レビュー
Kepler+Ivy Bridge搭載,120Hz液晶採用のゲーマー向けノートPC,その完成度は
R.O.G. G75VW
R.O.G.のマザーボードやグラフィックスカードは,その見た目や機能で注目を集めているが,では,ノートPCはどうだろうか。今回は,限られた時間ではあるが試用できたので,テスト結果をお届けしてみたい。
Kepler+Ivy Bridgeという
イマドキの仕様
まずは内部構成から見ていきたいと思うが,搭載するGPUは,Keplerアーキテクチャの「GK107」コアを採用する「GeForce GTX 660M」(以下,GTX 660M)だ。発表時点における,GK107コア採用GPUの最上位モデルとなっている(関連記事)。
なお,GTX 660Mのメモリクロックは定格4000MHz相当(実クロック1000MHz)だが,G75VWでは5000MHz相当(実クロック1250MHz)となっていた。
i7-3610QMは4C8T仕様となるクアッドコアCPU。定格の動作クロックは2.3GHzと低めだが,「Intel Turbo Boost Technology」により最大3.3GHzまで上昇する。「Last Level Cache」とも呼ばれる共有L3キャッシュの容量は6MBで,メモリコントローラはデュアルチャネルDDR3-1600対応。PCI Express 3.0(PCI Express Gen.3)コントローラもデスクトップPC向けIvy Bridgeと変わらず搭載する。
統合されるグラフィックス機能は「Intel HD Graphics 4000」だが,G75VWではグラフィックス出力にGTX 660Mを用いているため,Intel HD Graphics 4000が使われることはない。これはつまり,「Intel Quick Sync Video」(以下,QSV)を利用できないことと同義でもあるので,QSVでゲームのプレイムービーなどをエンコードしたいと考えている人は要注意だ。
表2は,i7-3610QMと同じ45W TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)であるデスクトップPC向けCPU「Core i7-3770T/2.5GHz」(以下,i7-3770T)と,スペックを比較したものになる。
標準で3D Vision 2に対応し
ネイティブ120Hz動作が可能
天板部はマット調の仕上げ。ASUSのコーポレートロゴと,R.O.G.のロゴが縦に並ぶ |
ざらっとした感触のパームレスト。汗でベタついたりしないのは好感触 |
3D立体視をどれだけ使うかはともかく,電源ボタンの横に置かれたR.O.G.ロゴのあるボタンから3D立体視の切り替えが可能になっているのは便利でいい。ワンタッチというのは,通常の3D Visionを使ったことがある人ほどラクだと思うはずだ |
G75VWは,マット加工のなされた天板と,ざらっとした砂目調のパームレストに,アイソレート仕様の日本語キーボード部がグレーを基調としたものになっている。四隅が切り落とされたようなデザインになっているのを除けば,全体的に落ち着いたデザインであり,少なくとも,「ゲーマー向けノートPC」と聞いて読者が真っ先に思い浮かべるだろう,ALIENWAREのそれとは対極と述べていい外観だ。それでいて,一般的なノートPCとは異なる存在感を演出できているので,こういった方向性もアリだと述べていいのではなかろうか。
本体サイズは415(W)×320(D)×17〜52(H)mmで,重量は約4.2kg。持ち運びが想定された大きさでも重さでもないが,そんなG75VWで採用される17.3インチワイド,解像度1920×1080ドットの液晶パネルは,内蔵するIRエミッタと同梱のアクティブシャッター式メガネにより,NVIDIAの3D立体視技術「3D Vision 2」に標準対応するのが大きな特徴となっている。
そしてもちろんこれは,G75VWで採用される液晶パネルがネイティブ120Hz表示に対応していることと同義でもある。搭載するGPUがGTX 660Mなので,そのスペックからしても,120fps前後のフレームレートで安定させるにはゲームタイトルを選ばねばならず,また,グラフィックス設定を落としたりする必要もあると思われ,その点は後ほど検証するが,それでも,120Hz動作のメリットが受けられるという事実は大きい。ゲーマー向けノートPCとして,非常に大きなポイントだと述べていいだろう。
