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イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)
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印刷2013/11/09 00:00

インタビュー

イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)

アドベンチャーゲームは時間物に行き着く


打越氏:
 おそらく,みなさんにも経験があると思うんですけど,アドベンチャーゲームを作ってると,絶対に時間物に行き着くじゃないですか。なぜかというと,「プレイしていて死んで,シーンが戻りました」ってなったとき,“プレイヤーは先のことを知っているのに,劇中の人物は知らない”という状況/矛盾が生まれるからです。アドベンチャーゲームを作っていると,どうしてもこの構造にぶち当たる。

一同:
 (深くうなずく)。

打越鋼太郎(うちこしこうたろう):スパイク・チュンソフト 第二開発グループ プランニングセクション ディレクター。イシイジロウ氏に誘われチュンソフトに入社。アドベンチャー「極限脱出 9時間9人9の扉」や「極限脱出ADV 善人シボウデス」では,ディレクターとシナリオを担当している。KID所属時は,中澤 工氏と共にinfinityシリーズのシナリオに携わっていた
画像集#016のサムネイル/イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)
打越氏:
 このプレイヤーと登場人物の視点の乖離に気がついて,プレイヤー=登場人物にしようと,なんとかシンクロさせようとすればするほど,どうしてもループ物やタイムトラベル物になっていくんです。1990年代後半っていうのは,みんながそれに気付いて,結果として,似たようなテーマの作品が一気に出てきたって時代じゃないかと思うんですね。

イシイ氏:
 そう。時間物に“行き着く”んだよね。で,そのゲーム特有のループ感だったり,プレイヤーと登場人物の情報量のギャップを,今度は物語がどう受け止めるかって流れになっていくわけですよ。そして,そこで一つの“答え”を示したの「Ever17」という作品なんですよね。だから,すごいなぁ,打越さんは。最先端で物が作れてて(笑)。ほら,ドヤタイムですよ,打越さん!

打越氏:
 ちょ,やめてください……(苦笑)。

イシイ氏:
 いや,だってさ。「Ever17」が出た頃,僕はちょうど「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」とかを作っていたんですけど,一方で,北島さん(※)とかと「ループ物を作るべきだ!」みたいな話をよくしていたんですよ。ループ物やメタ物のもの凄い作品を作って,サウンドノベルの歴史を終わらせるくらいのことをすべきだ!って話してたの。

※北島行徳(きたじまゆきのり):シナリオライター,小説家。漫画家を目指して手塚賞佳作を受賞したあと,1998年に処女作「無敵のハンディキャップ」で講談社ノンフィクション賞を受賞。ゲーム関連では,「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」「忌火起草」「428 〜封鎖された渋谷で〜」「タイムトラベラーズ」などでシナリオを担当している

4Gamer:
 興味深いお話ですね。

イシイ氏:
 でも,当時のチュンソフトの上層部は「いや,そういうマニアックなのはちょっと……」みたいな感じで(笑)。残念ながら企画は通らなかったんです。もちろん,その判断は正しかったと思うし,だからこそ,その後でド真ん中のエンターテインメントだった「428 〜封鎖された渋谷で〜」みたいな作品をやれたわけですけど。
 でも僕や北島さんは,あの頃,とてもメタ物がやりたくて。金八のシナリオを書いてる北島さんに「Ever17っていうのが出たらしいですよ。メタ物らしいですよ」とかって言うと,「誰だ。誰が作ったんだ? 先にやられる前に殺しとくか! わはは!」みたいな感じで。

打越氏:
 えええっ(笑)。

「Ever17 -the out of infinity-」
画像集#020のサムネイル/イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)
イシイ氏:
 ただ,奇抜なアイデアって,“やりきる”のはとても難しいじゃないですか。メタ的なアイデアって,みんな微妙に取り入れたりはしていたと思うんですけど,振り切ってやれるかというと,なかなか大変ですよね。「Ever17」は,そこをやりきったからこそ凄かったと思う。最近でいうと,下倉さんの「君と彼女と彼女の恋。(以下,ととの)」なんかも,その辺を“やりきった”から凄いなと思える作品です。

