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印刷2008/05/22 12:02

連載

キャラクターゲーム考現学
第33回:妄想と殺人とギャル「CHAOS;HEAD」

 

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 先週は発売から少々時間の経った作品を取り上げたが,今週は新リリースの作品を題材としよう。「CHAOS;HEAD」はニトロプラスと5pb.がリリースしたノベルゲームで,「妄想科学NVL」「サイコサスペンスノベルゲーム」と自ら謳う作品だ。
 ニトロプラスといえば,バイオレンス要素とロマン要素(ときにコミカル要素)を両立させた作風が特徴で,そのためのモチーフは現代アメリカの裏社会,ゴシックホラー的世界,近未来の上海(サイバーパンク),また,クトゥルー神話に巨大メカと,逆説的なケースも含めてスタイリッシュな路線を貫いてきた印象がある。

 それに対して「CHAOS;HEAD」は現代日本,我々に身近なライトノベル的,新伝奇モノ的背景設定が特徴になっている。そしておそらく,そこでのキーワードは2000年代的「体感治安」の問題,すなわち身近な隣人が,ある日怪物と化して惨劇を繰り広げてしまうかもしれないという,まことに今日的な漠然たる不安に基づくファンタジーである。
 即物的な刑法厳罰化提案などという形で,政治的な物議すら醸す「体感治安」論議であるが,おそらく自分達のやりたかったことをいったんやりきったニトロプラスが,あらためて消費者の日常に光を当てたのが,この作品をめぐる重要な論点といえるだろう。

 それはまた,前回の「月姫」ムーブメントとも微妙に関連しつつ,キャラクターゲームの今後に関わる選択肢でもある。

 

 

Character Side:引きこもり主人公が出逢う猟奇殺人と少女達

 

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ゲームの中では半引きこもりの拓巳は某巨大掲示板を模したサイトで情報収集をするなど,インターネットに依存した生活を送っている

 「CHAOS;HEAD」の主人公は「三次元に興味はない」と言いきり,最低限しか学校に登校せずクラスにもなじめないという,引きこもり一歩手前の高校2年生。大量の美少女フィギュアとネットゲームが生活の大半を占める,いわゆる「ヲタ」である。

 だが,自分の住む渋谷で起こっている「ニュージェネレーションの狂気」(ニュージェネ)と呼ばれる連続猟奇殺人事件の現場に居合わせたことで,彼の生活は一変してしまう。なんとその前夜のチャットで,彼が遭遇した現場と寸分違わぬ画像を見てしまっていたのだ。さらに彼はその現場で自分の通う高校の制服を着た少女を目撃する。そして,それ以後なぜか彼の周りに,ニュージェネの影とともに幾人もの少女との出会いが待っていたのだった……。

 

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拓巳が目撃してしまったニュージェネ事件の現場には,同じ学校の制服を着た少女が立っていた。この現場を目撃した時点から,拓巳の生活が変わりはじめる

 

 といった導入部から始まる「CHAOS;HEAD」だが,物語が動き出すやいなや,「ヲタ」である彼の周りになぜか何人もの少女が現れるようになる。事件の前から半引きこもりの彼の様子をたびたび見に来る「ウザい妹」や,彼を支えようとするクラスメイト,そしてエキセントリックで謎を秘めた少女や,同じクラスになった転校生など,さまざまな少女が彼に関わってくる。
 このゲームは,基本的に一本道のノベルであり,「○○ルート」というようなヒロイン別ルートは存在しない。ストーリーの特徴については後述するが,基本的にホラーであり,謎解き要素の巧妙さに力点があるわけではない。登場人物もそれぞれに影の部分を抱え,ストーリーに絡んでくる。

 

咲畑梨深

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拓巳(主人公)がニュージェネ事件の現場で出逢った少女。実はクラスメイトで,拓巳に優しく気さくに接してくる。出逢い方が出逢い方だけに,最初は拓巳から警戒されるが,徐々に心を許していく。
(CV:喜多村英梨)

 

楠 優愛

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ニュージェネ事件目撃後,最初に拓巳に接触してくる。1学年上の3年生で,誰にでも優しく,年下に対しても敬語を使う。何か目的を持って拓巳に接してきたようだが……。
(CV:たかはし智秋)

 

岸本あやせ

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隣のクラスの生徒。無気力で言動がいわゆる「電波系」。「FES」の名で,人気インディーズバンド「ファンタズム」のボーカルをしている。ファンタズムはオリジナル曲の歌詞がニュージェネ事件の内容と酷似していると,話題になっている。
(CV:榊原ゆい)

 

蒼井セナ

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クールな性格であり,誰彼かまわずにらみつけるので,周囲から浮いている。毎日のように渋谷の街を徘徊しているらしい。なぜかよく「ガルガリ君」を食べている
(CV:生天目仁美)

 

折原梢

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拓巳のクラスに転入してきた女生徒。常におどおどしているドジっ娘で,すぐ泣きべそをかく。同性から疎まれているためか,何か影があるようにも見える。
(CV:辻あゆみ)

 

西條七海

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主人公の妹。一人暮らしをしている拓巳を気にかけて,何かと面倒を見たがるが,拓巳はうっとうしがっている。
(CV:宮崎羽衣)

 

星来オルジェル

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拓巳お気に入りのアニメ「ブラッドチューン THE ANIMETION」に登場するヒロイン。なぜか取扱説明書では主人公の次に紹介があり,まるでメインヒロインのように見えてしまう。拓巳の妄想の中で,いわゆる「天の声」的な囁きをする。
(CV:友永朱音)

 