また,G75VWを側面から見てみると分かるのだが,本機のキーボードは手前が低く,奥側が高いという,一般的なキーボード製品と似たものになっている。これは人間工学に基づいたデザインだそうで,実際,長時間にわたってリストレストに手を置きながら操作しても,操作上の不満を覚えることはなかった。
キーボード部は手前側が下がるような傾斜が付いている。地味なところだが,使い勝手に与えるプラスの影響は小さくない |
タッチパッドは悪くない完成度だが,そもそもゲーマー向けノートPCでタッチパッドの操作性を語ってもしょうがないだろう |
ただ,サテライトとサブウーファとのクロスオーバー周波数設定がおかしいようで,本体向かって左側に配置されたサブウーファから重低音以外の音も出力され,結果,ゲームのBGMや効果音,さらにはWindowsの効果音すらも,全体的に左へ寄ってしまっているのは気になった。設定次第でなんとかなるのかもしれない――今回はテストスケジュールの都合でそこまでは踏み込めていない――が,少なくとも,購入して最初に鳴らす音が左にズレているのは改良してほしいポイントだ。
最後に,インタフェースや拡張性についても述べておこう。
GV75VWの各種インタフェースは本体の左右に散っており,向かって左側面はUSB 3.0×2,光学ドライブ,マルチカードリーダーにマイク入力,ヘッドセット出力,右はUSB 3.0×2,Mini DisplayPort,HDMI,1000BASE-T LAN,D-Sub 15ピンという構成だ。USBポートがすべてUSB 3.0対応というのはなかなか潔い。
面白いのは,筐体底面のカバーを取り外したときに,2基ある冷却ファンの防塵フィルタの着脱も行えるようになっており,しかも,交換用フィルタまで用意されていることだ。
ゲーマー向けモデルに限らず,ノートPCでは,「ファンのところが埃を吸ってしまって冷却能力が落ち,サーマルスロットリングによって動作クロックも落ちて,性能が低下する」問題と常に向き合わねばならないが,G75VWでは,フィルタを取り外して交換し,汚れたほうは水洗いが終わったら次に交換するまで保存しておけるようになっているのである。
念のため,G75VWのスペックを表3にまとめたので参考にしてほしい。
i7-3770T+GTX 550 Tiという比較対象を用意
ドライバはインストールされていた296.44を利用
さて,ここからはG75VWの性能を見ていくことになるが,今回は表4に挙げるシステムを比較対象として用意した。CPUとGPUは,表1,2で比較対象に挙げたi7-3770TとGTX 550 Tiを用いることにした次第だ。できる限り立ち位置やスペックを近づけたうえで,力関係を見てみようというわけである。
テストに用いたGTX 550 TiカードはGIGA-BYTE TECHNOLOGY製の「GV-N550D5-1GI」。メーカーレベルで動作クロックが引き上げられたクロックアップモデルであるため,MSIのオーバークロックツール「Afterburner」(Version 2.2.1)を用いて,リファレンスレベルにまで下げている。
グラフィックスドライバのバージョンが揃っていないのは,NVIDIAの公式Webサイトには,テストを開始した5月下旬時点でGTX 660Mに対応したグラフィックスドライバが用意されていなかったためだ。G75VWのテストにあたっては,プリインストールされていた「GeForce 296.44 Driver」を用いたため,テスト開始時点の公式最新版「GeForce 301.42 Driver」を用いた比較対象と比べると,スコアは不利となる。この点はあらかじめお断りしておきたい。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション12.1準拠。テスト時の解像度は,G75VWのネイティブ解像度である1920×1080ドットと,1レベル下になる1600×900ドットを選択した。
テストにあたって,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」(以下,Turbo Boost)および「Intel Hyper-Threading Technology」は有効化している。
ちなみに,G75VWにはASUS独自の電力管理ツール「Power4Gear Hybrid」が用意され,「High Performance」「Entertainment」「Quiet Office」「Battery Saving」という4つのプリセットから,電力設定を選択可能だ。Power4Gear Hybridからは設定のカスタマイズも行えるのだが,今回は時間の都合上,テストを通じて,最も高い3D性能を期待できるHigh Performanceプリセットで固定する。