打越氏:
 そうですね。正直,「ととの。」みたいなアイデアって思い付きはするんですよ。でも,できないんです。怖くて(笑)。あれは凄い冒険なんですよ。

中澤氏:
 そうそう(笑)。

打越氏:
 プレイヤーから叩かれるんじゃないかって怖さもありますよね。

中澤氏:
 はい。だから,普通は遠回し遠回しに,探りを入れるかのように織り込んでいくんですけど,あそこまでズバっとやっちゃうのは凄いなと。僕からすると,いっそ「気持ちいいな」って感覚ですよね。

打越氏:
 やっぱり「自信もってやってる」からなんでしょうね。自信をもってやることって,やっぱり正しいというか,ちゃんと見えるものなんですよ。
 「Ever17」にしても,ああいうオチを考えた人自体は結構いたと思うんです。でも,みんながそれをやらなかったのは「それは御法度だろ」みたいな感覚があったからだと思うんですね。でも「Ever17」では,僕なりに“やってよい理屈”をちゃんと付けてあったつもりだったから,自信をもってやれたんですね。だから,受け入れてもらえたのかなって感覚はあります。

中澤氏:
 分かります分かります。

打越氏:
 たぶん,「シュタインズ・ゲート」とかも,そういう(自信を持って冒険をしている)部分はあったんじゃないかって気はしますけど。主人公があそこまで個性的なのだって,美少女ゲームの文脈からしたらイレギュラーですよね。

イシイ氏:
 そうだよね。「シュタインズ・ゲート」もまた,歴史に残る作品だと思います。

林氏:
 いやでも,僕の中では「Ever17」が“メタ物の原風景”ですから。ずっと超えられない壁として立ちはだかっているんですけど……。

打越氏:
 「シュタインズ・ゲート」は圧倒的に超えてるでしょ!(笑)

一同:
 (爆笑)。

林 直孝(はやしなおたか):MAGES. ゲーム事業部 シナリオライター。科学アドベンチャーシリーズ「STEINS;GATE」「CHAOS;HEAD NOAH」「ROBOTICS;NOTES」のシナリオを手がける。映画,アニメ,小説,舞台とさまざまなメディア展開をする「STEINS;GATE」では,シナリオ監修のほか特典として付属するショートストーリーなども担当。「BRAVELY DEFAULT」では,初めてRPGのシナリオに挑戦している
画像集#017のサムネイル/イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)
林氏:
 いえいえ。「シュタインズ・ゲート」は本当に,先人の皆さんのお知恵をかき集めて,借りてきて,ひとつにまとめたような感じの作り方をしているので……。皆さんの偉大さを,僕はヒシヒシと感じております。

打越氏:
 まぁでも,実際のところ「シュタインズ・ゲート」って,タイムトラベル物に関する,思いつく限りのあらゆる要素がすべて入っているので,「もう,これは超えられないな」って思いが僕の中にはあります。

中澤氏:
 それは僕も感じました。あらゆる要素が本当に美しく,綺麗に入っていて。この先,タイムトラベル物をやろうとしても,もう“派生にしかならない”なという。だから,ちょっと表現の方向性を変えて,違うアプローチをやらざるを得ないと思いました。「しばらく時間モノはもう駄目だ!」と。だから,僕が最近手がけた「ルートダブル」なんかも,通常の時間/ループ物とはちょっと違うオチに持っていってるんです。

打越氏:
 「善人シボウデス」でも,時間的なトリックは入っているんですけど,そこは軽めに抑えているんです。純粋な時間物は,シュタゲが出てしまった今となっては,なかなかやりづらいですからね。

イシイ氏:
 すっごい「タイムトラベラーズ」の話をしづらい展開になってきた……(苦笑)。

一同:
 (爆笑)。

「STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)」
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「フローチャート型の物語」を縦に並べるという発明


イシイ氏:
 しかし,「シュタインズ・ゲート」の話題で言うと,アドベンチャーゲームの歴史を俯瞰して見たとき,僕は「ひぐらしがなく頃に」なくして「シュタインズ・ゲート」はなかった,くらいの感覚があるんですよね。

林氏:
 おお。それはぜひお聞きしたいです。

イシイ氏:
 というのも,先ほどのお話でもあったように,「かまいたちの夜」は,“フローチャート型の物語”という新しい概念を世に示しました。そして,そこから“フローチャート型の物語をどう解釈するか”という取り組みが始まったと,僕は思っているんですよ。

4Gamer:
 解釈,ですか?

