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誰もがみんな“FF病”だった――鉄拳・原田Pによる不定期連載「原田が斬る!」。第1回はスクウェア・エニックス田畑氏が「FFXV」流リーダー術を語る
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印刷2016/05/21 00:00

インタビュー

誰もがみんな“FF病”だった――鉄拳・原田Pによる不定期連載「原田が斬る!」。第1回はスクウェア・エニックス田畑氏が「FFXV」流リーダー術を語る

次の世代に向けて,何をすべきか


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田畑氏:
 せっかくの対談ですし,僕からも質問させてもらっていいですか? ゲーム作りを競技だとすると,僕らが今やっていることってF1レースで勝つことだと思うんですよ。でもゲーム業界にはそれ以外の競技もたくさんあって,例えばスマホだったらApp StoreやGoogle Playのランキングの中でしのぎを削り合っている。あれってなんで別物なんですかね?

4Gamer:
 それは,同じゲームなんだから同じ土俵で戦えば良いのに,ということですか?

田畑氏:
 そう。メディアもそうですよね。プラットフォームごとに雑誌が分かれてるけど,どうしてそうやってセグメントに分ける必要があるんだろう。

4Gamer:
 4Gamerは紙媒体を持たないのでちょっと違うんですけど,基本的には紙幅(=記事の分量)の問題でしょう。昔は総合誌1つですべてまかなえたけど,扱うタイトルの数が爆発的に増えた結果,追い切れなくなってしまったという。プラットフォームで分かれたのは,やっぱりすべてのハードを持っているようなコア層というのは,どうしても少数派にならざるを得ないからですね。

原田氏:
 多くの人間は利便性に勝てっこないので,今スマホが強いのはある意味必然ですよね。ゲームで遊ぼうと思ったら,昔は時間と環境を意識して用意する必要があったけど,スマホとF2Pモデルという便利ものが出てきた瞬間から,それ以前のゲームは多くのライト層にとっては過去のもの……というか過去のライフスタイルになってしまった。

4Gamer:
 とはいえ,コアゲーマーがそれで減ったのかというと,実はほとんど変わってないんじゃないかって気がします。

原田氏:
 そうそう,そこです。世の中にいるコアなゲームを遊ぶ素養がある人って,実は想像以上に少ないんです。日本のコンシューマゲームの黄金時代――それこそFFVIIとかの時分にコアゲーマーが増えたように見えたのは,そういう一般層がたまたまこちら側に流れてきたから。それが今はもっと便利なスマホに流れるので,結果としてセグメント減に見えるという。だけど,根っからのコア層は今も昔も変わりなくちゃんと中心に居続けているんですよ。

田畑氏:
 なるほど。今が特別なんじゃなく,実は昔からそうだったと。これは最初に話した“線”の戦略に関わってくる部分なんですけど,10代を対象にアンケートを取ってみると,初めてFFに触れる人の大多数――約70%程度が,スマホアプリから入って来てるんですね。

原田氏:
 ……FFで,ですか? それは知らなかったな。

田畑氏:
 しかもその人達って,それこそ味見だけして終わっちゃうんです。そういう遊ばれ方も,もちろん入口としてはアリなんですが,ファンを増やすには至らないのが現状です。これって構造的にうまくいってないよなって思っていて。

原田氏:
 それ,ウチのタイトルでも概ね同じですよ。スマホ版のプレイヤーが数百万いるわけだから,だったら家庭用もこれぐらいは……って思うじゃないですか。だけど数字を見たら,ぜんぜんそんなことはなくて。スマホ版がコアゲームへの導線になるかというと,全てがそういうわけじゃないみたいです。

田畑氏:
 そうなってくると,もはやコアゲーマーとそれ以外の人が交わることってないのかもしれないですね。

原田氏:
 ゲームはスマホで十分と思う人にとっては,もうハイエンドPCも据え置きのゲーム機も必要ないってことなのかも。

田畑氏:
 だから最近は,もっと下の世代に向けたコアゲームを作るべきなんじゃないかって思ってるんです。大人になってしまったら,もうコアなゲームには触れることさえしなくなりますから。そこへ行くと,「Minecraft」「Splatoon(スプラトゥーン)」は凄いなって思いますね。

原田氏:
 SIEさんも,「子供の頃にコントローラを触る経験をしてもらわないと,大人になってそこに戻ってくることはない」というようなことを言っていました。本当はそこからさらにステップを踏ませる必要があって,格闘ゲームなんかはまさにそこが課題になっているわけですけど。

