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【PR】クラウドゲーム時代を先取りする「G-cluster」,それを支える技術とテレビを変えるデバイスが目指す未来を探る
4Gamerではこれまで何度か取り上げてきているので,概要はすでに把握している人も多いだろうが,これは世界初のWi-Fi対応クラウドゲーム専用デバイスだ。次世代ゲーム機と呼ばれるPlayStation 4やXbox Oneがいずれもクラウドゲームを視野に入れた展開を行っていることをご存じの人もいるだろう。普通のゲーム機でさえ無視できなくなっている“クラウドゲーム”は,未来のゲームのあり方を問うたソリューションなのだ。
その先陣を切るように,2013年6月20日にクラウド専用デバイスとして発売されたG-cluster。今回,G-cluster自体の概要を解説すると共に,G-clusterシステムのキーパーソン2名へのインタビューを中心にG-clusterがなにを目指しているのかをお届けしたいと思う。
G-clusterってなに?
既存のゲーム機と同様に,手持ちのテレビと接続するだけで使えるので「うちのテレビで対応できるの?」という心配は無用。HDMI端子があるテレビ製品ならメーカー/機種を問わずに使える。もし,PlayStation 3やXbox 360などのゲーム機をつなげたことがあるならば,そのつなぎ方と同じだ。
電源は商品セットに付属するACアダプタを使ってもいいが,もし,テレビ側にUSB端子が余っているならば,そこにUSB接続してもOK。そう,最近では携帯電話やポータブルサウンドでも珍しくなくなったUSB給電というヤツだ。HDMIとUSBでテレビに接続し,付属するホルダーを両面テープでテレビ背面に固定すれば,一見普通のテレビのままなのに多彩な機能が使え(メーカーを選ぶが,G-clusterの操作は普通のテレビリモコンからもできる),ゲームも遊べるようになる。クラウド技術で普通のテレビを劇的に進化させるデバイスだと思えばいいだろう。
もう一つ,G-clusterを利用するためには絶対に必要なのが,ブロードバンド回線(インターネット環境),さらに言えば無線LAN環境だ。まぁ,2000年代になってからはほぼすべてのゲーム機やパソコンがインターネット接続を要求しているので,この要件自体をクリアするのは難しくないと思うが,普通のゲーム機がインターネット接続なしでもゲームが遊べるのに対し,G-clusterはインターネット接続がないとゲームが遊べないどころか起動もできない。換言すればG-clusterはインターネット接続が必須のマシンということだ。
G-clusterは,クラウドコンピューティングを応用したゲーム機なので,ゲームソフトはすべてネットワークの向こう側,つまりクラウド(≒サーバー)側に存在する。最近は,ネットワークを使ったレンタルビデオサービスともいえる「ビデオ・オン・デマンド(VOD)」サービスの認知度が一般プレイヤーの間でも上がってきているが,感覚的にはあれに近い。すべてのゲームソフトがクラウド側にあって,プレイヤーは遊びたいゲームを選択して遊ぶことになるので,ソフトを店頭で買ってきたり,ソフトをセットしたりする必要もないのだ。
ゲームはネットワークの向こうのサーバー上で実行されており,ゲーム画面がストリーミングで送られてきて,テレビに表示される。G-clusterのクライアントマシン側には,プレイヤーのゲームコントローラの操作をクラウド側に送信したり,クラウド側から送られてきたゲーム映像をデコードして表示するといった基本的な処理系しか必要がない。だから,クライアントマシン側に搭載されるプロセッサの類は最小限のものでよい。そう,G-clusterのクライアントマシンがこんなにも小さくてコンパクトなのは,ゲームを動かすための根幹ハードウェアがクラウドサーバー側に存在するからなのだ。
クラウドゲーミングシステムの利点はいくつもあるが,直感的に分かりやすいメリットから挙げると,まず,本体価格が安いという点。G-clusterのクライアント製品は,ゲームコントローラ付きのセットが実勢価格1万2000円前後といったところで,現行の携帯ゲーム機よりも安いくらいだ。ゲームコントローラはUSB接続のPC用のものが使えるし,スマートフォン/タブレットをゲームコントローラに見立ててプレイすることもできるので,本体のみの商品セットもあり,そちらは実勢価格で8500円前後……とさらに安い。
