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印刷2006/10/16 21:57

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今回は女性向けが盛況? ライブ「ニトロスーパーソニック2006」

 10月14日の土曜日,東京は浜松町のメルパルクホールで,ニトロプラスのライブイベント「ニトロスーパーソニック2006」が開催された。歴代作品ゆかりのミュージシャン達が次々に登場して歌と楽曲を披露し,また,最近のファンイベントでは恒例化した感のある声優陣によるオリジナル脚本での掛け合い,いわゆる公開アフレコなどが行われ,来場したファンを沸かせていた。
 メルパルクホールは1階が1212席,2階が370席というなかなかのサイズのハコであり,このうち1階がほぼ満員,2階もざっと3分の2が埋まっていた感じであるから,招待客を含めれば1400名前後の来場者がいたことになる。また,注目すべきはその男女比であり,出演声優陣が男性で固められたこととも関連してか,7:3よりは6:4に近い感じで女性の姿が目立った
 キャラクターゲーム市場の現在をいろいろな面から見せてくれた本イベントのうち,取り急ぎ全年齢版ゲームに関わりの深い部分を中心にお伝えしよう。


 イベントは二部構成になっており,第一部はニトロプラスのファン向けインターネットラジオ番組「アフロプラスパラダイス」の特別版,第二部がミュージシャン達によるライブという形をとっていた。司会を務めたのは,同番組のパーソナリティとしても知られるニトロプラスの“最凶広報”ことジョイまっくす氏と“ニトロの歌姫”こと,いとうかなこ嬢の二人組に加えて,しばしばニトロプラスとイベントを共催することで知られるアージュの広報,斉藤K氏であった。
 ファンイベントだけに,かなりの内輪ネタも交えつつ,イベントは進んでいく。例えばイベント冒頭では惜しくも参加できなかった関係者からのビデオレターが上映されたが,デモンベインシリーズでおなじみの声優,伊藤健太郎氏は,ジョイまっくす氏のトレードマークであるアフロヘアーのカツラで映像に登場するというノリ具合。まあ,幸いなことに(?)そのあとから流された声優,折笠 愛さんの映像は普通のメッセージだったが。
 司会3人の軽妙なトークに続いて,舞台にはほどなくデモンベインシリーズでマスターテリオンのボイスキャストを務める緑川 光氏と,ドクター・ウェスト役の山崎たくみ氏(古いファンならDVD-PG版「ファントム」への出演についてもご存じのことだろう)が登場した。同シリーズをプレイしたことのある人にはおなじみのこととは思うが,ドクター・ウェストははっちゃけまくりのキャラクターで,常に絶叫気味の演技が続く。「アニメ版デモンベインのアフレコでは,2回目から感度の違うドクター・ウェスト専用マイクが用意されまして……」などと,最近のエピソードも開陳された。

 トークに続いてこの二人が披露するのは,オリジナル脚本に基づく“公開アフレコ”。オリジナル脚本とは言い条,その内容はマスターテリオンのシリアスな役どころを逆手に取ったコミカルなものであった。自称天才科学者であるドクター・ウェストが「どんな願いでも一つだけかなえようではないか」と大仰に申し出れば,マスターテリオンは落ち着き払って一言「パン買ってこい」。とまあ,そんな調子だ。この“キメセリフ”は脚本の要所で繰り返され,そのたびに来場者を沸かせていた。
 前述したように,声優同士の掛け合いからなる“公開アフレコ”は昨今のキャラクターゲーム関連イベントでは定番の演し物なのだが,今回披露されたそれは,かなり気合いが入っている。なにしろ,用意されたのは作品本編のシナリオライター鋼屋ジン氏の手になる脚本であり,おまけに舞台のスクリーンでは,このイベントのために組まれたスクリプトにより,表情パターン付きのキャラクターグラフィックスとテキストが,演技の進行に沿って流れる。声優の生の演技に合わせて,ゲーム本編のような演出が再現されたのだ。
 イベント用の脚本に,社内の若手で済ませることなくメインライターを動員,ここまでの仕込みを行ったニトロプラスの取り組みを,アージュの斉藤K氏が「御社,バカじゃね?」と溢れんばかりの笑顔で誉めるのが,まさしく当を得た論評となっていた。

 この催しのあとにジョイまっくす氏が舞台で述べたところによれば,デモンベインについては外伝小説の3冊めが控えているほか,金属製アクションフィギュア(“超合金”のノリだろうか?)と,コトブキヤによるプラモデルの企画が進行中とのこと。シリーズのファンは今後,これらの続報にもアンテナを向けておいたほうがよさそうである。




 ところで,このアフパラ特別版のウラで,地道に進行していた(という設定の?)企画がある。それは,ニトロプラスのグラフィッカーにして,次回作「月光のカルネヴァーレ」(注:18禁作品)のプロデューサーも務めるなまにくATK氏が,イベント開催中に作品のグラフィックスを1枚塗り終えられるかどうか,イベントの合間合間で見ていくというものだ。
 見事ミッションを達成した氏は,第一部の終わり近くのタイミングでステージに登場,広報の“ニトロ君”氏とともに控えめながら新作のPRを行った。アージュ斉藤K氏はここでも,企画内容と自身の立ち位置に沿った軽妙なトークで「普通3時間かかる塗りを,もうほぼ終えている速さは,作業に迷いがないからだよね。今のところに不満があったら,うちに来なよ。あとで数字(給与条件)の話しよう?」と,なまにく氏に花を持たせつつ,巧みに会場の笑いを引き出していた。

グラフィッカーのなまにくATK氏。カメラ目線で愛嬌を振りまきつつ作業するところ(左)と,新作のPRをするところ(右)


コアなファンもこれには驚いたであろう,「タダオ伝説」
 ファンイベントらしく,話題はますますもってクローズドな方向に転じていくのだが,第一部の締めくくりを担ったのは「ジョイまっくすの一日」と題する,ニトロプラス広報の一日の仕事を追ったドキュメンタリー映像と,サプライズ企画の取材映像「タダオ伝説」。前者は,企画会議やインターネットラジオの収録,秋葉原各店舗への販促ポスターのデリバリーなどといった,ジョイまっくす氏の仕事に密着取材した映像で,スクリーンに映されたのはそのダイジェスト版だ。本体は来場者に配られた特典CDに収録されており,これが全42分48秒にわたるという力作である。……またもや,力の入れどころが微妙なわけだが。
 さらに微妙なのがタダオ伝説である。そもそもタダオとは,ジョイまっくす氏のご尊父の名なのだが,ジョイまっくす氏はトークイベントやインターネットラジオでしばしば,氏とご尊父の奇妙なやりとり,とくにご尊父のいささか唐突な言動をネタにする。そこを狙って,ジョイまっくす氏に秘密でタダオ氏に取材し,その日常と視聴者へのメッセージ(?)を採録,さらにジョイまっくす氏の芸名の元ネタとして知られる2匹の犬ジョイとまっくす,その飼い主たる氏の叔母君からのメッセージまでを映像化してしまったのだ。
 面食らうジョイまっくす氏のリアクションを含めて,会場は笑いの渦と化した。

こちらは「ジョイまっくすの一日」。会場ではダイジェスト版が上映された


 Webビジネスでは昨今,コミュニティ形成とパーソナライズが頻繁にキーワードにされるが,よくよく考えてみると,うまく機能した内輪ウケというのは,その一つの達成であるのかもしれない。ニトロプラスをはじめとするキャラクターゲームメーカーが,求心力の強いコンテンツを開発しながらも,ある種「客商売」としてのスタンスをうまく保っているのは,主流寄りの文化から見て常に“マイナー系”に位置し,そのメリットもデメリットも自覚しつつビジネスを進めてきたという,その道における覚悟あればこそのような気がする。
 同心円状のファン層分布を大きく崩すことなく,彼らはここまで進んできた。そして内輪ウケといっても,その元ネタはインターネットラジオで広くかつコアに共有されていたりするのが,今日の消費の姿なのだ。……まあこの「広くかつコア」というアンビバンレンツが,おそらくこの方程式を解くカギ,基本構造なのだが。
 複数の作品でアニメ化を果たし,別ブランドで女性向け市場をも開拓した彼らが,自分達の強みを今後どこに投企するかで,来年,再来年の(?)「ニトロスーパーソニック」の演目が変わっていく。それをあれこれ想像してみるのも,なかなか面白いことではなかろうかと思う。(Guevarista)


15分間の休憩時に出来た物販の待ち行列(左)と,「ニトロスーパーソニック2006」のコンセプトアートを用いたポスター(右)
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