イシイ氏:
 フローチャート構造,あるいはループする構造を,どう物語的にオチを付けるか,説明していくのか。「あ,これはタイムトラベルですね」とか「メタフィクションだね」「転生ものだね」とか。物語が進んで,死ぬと戻るっていうゲームの構造の解釈――「なんで戻るの?」という部分を,みんな一所懸命に考えていた。「かまいたちの夜」以後に出てきた作品群っていうのは,その延長線上の取り組みだったと思うんです。

林氏:
 おっしゃる通りですね。

イシイ氏:
 で,「ひぐらしのなく頃に」の何が革新的だったのかというとですね。その,フローチャート構造の物語の解釈がどんどん複雑化していくなかで,あの作品っていうのは,フローチャート型のお話を“縦に並べた”ところなんです。

林氏:
 ああ,そうですね! あれは“選択したこと”にして物語が進むんですよね。

イシイ氏:
 そう!

4Gamer:
 えっと,どういう意味ですか?

イシイ氏:
 つまりですね。元々フローチャート型の物語って,横に広がっていって,それぞれの可能性(お話)を見ていくって構造じゃないですか。だけど「ひぐらしのなく頃に」って作品は,そこを選択肢無しで,「選択したってことにして」お話がループするんですよ。つまり,フローチャート構造的なお話を一本道の縦に並べてしまったってのが,僕からすると,本当に目からウロコで。

画像集#010のサムネイル/イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)

4Gamer:
 なるほど……。

イシイ氏:
 ただ,一所懸命に新しいフローチャートの形や可能性を模索していた僕からすると,それは「え,これはナシでしょ!」みたいな感じでもあったんですね。選択したってことね,ここまで記憶してるってことね,みたいな。それやっちゃったら「ゲームである意味がない」わけですから。
 僕自身は,やっぱりあくまでゲームデザイナーであって,シナリオライターではないと思っているので,そこはあえて距離を置いていた部分でもある。フローチャートを解釈するんじゃなくて,新しいフローチャートを作っていこうと。それが僕のゲーム業界での役目かなと思って,いろいろとこねくり回しているんですけど。

4Gamer:
 確かに,選択肢すらないとなると,“ゲーム”とは呼べなくなって来ますよね。

イシイ氏:
 で,フローチャート型の物語を縦に並べてゲームでなくしたのが「ひぐらしのなく頃に」だとすると,「シュタインズ・ゲート」って作品は,物語を縦に並べたうえで,またそれをゲームに戻した(選択肢がある)作品だと思うんです。シュタゲもあれ,フローチャートは縦に並べてますよね?

林氏:
 そうですね。並べてます,はい。

イシイ氏:
 あのお話も,本来は“横に並べるもの”なんですよ。過去に戻って,そこからいろいろな可能性を見ていくわけですからね。だから,例えば「シュタインズ・ゲート」を,通常のフローチャート構造に当てはめて作って,細かいフラグ管理をすれば,それはそれで綺麗に作れるはずなんですね。

林氏:
 ええ,ええ。

イシイ氏:
 ところが,それを“あえて縦に並べる”ことによって,“一番良い順番”で物語を見せることに成功している。これもね,革新的な作り方なんですよ。

4Gamer:
 一番良い順番,とは?

画像集#021のサムネイル/イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)
イシイ氏:
 フローチャート型の物語って,ゲームだからこそできる,ゲームならではの物語のあり方だと思うんですけど,一方でそれは,プレイヤーの選択によってはAよりも先にBを見てしまうだとか,“美しい一つの完成されたお話を見せる”って方向とは,相反するものがあるわけです。
 
4Gamer:
 あ,なるほど。

イシイ氏:
 「シュタインズ・ゲート」の凄いところっていうのは,ちゃんとゲームのギミックを用いて,プレイヤーと主人公の一体感を高める,感情移入をしやすくしながらも,物語自体は縦に並べることで,「美しい完成された物語」を見せることに成功しているところなんです。
 
4Gamer:
 そう説明されると,いろいろなモノが納得できます。

イシイ氏:
 あと,もうひとつ凄いのが,トゥルーエンドへの道筋をフラグ制御してないところなんですけど……してないですよね?

