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3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート
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印刷2010/02/01 15:36

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3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート

画像集#001のサムネイル/3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート
 1月29日,東京・お茶の水にあるクリエイター養成スクール,デジタルハリウッド東京本校にて,「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」が開催された。このイベントは,同校の1年制/選抜制「本科」コースの特別授業として開催されたもの(関連記事)。
 映画監督の曽利文彦氏と,セガ R&Dクリエイティブオフィサー CS研究開発統括部 統括部長 兼 プロデューサー室 室長の名越稔洋氏による,それぞれが手がけた最新監督作品のメイキングをテーマとする特別講義が行われ,さらにはこの二人による対談も行われた。定員80名の会場は,デジタルハリウッドの在校生をはじめ,両氏の貴重な講義を聴講しようと集まった人達で満席となっていた。

デジタルハリウッド公式サイト


日本のアニメをフルCGで表現

曽利文彦氏が手がける“3Dライブアニメ”とは?


曽利文彦氏
画像集#002のサムネイル/3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート
 曽利氏は,まず自身の最新監督アニメ作品「TO 楕円軌道」「TO 共生惑星」(2009年12月リリース)にも採用されている“3Dライブアニメ”とは何なのかを時系列に沿って解説した。そもそもは12年前,曽利氏が南カリフォルニア大学(USC)に1年間留学した時期に,USCに通うかたわらデジタル・ドメインの門戸を叩き,映画「タイタニック」にCGアニメーターとして参加したことから始まった。

 USCにおける曽利氏の研究テーマは,「日本のアニメをCGで描く」ことだった。当時はトゥーン調の表現が登場し始めた頃で,統一された名称もなく個々人がそれぞれにシェーダやフィルタを作っていたという。やがて,映画「鉄コン筋クリート」の監督を務めたマイケル・アリアス氏の開発したトゥーン・シェーダが一般的に浸透し採用されていったと,曽利氏は説明する。

 留学を終え日本に帰ってきた曽利氏は,USCでの研究を延長し,日本のアニメーションをそのままCGで表現する“3Dライブアニメ”スタイルを提唱。数名の若手スタッフとともに,「アイアンメイデン」ほか3作のデモを制作する。その特徴は,トゥーン・シェーダを使用することで輪郭線と陰影に手描きアニメ風の表現を施し,モーション・キャプチャによって生身の人間の演技を取り込むことだった。

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画像集#006のサムネイル/3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート
 制作したデモをテレビアニメシリーズへ発展させるという計画もあったが,次に曽利氏が手がけることになったのは劇場版「APPLESEED」(2004年公開)だ。ほかの仕事との兼ね合いで残念ながら監督という立場でこそなかったものの,プロジェクトの中心人物としてさまざまな実験を好き勝手に盛り込んだという。最新作品と比較するとエフェクトや人物描写といった技術面で見劣りはするものの,制作スタッフのテンションの高さや精神面は今もほぼ変わっていないと,曽利氏は当時を振り返った。

 続いて曽利氏は,なぜこういった取り組みを続けているかということについて,その理由を述べた。たとえば,子ども向けのフルCGアニメはピクサー・アニメーション・スタジオをはじめハリウッド映画が先行しており,同じものを日本で作ろうとしても予算やスケールの面でまだまだ難しい。そこで最初に日本人として最も良い部分が出せて,最も世界で評価されている部分に突っ込んでいこうと考えたという。また,そうした考え方は取り組みを続けていく中で,今も変わらないと曽利氏は述べる。

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 APPLESEEDのプロジェクトが終了したのち,曽利氏は映画制作会社OXYBOTを立ち上げた。その第一作となる「ベクシル 2077日本鎖国」(2007年公開)は,人物の表情や骨格の描写をさらに発展させ,また昼光の中での戦闘という新たな“光の表現”にも挑戦した。その凄まじいまでの物量と密度の表現は,力技で実現していた部分も多く,2年以上におよぶ制作期間の中でスタッフは相当に疲弊していたとのこと。しかし,その過程を通じて得たノウハウは大きく,こうしたトゥーン表現だけに留まらず,現在公開中の映画「アバター」のようなリアルな表現にも適用できるインフラに仕上がったと,曽利氏は自信を覗かせていた。

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 その“3Dライブアニメ”で培った技術の現時点での集大成が「TO」である。TOでは表現のさらなる進化を試みたにも関わらず,制作期間はベクシルの半分以下だったとのこと。デジタルハリウッドの学生もインターンとして一部制作に参加したそうだが,曽利氏はその点に関して,今や使う機材はほぼ同じなので,学生でも心意気一つでプロと遜色ない仕事が可能であると述べる。すなわち,勝負する条件に差がない今,より高い志を持った人物こそが台頭していくだろうというわけだ。

