連載
【島国大和】ゲーム屋はケータイをどう見ているのか
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
はい。久方ぶりの島国大和でございます。
次はどんな話を書いたものやら……とちょっと悩んでいたのですが,今回は,最近しきりに話題に出るスマートフォンやら携帯向けのソーシャルゲームについて語ろうと思います。
一時期は(というか,今もですが),猫も杓子も携帯電話向けソーシャルゲームにスマートフォン!ってなもんで,「コンソールゲームなんてもう古い!」という話が多かったのですが,そんな状況も一息ついたかな?というこのタイミングで,
改めて携帯ゲームやスマートフォン関連をゲーム屋はどう見ているのか
を書いてみようかなと。……ゲーム屋というか,単に私の私見ですが。
日本で携帯電話のゲームが隆盛したのは,課金システムが秀逸だったから
まず,日本の携帯電話向けゲームを語るうえで重要なのは,
面白い面白くない以前の段階で凄い
なにしろ,コンシューマのようにパッケージを販売したり,ネットゲームのようにカード番号を入力したり,コンビニでゲーム通貨を購入したりという手間がまったくありません。
とくに未成年の方なんかの多くは,親がお金を払っていて,通話料や課金に対しての感覚が薄かったりします。なので,あまり気にせず「これ欲しいな,落とそう」ってなもんで,財布のヒモなんかありゃしない。「着うたのダウンロードはそのおかげで伸びた!」と力説してる御仁もいたくらいです。請求が来てその金額にびっくり!みたいな話は,度々ニュースなどでも取り沙汰されていましたね。これがアメリカなら即裁判沙汰ですが,日本では,そこまで行くことは少ないです。
「毎月払ってる金額がちょっと増えるだけじゃーん」
という感覚でお客さんにアプローチできるから,小さいコンテンツが売りやすいって強みもあります。しかも,ポータルで入り口をがっちり押さえてるサービスが多く,プレイヤーを自社のゲーム(コンテンツ)に誘導することはお手の物なんですね。
そんなわけで,日本の携帯電話ゲームの利益率は凄いですよ。ぶっちぎりの世界最大。北米市場でブイブイ言わせてるZynga(ソーシャルゲームの最大手)だってメじゃねぇってレベルです。
けど,そう上手い話ばかりではない
日本での携帯電話向けゲームの隆盛は,課金システムが優秀なのに加えて消費者保護がヌルいから,という話をしました。
しかし他の国では,当然ですが事情が異なってきます。海外だと,課金システムはイマイチだし,消費者保護の観点からポコポコ裁判起こされるんですね。要するに,日本で通用したゴールデンルールが海外展開には使えないわけです。
だから,国内では圧倒的な地位を確立している携帯向けゲームをサービスする各社にしても,海外進出に関しては一筋縄ではいかないはずです。
でも,国内市場もそろそろ限界が見えてきた今,更なる成長(あるいは維持)には,海外へ活路を見いださないといけなくなってきた。そして携帯電話市場自体も,いわゆるガラパゴス携帯(以下,ガラケー)からスマートフォンに置き換わっていく過渡期に入っています。
まさに節目に差し掛かっている時期なんですね。
またブラウザゲームの市場は,プラットフォームがオープンで,かつ参入障壁も低かったゆえに,開発競争が“低い意味で世界規模”になっているのも大きな特徴です。つまり,中国や東欧などをはじめとした,労働賃金の安い国や地域のアプリがゴロゴロしているわけです。彼らにはウハウハな利益も,日本人の開発者にとっては雀の涙だったりします。無料アプリとだってガチで勝負していかなければなりません。
さらにソーシャルゲーム界隈は,大手が大資本で,全力を尽くしてパクリをやるような市場ですから,仮にユニークなゲームを作り上げたとしても,真似されてあっという間にレッドオーシャン。これはキビシイ。ツライ。イタイ。カナシイ。ナキタイ。
そんな状況ですが,携帯電話向けゲーム市場も,新たな一歩を踏み出さねばなりません。大変ですねぇ(他人事)。
正直,市場も一段落ついちゃって見える
というわけで,私から見ると隣の芝なソーシャル&携帯端末向けゲーム市場ですが,まったく青く見えていません。むしろ大変そう。