もう一つのメリットは,最後までプレイするかどうか分からないような,ちょっとだけ気になったゲームでも気軽に試せる点だ。普通のゲーム機にも体験版という仕組みはあるが,いちいちダウンロードしたり,インストールしたりしなければならないし,ストレージの容量と相談する必要がある場合もある。そもそも体験版を試そうという時点で,かなり高い関心が必要となる。G-clusterでは,そうした「身構え」や「面倒」は一切不要で,G-cluster側で用意しているすべてのフル版のゲームを,最初の10分間だけ,すぐにお試しプレイすることができる。なので,ちょっとでも目に止まったゲームがあったらダウンロードやインストールも一切なしに,すぐにそのゲームを試遊することが可能なのだ。
遊べるゲームは,普段携帯電話で遊んでいるようなカジュアルなモノから,レースゲームやスポーツ系のもの,そしてネームバリューの高い大作系ゲームや,8ビットゲーム機時代の懐かし系タイトルまでも取り揃えられているので,このお試しプレイをしているだけでも,かなり楽しめる。一般的なゲームでいうところの「ストアで購入する」というよりは,むしろデジカメ写真のサムネイル一覧から見たい写真を選んで全画面表示しているような感覚に近い。
G-clusterの料金体系は「月額いくら」という定額制もあり、この範囲内でも相当なゲームが楽しめるが,特定の新作タイトルなどはVODシステムで言うところのPay Per View的に別途追加料金が必要な場合がある。より詳しい料金体系や会員登録方法などについては公式サイトを参照していただきたい。
「G-cluster」公式サイト
G-clusterクライアントマシンについて聞く
ここからは,G-clusterを提供しているブロードメディアの久松龍一郎氏と,G-Clusterシステムの技術関連を統括しているGクラスタ・グローバルの神鳥泰章氏へのインタビューをお届けしたいと思う。
実際にG-clusterを体験した筆者が感じた基本的な疑問から技術関連の質問までをぶつけてみたので,G-clusterのサービスそのものに関心がある人から,技術バックグラウンドに興味がある人まで,ぜひとも参考にしてほしい。
まず,こうしたクラウドゲーミングシステムのビジネスに参入してきたのには,どのような理由があるのだろうか。
昔,私は日本国内のテレビ製品向けのVODをはじめとした総合ネットワークサービス「アクトビラ」の開発に参加しましたが,そこで強く感じたことが一つあったんです。それは,一度買うと10年は使い続けることになるテレビ製品に,高度なインタラクティブ性を伴ったエンタテイメントサービスを実現することは相当難しいということです。
携帯電話を見てもらうと分かりますが,1年おきに劇的な進化を遂げていますよね。テレビ製品も,もちろん機能面の進化ペースはとても速いですが,多くのお客さまは,携帯電話のように毎年テレビを買い替えてはくれません。となれば,エンタテインメントサービスは,テレビ製品と切り離して実現していくアプローチが有効だろうな……と感じたわけです。そうした思いを具現化させたのがG-clusterという“クラウドエンタテイメント”のサービスです。
久松龍一郎氏(ブロードメディア 取締役 ホームエンタテインメント本部長)……元ソニーのテレビ製品担当プランナー。ソニー時代はインターネットを応用したビデオ・オン・デマンドサービス「アクトビラ」の立ち上げに参画した。クラウドソリューションの可能性に未来を感じて2009年にブロードメディアに移籍する |
神鳥泰章氏(Gクラスタ・グローバル 日本・アジア統括 技術本部長)……元NTTのネットワークおよびネットワーク関連アプリケーションエンジニア。NTT時代はサーバー管理やネットワークセキュリティシステムの開発に従事。エンタテインメント分野の開発に興味をもったことから2003年にGクラスタ・グローバルに移籍する |
