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[CEDEC 2006#07]ニトロプラス弓削田氏が語る,グラフィッカーにとってのプロの仕事
講師を務めたのは,ニトロプラスの弓削田圭祐氏。社内ではグラフィックスのクオリティマネージャーを務め,描く側と指導する側,両方の立場を知る人である。演題から分かるように,講演内容も個々のグラフィッカーおよび,グラフィッカーを使う立場での人材管理と育成という,両面が取り扱われた。
氏はまず,ゲーム作品においてグラフィックスが果たす役割を「(商品として)欲しいと思わせること」とまとめ,その力は雑誌,Web,テレビCMなど多様な場面で発揮されるとした。氏はそこでグラフィッカーのタスクを,「ビジュアルの差別化」を通して「ニーズ発生」を担うものと位置付ける。そして実作業面で留意すべきは,シナリオ,キャラクターボイスと手を携えて,プレイヤーが物語に集中し,満足できるだけのクオリティを保つことであり,安定したクオリティこそがブランドイメージを向上させるのだという。
■プレイヤーの注目を浴びる部分に注力する
話として面白かったのは実際の作業工程を追っていく部分で,氏はまことにプロの仕事の話らしく,ことあるごとに費用対効果と現実的な意味の有無を強調した点だ。下に示した各スライドの下部にある,注意書きがそれだ。描線も塗りも,注目を浴びるところとそうでないところでは要求される水準が異なる。それを見極めて作業に軽重をつけることが,コストと納期の管理に繋がるというわけだ。
■グラフィッカーは弱肉強食の世界?
具体的なグラフィックス作業の説明に続いては,作業効率やモチベーション管理など,主に業務としての側面からグラフィッカーとその上司の両者に対するアドバイスが語られた。
レタッチソフト「Photoshop」の使い方から,グラフィッカーという職業に対する適性の話まで,筋道よりは現実に即した話が並んだという意味で,グラフィックス作業の経験者や,これからグラフィッカーを目指す人には有益な提言となったろう。とくに,仕事に対する妥協が大きなストレス源になること,それと現実的な要請を両立させる「クオリティコントロール」の考え方が強調されたのは,前段での話題と併せて,プロならではの思考法だろう。
講演全体の雰囲気に合致した形で,質疑応答も極めて具体的なものだった。例えば「Photoshopを使った最大1600%までの拡大作業を,無駄な作業を生む落とし穴と評していたが,実際どの程度まで拡大して作業しているか?」という質問への回答は「300%が限度。それ以上細かくしても,作品になったときには分からない」というもの。同様に「実際にニトロプラスでグラフィッカーを選考するときに,どんな質問をするか?」という問いには,「グラフィッカーとして今後何をしていきたいかという,目標面を含めて聞く」との答え。そして,「グラフィッカーのキャリアパスをどう考えているか。全員が将来原画家やプロデューサーになれるとは思えないが?」という質問には,「そのとおりであって,グラフィックス以外の関心と能力を伸ばすことも考えていく必要がある。ただし,基本的に弱肉強食の世界であることには変わりない」と,これまた現場を知る者らしい,シビアかつ説得力に富んだ見解を示した。
会場で聞いてみたところ,今回仕掛け人となったのは,CEDECの押しも押されぬキーパーソンである,IGDAの板垣貴幸氏。同じく会場で板垣氏に少しだけ時間をもらって話を聞いてみた。それによるとニトロプラスに関しては,氏の個人的な人脈で「最近元気のある会社がある」という紹介を受けて,話を繋げたものらしい。そして,CEDEC 2006でセッションを設けた意図は「ゲームグラフィックスについては3Dばかりが取り沙汰されるようになってしまったが,その一方で2Dのグラフィックス技術に関するセッションも必要と考えているので,ご協力をお願いした」という経緯なのだそうだ。
もっぱら「萌え」絵を題材にしたセッションであるが,それが今日のゲーム開発で必要な技術であることは論を待たないし,絵の種類を問わない作業効率やモチベーションの話も,講演には含まれていた。ざっと見たところ200人弱の受講者を集め,立ち見すら出ていたのは,話題性と実用性,両方を兼ね備えた講演内容の賜だろうと感じた。(Guevarista)
- 関連タイトル:
機神飛翔デモンベイン
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