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4Gamer:
 海外はどうなんでしょうか。先日公開されたFFXVの体験版「EPISODE DUSCAE」のアンケート調査では,日本からは「もっと簡単に」,欧米からは「もっと歯ごたえが欲しい」という意見が多かったように見えましたが。

田畑氏:
 そうそう。あれで面白いと思ったのは,“かなわない敵がいたとき,いったん戻ってレベルを上げてからリトライする”という遊び方が,どうやら欧米では受け入れられないらしい,ってことなんですよ。「俺が遊んでたGTAは,何回もやり直させたりしなかったぜ?」みたいなノリなんですよ。

原田氏:
 そういう難度の上げ方は,日本人ならすんなり受け入れられますよね。

田畑氏:
 やっぱり,それまでにどんなゲームで遊んできたのかっていう,バックボーンの差は大きいですね。あと,とくに北米のプレイヤーは,まったく文字を読まずに敵に突っ込んでいき,勝てなくて文句を言うような人も多かったです。

原田氏:
 そこにつながる話だと,海外のパズルゲームなんかは,プレイヤーがクリアできなくなってくると,AIが勝手に連鎖を組み始めるんですよね。それで自分が上達したかのように錯覚させる仕組みになっている。日本人だったら,それは反則だって思うじゃないですか。でも,この設計手法は海外でよく目にします。

田畑氏:
 “難しい”の定義自体が違うんでしょうね。日本人は敵の強さより,何をすれば良いかわからないことにハードルを感じる。一方欧米の,とくにウェスタン系RPGを遊んでいる人達にとっては,自由であることはもはやデフォルトで,ゲーム側から指図されると嫌になってしまう。実はこういうことって,グローバルローンチでないと同時に異なる反応が返ってこないので,そういう意味でも,今回無理にでもやってみて良かったと思えたところですね。

4Gamer:
 そういうものなんですか。

田畑氏:
 そもそも,スクウェア・エニックスという会社が,まだグローバルに対応していないですからね。そのための仕組みを持っていないんですよ。なので我々自身が明らかに情報不足,勉強不足でした。

原田氏:
 日本の企業は大体そうですよね。

4Gamer:
 スクウェア・エニックスがグローバルじゃないんなら,いったいどこの会社がグローバルを名乗れるのかって気がするんですが……。

田畑氏:
 バンダイナムコさんと一緒で,日本で発売したら,あとは手離しちゃいますからね。自分達の知らないところでローカライズされて,マーケティングされて,出荷されたらこれぐらい売れましたという結果だけが上がってくるという。だから海外のプレイヤーとの距離は,これまでものすごく遠かったんです。

原田氏:
 日本の多くの会社の評価体系だと,海外で売れても評価につながらないとか,そういう側面がありますからね。僕の場合は,キャリア的に世界市場からのスタートだったので,国内と海外との評価にものすごいギャップがありました。

田畑氏:
 なんらかのタイトルを海外でローンチするとき,開発者がそのタイトルをPRするため,E3などで海外メディアの取材を受けるんです。そこにスター気取りで出たは良いものの,海外のマーケットがどうなっているかまったく知らないし,それぞれのメディアの特性も知らないから,ディスカッションではなく単なるQ&Aになることが多い。そんなの面白い記事になるわけないし,おまけに悪い意味で気を遣われちゃって,「お前ら無知だし負けてるよ」とは絶対言ってもらえない。

原田氏:
 ああ,それは日本が王者だった1990年代の悪い名残りですよ。

田畑氏:
 例えばFFXIIIに対する批判って,ネットでは結構あったじゃないですか。でも社内では,開発に対し厳しい意見を言う人って,まったくいなかったんですよ。これはスクウェア・エニックスが,歴史的にそういう風土だったから。開発に厳しい意見を言ってヘソを曲げられちゃいけないっていうね。そりゃ自己肯定が病的に蔓延しますよ。これも,ゲームが売れていた時代の悪い名残りです。

4Gamer:
 それは……いやしかし,ネガティブな意見は見ないほうがいい,という考え方もあるのでは? 耐性がない人にとっては,かなり過酷な作業ですから。

田畑氏:
 批判を受けるのは,誰だって辛いです。でも開発者は,自分達が作ったものへのフィードバックを,肯定と否定のどちらも受け止めなくちゃならない。そのうえで,批判は右脳で感情的に処理するのではなく,左脳で“必要性”として処理して,次に活かしていく。

原田氏:
 なるほど,本当にみんなFF病だったんですね。僕だってそうだったわけだし,誰にでも思い当たるところがあるって,すごいことですよ。

4Gamer:
 なんか,これ記事にしちゃって大丈夫なのか,すごく心配なんですけど(苦笑)。そろそろお時間のようなので,締めの一言をいただきたいのですが,いかがですか。

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原田氏:
 田畑さん,あの例の映像作品って,いつ公開なんですか?

