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[GDC2004#05]基調講演2:カーマックの開発思想が見えた
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印刷2004/03/26 21:54

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 [GDC2004#05]基調講演2:カーマックの開発思想が見えた - 2004/03/26 21:54


先日公開されたばかりの「DOOM 3」最新画像。いつ発売されるのだろうか……
〜A Candid Look at the Issues and Rewards of Bleeding Edge Engine Development

 「Wolfenstein 3D」「DOOM」「Quake」で第一人称視点のアクションゲームを生み出した"FPSエンジンの父",ジョン・カーマック(John Carmack)氏が,「最先端エンジン開発の問題点と報酬に対する率直な意見」というタイトルで基調公演を行った。
 講演名にある「Bleeding Edge」とは「Leading Edge」をもじった言葉で,「血みどろの」といったニュアンスがこめられている。このことから,彼自身のプロジェクトにつきまとう「最先端のグラフィックス」などという装飾語に対する,かなりの皮肉がこめられているのが想像できるだろう。
 カーマック氏は,以前からIGDAなどの公式の場に姿を現すのを好まず,業界への貢献に興味を持っていないのではないかといわれていた。これまで,何度もIGDAの役員レベルから参加を申し入れられてきたが,ずっと断ってきたという経緯もある。今回も,「乗り気ではないのに壇上に登らされた」というのは言い過ぎにしても,パワーポイントやビデオ映像をいっさい使わない質素な内容となった。

 カーマック氏率いるid Software社は,作品のリリース期日を事前に公表せず,「発売は完成をもって」(When it's Done……)としか説明しないことでも知られている。かなり横柄に思えるが,少ない開発人数でも納得できる作品に仕上げたいからの選択なのだろう。
 今回非常に悲壮に聞こえたのは,「我々(id Software)は,自分自身の成功が作り出した罠にかかった状態で,もはや抜け出せないだろう」という彼の言葉だ。つまり,id Software社そのものが"最先端のゲームエンジンを使ったFPSを作る精鋭チーム"というブランドになってしまっており,彼はその呪縛に囚われてしまっているというのだ。
 そもそもカーマック氏は「DOOM 3」の企画が持ちあがったとき,さほど乗り気ではなかった。ひょっとすると彼は,3Dグラフィックスに特化した新しいゲームを作りたかったのかもしれない。
 彼は現在では,ゲームデザインにはまったく関わらないプログラムの責任者に徹することで,DOOM 3の開発を牽引している。自分のやりたいことではなく,ゲーマーやファンが欲しいものを作ることを選択したのであろう。

 カーマック氏は,自分はクラフトマンであり,アーティストではないと語った。クラフトマンという言葉には,納得のゆく作品にするためにコツコツと木を削る職人のようなイメージがある。実際彼も,これまではメインプログラマーである自分の周囲に2〜3人のアシスタントを置いて,すべてを統括していた。
 初めて自分のタッチしていないコードを持ったソフトを市場に出したのが「QuakeIII Arena」であり,「BOTのAIのファイルを開けることもなかったのを思い出して,リリース後にはぞっとしていた」と回想する。
 その一方で,「質と価値を比較すれば,価値がエンターテイメントとしてゲームを大成させる。いくら作り込んでも,プレイヤーに違いが分かるほどの変化を出せるかは保証できない。それならば,細かい部分は見逃してもリリースを早めることを優先するべきだ」とも語っている。
 彼は,開発サイクルとコストが肥大していく現代において,もはやプログラマー個人の能力ではどうすることもできないのを直視しているようだ。「『Commander Keen』や『Wolfenstein 3D』を作っていたときは,6人で自宅にコンピュータを並べて徹夜していた。FPSやRPGでは,もうそのようなゲーム作りをすることは不可能だろうが,必ず新しい開発手法に挑戦して台頭してくる若い世代が出てきてくれるだろうと期待している」とも話していた。

 ここまで読んで,カーマック氏の意見が悲観的になっていると感じる人もいるかもしれない。しかし彼は,「今後も自分の得意とする分野において,大きな興味を持って開発していく」と話す。その分野とは,間違いなくグラフィックスである。
 OpenGL規格会議の中心メンバーであり,常にATI社やNVIDIA社のアドバイザーとして開発段階からアドバイスするカーマック氏にとって,グラフィックスの進化を予測するのは難しいことではないだろう。
 そのカーマック氏は,過去5年間はゲーム業界が大学機関の研究成果から得た成果は大きいという。そして今後10年以内には,映画「ロード・オブ・ザ・リング」レベルのキャラクターがリアルタイムで表現されるようになるのは間違いないと語り,キャラクターに投資する技術ではなく,そのアートで評価される時代になっていくと予測している。
 今後しばらく懸念されるのは,latency(待ち時間)の問題が改善される見込みがないこと。そして天候,水,ホコリなどの物理的な演算や,完成度の高いキャラクターインタラクションを達成するためのAIなどのリアルタイムシミュレーションも,今後も学術研究などの成果を応用していくことになると彼は考えている。
 「AIのプログラミングは難しいですよね。僕はできないことがあればできる限り避ける主義なんですが,それは過去のFPS作品のキャラクターインタラクションを見れば分かるでしょう」
なんてジョークも飛ばしていた。

 今回の基調公演ではDOOM 3に関して情報を得ることはできなかったが,カーマック氏の歯切れのいい意見はいつ聞いても面白いものだ。
 ちょっとしたNewsとして,DOOM 3が完成すれば,ゲーム性やレベルデザインはそのままに,DOOM 3エンジンを利用した「QuakeII Remix」を作ってみたいと話していたことを付け加えておこう。(奥谷海人)

「DOOM 3」の記事一覧は,「こちら」

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