テストレポート
「ROG MAXIMUS IX FORMULA」を細かく見てみる。Z270搭載のゲーマー向けフラグシップマザーボードはありやなしや?
「Republic of Gamers」ブランドは,略称を従来の「R.O.G.」から「ROG」へ変え,さらに,ゲーマーおよびオーバークロッカー向けのプレミアムシリーズとして「ROG MAXIMUS」,従来の「PRO GAMING」に代わるゲーマー特化型のコスト対スペック比追求シリーズとして「ROG STRIX」を用意するという大改革を行ったわけだが(関連記事),ROG MAXIMUS IX FORMULAは,新しいROG MAXIMUSブランドに属し,ゲーマー向けフラグシップモデルの証である「FORMULA」を冠した最新モデルということになる。
すでにさんざんテストで用いた後ではあるが,このROG MAXIMUS IX FORMULAは,どんなマザーボードなのか。仕様と機能を詳しく見ていきたい。
その外観はIntel Z170搭載モデルを踏襲。LEDが「無駄に光る」のではない点は高評価
ただ,マザーボードを覆う「ROG Armor」が,そんなROG MAXIMUS IX FORMULAの存在感を際立たせてもいる。
MAXIMUS VIII FORMULAから引き続いての採用となるROG Armorは,表側が主にプラスチック製,裏側が金属製で,表側は,グラフィックスカードなど,発熱量の多い拡張カードからマザーボード基板を守り,基板温度の上昇を抑えることができるという。一方の背面側は,重いCPUクーラーや拡張カードを差したときに,その重さでマザーボードがたわむのを防ぐだけでなく,大きなヒートスプレッダとしても機能するとのことだ。
ネジを外すと,ROG Armorの一部を外して,その下にあるM.2スロットへアクセスできる |
2つあるM.2スロットのイメージ |
その点,ROG Armorを用意するROG MAXIMUS IX FORMULAはどうなっているのか気になる人もいると思うが,本製品の場合,(MAXIMUS VIII FORMULAと同じく)ROG Armorの一部,具体的にはPCHの近くが取り外せるようになっており,ここを取り外すと,Type 2242/2260/2280/22110対応でPCI Express接続のM.2スロット1基にアクセスできるようになっている。
ならもう1基はどこかというと,これまでもASUS製マザーボードの一部で採用されてきた「縦差し」仕様だ。付属のガイド(ステイ)を使って,マザーボードの端に立てるようにして差すわけである。ちなみにこちらはType 2242/2260/2280対応となる。
とくに重要なのは最後者で,これがあるため,PCケースにマザーボードを組み込んだ状態でグラフィックスカードなどを抜き差しするときに便利だ。この機能自体はMAXIMUS VIII FORMULAから引き続いての採用となるが,変わらずLEDに実用性がある点は評価すべきだろう。
ちなみにこれらLEDは,製品ボックスに付属のDVD-ROMから導入できるアプリケーション「AURA」を使うことで,場所ごとに色や光り方を細かく設定可能だ。
色の選択肢は約1677万で,光り方は常時点灯の「Static」や,ゆっくり明滅を繰り返す「Breathing」のほか,全体の色を順次変えていく「Rainbow」,早い点滅の「Flash and Dash」,CPU温度を色で通知する「CPU Temperature」,曲のジャンルに合わせて光り方を変える「Music」などから選択できる。
ちなみにAURAの「Independent」というメニューでは,PCをシャットダウンしているときにもLEDを光らせる設定を行うことも可能だ。標準ではすべて点灯になっているので,シャットダウン時に全消灯としたいのであれば,画面左下の「ON/OFF」をクリックして「OFF」に切り替える必要がある。
CrossChill EK II |
液体の流量を追うためのセンサー用ピンをオンボードで搭載している |
ASUSがそうだと言っているわけではないのだが,製品情報ページにある画像を見比べると,MAXIMUS VIII FORMULAの「CrossChill EK」と比べ,銅製ヒートスプレッダの放熱面積が広くなっているように見えるので,ここが改良ポイントということなのかもしれない。
なお,液冷時は,電源回路の温度を26℃下げられるとのことだが,これはCrossChill EKより3℃良好な値だ。
