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[CEDEC 2007]狙うは海外市場。新社長松原氏が語るコーエーの戦略
とっかかりの話題として,自身のポストと講演内容の関係について説明する松原氏は,9:30AMに始まった基調講演について「我々の業界にとっては,なかなかつらい時間帯で恐縮です」と切り出し,首相退任直後という時節の話題から「食欲だけは保てるよう努力しています。もっとも,節制に努めて会社も私もスリムにならなければならないと思っていますが」と,ユーモアのなかにも意味深な発言を織り交ぜていた。
そして,来年で30周年を迎えるコーエーの,現在における規模や業務内容について述べたあと,「世界No.1のエンターテインメント・コンテンツ・プロバイダー」になること,また,「ついにできたを」という言葉で表される,顧客に最大限の努力の結晶を提供するという会社のスローガンを確認した。
業務内容の一環として少々突っ込んで説明されていたのは,海外拠点についてだ。海外にそれぞれ5社ずつある営業子会社と開発子会社のうち,とくに強調していたのはシンガポールとカナダの開発子会社である。それぞれ,80名と50名のスタッフによって運営され,前者は「三國志 Online」の開発で知られる。また,アルメニアにはグラフィックスに特化した20名体制の開発子会社があるという。
コンシューマタイトルの売上本数を見たとき,コーエーは2006年に総計約170万本で第9位。2005年からたまさか数値が下がった結果ともいえるが,松原氏は「まだまだ成長していかねばならないところにある」という認識を示す。
ソフトも任天堂独り勝ちの任天堂プラットフォーム
これはつまり,世界市場を意識したとき,プラットフォーム選択を狭く取れないことを意味している。
続いて,ニンテンドーDS/Wii/PLAYSTATION 3におけるソフトの売上本数トップ10を示し,前二者では任天堂および任天堂関連タイトルが圧倒的であること,それに対してPLAYSTATION 3は,結果として“サードパーティに開かれた市場”になっていることを指摘した。ただし,コーエーのPLAYSTATION 3用ソフトである「BLADESTORM」の約9万6000本という売上は,採算ベースに乗っていないともコメントする。
あるプラットフォームの成功と,そのプラットフォームにおけるソフトの成功は,ときに微妙な関係になるという実例だ。
言われるほど高くないPLAYSTATION 3向けゲーム開発
■事業ポートフォリオに基づく開発
■コンテンツ・エクスパンション
■グローバル展開
順に補足していこう。ポートフォリオは投資の世界でよく使われる,「組み合わせ」というほどの意味の言葉で,つまり分野別の投資配分を考えるということだ。ここに言う分野配分は,主にその時々の新世代機を対象とした新規チャレンジである「挑戦」,主にシリーズ新作を指す「収益」,定番のシリーズに積極的なリニューアルをかけた場合の「改革」という,3区分を示す。長いレンジで見て,それぞれへの投資バランスを調整するということだ。
これとは別に,より良好なポートフォリオの前提条件を作り出すための課題となるのが,「プラットフォームの進化/多様化への対応」だ。作品のマルチプラットフォーム対応を進め,開発コストを削減するのが具体的な内容で,それに役立つのが既存のゲームエンジン,ミドルウェア,開発スイートの活用である。
現にコーエーのカナダスタジオが開発中のレースゲーム「Fatal Inertia」の開発には,Unreal Engine 3が使われている。
開発コストの削減に関連して,なかなか興味深い話題も飛び出した。日本経済新聞の2007年9月24日朝刊に掲載された,プレイステーション2とPLAYSTATION 3におけるゲームの開発コストと採算ラインに対する反論だ。同新聞の記事では,それぞれのプラットフォームにおける「一般的なゲームソフトの開発コスト」が,それぞれ1億円と20億円,採算ラインが5万本と50万本であると書かれているそうだ。
だがこの新旧プラットフォームを,コーエーにおける実際のゲーム開発の工数で比べたとき,そんなに大きな差はつかないという。松原氏は「ひと目盛り何人月だとか考えないでくださいね(笑)」と言い添えながら,開発工数比較の棒グラフを示す。そこで比べられているのはシリーズ関係にない作品同士で,PLAYSTATION 3側のCGの工数には外注分が抜けているそうだが,それを加えても,傾向としてはさほど変わらないという。つまりはせいぜい2倍以内ということで,コーエーが次世代機への対応を積極的に進めていることを勘案しても,世上センセーショナルに取り上げられるほど差はないのだそうだ。
海外市場と海外拠点が今後のカギか
残るは「グローバル展開」である。日本国内の4倍もの規模になる欧米市場での売上増加を目指し,プレゼンスを向上させるのが,この戦略における課題だ。欧米では作品の嗜好はもちろん,商慣行からして異なる。ゲームソフトも(国内コンシューマタイトルの流通と違って)返品されるし,店頭での動きが鈍いと見るや,発売後1か月ないし2か月のうちにどんどんディスカウントされていくのが,欧米における普通の売り方である。
よって,海外市場向けのタイトルを計画し,また海外の開発拠点を整備するのみならず,海外における営業上のパートナー関係を構築していくことも,重要な課題となる。
松原氏は,コーエーの主力の一つである三国志関連作品が効を奏さない,欧米市場に向けたタイトルの実例として,英仏間の百年戦争を扱った「BLADESTORM」を挙げたが,さらなる努力が必要という認識を示す。今後はカナダとシンガポールを中心に,海外開発拠点を強化していくという。
オンラインゲームやPCパッケージゲームの具体的な話題が,ほとんど出てこない講演ではあったのだが,この記事の最初のほうで触れたとおり,例えば「三國志 Online」はシンガポールの開発子会社で開発が進められている。その理由は当サイトでも過去にお伝えしてきたとおり,「アジア全域で受け入れられる三国志ゲーム」に仕上げるためにほかならない。
そうした開発/作品展開方針を,さらに広汎に進めていくのが今後のコーエーの戦略であるようだ。アジア地域における「三國志 Online」の例に留まらず,欧米市場に向けた作品を,今後欧米の開発拠点が中心になって作っていくとすれば,それは存外我々PCゲーマーにも,興味深い作品になりそうな気がする。
各国各地域の特性に基づいて,より多様な作品が展開し,それをマルチプラットフォームの技術が横展開させていくならば,コーエーの世界戦略は,我々にとって意外に身近なムーブメントになるのかもしれない。
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