二人ともゲーム畑の出身ではなく,テレビ関係,通信関係を専門としているというのが面白い。家庭にあるテレビを軸としたエンタテインメントの未来は,テレビ自体ではなく,ゲーム機などの専用デバイスでもなく,クラウドサービスにあるというのが彼らの考え方だ。
その彼らが実現したG-clusterのクライアントデバイスは,冒頭でも述べたように非常にコンパクトで軽量だ。シンプルな設計になっていることは間違いないのだが,実際にはどんなCPUやGPU,OSが搭載されているのかが気になるところだ。
いわゆる1チップコンピュータのSoC(System on a Chip)になっています。SoCはCAVIUM製のもので,CPUコアにはARM v6を採用しており,いわゆるグラフィックスをレンダリングするGPUはほとんど使われておらず,動画ストリームをハードウェアデコードする専用デコーダが映像を生成してディスプレイ出力しています。対応動画フォーマットはH.264,VC-1,MPEG2,MPEG4などです。OSは組み込み機器向け用のLinuxを採用しています。
こうしたSoCにはいろいろなものが存在するが,CAVIUM製のものを選択した理由はどこにあるのだろうか。
現在,こうしたビデオデコーダチップは,どのベンダーを使っても画質はさほど変わらないと言われる。しかし,「表示遅延の大小」に関しては,各ベンダーの力の入れ具合がかなり異なるため,G-cluster開発の際には,そちらを最重要視してSoCベンダーを選択したということらしい。
では,現在のG-clusterが提供しているクラウドゲーミングの映像解像度やフレームレートはどのくらいなのだろうか。
CAVIUMのSoC自体は1080p出力にまで対応しています。ただ,現状G-clusterとして提供しているクラウドゲーミングは,解像度としては480pか720p,フレームレートにして25〜30fpsくらいです。もちろん,これはゲームによっても違いますし,ネット回線速度によっても左右されます。
なお,G-clusterが動作最低条件に設定しているインターネット回線のデータ転送実効速度は3Mbpsだが,この付近のビットレートでは解像度は480pが採択されるとのことだ。HD映像でのプレイを望む場合は,6Mbps以上の帯域が必要になるとのこと。
意外と低ビットレートなことに驚いている人もいるかもしれない。ネットワーク環境のよい日本でも安定して期待できるのはそれくらいの速度だということだろう。理論上は1080pの映像を配信したり,コンシューマゲーム機では到底描画できないようなクオリティの映像を出すこともできなくはないのだが,現在のネットワーク環境だと,1080pでの配信は時期尚早といったところらしい。サーバー側の機器の性能は,PCのCPUやGPUとほぼ同じペースで向上していくので,ネットワークインフラ次第でクラウドゲームは今後さらに大きく変わっていく可能性が高いともいえる。
さて,一般的なゲーム機では,5〜7年程度でモデルチェンジが行われる。G-clusterのクライアントマシンでは,モデルチェンジはありえるのだろうか。
クラウドゲーミングシステムにおいて機能強化がなされるとしたら,それはクラウド側での増強になります。なので,基本的にクライアントマシンのほうの仕様強化は必要ないんですよ。ですから,買い控えとかされなくても大丈夫です(笑)。
まぁ,あるとすれば,クライアントマシンのラインナップ追加くらいでしょうか。現在発売中のクライアントマシンは,インターネット接続手段としてWi-Fiを想定した設計ですが,集合住宅のプレイヤーなどからは,有線LANを使いたいという要望が思いのほか多かったんです。
現在は,そうしたプレイヤーのために「G-cluster有線LANキット」を用意していますが,はじめから有線LAN専用のモデルがあってもいいかな……というふうに思い直したりもしています。つまり,そうしたバリエーション展開はありえるということですね。
集合住宅などでは,各家庭で独自の無線ネットワークを構築していたりして,いわゆる“怪電波”がそこかしこに溢れているため,無線LANが安定しない状況も少なくない。有線LANプレイヤーを望むプレイヤーが多くなれば,G-clusterクライアントマシンにも有線LAN専用モデル,あるいは兼用モデルのようなものがあったら確かに喜ばれるかもしれない。