林氏:
 フラグ制御はしてないですね。

イシイ氏:
 してないんですよ。これも凄くて。フラグ制御をしないっていうのは,僕も「428」でこだわった部分なんです。フラグ制御をせずに,プレイヤーの(アナログな)複数の選択の結果によって出口へ到達させるっていうのを,シュタインズゲートではちゃんとやっている。僕は「べき乗の選択」って呼んでいるんですけど,複数の選択が何重にも重なっていくことで,まったく新しいエンディングが現れるってやり方。ほとんど偶然でしか辿り着けないくらい。でも,そうすることで,プレイヤーが出口に到達した時の感動が奇跡に出会った時の様に増幅されるんですね。
 「428」では,このべき乗の選択を横のフローチャート(複数主人公)でやっているんですけど,「シュタインズ・ゲート」は,それを縦のフローチャート(フォーントリガーの積み重ね)でやっているんですね。

松原氏:
 フローチャートが縦に並んでることと,フラグ管理をしてないっていうのは,実はかなり意識してやっていたんですよ。
 そもそも,僕が5pb.に入る前,トンキンハウスっていうところにいたとき,「Lの季節」とか「Missing Blue」って作品を作っていたんですけど,どちらもフローチャート型のゲームで,ものすごいツリーがダーって横に広がっていくゲームだったんです。それこそ,バッドエンドを含めたらエンディングが20個ぐらいはあって。かつ,フラグ管理もあんまりしてない。まさに「かまいたちの夜」をギャルゲーに落とし込んだような構造のゲームを2本作ったんですね。

イシイ氏:
 やっぱり,ずっと意識されていた部分なんですね。

画像集#022のサムネイル/イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)
松原氏:
 ええ。で,そのときから感じていたことなんですけど,やっぱりフローチャートを作ると,当然分岐が発生するじゃないですか。僕は,その“選択肢がプレイヤーに見える”っていうのが,なんていうんですかね,気持ち悪くて。


4Gamer:
 それはなぜですか?

松原氏:
 なぜなら,劇中の主人公には「選択肢は見えない」からです。主人公に見えていないものが,プレイヤーには見えている。その一点だけでも,プレイヤーと主人公の距離は離れるし,一体感がなくなってしまうじゃないですか。

4Gamer:
 ああ,いわゆる「神の視点」って奴ですね。

松原氏:
 はい。だから僕は,選択肢を一切画面に出さないアドベンチャーゲームを作りたいなって,ずっと思ってたんです。志倉から,「シュタインズ・ゲート」が携帯電話をタイムマシンとして使う企画だと聞かされた時に思いついたのは,選択肢を「携帯電話のメール」にしたことなんですね。これなら,プレイヤーにもオカリン(主人公)にも見えてていい。
 そうすると,必然的にオカリンの経験とプレイヤーの経験が重なっていくので,プレイヤーの足掻きと,オカリンの足掻きが一体化していく。かつ,そこにフラグを持たせなければ,物語がループしたときに,プレイヤー自身がその経験を活かして攻略していくゲームにできるんじゃないか――そう考えていたんです。

フォーントリガーシステム:通常のアドベンチャーのような「選択肢を選ぶ」のではなく,主人公が持つ携帯電話の取り扱いによって,シナリオが分岐していくというもの。会話中にかかってきた電話に出るのか出ないのか,また誰に電話をかけるのか,メールの返信にどう答えるのかなどで,ストーリーが変化する
画像集#025のサムネイル/イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)

イシイ氏:
 でも,なぜフローチャートを縦にしたんですか? タイムトラベル物であれば,普通に横のフローチャートで表現することができるじゃないですか。あえて縦にしたってところが,僕は発明だと思っているんですけど。さっきも話に出ましたが,縦に置くことによって,お話の順番を決めたっていう。
 ある種,お約束化してた「2週めから新しいルートフラグが開く」みたいなものも,遊んでる側からすると「なんで2週めからじゃないと駄目なの?」って気持ちになるんだけど,物語を縦に置くことによって,そのへんの問題も全部解決しちゃうっていうね。

