人には適度に当たるくじ引き要素も必要なのです。
これは学ぶべき,というより,旧来のゲーム業界こそ良く知っていたのですね。
ゲームはダイスの元では平等です。スポーツですら,ボールはイレギュラーにバウンドします。
ゲーム性の追求による一般人置いてけぼり問題は,ゲーマーのコア化,制作者のコア化で発生したのでしょう。
自分も気を抜くと,ついうっかりゲームの中のご褒美を運じゃなくて実力に対して渡す仕組みとして考えてしまいがちです。
ターゲットに合わせて,色々手法を考えないといけないんですよね。この辺り,ゲーム屋は常に意識すべきところだと思っております。
麻雀の何が優れているか
麻雀は,中国の長い歴史が誇る「素人から金をかっぱぐ事に最適化したゲーム」だと思ってます。(偏見)
しかしそれは,素人も玄人も面白い(どちらも同じように楽しめる)から成り立つわけで,それだけ麻雀は見事なゲームだということです。
負けた時は運が悪かったと思い,勝った時には,俺が強かったと思える。いや,素晴らしく良く出来たゲームシステムです。
「完全情報ゲーム」という言葉があります。これは例えば,将棋のように全ての情報が開示されているゲームを指します。
将棋は本当に奥が深い。81マスの盤の上40個の駒を交互に動かすだけであれほどの戦局が発生します。無限段階パズル。そして神のように強いとされる名人でも負ける事があります。このとんでもなく良く出来たゲームのルールを考えた奴は,本当に凄いと思います。(マイナーなルール変更が色々あったようですが)
しかし,将棋のような「完全情報ゲーム」では,上手い人に初心者が勝つ事はまずありません。そのゲームとしての深さは,棋譜を読むだけで楽しめ,対局をみるだけでエンタ−テイメントであり,本当に凄いんですが,初心者にはなかなかツライものあります。
だって,勝てないゲームはツマラナイ。
それに比べ,麻雀は「不完全情報ゲーム」です。伏せられた牌,相手の牌も見えません。見えないからこそ,どこまでも不確定要素が残ります。つまり運です。そして運は初心者にも上級者にも平等です。だから,初心者が勝つこともありえるわけです。盲牌(もうぱい)とかはとりあえずナシで……。
さらにその構造上,麻雀は一定まで上達するのがかなり早いゲームです。すぐにプレイに支障が無い程度に強くなれるんですね。ソコソコ強くなるまでにそんなに修練を必要としません。
これは,新しい人がゲームを始めるためのモチベーションとして大事なことです。
例えば超大作MMORPGとか,コアプレイヤーの凄さを見ると,これからゲームを始めるモチベーションが削がれますよね。将棋とかもあまりにも奥が深すぎて,途中で脱落していきます。
ここで重要なのも,やはりマグレで勝てる要素なんですよね。さっきのパチンコと同じです。しかし麻雀は,パチンコよりも個人の能力に依存します。上手い人と初心者では,回数をこなせば勝敗に歴然とした差が出ます。
そしてこれはこれで,プレイを続ける,そして習熟に熱意を向ける重要なモチベーションになります。
いやー,ホント良く出来ています。流石素人から金をかっぱぐ(以下省略)
※補足:
ちなみに日本の麻雀は中国の麻雀に比べ,腕が物を言うような仕組みが多く取り入れられています。例えば中国麻雀には川がなく(適当に牌を捨てる)故にチョンボが有りません。日本版は読みの要素が増えてゲーム性が高いですね,しかしゲームを深くした分,難しくもなります。この辺り,日本人のゲームに関する考え方を反映しているように感じます。
ソーシャルゲームの何が優れているか
この辺の上手さは,パチンコ,麻雀のような考え方をベースにさらに強い導線を引く事を目指しているように見えます。
加えて,そうやって誰でも遊べるように作った上での大量の広告投下。どんな大人数が来ても残留は数%,そこからおカネを払う人は更に数%。必ず何人かの顧客が残り,その顧客でちゃんと利益が出る構造になっている。
ほんと,見れば見るほどいろいろと理に適って優れているわけですが,一番優れているのは,そういったこれまでゲームをしてこなかった客にリーチし,ちゃんと集金するシステムを作り上げた所でしょう。
つまり,ソーシャルゲームの一番凄いところは「外枠」なんですね。ゲームじゃなくて,ゲームが集まる場所,プレイヤーが集まる場所の設計,そしてそこへの導線が重要なわけです。
なので,ソーシャルゲームを見て,旧来のゲーム業界に長い人が,なんだ,アレぐらいならすぐ作れるとか思ったら大間違いなんですよ。
似た物が作れたとして,本当にユーザー心情に沿ったものかは分からないし,ユーザー心情に沿っていたとして,そのユーザーに届くまでには,大量の広告やポータルサイトからのリンクが必要になる。
そこまでやったとしても,出入り口はもう既存のサイト/サービスが抑えているわけで,そもそもソフト1コ単位の勝負じゃない。
考え方がもうゲーム単独じゃないのですね。
ゲームはコンテンツの一部。それを取り囲む全ての状況をうまーくデザインしたサービス。それこそがソーシャルゲームの実態だと思います。
これは本当に学ばねばなりませんし,その違い(旧来のゲームとの)を理解すべきだと思います。全部のゲームがそうなっては困るし,理解せずに打ち果てても困りますから。
要するに俺たちはやり過ぎた,そしてやらなさ過ぎた
そのひとつは「俺たちはやり過ぎた」ということ。
ゲーマーがゲーマーに向けてゲームを作って来た数年間は本当に楽しかったし蜜月の時代だったと思いますが,それは一般人を置いてけぼりにしました。
ゲーム人口を増やすなら,一般人やキッズに訴求しなければいけないのは当たり前です。
そして「俺たちはやらなさ過ぎた」
ソーシャルゲームのような,ややもすればエゲツナイと感じる囲い込み戦略や導線の引き方,課金の仕組み。
かつて「いいものを作れば売れる」という幻想が支配的だった時代もありますが。そんな事はありません。どんなに名作でも売れない時は売れない。
売れなければ次作は作れない。作れなければ技術は継承されず先細り,二度と日の目を見ることはありません。
もちろん,無茶な儲けを出すやり方は確実に市場を疲弊させます。
今のまま状況が推移していくと,古き良きゲーム市場(とあえて言いますが)が消えてしまう可能性だって十分あり得るわけで,それが本当に多くの人にとって幸せなことなのかどうか。非常に悩ましいです。
自分はゲームが好きなので,好きなゲームがこの先ちゃんと生き残っていける仕組みの再構築を願っていますし,自分でもいつも考えています。
だから「あんなのはゲームじゃない」とか頭ごなしに否定したくないですし,逆に「そんなのはもう古い」とバッサリ諦める気もありません。
ソーシャルゲームに限らず,最近は時代の流れが本当に速いわけですが,自分みたいな開発者だって,足掻ける限り足掻くわけです。
ともあれ,「お互い頑張りましょう」ということで,今回は締めたいと思います。どうもありがとうございました。
■■島国大和■■ 有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。常日頃「ロボット大好き!」と公言して憚らない島国氏だが,先日,Twitter上で「ターゲットが俺のアニメ作るとしたら,『血ノリ』『硝煙』『火薬』『メカ』『渋キャラ』『戦闘のギミックと殺陣が売り』『売り上げは玩具展開で回収』『キャラの美形率低め』『キャラの行動に一貫性』『話はせめてスジが通っててほしい』あたりか。見事に今の主流じゃない」と発言していたのを目にしました。いやぁ,気持ちは分かりますよ。気持ちは。 |
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