それ以外に,我々が想定しているクライアントマシン側の進化の方向性としては,あと二つありますね。
一つは,もっともっと小さくするということ。今でも十分小さいですが,指先くらいの大きさにまで小さくしてしまうとかですね。そうしてテレビに内蔵してしまうわけです。実際に,何社かとはすでにお話をさせていただいております。
もう一つはゲームコントローラ以外の入力デバイスに対応していく方向性ですね。最もイメージしやすいのはカメラデバイスです。プレイヤー側の顔を捉えたり,モーション入力をさせたり……と言った活用が想定できますが,プレイヤーがカメラをわざわざ接続してくれるだろうか……という課題もあります。
現在の仕様でも,G-clusterのクライアントマシンはスマートフォンとつなげられますので,スマートフォン側のカメラを使うのもありかなぁ,と思ったりもしています。いずれにせよ,この辺りは今後もいろいろと検討していく必要はありそうですね。
G-clusterで遊べるゲームについて聞く
ゲームプレイヤーとして気になるのは,これまでのゲーム機と同じ感覚でゲームがちゃんと遊べるのかという点だ。
現在のG-clusterでは,映像のフレームレートが基本30fpsだということだが,PCゲームなどでは可変フレームレートを採用するものも多い。また,ゲームによっては30fpsを超えるようなものもあるはずだ。その場合,プレイ感覚に影響はあるのだろうか。
また,プレイヤー側からのゲームコントローラ操作については,30fpsを超える周期でサーバー側に入力できるシステムにしていますので,例えば,プレイヤーが見る映像は30fpsになっていても,プレイ感覚を60fpsに維持するようなことに対応しています。
つまり,身体が覚えている格闘ゲームなどのコンボ入力(連続技入力)などは,クラウドゲーミングシステムといえども,ちゃんと受け付けてくれるわけだ。
気になる実際の遅延時間については,
だいたい200msです。
ということで,入力から表示までのすべて行程を合わせると12フレーム分(60fps換算,G-cluster上では6フレーム分)は遅れることになる。小さな数字ではないが,ゲームモードを搭載しないテレビで家庭用ゲーム機を使っている場合,6フレーム程度の遅延が出ていることもあるので気づかない人は気づかないレベルといえるかもしれない。実際に触っていても通常のゲームではほぼ気にならなかった。明らかに向かないゲームはあるだろうが,大半のゲームでは問題になることはまずない。
続いて気になるのは,マルチプレイタイトルへの対応だ。テレビCMでは,複数人でワイワイとみんなで楽しげにプレイしている映像が流れているが,本当にああしたことが実現できているのだろうか。
マルチプレイヤーゲームも,これまでのゲーム機と同様にお楽しみいただけますよ。
一つは,テレビの画面を分割して,テレビの前にいる複数プレイヤー同士で楽しむマルチプレイですね。G-clusterは1台に複数のUSB接続ゲームコントローラでプレイする場合にはUSBハブを利用して接続いただくことになります。
もう一つは,ネットワークの向こうにいらっしゃるほかのG-clusterプレイヤーと楽しむ形のマルチプレイです。このケースでは,タイトルにもよりますが,各プレイヤーが全画面を使ってプレイすることが可能です。
MMORPGのようなゲーム世界を司るゲームサーバーを必要とするゲームはどうだろうか。
技術的には可能です。クライアントソフトを我々のクラウド側で動作させ,そこからコンテンツホルダー側が運営しているゲームサーバーに接続して実践する方式が一つ。もう一つは,ゲーム世界を司るゲームサーバー自身を我々のクラウド側で動作させてしまう方法です。現在,そうしたMMOタイトルのサービス開始に向けてコンテンツホルダー様達といろいろと交渉中です。
ゲームの実行自体はさほど難しくありません。ゲームコントローラに対応しているゲームならよいのですが,問題はチャットなどのキーボード操作をどうするのかというところですね。
PCゲームがほぼそのまま動くシステムなので,オンラインゲームへの対応自体は難しくないそうだが,MMORPGなどはキーボードの使用を前提にしているものが多いので,そちらへの対応をどうするか決めかねているらしい。現状でも,USBキーボードを接続すれば対応はできるのだが,コントローラだけで不自由なく遊べるほうが望ましいということのようだ。