下倉氏:
 そこは単純に,ループする主人公の視点に一貫性がある,それによって「プレイヤーの記憶=主人公の記憶」になるっていう,そこに尽きるのでは。

イシイ氏:
 ふうむ。まぁそうですよね。

下倉氏:
 結局,プレイヤーの経験って一過性ですから,プレイヤー=主人公って構図を通すなら,そこはもう,強制的に縦にするしかない。まぁ主人公が死んで,別の主人公になったり,記憶がなくなってるみたいな形なら,そこは横に並ぶフローチャートというか,並行型になるんだと思いますが。その意味では,同じ縦のフローチャートでも,「ひぐらしのなく頃に」とはちょっと力の置き所は違うんじゃないかなって気はします。

4Gamer:
 ひぐらしは“リセット”されますしねぇ。

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林氏:
 あと,「シュタインズ・ゲート」を作るにあたって,最初に「どういう構造にしようかな?」と考えたときに,やっぱりタイムトラベル物のお約束として,“最初に戻る”のが前提だろうっていうのがあったんですね。なので,僕は「階段式」って勝手に呼んでるんですけれど,こう,登っていってまた降りてくるみたいな作りにして。最後に出口をポチっと付け足すような構造にしているんですよ。それを成立させるために,フォーントリガーというシステムを使って,プレイヤーに毎回決断させる(=階段を登らせる)という感じにしてあるんですけど。

4Gamer:
 イシイさんのおっしゃる「入口に出口がある」に当たるものですね。

打越氏:
 ふうむ。しかし,フローチャートを縦に置くか横に置くかって話でいうと,横に分岐していく形だと,どうしても“物語の期間”を短くせざるを得ないじゃないですか。

中澤氏:
 そうそう,物量がね。

打越氏:
 はい。物語の長さ(物量)が薄くなる。例えば,普通の美少女ゲームだったら,複数の女の子がいて,それぞれと一緒にいる期間って,全部一週間なり一か月なりの“決まった短い時間”になっちゃうじゃないですか。横に並べるっていうのはそういうことですよね。

中澤氏:
 はい。

打越氏:
 だけど,これを縦に積み上げることで,1年とか2年みたいな,濃密な時間を表現できる。その長い時間を使って,いろいろな思い出だったり,決断を重ねていった方が,最後に受けとる感動も圧倒的に大きくなるわけですよ。「シュタインズ・ゲート」は,その辺も凄くうまいんです。ラボメンのやりとり,ラボでの生活があるからこそ,感情移入もできるし,感動できるんですよね。僕としては,シュタゲを見て「ああ,こういうやり方もあるんだな」って思ったんです。

下倉氏:
 でもそれも,ヒロインとくっつくことが目的のゲームじゃないから出来たことですよね,きっと。シュタゲは,他の美少女ゲームとは軸足が違うから。

林氏:
 はい。「科学アドベンチャー」という枠組みがあったからできたものだと思います。普通の美少女ゲームとして作っていたら,ああいう形は思いつかなかったでしょう。

4Gamer:
 これまでの話をまとめると,「かまいたちの夜」を境に,フローチャート型の物語構造という概念が生まれて,それをいろいろな切り口で“解釈”しようとしたのが,1990年代後半から2000年代頭くらいまでの流れ。そして現在は,そのフローチャート構造をあえて縦に並べた「ひぐらしのなく頃に」や「シュタインズ・ゲート」が,テキストアドベンチャーの最先端にある――みたいな認識でよいんでしょうか。

イシイ氏:
 合ってると思います。でも,その「縦に並べる」発想って,言ってみれば「ゲームデザイン側の敗北」なんですよ。こっちの方がユーザーに分かりやすいってのは理解できるし,エンターテイメントとしてみれば,こっちの方が正しいのかもしれないですけどね。

画像集#024のサムネイル/イシイジロウ氏ら第一線で活躍するクリエイターがアドベンチャーゲームを語り尽くす!――「弟切草」「かまいたちの夜」から始まった僕らのアドベンチャーゲーム開発史(前編)
 
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