業界動向
Access Accepted第585回:ハンデキャップを軽やかに乗り越えるゲーマーの物語 3
生まれつきであったり病気や事故の後遺症などで,障害を持って生きる人はけして少なくない。身体機能が異なる人が健常者と同じゲーム体験を共有できるようにするには,どうすれば良いのか。2011年2月28日に掲載した本連載の第296回,そして2014年10月6日に掲載した第437回に引き続き,ハンデキャップを軽やかに乗り越えるゲーマーの物語と,こうした点に対する北米ゲーム業界内外の取り組みをお伝えしたい。
ハンデに負けないゲーマー達
ウェストバージニア州に本拠を置く,「The AbleGamers Foundation」というNPOがある。2012年に「The AbleGamers Center on Game Accessibility and Inclusive Play」というスタジオをオープンし,障害を持つ人を対象に,彼らが自分の身体能力にあったゲームやコントローラに出会えるための活動を続けている。2017年には床面積を広げ,カスタムデバイスを制作するための3Dプリンタを導入したという。
もともとは,障害のある人々にとって遊びやすいタイトルを探すためのゲーム情報サイトとしてスタートしたようで,アメリカのイベント取材では筆者も何度か,「AbleGamers」と書かれたプレスバッジを付けて車椅子に乗ったジャーナリストと同席した経験がある。そうした取り組みが多くの人々の賛同を得て寄付や支援につながり,やがて上記スタジオの開設に至ったのだ。
最新の調査によれば,アメリカでは6人に1人,ほぼ4000万人がなんらかの身体的障害を持っているという。内訳としては高齢者やケガや病気で障害を負ったお年寄りが多く,ゲームを楽しむ世代といえる5歳から64歳までにかけては,そのおよそ4分の1,1000万人ほどになる。The AbleGamers Foundationの活動に,かなりのニーズがあることは間違いない。
地元テキサスでは「大乱闘スマッシュブラザーズ」など,「ストリートファイター」以外でもトップレベルの成績をキープしているという。
BrolyLegs氏のようなハンデを持つ人達にとっても,ゲームはエンターテイメントであり,自分を表現するツールであり,同じ趣味を持つ人達と交流できる憩いの場である。より多くの人が同じ体験を得られてしかるべきだろう。
インクルーシブなゲーム体験を目指す新型コントローラ
2014年10月6日に掲載した本連載の第437回,「ハンデキャップを軽やかに乗り越えるゲーマーの物語 2」では,北米の「アクセシビリティ」(高齢者や障害者でもゲームを楽しめること)に対する取り組みを紹介したが,それ以降で,おそらく最も大きなマイルストーンと呼べるのが,この7月にMicrosoftがリリースしたPC(Windows 10)およびXbox One向けコントローラ,「Xbox Adaptive Controller」だろう。
Microsoftは以前から,「Xbox Gaming and Disability Boot Camp」などのイベント通じて,デベロッパにノウハウを伝えたり啓発活動を行ったりしており,それがこの,障害のある人でも使いやすいコントローラの開発につながったと思われる。パッケージの開封のしやすさまで考慮されているというのは,すでにお伝えしたとおりだ(関連記事)。
遠目にはディスクジョッキーが使うターンテーブルのようにも見える「Xbox Adaptive Controller」は,筐体に大きなボタンが2つ,平行に付けられ,身体能力に合わせてジョイスティックやスイッチなどを追加できる。こうした仕組みは「アダプティブ」(適応型)と表現されるが,さまざまなアシスタントデバイスを使用しているユーザーのために,背面には19もの接続端子が用意されている。
少しでも多くの人にプレイしてもらうことにこだわり抜いたデザインのデバイスに仕上がっており,これを100ドルで販売することには,Microsoftの強い意思のようなものを感じる。
MicrosoftでGaming&Disability Community Leadを務めるタラ・ヴォールカー(Tara Voelker)氏が,GamesIndustry.biz(英語版)のインタビューに答えている。ヴォールカー氏はそこで,「現在のゲームやゲームデバイスは,例えば車椅子を使う必要のない人に車椅子を提供するという風な,障害のある人々について勘違いをしている傾向が見られます」と語る。そして,「多くのゲームでアクセシビリティ機能を充実させることが望まれます。柔軟な操作方法や,読みやすい字幕など,些細に思えることも大きな違いを生みます。私はまた,ゲーム開発者が障害を持つゲーマーからのフィードバックを直接取り入れ,ユーザーテストにももっと関与させる,インクルーシブな姿勢を期待します」と続けている。
「インクルーシブ(ネス)」(Inclusiveness)というキーワードは,もともとはマーケティング用語であり,最近になって北米のゲーム業界でよく聞かれるようになった。適切な日本語が見当たらないのだが,無理に訳せば「包括性」や「包容力」といったところか。年齢や性別,人種などに関係なく,より多くの人々に参加してもらうという考え方で,例えば,主人公の性別や肌の色などを自由に変更できるゲームタイトルが多くなっているのも,そうした流れに沿ったものだ。
ヴォールカー氏は,上記のインタビューの中で「些細な違いであっても,障害を持った人にとっては,“存在すること”と“生きていること”の違いを生むのです」と語っている。ゲームが本当の意味での大衆文化になるために,より多くのゲーム(およびゲームデバイス)開発者がこうした呼びかけに応じることが望まれる。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をレポートし続けている。
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