入力デバイスとして,G-clusterでは,2本のアナログスティックとデジタル十字パッド,そして四つの操作ボタン。加えて左右にショルダーボタンとトリガーボタンという典型的なゲームコントローラを標準コントローラとしている。
現在,G-clusterでは続々と多様なジャンルのゲームがラインナップに追加されてきており,極めて近い将来,お馴染みの格闘ゲームやスクロール型シューティングゲームもラインナップに加わる可能性がある。そうなったときに,格闘ゲームやシューティングだったら,アーケードタイプのスティックでプレイしたくなることだろう。
また,レースゲームやフライトシミュレータのような疑似体験系のゲームは,ステアリングコントローラや操縦桿コントローラのような,特殊コントローラでプレイしたくなってくるはずだ。こうした多様なゲームコントローラデバイスへの対応はG-clusterで行うことができるのだろうか。
USBポート接続のものであれば,技術的にはどんなゲームコントローラでも接続は可能です。そして,そうした特殊ゲームコントローラによる入力操作はそのままクラウド側に伝送されます。つまり,特殊コントローラへの対応も基本的にはクラウドシステム側で実装することになりますね。ユーザーからのフィードバックに応える形で,特殊コントローラへの対応は進めていきたいと考えています。
新しいコントローラをつなぐ際も,USBハブが必要になる程度でクライアントマシンを取り替える必要はない。将来的にさらに高速な転送レートに対応して1080pや60fpsなどが実現可能になったとしても同様だ。性能については,クラウド側が連続的にアップグレードされていくことで徐々に向上していくだろう。家庭用ゲーム機では,どうしても数年での陳腐化が避けられないのだが,G-clusterは現状の小さな本体のまま,常に最新の仕様でずっと使い続けられるのだ。
G-clusterのクラウドシステムについて聞く
一般的なサーバーは,プレイヤーからのネットワークストリームを特定のソフトウェアで処理して,必要なデータをストレージデバイスに対して読み書きして,結果となるネットワークストリームをプレイヤーに戻す……ということをしているわけだが,クラウドゲーミングにおけるサーバーは,上記の処理系にゲームグラフィックスをレンダリングするという処理系が加わる。すなわち,一般的なサーバーとは異なり,高性能なGPUを搭載する必要があるのだ。
現在は1ラックあたり約20台のクラウドゲームサーバーを詰め込んでいます。スペースがネックなのではなく,電気使用量がネックです。一般用途のサーバーと比較して,1台あたりが2倍の電気を喰いますから(笑)。なお,以前はこうしたGPUを搭載したサーバーは特注品で製作していたのですが,現在では市販製品をカスタマイズすれば同様に使えるようになってきました。
1サーバーあたりにはインテルのXeonプロセッサがデュアルで搭載されており,同時にGPUもデュアル構成で搭載されている。
すべてのサーバーが同一スペックではなく,新旧が混じっている構成だという。つまり,搭載されているCPUのXeonプロセッサの型番はすべてのサーバーでは同じではなく,また,GPUに至っては,AMD製のRadeonベースのもの,NVIDIA製のGeForceベースのものが混在しているとのことだ。さすがに1サーバー内ではRadeonとGeForceは混在しておらず,同一ブランドのGPUの2基搭載構成になっているとのこと。
また,複数のGPUを使ってはいてもSLIやCrossFireは使用していない。1枚の画像を複数のGPUで描きたいわけではなく,1基のGPUで複数のゲームを同時に走らせることが主眼のシステムだからだ。
グラフィックスカードを横倒しで接続するためのライザーカード |
CPUを含めて冷却はパッシブなので,2重化された空冷ファンがずらっと並ぶ |
さて,ここで一つ疑問が浮上する。
各サーバーのスペックがまったく同じではないとのことだが,スペックが低いサーバーと,スペックが高いサーバーでは動かせるゲームの種類が違ってきたり,同時に動かせる量も変わってしまうはずだ。動作させるゲームの各サーバーへの割り当てはどのようにやっているのだろうか。
