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印刷2022/05/16 12:00

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Access Accepted第723回:それでもデューク 〜 突然のアーリービルト流出で,「Duke Nukem」のIPを取り巻く実情が明らかに

画像集#006のサムネイル/Access Accepted第723回:それでもデューク 〜 突然のアーリービルト流出で,「Duke Nukem」のIPを取り巻く実情が明らかに

 ここ10年ほどはほとんど動きがないものの,かつては一世を風靡したFPSジャンルの代名詞的な存在が“デューク・ニューケム”だ。最近になって,2011年にリリースされた「Duke Nukem Forever」のアーリービルド版が突然リークされ,当初の開発会社であった3D Realmsの設立メンバーの発言から,ギネスブックに記載されるほどの開発延期に見舞われ続けた本作の実情が浮かび上がってきた。



FPS黎明期を支えたデューク・ニューケムと3D Realms


FPSの黎明期を知るベテランゲーマーにとっては,まさにデュークは永遠の存在かも知れない。果たして,地球最後の希望であるデュークが復活する日は来るのだろうか?
画像集#001のサムネイル/Access Accepted第723回:それでもデューク 〜 突然のアーリービルト流出で,「Duke Nukem」のIPを取り巻く実情が明らかに
 5月8日に,英語で運営されている掲示板サイト「4Chan」において,E3 2001で公開された「Duke Nukem Forever」PC / PS3 / Xbox 360)のアーリービルド版のソースコードがリークされるという事件が起きた。
 「Duke Nukem Forever」は,2011年6月に正式リリースされたものなので今更感が強いが,“デューク・ニューケム”と言えば,一時は「DOOM」「Quake」などのid Software作品と肩を並べた,FPSゲーム黎明期の名作であり,今でも“デューク”という名前に反応してしまうベテランゲーマーは少なくない。いったい誰が,何の経緯で,しっかりと遊び込めないアーリービルドを流出させたのかはわからないが,その後のリアクションから,開発メーカーだった3D Realmsの当時の内部事情がチラホラと見えてきたので,今回はそのあたりにスポットライトを当ててみたい。

 「Duke Nukem Forever」は,「その制作発表から14年44日もの期間を経てリリースされた」として,開発期間の長さがギネスブックにも登録されている,「Duke Nukem」シリーズでは4作目にあたる作品だ。1996年1月29日にリリースされた前作「Duke Nukem 3D」で知名度を上げた3D Realmsは,当時「シェアウェア」と呼ばれていた,ゲームの序盤だけがプレイできるようロックされた,共有可能なゲームソフトのビジネスモデル(気に入れば全編をアンロックできるコードを公式サイトなどで購入して続きを遊べる)を開拓したことでも知られる。
 3D Realmsは,1987年にテキサス州ダラス近郊のガーランドという衛星都市に,スコット・ミラー(Scott Miller)氏ジョージ・ブロウサード(George Broussard)氏によって設立されており,その数年後に同地域に設立されたid Softwareの後見人的な立場でもあった。ゲームの流通ビジネスには「Apogee Software」という社名を使うこともあったが,「Duke Nukem 3D」は当初FormGenという無名パブリッシャからリリースされており,このあたりは少しややこしい。

 「Duke Nukem 3D」は,当時のFPSジャンルではまだ珍しかった「さまざまなセリフをしゃべる主人公」の存在,水の中を泳いだり,さらには水中から陸上の敵を射撃することができたりと,ゲームシステムでもさまざまな革新的要素を含んでおり,また,マルチプレイヤーモードで“キャプチャー・ザ・フラッグ”モードを搭載した初めてのFPSでもある。
 また,レベルエディターを搭載していたことで多くのアマチュアが自由にゲームマップを自作できた。その影響は大きく,Gearbox Softwareを率いるランディ・ピッチフォード(Randy Pitchford)氏は,「Duke Nukem 3D」のモッダーとして業界入りを果たしたことで知られている。

 そんな,ゲーム市場においてはマイルストーン的な「Duke Nukem 3D」は,MS-DOS時代のPCゲームとしては異例ともいえる350万本という大きなヒットになった。3D Realmsはそのリリース直後から新作である「Duke Nukem Forever」の開発を始めていたと思われる。
 「Duke Nukem Forever」の開発は当初,自社製の「Build Engine」ではなく,ライバルに成長していたid Softwareの「Quake II engine」(id Tech 3)が採用され,1998年のE3にてデモが公開された。さらに,その直後に台頭してきた「Unreal Engine」(1.0)に乗り換えることがアナウンスされて,2001年のE3で新しいデモが公開される。この頃から混迷する開発状況が見え隠れする状況になっていた。

「Duke Nukem Forever」のE3 2001デモのコラージュ。筆者は今回リークされたデータにはタッチしていないが,おそらく同じ内容と思われる当時のムービーデモを分析したE3 2001特集レポートを自分の手で書いていたので,そこから一部を紹介している。気になる人は当時の記事
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 この後に何度も発売が延期され,さらに開発が一時中断される事態にも陥った。待てども待てどもリリースされない状況に,ゲーマーからは「Duke Nukem For-Never」と揶揄する声も上がった。そのすったもんだの当時の状況は,当連載の「第4回: すでに開発8年目に入った,あの迷作について」関連記事)で述べているので,お読みになってみると良いだろう。
 また,今回の連載を含むミニシリーズ的な読み方をしてくれるなら,「第218回:さよならデューク 〜 Duke Nukem Foreverの歴史」関連記事),および「第419回:またかよデューク〜再び起きたDuke Nukemの権利問題」関連記事)に目を通しておくこともお勧めしたい。


