連載
【島国大和】ゲームにおけるフリーミアム。なぜ最近はヌルくて長いゲームばかりが流行るのか
島国大和 / 不景気の波にもがく,正体はそっとしておいて欲しいゲーム開発者
島国大和のド畜生 出張所 |
どうも,お久しぶりの島国大和でございます。
私事ですが,もう忙しくて忙しくてシャレになっておりません。1日中ゲームを作って,終わったら電車の中でゲームをしてという,見る人から見れば天国のような生活をしております。
とはいえ,正直,もう長いゲームを遊ぶ根性も時間もありません。リセットを繰り返すようなゲームもカンベンです。そんな具合で,以前はカリカリなゲーマーだった私も,すっかりヌルゲーマーになっている昨今。皆様はいかがお過ごしでしょうか。
今回は,ゲームの難度とプレイの長さの問題に関して,ちょろちょろと文章を書いてみたいと思います。題して,
最近のゲームは,なぜヌルくて長いのか
です。よろしくお願いします。
最近のゲームはヌルくて長いとお嘆きの方
アーケード | コンシューマ | ネットゲーム | ソーシャルゲーム | |
---|---|---|---|---|
1プレイ時間 | 5分 | 1時間 | 3時間 | 5分 |
総プレイ時間 | 30時間 | 60時間 | 3000時間 | 1000時間 |
総プレイ期間 | 3か月 | 1か月 | 3年 | 6か月 |
大雑把にプレイ時間を表にしてみました。自分の身近な人間調べなので,ちょっと偏ってるかもしれませんが。一つの見方としてはありなんじゃないかと思います。
さて。この表を見ていると,どんどんと「ゲームのプレイ時間」が長くなってると思いませんか? そして,ゲームとしてはどんどん「ヌルくなっている」とも。それはなぜか。
とりあえず理由を考えてみましょう。
【まず,なぜ長いのか】
短時間のゲームは価値が無くなったから。
自分は短いゲームが大好きですが,短いゲームはなかなか金を稼げません。なぜならパッケージゲームならすぐに中古ショップに売られてしまったり,オンラインゲームならマッハでさようなら(やることがなくなって)だからです。なので,まず「ゲームとして長時間遊べる」というのが商品としては重要になるわけです。実際,例えば6000円払ってゲームを買って,それが10時間未満でクリアできてしまうと,物足りなさを感じる方は少なくないと思います。一方でアーケードゲームなどは,短時間でお金を稼ぐのが命題だったので,昨今主流のゲームとはまるで方向が違うわけなのですが。
【次になぜ,ヌルいか】
みんなヌルゲーマーだから。
とくに最近は,ゲームにガッツリ浸らない傾向が強いので,ちょっとだけ遊んで,もし少しでも難しいと思ったら,そこでやめてしまうプレイヤーが増えました。なんでそんなにみんな根性が無いかと言えば,無料ゲームが増えたから,という側面があります。無料ゲームをやる人は,すぐゲームを止めます。無料なんだもん。
何千円かを払って買ったゲームなら,元を取るために頑張ってプレイしますが,タダならすぐやめる。損しないですから。
はい。これらの結果,「ヌルくて長いゲーム」が出来上がるわけですね。
まずヌルい難度で沢山の人に遊んでもらって,ゲームに浸ってもらう。そのあともずっと滞留してもらう。滞留中は,アイテムやアバターを購入してもらう。最近流行のゲームの基本パターンですね。
ネット界隈では,「フリーミアム(※)」なんて言葉が一時期もてはやされましたが,ゲームのフリーミアムというと,現在ではこういうモデルになるわけです。
お客さんは「基本的なサービスは無料」ってとこにしか興味が向かないかもしれませんが,ゲーム性は商売のあり方に左右されます。アーケードなら100円で遊ぶスタイルに向けて特化するし,コンシューマならパッケージビジネスに合ったゲーム内容になる。中古対策にやり込み要素を増やそう,とかね。
今,「難度が低くて」「物量が多くて」「時間のかかるゲーム」が世の中に氾濫するのは,そうした無料のゲームが幅を効かせた結果なわけです。ヌルくて長いヌルナガの野望です。
自分みたいな古参ゲーマーには,このフリーミアムなヌルくて長いゲームばっかりの状態は,正直ちょっと食傷気味なんですが,これも時代の流れ。まぁ時代性は重要ですね。
※基本的なサービスを無料で提供し,さらに高度な機能や特別な機能について料金を課金する仕組みのビジネスモデルを指す
ゲームの面白さと難度の関係
これも大変大雑把な私個人の感覚ですが,プレイヤーにとっていい難度とは,
何度か死に,詰まり,苦労もしたが,それぞれちょっとした努力でクリアできた!