システムを増強する際には,多くの場合,あとから追加したサーバーのほうが世代的に新しくなる分,性能が高くなります。そうした場合でも,我々のシステムは総体としてスケーラブルに動作するように設計しているのです。
具体的にいえば,新たにゲームを起動しようとする場合,各サーバーの負荷状況を見て,そのゲームの動作に支障のない性能状態のサーバーを動的に選択する構造になっているんです。
これは事業者としてはどうしても必要な仕組みでした。新たに性能の高い新サーバーを増強しても,それまでのサーバーもこれまで通りに適切に活用がなされるわけですから,設備投資が無駄にならないわけです。
ゲーム映像のレンダリングで,RadeonやGeForceが駆使されていることは分かった。では,プレイヤーのもとへネットワークを通じて送り届けられるH.264の映像ストリームはどのようにエンコードされているのだろうか。
現状はCPUでエンコードを行っていますが,最新GPUではハードウェアの専用リアルタイムエンコーダを内蔵しているものも出てきているので,そちらの活用についても実験レベルではすでに実践済みです。いずれ,本格活用するかもしれません。
エンコード性能的には,CPUで実践した場合とGPUで実践した場合とで比較して,数msほどGPUのほうが速いです。数msですと,あまり高速化されたという感じでもないんですが,消費電力に関していえば圧倒的にGPU側で実践したほうが省電力になります。事業者側としては,この部分は重要です(笑)。ただ,回線状況によって動的にビットレートを変化させていたりもしますので,そういった部分では柔軟な処理ができるCPUのほうが向いていますね。
こうしたクラウドゲーミングシステムで技術的に興味深いのは,1サーバーあたりでいったい何プレイヤー分のゲームを動作させているのかという部分だ。もちろん,先ほどの説明にあったように,G-clusterのシステムではすべてのサーバーが同一スペックではないのだが,具体的な値があるとシステムの凄さというものがイメージしやすくなる。
タイトルによってCPUパワーを多めに消費したり,GPUパワーを多めに使用するタイトルがありますし,グラフィックスがシンプルなゲームでも,メモリを意外に多く消費するタイトルもあって,1サーバーがどういう組み合わせでゲームを動かすのかによって対応人数は変わってはきます。
「プリンス・オブ・ペルシャ 忘却の砂」は,2010年に発売されたPC版がそのまま動作しているように見える。ゲームスタジオが,G-clusterのシステムでゲームを提供したいと思った場合,どの程度のカスタマイズを行えばいいのだろうか。
最近のPCゲームなら,ほとんど手を入れずにG-clusterのシステムで動作させられますね。グラフィックスに関しては,DirectXであればなんの調整も必要ないですし,最近の事例で言えば「レゴ・ハリーポッター」なんかは,PC版をまったく手を入れずそのまま動作させています。G-cluster用にカスタマイズする場合でも,これまでの最短記録では,4時間でG-cluster版へのポーティングが完了したというのがありますね。
ちなみに,とても古いタイトルで採用していることがあるDirectDrawベースやGDIベースのグラフィックスのゲームも我々のシステムでは動作させられますよ(笑)。
G-clusterへのポーティング作業で面倒なことがあるとすればメッセージ関連の修正ですかね。例えば「マウスをクリックしてください」とか「何々ボタンを押してください」といったものです。元のゲームで表示していたメッセージ群を,G-clusterの操作仕様に合ったメッセージに修正いただかないと初心者を混乱させてしまう可能性がありますから。
G-clusterでは,このように,基本的には既存のゲームプログラムにほとんど手を入れなくてよい……というスタンスだが,それでも専用のSDKの提供は行っているとのこと。このSDKを用いれば,クラウドゲーミングではとても重大な要素である遅延を効率的に減らすことができるなど,その気になれば,かなりクラウドゲーミングに適したモディファイが可能になるという。
G-clusterはテレビのあり方を変えるか?