「Duke Nukem Forever」の開発時に起きていた混乱


 ギネスに載るほど開発が遅延した「Duke Nukem Forever」だが,その大きな理由が,2度にわたる開発エンジンの変更であったことは間違いないだろう。自社の「Build Engine」から「Quake II engine」,そして「Unreal Engine」へ,開発エンジンが移っていったことは何とも不可解で,この時期に3D Realmsの中核をなしていた開発メンバーは次々に同社を離れている。
 最初は,「Duke Nukem 3D」や「Shadow Warrior」(1997年)の基礎になった「Build Engine」を,単身で作り出したケン・シルバーマン(Ken Silverman)氏が退職。さらに,「Quake II」のエンジンを採用して以降のリードプログラマーだったトッド・リップログル(Todd Replogle)氏が続いた。

 また,id Softwareの設立メンバーながら,その後に3D Realmsに移籍してゲームデザイナーの一人として活動していたトム・ホール(Tom Hall)氏も,盟友のジョン・ロメロ(John Romero)氏とともにION Stormを新設するために辞めていたし,"Levelord"という愛称で知られる有名レベルデザイナーだったリチャード・グレイ(Richard Gray)氏は,その後Ritual Entertainmentへと移った。
 さらに,"Prey"というコードネームで呼ばれていた新型3Dグラフィックスエンジンを開発していたチームからも,メインプログラマーのポール・シューイマ(Paul Schuyetma)氏や,当時のゲーム業界では珍しい女性プログラマーとして活動していたコリーン・ユウ(Corrine Yu)氏も他の開発会社へ移籍するなど,コアメンバーが次々といなくなった。

2011年にリリースされた「Duke Nukem Forever」だが,ときおり海外メディアで行われる「ゲーム史上最低ゲーム」といった特集記事でランクインされているのを目にすることもある
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 さて,2001年アーリービルトのリークを受け,現在はEmbracer Groupをトップに頂くSaber Interactive傘下となっている3D Realmsを率いるスコット・ミラー氏が,5月10日,Apogee Entertainmentの公式ブログ(関連リンク)に「DNFの真実」という新たなエントリーを公開した。
 そこには「Duke Nukem Forever」の開発当時はとにかく資金繰りに難航しており,常に開発メンバーが50%少ない状況が続いていたこと,明確なロードマップを作っていなかったために計画性がなかったこと,さらに,当時はゲーム開発テクノロジーの変革が極めて速く,何度も開発をやり直していたことなどが綴られている。
 ミラー氏はさらに,2004年には現在は「Warframe」で大成功を収めているカナダのDigital Extremeに開発委託をもちかけるが,うまくいかず。2010年に入ってGearbox Softwareに版権を譲渡することで,その1年後にようやく「Duke Nukem Forever」がリリースできるようになったという経緯を明らかにしている。

 このミラー氏のブログエントリーに嚙みついたのが,3D Realmsの共同設立者であり,リードゲームデザイナーだったジョージ・ブロウサード氏である。「Duke Nukem Forever」では実質的な開発をやりくりしてきたプロジェクトマネージャーであり,最終的にGearbox Softwareに版権を売却することで,遅々として進まないプロジェクトに日の目を充てた人物として記憶されている。
 フリーランスのコミックアーティストとして活動するブロウサード氏は,「スコットは,まったく状況を理解できていないナルシスト野郎で,自分の行動がIPの喪失につながったことに気付いていない」と自身のツイッター(関連リンク)でまくし立てている。ブロウサード氏とミラー氏は高校の同級生という間柄であり,その関係を壊したのもミラー氏であると怒り心頭だ。具体的なことは胸に閉まっておくと話しているものの,ここに来て旧知の2人の関係の悪さがクローズアップされることとなってしまった。

 IPの喪失とは,ミラー氏がデンマークのInterceptor Entertainmentに,Duke Nukemシリーズ新作の開発委託を行ったものの,Gearbox Softwareが「3D RealmsはすでにDuke Nukemの知的財産の所有権を失っている」と訴訟を起こした一連の出来事のことだ。(関連記事)。その結果として,GearboxがDuke Nukemシリーズの版権の正当な所有者であることが明確になったことで,すでにゲーム開発を行っていたInterceptor Entertainmentは,世界観を変更し,2016年に「Bombshell」としてこれをリリースすることになる。
 しかし,その後のGearbox Softwareは,クソゲーのレッテルを張られた「Duke Nukem Forever」の続編開発に興味を示していないという状況だ。おそらくブロウサード氏は「訴訟問題に発展する前に,しっかりとGearbox Softwareと事前交渉していれば,Duke Nukemシリーズの灯火は今も輝き続けていた」と言いたいのだろう。

ミラー氏のDuke Nukemの版権に関する見解を,共同設立者であり高校時代からの友人であったブロウサード氏が捲し立てるという展開になったが,彼らに共通するのは,手放してしまったデュークに対する愛であろう
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 掲示板にリークした人物は,当初は内部関係者であると発言しており,「6月中にはプレイアブルなコンテンツとしてリリースする」などと主張していた。しかし,ブロウサード氏はよって「2001年当時に映像デモとしてリリースされたものにプレイアブルなコンテンツはほとんどなく,遊べる状態にはなっていない」と否定されており,リークした人物もその発言を撤回している。誰がリークに関与したのか今もって不明であるが,その人物の「Duke Nukemが忘れられてはいけない」という思いは,ミラー氏,ブロウサード氏,そして多くのゲーマーたちが共有するものなのではないだろうか。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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