 基本的にストーリー優先であり,その中での配役として各キャラクターを置く形になっているのは,最近のノベルゲームのトレンドといっていいかもしれない。ただ,このゲームで目をひくのは,これらの女性キャラクターと比較して,過剰なまでに主人公の“キャラ立て”が行われていることだ。
 主人公の「オタクぶり」やそれに伴う「妄想」が,ストーリーのキーになってくるためではあるが,それにしてもネットスラングの著しい多用など,ちょっとプレイヤーがひいてしまわないかと思えるほどだ。いや,もちろん作品としてはそこが狙いなわけだろうが。

 

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初回特典の「主人公拓巳の(中略)パッチダウンロードカード」で手に入るパッチを適用すると,中央のように立ち絵が下着姿になってしまう。もちろん,この機能はオフにもできる(右)

 

 ちなみにこの作品,初回生産版には「『主人公・拓巳の妄想力が暴走!!女の子たちが全員下着姿に!?』パッチダウンロードカード」が付いてくる。読んで字のごとく,このカードに書かれたキーコードを利用して,パッチファイルがダウンロードできるというものだ。このパッチを適用すると,女の子達の立ち絵が下着姿になってしまう。なんというか,いろいろとぎりぎりのラインだ。

 

 

Game Side:「妄想」をキーにしたストーリーとシステム

 

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「妄想トリガー」が発動すると,このように画面上部に緑の光と赤い光が表示される。緑はポジティブな妄想,赤はネガティブな妄想である

 前述のとおり,本作は基本的に一本道のノベルゲームなので,一般的な意味での選択肢はほとんどない。その代わり,たびたび登場するのが「妄想トリガー」だ。これはストーリー中の各シーンにおいて主人公の妄想を暴走させるもので,二つの方向性のなかから内容を選択可能だ。「CHAOS;HEAD」においては,この妄想トリガーがゲーム的アクションの大半を占める。
 妄想トリガーの発動結果としては,ポジティブな方向とネガティブな方向が用意され,これに暴走させない場合を含めると,展開は3方向になる。これによってイベントが発生したり,場合によってはストーリーの展開に影響が出たりもする。

 とはいえ,基本的にはイベントのバリエーション演出が主たる役割であり,多くの場合主人公が妄想した“ありがち”なシーンが展開される。これはストーリーのキーである「妄想」を活かした面白い試みではあるが,操作面では若干ながら改良の余地があるように思える。
 というのも,基本的に妄想トリガーの出現は,効果音と画面左右上部に表示される赤と緑の光で示されるだけなので,見落としやすい。また,「既読メッセージのスキップ」を行うと,妄想トリガーを選択しない状態で進んでしまう。したがって2周目以降のプレイでは,うっかり選択せずに進んでしまうこともあるのだ。
 もともと妄想だけに,あるんだかないんだか分からないというあたりがメーカーの狙った線らしいのだが,場合によってはゲームの進行にも関わるだけに,評価の難しいところだ。

 

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一方,赤い光で示されるネガティブな妄想では,惨劇に遭遇するなど,悪い方向への想像が広がる

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緑のポジティブな妄想では,どこかのゲームでありがちなシーン展開を思い浮かべることがほとんどだ

 

 さて,ストーリーのテイストに関して。「サイコ」サスペンスと銘打ってはいるものの,本作はどちらかというと「サイキック」ホラーや伝奇モノに近い。単純な「魔法」や「超能力」ではないサイコホラー的味付けがなされているとはいえ,人間の精神的な「怖さ」というよりは,超常的な力が主たる道具立てになっているからだ。
 人間誰しもが心の奥底に持っている闇の部分を必然的に滲み出させるのではなく,この作品における惨劇の裏には超自然的な存在が想定されている。その意味で,「サイコ」でなく「サイキック」ホラーと呼ばれるべきであろう。

 

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ゲーム中では,ネットスラングなども大量に登場する

 パッケージにも明記されているが,猟奇殺人事件を扱っていることもあり,「グロテスク描写」や「残虐な表現」ももちろん含まれている。そこはニトロプラスの作風を汲む部分といえよう。
 そして映像エフェクトや効果音を駆使して怖さを盛り上げようと努力しているものの,そうした「映画的」な演出に,PCゲームで実を結ばせるのはなかなか難しいというのが,筆者個人の感想だ。普通にプレイしてしまうと,あまり怖さがピンと来ない。フルに楽しみたいなら,せめて真っ暗な密室で,一人でプレイするのが最低条件だろう。

 また,コアとなっているアイデアはよいと思うのだが,メインプロットに関する描き込みがやや薄味で,とくにクライマックスは駆け足になっているなど,少々残念に思われる部分もあった。これは主に,ストーリーと登場キャラクター数,ストーリー描写と主人公描写のボリュームがが,ややアンバランスであることによる。

 

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TIPSに登録される単語は,登場したときにブルーの文字で表示されるようになっている

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ネットスラングやキーになる単語などについては,用語解説(TIPS)で,説明を見られる

 

 とまあ,いささか苦言も含まれてしまったものの,冒頭でも述べたとおり,この作品はおそらくニトロプラスが,2000年代の「体感治安」と結びついた恐怖を題材にしたという意味で,注目すべきムーブメントの一つであることは間違いない。テーマと絵柄の関係など,いろいろ考えるべき部分は多いように思えるが,ニトロプラスが試みつつある新機軸,その動向に興味がある人ならば,押さえておくべき作品であろう。

 

■■田村眞治(ライター)■■
「夢幻戦士ヴァリス」の時代から22年余,キャラクターゲームの歩みを見守り続けてきた(いや,別のことをしていなかったわけではない。念のため)ベテランライター。第3期連載に当たっては,もっぱらトラディショナルな形の作品を担当してもらうが,ぜひ最近の動向も押さえたうえで,持ち前の微妙な知識と組み合わせたオリジナリティの高い解説を展開してもらいたい。
  • 関連タイトル:

    CHAOS;HEAD

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