ぐらいだと思っています。あそこで苦労したとか,俺はそこで閃いたとか,印象も強く残りますし,話のタネにもなる。
しかし,最近のヌルゲー志向の風潮では,それでは難度が高過ぎると言われる。現在の市場で求められる難度というのは,
初めてプレイしたが,つねにギリギリの攻防を繰り返して,死なずにエンディングまで行けた
ぐらいじゃないでしょうか。これぐらいがプレイヤーとしては楽ちんだし,ゲームをやめるキッカケもない。ただし,心には残りませんが。
もちろん,ここで「心に残る」のが重要なんです! とか言いたいところなのですが,でも世間一般の物差しで考えてみれば,たかがゲームで「心に残る何か」なんて,まったく必要が無いわけです。
そういう風に考えている層にまでゲームを売っていかないと,ゲームのすそ野は広がりませんし,実際,今の市場を席巻しているのは“そういうゲーム”なんですよね。ゲームに求められている面白さ,あるいはニーズとはなんだろう? というのは,改めて真剣に考えなきゃいけないのでしょう。
とはいえ,理不尽な難度のゲームがまかり通っていた時代を指して,「昔は良かった」と済ませていいのは,現役を退いて隠居した人だけです。今を戦う人には,昔を振り返る余裕はありません。
ちゃんとゲームにお金を払ってくれる人に向けたゲームを作りながら,それと同時にゲームに,あんまり興味がない人にもアピールしていかなければならない。本当に難儀な時代です。
まとめ
まぁ要するにハードでコアなゲーマーが,ゲームに金を落とさないから,ハードコアなゲームが無くなっちゃったわけですよ。短いゲームにも金落とさないから,短いゲームも無くなっちゃった。市場原理のなんと恐ろしいこと!
不景気な昨今,お陰さまでゲームも片っ端からフリーミアム化の波にのまれています。いやほんと,「大丈夫なの?」って心配になるくらいに,この波の勢いは凄まじいです。
ただ一方で,フリーミアムなゲームでも,思わず「上手い!」とポンと手を打つゲームも出て来ています。
タイトル名を上げてしまうと,利敵行為かステルスマーケティングになってしまうので,あえてタイトルを出しませんが。どんな土俵でも,見事な相撲をとる力士というのはいるものです。凄いですね。
ヌルくて長いが,ほどほどにエキサイティングなタイミングを作る
このあたりが,当面のキーワードになるのやもしれません。しかも,あんまりエキサイティング過ぎると,逆に長く続けるのが辛くなるので,「ほどほどにエキサイティング」っていうのがミソです。やれやれ。
個人的な希望を言えば,本当は「短いゲーム」が売れる環境ができてほしいのですが,制作者がワガママを言ってても始まりませんね。逆にプレイヤーさんは,どんどんワガママを言うべきだと思いますが。
無料で短いけどお金が稼げるゲームって作れないかなー。あるいはどっかに20億くらい落ちてないかなー。ゲームが作りやすい環境プリーズ!(心の叫び)
と,無茶なことを言い放ちつつ,今回はこのへんで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
■■島国大和■■ 有名ゲーム系Blog「島国大和のド畜生」の管理人で,不景気の波にもがく,正体はそっとしておいてほしいゲーム開発者。最近は「ソーシャルゲームを作ってみたいが,正直リサーチ不足なので,今はじっと勉強中」という島国氏。そうそう,業界人たるもの,流行りものはちゃんとチェックしておかないとだめですよね。ただ,勉強のためと言いながらブラウザゲームにうん十万円と注ぎ込んだ実績?がある担当編集的には,二の足を踏んでしまうのも正直なところ。とか言いつつも,最近になって話題の「Empires & Allies」をはじめてみたんですけどね。これがまた,なかなかよく出来ていて……課金の誘惑がヤバいです |
- この記事のURL: