泉水 敬氏
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CEDEC 2006最終日となる3日めの基調講演では,Microsoft日本法人,マイクロソフトの執行役 ホームエンターティメント担当 Xbox事業本部長である
泉水 敬氏が登壇。
「マイクロソフトが提供するゲームプラットフォームの世界」として講演を行った。
まず泉水氏は,やや概念的と断ったうえで,現在の家庭用ゲーム機市場を「閉ざされた世界」と表現する。
閉ざされた世界のイメージとして提示されたスライド。エンドユーザーにとっても,価格の固定化や,プラットフォームの垣根を越えて嗜好にあったゲームを選ぶことがしにくいといった問題があるという
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プラットフォームに縛られることで,開発者間の交流が少なくなり,自己表現の場も限られる。ハードウェアメーカーとソフトウェアメーカー間では交流ができても,それ以外の業種の人,あるいはアマチュアのクリエイターと交流する機会は非常に限られている――これが氏の主張だ。
また,コンテンツの配信に関しても,商用サイトなどが行ってはいるが,必ずしも体系立って行われてはおらず,コンテンツ配信者間のコミュニティもほとんど存在しないと指摘。「こういったコミュニティを,Microsoftとしてお手伝いしたい」として,コミュニティの共通言語となるべく開発されたという
「Microsoft XNA」(以下XNA)を紹介した。
XNAの概念図
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XNAは大きく,開発環境「XNA Tools & Technology」,開発者向けのサービス「XNA Solutions」,そしてコミュニティ「XNA Exosystem」に分かれており,Direct3Dやサウンド,周辺機器,ストレージをハンドリングするAPI,そしてフレームワーク(≒テンプレート)が用意されている。開発者はこれらを利用してゲームを作ることになるわけだが,このときXNAでは,開発者間の成果を「Components」として共有できるようになっているとのことだ。
XNAのデモとして,泉水氏は世界初のシューティングゲームと言われる,1962年製の「Spacewar!」を利用。中央がオリジナルモードだ。この状態で,XNAのライブラリを用いることにより,グラフィックス以外,ゲームのコードには一切手を加えずに,そこそこの見栄え(右)に変えることができるとした
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もう一つ「MarbleDemo」と呼ばれるゲームも紹介された。これはC#ベースで開発されたデモで,XNAのライブラリを利用することで,「風景が玉に映り込む」といった処理を簡単に行えるという例だ。「まあ,ゲームそのものは大して面白くないんですが(笑)」(泉水氏)
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■Windowsをゲームプラットフォームとして立ち上げる
■「XNA Game Studio Express」
XNA Game Studio Expressの目的を説明するスライド
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続けて泉水氏は,XNAベースの開発&実行環境として,
2006年8月にβ版が公開された「XNA Game Studio Express」を紹介する。
同製品は無償で提供されるため,アマチュアのゲーム開発者でも,比較的容易にゲームを制作できるようになるとのこと。完成したゲームは当然PC上で動作するほか,99ドル/年のサブスクリプション(会費)を払うと提供されるツールにより,市販のXbox 360上で動作するようにもできるという。
「XNA Game Studio Expressは,Windowsをゲームプラットフォームとして立ち上げ,Xbox 360との相乗効果を最大化し,さらにほかのWindowsベースの機器にも実行環境を広げていくための,最初の一歩です」(泉水氏)。開発者を支援し,ユーザーにはより多くの選択肢を提供し,ゲーム文化をより広げていくのが最終的な目標と述べた。
サブスクリプションを支払うと,コミュニティ「Creator's Club」へも参加可能になる(左)。泉水氏は「プロやアマチュアといった垣根を越えた情報共有の場を用意することで,開発者間のコミュニケーションを円滑にしていきたい」と言う。その結果として,本文でも触れているように,オープンなコミュニティが誕生するとしていた
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■Xbox 360の周辺機器はすべからくPCで利用可能に?
ゲームエクスプローラのイメージ
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泉水氏は,続けてWindows Vistaにおけるゲームの扱いについて説明した。Windows Vistaでは,ゲーム専用のランチャー「ゲームエクスプローラ」が用意されていることはすでに明らかになっているが,このほか,Xbox 360と同等のペアレンタルコントロール機能が用意されること,そして,「Xbox 360 Controller for Windows」が先鞭をつけた「PCとXbox 360の周辺機器共通化」は,2006年冬に登場予定の「ワイヤレスゲーミングレシーバ」によって,新たな局面を迎えることが説明された。
具体的には,先日北米での発売が発表された「Wireless Xbox 360 Controller for Windows」をはじめ,Xbox 360用ワイヤレスのヘッドセット,Webカメラ,ステアリングコントローラなどが,相次いでPCに対応するとのこと。Xbox 360との絡みとはいえ,これにより,Microsoft印のPC向けゲーム用周辺機器は,完全復活を遂げることになりそうだ。
左のスライドで左上に示されているのがワイヤレスゲーミングレシーバ。これにより,Xbox 360用の周辺機器をPCから利用できるようになる
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Windows Vistaでは,ゲームに関連したインタフェースがXbox 360と共通化される。Windows VistaとXbox 360,そしてLive Anywhereという総合的なサービスで,Microsoftは“ゲーム機だけ”のプラットフォームホルダーと戦っていくというわけである
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E3 2006で明らかになったLive Anywhereによるサービス統合の概念図。Liveサービスを軸に,ハードウェアにこだわらないサービス展開を行っていくというのがMicrosoftの目標だ
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以上,内容的にはほとんど「Microsoftのゲーム市場についての取り組みをまとめたもの」で,新しい話はほとんどなかったわけだが,日本においても,XNA Game Studio Expressを軸に,アマチュア(など)の開発者を囲い込んでいこうとしていることと,ハードウェアの拡充予告は,なかなか興味深い。
とくに前者に関しては,ことによると,フリーウェアやシェアウェア,同人ソフトがいきなりPCとXbox 360で同時リリースといったようなことになっていく可能性を秘めている。4Gamer読者でもこういったゲームをプレイしている人はいると思われるが,そのなかに佳作,傑作は少なくない。それだけに,Microsoftが「場」の創出に成功したとすれば,将来的にメーカーと個人(あるいはサークル)による“直接的なシェア争い”や,コラボレーションなどが頻繁に起こってくるかもしれない。……まあ,予算のかかる超大作を除けば,という話にはなるだろうが。
現実的な話として,国内ではXbox 360の調子が(少なくとも2006年9月の時点では)よくないという問題があるうえ,Windows Vistaも登場していないため,Microsoftの目論見がどう転ぶのか未知数ではある。とはいえ,Windows Vistaを一つのゲームプラットフォームとして定義するに当たって,Microsoftが講じている具体的な施策そのものには,ゲーマーとして注視しておく必要がありそうだ。(佐々山薫郁)