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[GDC 2009#番外編]企業家や投資家達がゲーム業界についてみっちり語り合った「GamesBeat 2009」
3月24日,サンフランシスコ市のミッションベイ・カンファレンスセンターにおいて,今年が初めてとなる「GamesBeat 2009」が開催された。この会合は「Game Developers Conference」(GDC09)と並行する形で行われており,参加者もほぼ重複している。しかしGDCや,開発者団体のIGDA(International Game Developers Association)と直接の関係はなく,一つの独立した業界イベントなのである。
参加者は200人程度だが,タカハシ氏とコンビを組んで壇上に上がったGas Powered GamesのChris Taylor(クリス・テイラー)氏のほか,元マイクロソフトでXboxの制作を主導したSeamus Blackley(シーマス・ブラックレー)氏,元Sony Online Entertainment社長John Smedley(ジョン・スメッドレー)氏,さらにはPC Game Allianceを率いるIntelのRandy Stude(ランディ・ストゥード)氏などの有名人が集結。これに,背広を着た若手投資家や企業家が加わり,まさに北米ゲーム業界の“エリート集団”と形容できる面々が揃った。
“元”メジャーリーグ投手,カート・シリング氏の思い
セッションの一つで興味を惹いたのが,ゲームを開発する大リーグ選手として,以前筆者がインタビューしたこともあるCurt Schilling(カート・シリング)氏の公開インタビューだ。
しかし,引退するというのは,長年にわたりトップクラスのピッチャーとして大リーグに君臨し続けた現在42歳のシリング氏にとっては,相当の覚悟があったはず。このインタビューでも,「MMORPGを開発したいという思いは,もう7年ほど前から持っていたことで,自分のアイデアを書き連ねたノートパソコンを持ち歩いて,常に起業のチャンスを窺っていた」と話していたのは印象的だ。
6〜7年前というと,シリング氏は例年のように20勝を上げていた絶頂期の頃。そんな話を聞きながら,少しずつ年を重ねていくスポーツ選手の複雑な思いというものが筆者にも伝わり,なんとなく感慨深いものだった。
さて,シリング氏の38 Studiosが開発中の,コードネーム「Copernicus」として知られるMMORPGに関しては,今回も残念ながら具体的な発表は行われないままだった。「World of Warcraftの成功に,どう立ち向かっていくのか」という質問に対して,シリング氏は「我々は,1200万のプレイヤーを獲得するためにゲームを作っているのではない。良いゲームを作り出して多くのファンに受け入れられることが一番の成功だと思う。38 Studiosは,それを達成できるモノを持っている」と,謙遜しつつも非常に肯定的に見据えている様子だった。
未来のゲームは“楽しい”以外の感情をプレイヤーに与えることができる!?
GamesBeat 2009は,その多くが複数の業界人を壇上に上げて,モデレーターが進行を務めるという,パネルディスカッション方式によるものだった。その中でも,とくに印象に残ったのが,「Metaplace」で知られるAreaeのRaph Koster(ラフ・コスター)氏や,「flOw」や「flOwer」などPLAYSTATION Networkで大きな話題を呼んだ作品で知られる,thatgamecompanyのJenova Chen(ジェノヴァ・チェン)氏らによる,「The Future of Games」という講義だ。
さらに踏み込んで,ゲームの新たな可能性を示唆したのがチェン氏である。彼は,映画がただのエンターテイメントから,芸術という分野に移行したという映画史を語りつつ,「会ったばかりの人にゲームのことを聞いても,ゲームなんてしないとか,ゲームは嫌いとはっきり言う人もまだいる。でも,映画のことを嫌いと言う人なんてほとんどいないでしょう? ゲームがそういうステータスになる日は近いし,そのときには映画がホラー,ウェスタン,サスペンスなど複雑なジャンルを生んでいったように,ゲームも撃って壊して並べるだけの“楽しい”というシンプルな表現を追求する時代は,終わるんじゃないでしょうか」と語った。
ソーシャルネットワークは,ゲームではない
例えば,GamesBeatには,投資会社や業界アナリストといった背広組も多く参加していたが,ゲーム向けの投資会社として知られるNorthwest VenturesのTim Chang(ティム・チャン)氏は,「我々投資家の視点で見れば,すでに成功したビジネスはあまり魅力的じゃない。ミュージシャンを考えれば分かりやすいと思うけど,投資家はトレンドとして業界そのものを引っ張れるような才能を探し,ひいてはレコードレーベルの設立やマーケティング活動にも出資して育て上げ,そこから高いリターンを得るものだ。ゲーム開発者も,ゲームだけのことではなく,ビジネスやマーケティングのロードマップも考察する能力を身につけなければ,新たな投資を呼び込むことは難しい」と話している。
FacebookやMySpace向けのゲームで,一日800万人というアクティブユーザーを獲得するZynga代表のMark Pincus(マーク・ピンカス)氏は,「マーケティングというよりも,顧客を引き寄せるための道具というべき」と話すが,いずれにせよ,彼らにはゲームやゲームプラットフォームを制作しているという思い入れはそれほどないようだ。
史上初のプロゲーマーといわれ,現在はRaptrというゲーマーのコミュニケーションツールを開発するDennis Fong(デニス・フォン)氏も,「ソーシャル・ネットワークのミニゲームは,パズルだとかトランプだとか,ゲームそのものは使い古されたもの。使い古されたというのは,愛されているからという見方もできると思うけど」と,ソーシャル・ネットワーク・サービスはゲームそのものに革命を起こしているのではないことを示唆していた。
10年後,ゲーム業界はどのような姿になっているのだろうか。GamesBeatからの帰路,そんなことを考えずにはいられなかった。
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