田畑氏:
 ああ,「KINGSGLAIVE」ですよね。劇場公開は2016年7月の予定なので……もう話しちゃって大丈夫ですよ。

原田氏:
 おお。実は僕,一足先に見せてもらったんですけど,あれは絶対観た方が良いですよ。日本でもこれができるんだって,絶対驚きますから。

田畑氏:
 どういう意味なんですか,それは(笑)。

原田氏:
 日本人的な泣きどころとか,あるいはすごくシリアスな要素を含んだ映像って,世界中で同じ反応を得にくいんですよ。とくにゲーム中のドラマシーンなんかでは,フィードバックに如実に現れます。ただ,「KINGSLAIVE」に関してはちょっと違うなと。

4Gamer:
 ああ,それすごくよく分かります。海外は笑いのツボがまったく違いますよね。基本シリアスな「もののけ姫」なんかでも,海外の人はゲラゲラ笑って観てましたし。

原田氏:
 「KINGSGLAIVE」は,僕はFFXVの背景設定とか予備知識まったくなしで観たんですが,なんかグッと来ましたから。圧倒的な映像と音楽があれば,そういう壁は超えられるんだって思いました。

田畑氏:
 うーん,なんでだろう。表現が記号的じゃないからかな? 

原田氏:
 とにかく,FFに興味がない人も絶対観ておいたほうがいいと思います。

田畑氏:
 なるほど。じゃあ,4Gamerさんにも見てもらわないといけないですね。

4Gamer:
 おお,それはぜひ。本日はありがとうございました。

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 記念すべき第1回目となる対談企画「原田が斬る!」,いかがだっただろうか。原田氏と言えば,これまでのインタビューはもちろん,自身のTwitterやさまざまな配信番組などで,氏ならではの視点から切れ味鋭いトークを繰り広げる名物プロデューサーとして知られている人物だ。個人的にも常々「原田Pがホストを務めたらきっと面白いに違いない!」と考えていたのだが,今回もその持ち味が大いに発揮されており,なんというかものすごく勉強になった次第である。今後の連載についてもぜひ期待していてほしい。

 そして驚くべきは,そんな原田氏が明らかにした,田畑氏その人が持つ驚異的なバランス感覚ではなかろうか。これまでの制作体制をFF病と喝破する客観性と,「AAAタイトルを目指す」という目標に邁進する情熱──その両方をチームの行動へと落としこむ手腕こそが,本対談のテーマである「田畑 端氏とは何者なのか」という問いへの答えであるような気がしてくるのだ。

画像集 No.018のサムネイル画像 / 誰もがみんな“FF病”だった――鉄拳・原田Pによる不定期連載「原田が斬る!」。第1回はスクウェア・エニックス田畑氏が「FFXV」流リーダー術を語る

 なおインタビュー後,4Gamerの取材班は,制作途中の「KINGSGLAIVE」のダイジェスト映像を鑑賞する機会に恵まれた。原田氏の言いたかったことは,確かに伝わってくる内容だった。
 物語は,ゲーム本編の主人公であるノクト達が王都から旅立つところから始まり,やがて街は,敵対するニフルハイム帝国の侵攻によって戦火に包まれる。我々はその顛末を主人公の父親・国王レギスの視点で目撃することになるのだが……尺にして10分ほどのダイジェストで,すでに公開されているティザートレイラーと重複する部分もあったが,「大人向けのエンターテイメント作品」として楽しめる映像作品であることに間違いはないだろう。

 驚いたのは,これが間違いなく我々コアゲーマーに向けて作られた作品だと“感じられた”ことだ。公開前の作品なのであまり詳しく語るわけにもいかないが,一言だけ「少年が世界を救う話もいいけど,大人がちゃんとカッコイイ作品はいいよね」とだけ述べておこう。
 「KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV」は,7月9日より全国43館の劇場にて公開される。これまでの公開されてきたFFXVの情報を見て,「ホストの5人のロードムービーに興味はないよ」と思っている読者がいたとしたら,ぜひこの「KINGSGLAIVE」だけでも鑑賞してみてほしい。印象は必ず変わるだろう。


「FINAL FANTASY XV」公式サイト


 
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