なお以下,文中,グラフ中ともに,比較対象となるデスクトップPCは「i7-3770T+GTX 550 Ti」と表記する。
i7-3770T+GTX 550 Ti比で9割程度の3D性能
設定次第で最新世代の3Dタイトルもなんとか
順にテスト結果を見ていこう。グラフ1は「3DMark 11」(Version 1.0.3)から,「Performance」と「Extreme」の2つのプリセットの総合スコアをまとめたもの。G75VWのスコアはPerformanceプリセットでi7-3770T+GTX 550 Tiの約89%,Extremeプリセットで約96%というところに収まっている。
とはいえ,前述のとおり,今回用意した比較対象のスペックは,G75VWと必ずしも近いものではない。そこで,両プリセットのスコア詳細をまとめてみたものがグラフ2となる。
ここで真っ先に気づくのは,CPU性能を見る「Physics Score」で,G75VW(=i7-3610QM)のほうがi7-3770Tよりも高いスコアを示している点だろう。定格クロック,Turbo Boostクロックともi7-3770Tのほうが高いことを考えるとなかなか不思議なところだが,ノートPC向けCPUであるi7-3610QMのほうがよりアグレッシブにクロックを変動させているということなのかもしれない。あるいは,マザーボード側の最適化状況が異なるという可能性もありそうだ。
一方,GPU性能を見る「Graphics Score」は,総合スコアを踏襲したものになっている。「GTX 660Mが持つ3D性能のポテンシャルは,GTX 550 Tiにあと一歩」くらいに捉えても,そう間違ってはいないのではなかろうか。
グラフ3,4は,「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の公式ベンチマークツールで用意された4つのテストシークエンスから,最も負荷の低い「Day」と,逆に最も高い「SunShafts」,両シークエンスのスコアを抜き出したものになる。
Dayだと,G75VWのスコアは対i7-3770T+GTX 550 Tiで90〜97%程度。グラフィックス描画負荷が高まるほど両者のスコア差が縮まるのは,おそらくアーキテクチャの刷新によるGTX 660MのCUDA Core増量効果ではなかろうか。
ただ,描画負荷の高まりによってグラフィックスメモリ負荷も高くなるSunShaftsだと,「標準設定」で両者のスコア差は29〜30%にまで広がった。これはおそらく,ROPユニット数とメモリインタフェースの違いが出たものだろう。
ならなぜ「高負荷設定」で差が縮まるのかだが,高負荷設定だとGTX 660MにとってもGTX 550 Tiにとっても負荷が高すぎるためだと思われる。要するに,GPUボトルネックが生じ,スコアに大きな違いが生じなくなっているというわけである。
続いてグラフ5は「Battlefield 3」(以下,BF3)のテスト結果となるが,ここでの結果は,3DMark 11の総合スコアや,STALKER CoPのDayシークエンスにおける結果をほぼ踏襲したものになっている。G75VWの立ち位置は,i7-3770T+GTX 550 Tiに対し,標準設定で90〜91%程度,高負荷設定で約93%というレベルだ。
興味深い結果が出たのが,グラフ6の「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)である。ご覧のとおり,G75VWのスコアはi7-3770T+GTX 550 Tiの79〜86%程度に留まっている。筆者はCall of Duty 4について,シェーダユニットやテクスチャユニットの性能が“効く”と繰り返してきているので,この結果を不思議に思う人もいるだろうが,ここで重要になるのは,シェーダユニットの動作クロックが,GTX 660Mでは835MHzに対して,GTX 550 Tiでは1800MHzに達していることだ。
CUDA Core数でGTX 550 Tiの2倍に達するGTX 660Mをもってしてもこういう結果に終わったのは,GTX 550 Tiが倍速クロックでシェーダを駆動していることによるところが大きいと思われる。
