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[CEDEC 2008#11]パーティクルを使って「柔らかい2D」を表現する
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印刷2008/09/12 21:35

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[CEDEC 2008#11]パーティクルを使って「柔らかい2D」を表現する

画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2008#11]パーティクルを使って「柔らかい2D」を表現する
 高度な技術を駆使した新しい3D表現の発表が目立つCEDEC 2008だが,その一方で3D表現が難しいiPhoneなどのプラットフォームをターゲットにしたセッションも数多く開催されていた。そうした中から「ゲームデザイナーのための2Dフィジックス」を紹介していこう。物理表現といえば3Dが当たり前。それを2Dで行うというのだから,どのような内容なのか興味がわいてくる。


パーティクルを使って実現する新しい2Dゲームの表現


プロメテック・ソフトウェアが得意とするのは粒子法を用いた物理シミュレーション技術だ
画像集#003のサムネイル/[CEDEC 2008#11]パーティクルを使って「柔らかい2D」を表現する
 意識している人は少ないかもしれないが,2Dゲームのターゲットとなるプラットフォームは広がり続けている。話題のiPhoneはもちろん,PCの世界でもNetbook,Nettopと呼ばれる低スペックではあるが安価なプラットフォームが登場しており,そうしたマシンでは,無理して3Dで遊ぶより2Dゲームで遊んだほうが快適なハズ。
 とはいえ,2Dゲームの歴史は30年以上に及び,セッションのタイトルである「2D物理」も昔から研究されている。かくいう筆者でさえ,8ビットパソコン時代にそれっぽいことをやった経験があるほどだ。

 セッションを担当したのは,プロメテック・ソフトウェアのゲーム事業部チーフ・ソフトウェア・デザイン・エンジニアである小倉豪放氏。プロメテック・ソフトウェアは東京大学発のベンチャー企業で,粒子法を使った流体シミュレーションの技術を応用した各種ソリューションを手がけている。ゲーム専業というわけではない。

OctaveEngine Casualを体験するソフトウェア「OE-CAKE!」。お絵かきソフトの感覚で画面上に壁を置き,流体やゴムのような弾性体,あるいは餅やスライムのような物体を動かせる
画像集#009のサムネイル/[CEDEC 2008#11]パーティクルを使って「柔らかい2D」を表現する
 「これまで物理シミュレーションは剛体のシミュレーションが主だった」と小倉氏は始めた。GPGPUなどの強力な演算能力がゲームで使われるようになれば,剛体以外のものが見られるかもしれないが,確かに今のところ,2D,3Dとも物理シミュレーションの対象は剛体に限られている。
 そうした中で小倉氏は「粒子法を使った流体や弾性体の物理シミュレーションをゲームに応用してみたら面白いのではないか」と提案する。3Dグラフィックスでは粒子(パーティクル)を使って雲や炎を表現するテクニックが知られているが,小倉氏が提案するのは個々の粒子に働く力を計算して動かすことで,柔らかい物体(流体や弾性体)の動きを再現しようというものだ(もちろん硬い物体も粒子法でシミュレートできるが)。
 NVIDIAが配布しているPhysiXのデモの中にもパーティクルを用いた流体シミュレーションがあるが,それっぽい動きにするために膨大な数の粒子を計算する必要があるのが難点。だが,2Dなら計算の負荷が軽いため,粒子法を使った表現が可能だろうという。

 続いて小倉氏がデモを交えて紹介したのが,プロメテック・ソフトウェアの物理エンジン「OctaveEngine Casual」の体験ソフトウェア「OE-CAKE!」である。このソフト,4Gamerでも記事を掲載している。これは写真を見るより,実際に動かしてもらったほうが分かりやすいはずなので,興味のある人は試していただきたい。