 講義の最後,また曽利氏は,これからTOが世界的にリリースされることに触れ,今後も世界から評価される日本の作品をリリースしていくと意気込みを見せた。なお余談ではあるが,TOに関してはBlu-rayでの鑑賞を前提に制作したからか,スタジオで確認するよりも家庭のテレビで観た方が綺麗に見えたと曽利氏は述べた。この現象は,曽利氏をはじめとするスタッフもさすがに想定しておらず,かなりビックリしているとのこと。

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飽くなき探究心が技術を磨き,各々の表現につながる

名越稔洋氏の考える真のクリエイターとは?


名越稔洋氏
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 名越氏は,映画業界を志したものの当時の邦画市場の状況から断念せざるを得ず,同時期に面白いと感じていたゲームの世界に進み,「ほかにいい話があったら辞めちゃおう」くらいに考えていたという,20年前の自身のエピソードをあらためて披露した。当時はCPUが8ビットから16ビットに移行する時期で,ポリゴンなどという概念はまったくなく,2Dの絵を一つ一つドットで表現していた時代。しかしあるタイミングで,3DCGによるリアルタイム表現が導入され,名越氏の勤めるセガでも「バーチャファイター」といったゲームとして結実していったわけである。なお,先の曽利氏の話にも出てきたマイケル・アリアス氏は当時セガに在籍しており,名越氏と席を並べていたそうだ。

 アリアス氏が独自の哲学を持って仕事に取り組んでいたことに触れ,名越氏は,今現在,CGを志す人はそれぞれ独特のビジョンを持っているべき時代になったのではないかと述べる。それは,3DCGの技術が進歩して多くの人が携わるようになった結果,ステロタイプな作風が蔓延してしまったのではないかと,感じるからだという。その現状を名越氏は「CGとは,こう使うもの」と画一的に考えている人が増えているのではないかと指摘し,むしろ「なぜ,そう使わなければならないのか」と自身が常々抱いている疑問を提示した。

画像集#012のサムネイル/3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート
 ここで名越氏は,自身のプロデューサーとしての仕事を踏まえて,ゲームの企画・開発を取り巻く現状を説明する。たとえば,ある程度大きな規模で予算を確保したいなら,そのコストの高さをベースにワールドワイドの展開を考え,さらに老若男女すべてに向けた内容になるだろう。また莫大なコストを担保するためには,かつてヒットした何かに似た内容にならざるを得ないし,企業としてもそういったもののほうがゴーサインを出しやすい。実際,名越氏自身も業務用/家庭用ゲームを通じ,そうしたスタイルでキャリアを形成してきたそうだ。

 それではなぜ,いまだに“異質なゲーム”と表現されることもある「龍が如く」シリーズを,名越氏が世に問うことにしたのか。そもそもシリーズの構想は,かねてから名越氏が持つ“引き出し”の中にあったが,それを使うことはまずないだろうとも考えていたという。しかし,欧米のゲームに押されて縮小していく日本のゲーム業界の現実に対峙したとき,どうしようもないイライラがピークに達し,その考えをあらためることとなったのだ。

画像集#013のサムネイル/3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート
 そのとき名越氏が考えたことは,いくつかある。それはまず,海外を捨て,日本人として日本人に馴染みやすいゲームを作ろうということだった。そして,子どもや女性も無理に取り込むことはしない。また売れるゲームを考えた場合に,最も可能性が高いのは認知が高いジャンルでありながら誰も,手をつけていないもの……。そうやって考えていった先に残ったのが,日本に馴染みが深く,ゲーム業界ではニッチでも世間一般には認知されているもの──それが日本の社会の“裏”をモチーフにした,龍が如くの世界だった。

 カジノやキャバクラといった世界に興味はあっても,実際に体験するとなると多くの人にとってはなかなかハードルが高い。そうした潜在的ニーズを持つ成人男性に向けて,ゲーム内で社会の裏を体験できるような内容にしたというわけである。
 結果としてシリーズ第一作は35万本のセールスを記録したが,続編ではそれを上回る目標を定め,名越氏はそれを達成した。そこで,マーケットの存在を確信した名越氏は,さらにシリーズを重ねることになったのである。
 こうした自身の経験を踏まえ,漠然とワールドワイドを目指しターゲットの定まらないボンヤリとしたものを作ってしまうよりは,まず日本市場をきちんと説得できる内容を目指すべきだろうと,名越氏は見解を述べた。

