テストレポート
使える? 使えない? Catalyst 8.3におけるCrossFireXの実態レポート
アダプタの接続方法に注意
現時点ではかなり不安定という認識も必要
せっかくなので,ほかの接続方法だとどうなるのか,ATI Radeon HD 3850カードを使っていろいろ試してみたところ,どうやら「CPUに近いPCI Express x16スロットへ差した“マスターカード”に,“スレーブカード”がどう接続されているか」が判断されているようだ。例えば,マスターカードに用意されている二つのCrossFireコネクタに,CPU側から数えて二つめ,三つめのPCI Express x16スロットに差したスレーブカードをそれぞれ接続すると,2枚のカードによるCrossFireXとなる。ちなみにこのとき,スレーブカードにどちらを使うかは,CCCから選ぶ形となった。
例えば,これは筆者の問い合わせに対してAMDの担当者が「不具合」として挙げた内容になるのだが,CrossFireX構成時に,高解像度でアンチエイリアシングや異方性フィルタリングを掛けた場合にアプリケーションが強制終了してしまうことがあった。また,今回のテスト中,PCシステムを再起動するとCrossFireXが無効化されてしまったり,場合によってはCCCからCrossFireXの設定項目自体が消えてしまったりするという問題も見られた。
AMDも,Catalyst 8.3におけるCrossFireX周りの完成度があまり高くないことを認めている。今後,問題が改善していくことを期待しつつ,今回のテスト結果はあくまでCrossFireXデビュー時のものとあらかじめ理解しておいてほしい。
2008年3月5日の記事でお伝えしているとおり,CrossFireXでは,ATI Radeon HD 3850/3870 GPUを搭載するグラフィックスカードなら,あらゆる組み合わせがサポートされる。そこで今回は,クロックアップモデルで,グラフィックスメモリを512MB搭載する「SAPPHIRE HD 3850 Ultimate」(国内型番:HD 3850 Ultimate 512MB GDDR3 PCIE)を1枚と,リファレンスクロック&メモリ容量の「EAH3850/G/HTDI/256M」を2枚,そしてATI Radeon HD 3850リファレンスカードを1枚用意した。SAPPHIRE HD 3850 Ultimateのクロックとメモリ容量は,CrossFireXの仕様上,EAH3850/G/HTDI/256Mと同じものとして扱われることになる。なお,参考までにATI Radeon HD 3870 X2カードも比較対象として用意した。
SAPPHIRE HD 3850 Ultimate カード背面の放熱フィンで冷やす,ファンレスのクロックアップモデル メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) [email protected] 実勢価格:3万円前後(2008年3月14日現在) |
EAH3850/G/HTDI/256M リファレンス仕様の1スロットカード メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) [email protected] 実勢価格:2万7000円前後(2008年3月14日現在) |
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.1準拠。ただし,CrossFireXはWindows Vista環境でのみサポートされるため,OSには32bit版のWindows Vista Ultimateを用意し,Catalyst 8.3が想定するService Pack 1も導入している。解像度は,マルチGPU環境がパフォーマンスを発揮しやすい1600×1200/1920×1200/2560×1600ドットを選択した。
また,先に述べたとおり,動作が不安定ということもあって,ATI Radeonファミリーに有利なスコアが出やすく,最適化が進んでい(て,動作の安定性も高められてい)ると思われる「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)「Half-Life 2: Episode Two」(以下,HL2EP2)「Company of Heroes」の3タイトルに絞った。さらにCompany of Heroesでは,グラフィックスオプションから「シェーダーの質」を「Direct3D 10」に変更してある。
このほかテスト環境は表のとおりだ。
現時点で4GPUの効果は確認できず
CPUの選択も重要なポイントに