2D物理シミュレーションをゲームに取り込むと


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3Dでなく2Dなら,CPU能力を使って粒子法のような負荷が高い物理シミュレーションが可能だと小倉氏は言う
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キャラクタをやっつけるとドロドロと流れ出してしまう。物理シミュレーションによって,いかにもそれらしく溶け出す様子が楽しい
 OE-CAKE!は,画面のように壁を配置して,そこで流体や餅のようなものを動かせるというソフト。炎や発熱体,気体なども配置でき,適当に動かしているだけでもかなり楽しめることが実際に使ってみるとよく分かる。
 OE-CAKE!の動きはOctaveEngine Casualの粒子法物理シミュレーションによるものだ。これをゲームに取り込もうというわけだが,小倉氏はまず2Dアクションゲームに物理を加えたデモを紹介。ある意味ストレートな物理シミュレーションの利用例ではあるが,敵キャラをやっつけるとドロドロにとけて流れるなど,OctaveEngine Casualを使ったデモゲームには映像としての面白さがあった。

 続いて「物理シミュレーションそのものがゲームになるのでは」と小倉氏は提案する。先のOE-CAKE!も物理シミュレーションによる動きを楽しむ例ではあるが,粘性のある液体に目と口を付けて動かすだけでも面白いという。

粘り気がある流体に目と口を描いて動かしてみた例。流体が二つに分かれても,それぞれに目と口が描かれる。ネロネロっとしたキャラクタが動き回る様子がなかなか可愛い
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 さらに「物理シミュレーションは直感的なデバイスとの相性がいい」とも小倉氏は続ける。直感的デバイスとは,例えばタッチパネルやモーションセンサー,あるいはWiiリモコンなどのことだ。デバイスの低価格化によって,この種のセンサーを搭載する機器が増えているが,そうした機器で面白い映像と動きが創り出せるというわけだ。その例として紹介されたのが,同社と株式会社ハドソンが共同で作成したiPhone用ゲームソフト「AQUA FOREST」のデモである。iPhoneに内蔵されている加速度センサーを使って,画面に表示された流体などをiPhoneの傾きに応じて動かすという一種の環境ソフトだ。
 さらには,「まだ実験的」と断りつつ,物理シミュレーションでサウンドを作り出す例も紹介していた。

「粒子の状態と物体の状態が直接にはつながらないことがある」(小倉氏)ため,まだ完成した技術ではないようだが,画面上に置いた炎や水の動きに応じて,それらしいサウンドが作り出されていた。こうした技術もゲームへの応用が可能だろう。


最適化にはまだ課題が残る


画面状で炎や水を動かすと,その動きに応じてそれらしい音が作り出される。ただし,まだ実験的
画像集#008のサムネイル/[CEDEC 2008#11]パーティクルを使って「柔らかい2D」を表現する
 ところで,2Dといっても多数のパーティクルの動きを計算するとそれなりの負荷が生じるはずだ。最後のQ&Aでも「どれくらいのCPUパワーが必要なのか」という質問が出されていた。
 小倉氏によると,2Dシューティングゲームなどのデモで使われている粒子数は約6000とのこと。PCならば6000程度の粒子を使った物理シミュレーションはそう重くはない。
 「iPhoneのCPUは意外に強い」そうだが,それでも「AQUA FORESTの粒子数は約400」とPCに比べるとかなり抑えた数字になっている。また,Wiiなどゲーム機ではメモリ不足の問題も生じてくるという。
 OE-CAKE!でも,気体を画面全体に配置するなど粒子数を増やすと,一般のPCでは画面がカクカクした動きになることが確認できる。2Dとはいえ,物理シミュレーションはやはり重い処理なのだ。
 2DゲームのターゲットはCPUパワーに限りがあるプラットフォームがメインになるだろうから,負荷の高さは実用にあたっての大きなネックになりそうだ。「まだ最適化の余地はある」(小倉氏)とのことなので,さらなるシェイプアップが望まれる。さらに,少ない粒子数で実物らしい動きを表現する技術の開発にも期待したいところだ。
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