高解像度テクスチャパックの導入によって,STALKER CoPのSunShaftsシークエンスと同様にグラフィックスメモリ周りの負荷が非常に高くなっている「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)でも,G75VWはi7-3770T+GTX 550 Tiの82〜83%程度のところに留まった(グラフ7)。ここでスコアが大きく離された理由は,1にも2にも足回りということになるはずだ。
グラフ8にスコアをまとめた「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)だと,G75VWのスコアはG75VWとi7-3770T+GTX 550 Ti比で86〜89%程度。あえていえば,3DMark 11のPerformanceプリセットに似た傾向か。
3D性能検証の最後は「DiRT 3」だが,ここでは標準設定でG75VWのスコアが大きく落ち込み,高負荷設定時のそれよりも低くなってしまった(グラフ9)。テストを複数回繰り返しても結果に変化はなかったので,ドライバの不具合を指摘してよさそうだ。このあたりはRelease 300世代かそれ以降のドライバ待ちになりそうである。
G75VWの消費電力は130W前後
バッテリー駆動はちょっとした移動用と割り切るべき
ここでは,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とすることにしている。
結果はグラフ10にまとめたとおりで,G75VWはアイドル時に39W,各アプリケーション実行時でも109〜134Wと,さすがノートPCというスコアを示した。少なくとも,デスクトップPCシステムであるi7-3770T+GTX 550 Tiとの違いは明白だ。
続けて,アイドル時に加え,システムに100%の負荷をかけ続けるアプリケーション「OCCT」(Version 4.2.0)の実行と3DMark 11を同時に行い,3DMark 11が完走するまでの間に最も高い消費電力値を示した時点を「高負荷時」として,GPUとCPUの温度をそれぞれ取得したものがグラフ11,12となる。なお,CPU温度は4コアの平均をスコアとした。
いずれの場合も,あまりにシステム構成が異なるため,i7-3770K+GTX 550 Tiとの直接比較に意味はほとんどないが,GPU温度はノートPCの筐体に入っていることを考えればまずまず低めと述べていいだろう。
CPU温度も,100%の負荷がかかっている割には低く,しっかりと冷却は行えている印象だ。
なお,筆者の主観であることを断ったうえで続けると,通常の3Dゲームアプリケーション実行時の動作音は「耳を近づけると聞こえる」程度で,十分に静かだ。筐体の大きさから,かなりの音量を覚悟していたのだが,いい意味で予想は裏切られた格好である。
PowerMarkの検証にあたって,Power4Gear Hybridのプリセットは,さすがにHigh Performanceではバッテリーに厳しすぎるため,Entertainmentを選択しているが,そのときのディスプレイ輝度設定は最大。バッテリー駆動には厳しい条件となるが,G75VWのバッテリー駆動時間は端的に述べて長くない。重量からも想像できる結果ではあるが,持ち運ぶ用途はあまり想定されていないと述べてよさそうである。
実勢価格は19万1000〜21万円。ツメの甘さが
残るものの,総合点は高い
また,ノートPC全体としては,やはりキーボードが「普通」であることと,音が左に寄って再生されるのがやはり気になった。ほかの部分の完成度が高いので,どうしてもツメの甘さとして見えてしまう。
ただし,性能面と上記2か所を除けば完成度が実に高いのもまた確かだ。冷却周りやキーボードの配列,質感などはどれを取っても良好。ストレージで速度と容量のバランスが取れているのも,長く使ううえではありがたいところだといえる。ALIENWAREのような見た目の派手さはないものの,むしろそれがいいという人も少なくないのではなかろうか。
価格は20万9800円(税込)で,実勢価格は19万1000〜21万円程度(※2012年5月31日現在)と,決して安価ではないが,このデキのゲーマー向けノートPCが日本市場の店頭で買えるようになったことは大いに歓迎したい。GPU性能が高いだけのゲーマー向けノートPCに物足りなさを感じているなら,G75VWは一考の価値ありだ。
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