テスト結果を見ていこう。まず「標準設定」で計測した3DMark06の総合スコアをまとめたのがグラフ1である。3GPUまではスコアが伸びているのに対して,4GPUではシングルカード時よりもスコアが低くなっているが,これは先に述べたドライバの完成度によるものと考えていい。
3GPUと2GPUのスコアを見てみると,確かに3GPUでスコアが伸びてはいるのだが,目に見えてパフォーマンスの向上を確認できる,というほどでもない。解像度による差が少なく,11000強で頭打ちになっている印象で,2008年3月中旬時点で購入できるPhenomの最上位モデル「Phenom 9600/2.3GHz」がボトルネックとなってしまっている可能性を指摘できる。
同じく3DMark06の「高負荷設定」時におけるスコアを見てみると,標準設定時よりもCrossFireXの効果がはっきりと出ているのが分かる(グラフ2)。3-way NVIDIA SLIのテスト時にも述べたが,現状のマルチGPUソリューションは,1920×1200ドットや2560×1600ドットといった超高解像度で,アンチエイリアシングなどを有効にして,はじめて真価を発揮できる存在といえるだろう。
なお,2-way CrossFireX時には2560×1600ドットでスコアを取れなかったため,N/Aとした。
お次は実際のゲームタイトルからHL2EP2のスコアだ(グラフ3,4)。標準設定,高負荷設定とも,60fps台後半で頭打ちが生じており,高負荷時の2560×1600ドットを除くと,3-way以上のCrossFireXに効果が見えないが,これは,CPUボトルネックが生じていると断じていいだろう。マルチGPUソリューションにおいては,“倍々ゲーム”で増していくGPUと釣り合うよう,CPUパフォーマンスも相応に高いものが求められるが,2008年3月中旬時点で購入できるPhenomの最上位モデル「Phenom 9600/2.3GHz」では,明らかに力不足だ。
なお,4-way CrossFireXとATI Radeon HD 3870 X2,そして高負荷設定時における3-way CrossFireXのスコアが取れていないのは,ドライバの不具合によるものと考えられる。ATI Radeon HD 3870 X2の場合は,「ゲームの起動後,タイトル画面でハングアップ」するという“症状”で,OSを入れ直すなどの抜本的な対策を行えばスコアを取れそうな印象もあったが,スケジュールの都合でN/Aとした。
最後はCompany of Heroesだ。DirectX 10モードで実行しているため,全体的にスコアは低めだが,グラフ5,6が示す傾向は3DMark06とよく似ている。4-wayでスコアが落ち込んでしまうが,3-wayまでは比較的順当にスコアが伸びている。高負荷設定時の1920×1200ドット以上ではグラフィックスメモリ容量が256MBしかない影響が出てしまっているが,主に標準設定で3-way CrossFireXがATI Radeon HD 3870 X2のスコアを上回っているあたりは特筆に値しよう。
可能性を感じるものの,手を出すには時期尚早
ドライバの成熟&高クロックCPUの登場に期待
AMD“自ら”認めるとおり,Catalyst 8.3の完成度は,パフォーマンスにおいても今一つだ。正直に話すと,Catalyst 8.3よりも新しいレビュワー向けドライバも入手しているのだが,このドライバを導入すると「CCCにCrossFireXの項目は現れるが,『CrossfireXを有効にする』チェックボックスが表示されない」という不具合に見舞われたため,テストは行っていなかったりもする。
いずれにせよ,
- CrossFireそのものの動作
- パフォーマンス
の両方とも,まだ投資に見合う状態にはなっておらず,「ATI Catalyst 8.4」以降で,どれくらい早急に問題が改善されるかがポイントになりそうだ。また,3-way以上のCrossFireXを利用するには,より高速なCPUの存在も不可欠といえる。
これまで,マルチGPUソリューションとしてのCrossFireは,ゲーマーからの支持を集められていなかった。しかし,Windows Vista環境でのみ利用可能な“グラフィックス機能統合型チップセット+単体GPUの2-way CrossFireX”こと「Hybrid Graphics」が登場し,それが,大幅なバグフィックスを実現したWindows Vista Service Pack 1のリリースタイミングとほぼ重なったことで,CrossFire環境はかつてないほどの注目を集めている。大きなチャンスをモノにすべく,取り組まねばならない問題にAMDがどう対処していくのか,期待して見守っていきたい。
- 関連タイトル:
AMD Software
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