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印刷2008/08/20 17:30

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ゲーマーのための読書案内 / 第58回:イラコバワークス

ゲーマーのための読書案内
よく見るのに手に取れない道具としての,銃 第58回:『イラコバワークス』→ガンアクションモチーフ

 

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『イラコバワークス 小林弘隆画集』
著者:小林弘隆
版元:エンターブレイン
発行:2006年4月
価格:2940円(税込)
ISBN:978-4757727335

 

 今回紹介する本は,銃器を扱った「画集」である。といっても,単純にカッコいいイラストを集めただけのものではない。銃と映画をこよなく愛した小林弘隆氏が,その持てる知識を惜しげもなくつぎ込んだ,イラストエッセイの集大成なのだ。
 著者の小林弘隆氏は,古くからのガンマニアには「イラコバさん」の愛称で有名なイラストレーター。かの有名な小松崎 茂氏の師匠の息子であり,小松崎氏の弟子でもあった。もともとはトイガンメーカー旧MGCの社員で,同社の取扱説明書のイラストを手がけている。ちなみにMGCには,同じく小松崎門下である上田 信氏も在籍していた。
 MGCの取扱説明書に描かれていたのは単純なイラストではなく,その銃の登場する映画など,さまざまな蘊蓄(うんちく)を詰め込んだものであり,購入者はイラストから,その銃の背景情報を手に入れたものだ。そうしたイラストの数々が,本書には収録されている。

 氏はその後,銃器専門誌「Gun」の映画紹介コラムや「週刊プレイボーイ」の映画コーナーのイラストを手がけることで,仕事の幅を広げていく。この本には,そうやって世に出たイラストも多数収録されている。氏の観察眼には定評があり,事実MGCは「ロボコップ」に登場する「オート9」のトイガンを,氏が映画を丹念に見て起こしたデッサンのみで作成,それが「ロボコップ2」でプロップガンとして利用されたという「実績」すらある。
 残念ながら,氏は1994年に55歳で早世している。そのため,この本に収められたイラストの銃や映画は1990年代前半のものまでであり,最新のものではない。その代わり,歴史的に有名な銃から,マイナーながら見るべきところのある映画まで,扱われる題材は実に幅広い。
 「史上最大の作戦」「遠すぎた橋」「プラトーン」「フルメタルジャケット」といった戦争映画や,例えばジョン・ウェインが登場する西部劇の数々はもちろんのこと,SFホラー映画の「エイリアン」や「ターミネーター」といった作品の中で使われた架空の銃についても,そのベースがどの実銃で,ここがこんな風に変えられているといった話題が展開される。これらのモチーフが,PCゲームジャンルにも関連作品を持っていることは,あらためて説明するまでもないだろう。
 また,単にその映画やそこに登場する銃を取り上げるだけでなく,現実と引き比べたとき奇妙な描写や,それが本当はどうあるべきかなど,有益な(?)情報も細かく書き込まれている。

 ベトナム戦争モチーフもさることながら,とくに第二次世界大戦ものや西部劇に関しては氏の実に広闊な知識が生きている。例えば「西部劇では,基本的にどんな時代設定でもピースメーカーが使われる」とか,「なぜかカウボーイなのにズボンにベルトをしている」(現実では馬に乗るとき腰回りが苦しくなるので,サスペンダーを使う)といった「ツッコミ」の形で,氏の広い知識が披露されているのだ。そして,話題が銃だけにこのツッコミが,日本ではなかなか普通に知ることのできない情報だったりもする。
 この本にはトイガン雑誌に掲載されたさまざまなイラストも掲載されていて,そこではとくに,実銃との差異点などにも言及しているのが,キッチュながら注目すべきポイントだ。

 銃は映画でもゲームでも重要な役割を担うが,映画では基本的に本物を使うわけではないし(洋画では本物の場合もある),役者さんや演技指導の担当者が銃の基本的な扱いに習熟しているとは限らない。細部にはどうしても矛盾が出がちなのだ。その意味で,実銃とその取り扱いを知る人の蘊蓄は,むしろ表現者にとって貴重なものかもしれない。
 また,通常の銃器解説本では「○○○という映画に登場している」と書いてあっても,細かいディテールの差異に言及している例は稀だ。さらに資料の「孫引き」や少数の(つまり確率論的には偏った)情報源からのデータを鵜呑みにして記述されているケースも多く,実は想像以上に信頼性に欠ける本が多い。いささか皮肉な言い方をすれば,多くの日本人にとって銃とは架空の存在であって,良きにつけ悪しきにつけ,極端な情報だけが独り歩きしやすいのである。いや,架空の存在であること自体は,社会にとって非常に良いことだと思うが。

 前述のとおり氏が亡くなったのは1994年のため,本が出た年と比べて最近の銃の情報は少ない。だが,銃を扱うシチュエーションでの基本的な所作や,定番ともいえる傑作銃/有名銃については,得がたい情報が拾える。一方ゲーム界はといえば絶え間ない新作FPSのリリースと,オンラインFPSの乱立の中で,例えば実銃の銃声にこだわるといった差別化を狙う作品も出てきている。今日のガンアクションやFPSのディテールに興味のある人なら,とりあえず基礎知識の源として押さえておきたい本の一つといえよう。

 

制作費の大きさで正確さが確保できるとは限りません…

映画業界にして,なおかくのごとし。いわんや……

 

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■■田村眞治(ライター)■■
銃器,SF,武道と,広いんだか狭いんだか分からない分野に深く通じ,とくにその精神性にこだわりを持つPCゲームライター。関心分野と連動しつつ,ドキュメンタリーやハードSF,ミステリ小説など,カバーエリアは広いのだが,執筆姿勢はいたって慎重。もっと書いてくださいよ〜。
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