CPUとの直結となる,x16接続のPCIe x16スロットは,最近流行の金属製カバーで覆った「Safe Slot」仕様となっており,一般的な(というかx4接続のPCIe x16)スロットと比べて,重さへの耐久性が約1.8倍に高まっているという。
なおASUSは最近,メインメモリ容量の一部をストレージのキャッシュとして利用する「RAMCache」という機能をマザーボード製品に対して提供しているが,ROG MAXIMUS IX FORMULAではこれが「RAMCache II」となった。RAMCache IIでは,新たに「Smart mode」という動作モードが加わり,従来は,ストレージごとにRAMCacheの設定が必要だったのに対し,Smart modeではすべてのストレージに対して自動でキャッシュを利用できるようになった。
前出のM.2
外観の最後はI/Oインタフェース部だが,最大の特徴は,I/Oパネルを統合していることである。
従来もASUSは,マザーボードの中上位モデルで,内側にクッション材を貼り,取り付けるとき手を怪我しなくてすむようにしたI/Oパネル「Q-Shield」を同梱してきたが,ROG MAXIMUS IX FORMULAではそもそも「I/OパネルをPCケースに取り付ける」という手間がかからない。
また,ただ「マザーボードの取り付けが簡単になった」だけではなく,1万2000Vの静電気放電に対する保護も強化しているとのこと。正直,どういう理屈なのか分からないが,絶縁しているか,PCケースとセットでのアースを強化しているかのどちらかではないかと思われる。
デュアルバンドIEEE 802.11acに対応した無線LAN機能を持ち,標準で無線LANアンテナも付属している |
ATX電源コネクタの近くに,「PCケースの前面パネル側へUSB 3.1 Gen.2 Type-Cを引き出すための専用端子」があるが,この端子の詳細は不明。対応ケーブルも付属していない |
搭載するオンボード機能の多くは従来モデルと変わらず。ただ,一部で機能性が向上
ここからは,ROG Armorを外して,基板をじっくり見ていこう。ASUSとしてROG Armorの取り外しはサポートしておらず,取り外した状態はサポートの対象外だが,「取り外そうとしてネジを回した時点でメーカー保証が切れる」ということはない。
表面側のROG Armorを外すと,前段で触れたROG Aura用のLEDが裏側にあるのを確認可能 |
こちらはCrossChill EK IIとチップセット用ヒートシンクも外したところ |
というわけで,下が基板全景だ。
オーバークロック競技用のいわゆる極冷に対応する,ROGの上位モデルで伝統の電源部「Extreme Engine Digi+」は,今回,10フェーズ構成。見た感じでは8+2,もしくは6+2+2といったところだろうか?
搭載するMOSFETは,一般的なMOSFETと比べて半分のサイズながら,90%という電力効率を実現するという「NexFET Power Block」。チョークコイルには低損失かつ低発熱と謳われる「MicroFine Alloy Chokes」を,コンデンサは長寿命を誇る日本メーカー製の「10K Black Metallic Capacitors」をそれぞれ採用している。
レビュー記事でオーバークロックを試みたときに使った,CPUの電圧制御を行う「TurboV Processing Unit」(TPU)も基板上では確認できる。
SupremeFX S1220 |
ES9023P |
MAXIMUS VIII FORMULAが搭載していたサウンド機能「SupremeFX 2015」との間にある,明らかな違いは,前世代で搭載する単体のヘッドフォンアンプICが,ROG SupremeFXではなくなっていることが挙げられる。別途,Texas Instruments製のOPAMP「RC4580」(※刻印はR45801)と,「702」と書かれたFETが7個,「272」と書かれたFETが1個見えるので,この「OPAMP+FET」回路でヘッドフォン出力用アナログディスクリート回路としているのではないかと考えている。
RC4580は2chのOPAMPなので,702が7個という数は,正直,よく分からないのだが。
ヘッドフォン出力用と思われるディスクリート回路。製品情報ページにもインピーダンス自動検出機能付きと書いてあるので,おそらく間違ってはいないと思うが,すっきりしないものもある |
デジタル段から独立したアナログ段や,ニチコン製のオーディオ用コンデンサを採用するあたりの基本仕様は,従来のオンボード版SupremeFXと変わっていない |