最近では,ネット対応テレビ製品のほとんどが,なんらかのVODシステムを搭載してきており,テレビからクラウドシステムを利用すること自体は,もはや当たり前になりつつある。今後は,このクラウドシステムを用いたサービスがインタラクティブ性を持つようになっていくはずで,その意味では,G-clusterは未来を先取りした存在といえそうだ。
日本では6月20日からスタートした,まだ産声を上げたばかりのこの新しいサービスを,今後,どのように日本で浸透させていくのか。最後にその戦略やアピールポイント,意気込みなどを聞いてみた。
これまでのゲーム機というのは,一度そのスペックでリリースされると,5年から7年という期間で性能が固定化されてしまっていました。つまり,動作させられるゲームの最大仕様が,ある意味,5年から7年間で固定化されてしまっていたわけです。しかし,クラウドゲームの場合は,そうした縛りがありません。
クラウドゲームでは,そのゲームの動作に必要なハードウェア性能を必要十分に与えることができるんです。このあたりの魅力をゲームのコンテンツホルダーさんやプレイヤーの皆さんに広く知ってもらって,盛り上げていくことができたらと思っています。
単にビデオストリームを流すだけならば比較的簡単なのですが,インタラクティブ性とリアルタイム性を兼ね備えたサービスを提供することには,相当なノウハウと技術力が必要になります。その意味では,我々には,13年分のアドバンテージがあるわけです。ここを強みにして,日本でもG-clusterのクラウドゲーミングシステムを広く認知してもらえるように頑張っていきたいですね。
かつてPC向けやセットトップボックス向けなどでクラウドゲーム配信を行っていたG-clusterは,簡単にテレビをクラウド端末化する小さなデバイスとして生まれ変わった。その背後には,近年進化の速度を上げているクラウド技術と同社の運用ノウハウがあるのだが,同社が視野に入れているのはゲームだけではない。
例えばG-clusterでは,ゲーム以外にビデオ配信も行っており,その仕組みは,PC上でDVDを再生するのとほぼ同じものになっている。つまり,途中で字幕表示を変更したり,副音声を使ったり,巻き戻しや早送りしたりといったことが自在にできるわけだ。一般のビデオストリーミング配信とは次元の違うサービスが実現されている。
G-clusterを使って「クラウドでなにができるか?」と考えると,およそPCでできることならなんでもできる。ゲーム以外のエンタテイメント,さらに言えばエンタテイメント以外のあらゆる分野,そしてテレビのあり方自体も変えてしまう可能性を秘めている。
個人的には,この手の技術は次世代無線ネットワーク環境が整備されてからが勝負ではないかと思っている。スマートフォンがどんなに高性能化して高速なCPUコアやGPUコアを搭載してきたとしても,実際に出先で本格的ゲームに熱中するというのには無理がある。バッテリーがもたないからだ。これが通信とデコードコストだけで,どこででも本格的なゲームが楽しめるようになったらスマートフォンはどう変わるだろうか。また,仕事で使いたいと思ったときに,スマートフォンでExcelやWordがそのまま動いたらビジネスはどう変わるだろうか。
正直,「まだ時代が追いついていないのではないか?」と思うところも大きい。ただ,「まだ早すぎるのでは?」と言われ続けながら,13年もクラウドゲームの商用サービスを行ってきた同社が,さらに力を入れてゲームを中心としたクラウドの可能性を追求している。これは頼もしいことだ。
今後は,クラウドゲーム自体が新たなプラットフォームとして立ち上がってくる可能性もある。なにしろ,開発はPCゲームと同じで,DirectXだろうがOpenGLだろうがなにを使うのも自由,機能や容量の制限は存在せず,コピー問題も発生しない。アップデートやパッチ修正もサーバー側で行うだけとメンテナンス性もよく,流通にかかる手間もない。となると,問題は普及台数だけなのだが……,将来的にはすべてのテレビに最初から内蔵されるようなデバイスになることに期待したいところだ。
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