ゲーム業界自体が,全然芝が青くないので,どこの芝がより青いか競争をすれば,向こうの方が生い茂る芝が多いのかもしれませんが。少なくとも無限に広がるフロンティアがあるわけではないでしょう。
しかも市場としては一段落していて,拡大というよりはむしろ淘汰の時期に来ているとさえ思えます。
HD画質のゲームを作ると,10億円は余裕超えで,100億円を超えてるゲームもあるこのご時世。それに比べれば,数千万円,場合によっては数百万円でつくれるソーシャルゲームやブラウザゲームは,一見美味しそうに思えるかもしれません。
でも,利益率やら勝率やらを考えると,実はかなりの博打になってしまうケースも多いんです。小さいとこが小さく回す分にはアリですが,所場代やマーケティングコストを計算すると,なかなか一筋縄ではいきません。玉石混淆のなかでは,そもそもお客さんの目に留まること自体が大変難しいですし,良いものを作っても負ける可能性が高いからです。
結局のところ,出入り口をきっちり押さえたプラットフォーマーにしか美味しくなさそうに見えちゃうんですね。
さらにスペック的にはもうそろそろ頭打ちだし,そもそもプレイヤーも高スペック化を望んではいません。さらにさらに言えば,携帯電話でゲームを遊ぶ人達には,もともとゲームで遊ぶことを習慣としてない人が多いわけです。
とくにガラケー向けのゲームって,今までゲームをしなかったプレイヤーを捕まえたのは本当に見事なんですが,そこから安直にお金をかっぱぎ過ぎると,もともとゲームに対するリテラシーがないので,「ゲームってこんなものか」と思ってやめてしまう危険だってある。
ほんっとに勘弁してください。世の中には面白いゲームだっていっぱいあるのに。
将来,スマートフォンが多勢を占める頃には,さらにこの流れが進んでしまって,ゲームを遊ぶ人と遊ばない人の2極化がより顕著になるような気もします。そうなった時,ゲーム市場ってどういう形になっているんでしょうね。
ちなみに。携帯端末によるソーシャル系ゲームは,今現在は大変な盛り上がりを見せていますが,「次のステージのゲーム」という位置づけにはならないのでは?と思っています。あくまでも「今,流行のジャンル」という印象。個人的な印象なので,データ出せ,証拠を見せろ!とか言われても困るんですが。
もちろん,今後ゲーム市場がどういう変化/進化を遂げるかは誰にも分からないので,その動向は,これからも注意深く観察する必要があります。
ただ,今の時点で,手持ちの予算を全額ソーシャルや携帯にぶっ込んで博打を打つのは,やっぱりリスキーだよなーと思うわけで。だからなのか,いろいろな所に足場を残したまま,まだまだ様子見をする会社は多いですよね。規模の大きい会社で社員を食わしていくのは,本当に難しそうですし。
今,その戦場で戦う意味
ぶっちゃけ消耗戦ではあるのですが,その芝が今後どうなるかは分からないにしても,戦わない奴には権利なんて無いわけです。だから,どんなに苦しくても戦い続ける。漢の戦いですな!
もちろん,他にも色々な戦場があるんでしょう。これから伸びる戦場,まだ見えていない戦場。そういう戦場の一つがソーシャルゲームやスマートフォン周辺で,どっちに転ぶか解らないドキドキがまだある。そこはチャンスでもありリスクでもあり……。
ただ,大きい会社ほど,“ルーレットで一点張りするようなリスク”は背負えないので,手持ちの掛け金を幅広く盤面に割り振っているという。
今の状況を喩えるなら,そんな感じじゃないですかね。
というわけで,今回はこの辺で。ご静聴,どうもありがとうございました。
■■島国大和■■ 有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。正体不明のゲーム開発者という芸風(?)で長年通してきた島国氏だが,最近,ついに社内の一部で正体がバレてしまったという。この連載に影響が出たりすると担当編集者的に大変困るし,読者の皆さんも記事が読めなくなってしまうので,関係者の皆さん,ここは一つ内緒でお願いしますよ。 |
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