このあたりはバージョンアップで利用できるようになるということなのだろう。
UEFIにオーバークロック用のプリセットを用意。AI Suite 3はあまり変化はなし
ROG MAXIMUS IX FORMULAのUEFIは,従来のASUS製マザーボードで広く採用されてきている,簡易な「EZ Mode」と詳細な「Advanced Mode」,2つの動作モードで操作できるものだ。EZ Modeでは,基本的なシステム情報表示や主にストレージ関連の設定変更をグラフィカルなUIで行え,Advanced Modeではオーバークロックを含む細かな設定を行えるという,その構成にも大きな変更はない。
具体的なプリセットと概要は以下のとおりだ。ちなみにCPUのベースクロック(以下,BCLK)は100MHzである。
- Gamer's OC Profile:CPUが2コアまで利用するときの最大動作倍率を48倍に,最低動作倍率も44倍に引き上げ。CPUコア電圧は1.325Vに固定
- 340 BCLK OC Profile:BCLKを340MHzへ引き上げる一方で動作倍率を8倍にまで引き下げ
- 360 BCLK OC Profile:BCLKを360MHzへ引き上げる一方で動作倍率を8倍にまで引き下げ
- 380 BCLK OC Profile:BCLKを380MHzへ引き上げる一方で動作倍率を8倍にまで引き下げ
- 3773MHz DRAM OC Profile:メモリクロック3773MHzを実現できるよう,メモリ電圧やCPUのアンコア部の電圧などを調整
- 4000MHz DRAM OC Profile:メモリクロック4000MHzを実現できるよう,メモリ電圧やCPUのアンコア部の電圧などを調整
オーバークロック関連の設定にもう少し突っ込んで触れておくと,コアクロックはExtreme Tweakerの「BCLK Frequency」から40.0000〜650.0000MHzの範囲を0.0025V刻みで設定可能。動作倍率も「CPU Core Ratio」から1倍刻みで8〜83倍に変更できる。このあたりは,Z170搭載マザーボードから変わっていない部分と言っていいだろう。
なお,Extreme Tweakerサブメニューでは,画面上部に「Target CPU@AVX Frequency」が表示され,AVX命令実行時のクロックを確認できるようになっている。
Windows上で利用できるASUSの独自ユーティリティ「AI Suite 3」は,端的に述べて,従来世代から変わっていない。「Dual Intelligent Processors 5」からオーバークロック設定を行える点や,TPUから動作倍率やベースクロックなどの変更を行える点はこれまでどおり。「DIGI+ Power Control」から電源フェーズ設定を変更できるあたりも同じままだ。
ただ,LEDの制御は前述したAURAにまとめられたため,Z170搭載モデルにあった「LED Contorol」は,ROG MAXIMUS IX FORMULAだと省略されている。
非常に高価なため,対象ユーザーが限られるが,「ROGのゲーマー向けフラグシップ」に惹かれるならアリ
ROG MAXIMUS IX FORMULAの実勢価格は5万1000〜5万5000円程度(※2017年1月12日現在)。Z270マザーボードの中でも群を抜いて高価だ。Z170ベースのMAXIMUS VIII FORMULAが5万〜5万5000円程度で販売されていたので,妥当といえば妥当だが,ゲーマー向けZ270マザーボードのなかでも,とくに人を選ぶ1枚であることに,議論の余地はない。
ただ,よくもまあこれだけ詰め込むものだと思えるほど,機能は豊富だ。できる限り全部使い切って,オーバークロックでの常用も狙うのだという場合に,応えてくれる可能性が高いマザーボードだとも言えるだろう。4Gamer的には「別の世界の話」だが,オーバークロックで“遊ぶ”場合にも,有力な選択肢となるのではなかろうか。
ROG MAXIMUS IX FORMULAをAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
ROG MAXIMUS IX FORMULAをパソコンショップ アークで購入する
ASUSのROG MAXIMUS IX FORMULA製品情報ページ
- 関連タイトル:
Republic of Gamers
- この記事のURL:
(C)ASUSTeK Computer Inc.