画像集#014のサムネイル/3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート
 ここで話は,再びCGの使い方に戻る。名越氏は,自身が行った一連の発想の転換と同様のものが,今,CGにおいても求められるようになったと述べる。もともとゲームとは,プレイヤーのアクションに対して返ってきた反応によってダイレクトに達成感を味わう,インタラクティブなエンターテイメントである。そう考えたとき,これからのCGには,従来目指してきた“より綺麗に”“よりなめらかに”という部分だけではなく,「こんな使い方があったのか!」と見る側を揺さぶるような役割が求められていると名越氏は指摘する。なお,名越氏自身が最も感銘を受けたCGの使い方は,映画「ピンポン」および「少林サッカー」における演出だったとのこと。

 また名越氏は,好奇心/探究心を持って物事を調べることは,技術に応用されていくと述べる。たとえば,きちんとした3DCGを作るためには物体の裏側がどうなっているのかを知らなければならないし,きちんとしたデッサンを取るためには空間を把握できなければならない。
 名越氏自身も,かつてはデッサンをする意味が全く分からなかったが,空間を頭で把握し,実際に手を使って再構成していく作業だと理解した途端,自分にとって重要な意義を持つと捉えるようになったという。そうやって物事を探求し,突き詰めていくことによって,自分が今,何を学び何を成すべきかが見えてきて,結果として技術につながっていくというわけだ。

画像集#015のサムネイル/3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート
 名越氏は,プロになると自分のスキルにどうしても優先順位をつけてしまい,得意なもの以外はやれなくなってしまう傾向にあるので,若いうちは何にでも興味を持ち,好きなものに挑戦するべきだと,聴講者の学生達を鼓舞した。そのうえで,「技術とは何のためにあるのか」ということを考え,各々の表現に反映させることが重要であると述べた。
 またゲームの開発に置いて,CGデザイナーなどの一スタッフでは与えられた範囲内でしか能力を発揮できないが,より多くの介入を求めるなら監督/ディレクターを目指すべきであるし,さらにどこに重点をおくか──つまり予算を割くべきかまでこだわるのであればプロデューサーを目指してほしいとして,講義を締め括った。

画像集#011のサムネイル/3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート

曽利文彦氏と名越稔洋氏が語る,

それぞれの最新作と将来を担うクリエイターへの思い


 このあとステージでは,曽利氏と名越氏による特別対談が行われた。当日が初対面とのことだが,同じ“日本人ならではの表現”というこだわりを持つ両氏だけに,楽屋では意気投合し,かなり話が盛り上がっていたという。ここでは,その対談の様子をお伝えしよう。

──お互いの講義を聞いた印象などを教えてください。

画像集#016のサムネイル/3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート
曽利氏:
 (名越氏の)お写真を拝見したとき「こえー!」と思ったのですが(笑),実際にお話をすると優しい方で。講義も熱い感じが伝わって,すごくよかったです。

名越氏:
 日本のクリエイターの中で,最もメジャーといっていい方ですよね。何かを培っていくというよりは,ご自身の中でアグレッシブにさまざまな実験をされている方なんだと感じました。

──3DCGを制作するうえで,最も大事していることは何でしょう?

曽利氏:
 子供の頃から立体的なもの,空間の把握が好きだったんです。ハリウッド的なビジュアルエフェクツも大好きでしたが,名越さんのお話にあったような“裏を見にいく”──どうなっているんだろう,その先はどうなんだろうという気持ちが,今の3D表現につながっていると思います。そういった好奇心をどんどん進めていくと,3Dにたどり着くんでしょうね。

名越氏:
 ゲームも映画もアニメも,どれも手法は同じで完成していると思うんですよ。アバターの制作風景を見ても,やってることはまったく一緒なんです。もちろんカメラとスタッフの数の多さにはビックリしますけどね(笑)。でも基本的には同じだし,曽利監督の話にあったように,もはや機材の違いもありません。そういう中で,お互いに言い訳ができなくなっています。だからこそ,よけいに本人の“人間力”で勝負という時代になっています。何を持ってプロといえるのか。その一方では,アマとはいっても高い完成度が求められる時代です。

──というと,アマチュアがプロを追い越してしまう可能性もあるのでしょうか?

曽利氏:
 すでにそういう例も見かけます(笑)。筆一つで絵を描いているのと同じように,ツール一つで3DCGを作れてしまいますから,プロもアマも関係ないです。何をどう描くかが重要になっています。本当に腕一つですね。

──そうした中で,どのようにオリジナリティを生み出していくのですか?

名越氏:
 クリエイターって,24時間ずっとクリエイティブを考えていると思うんですよ。直近のものについて考えるのはもちろんなのですが,それから逃避するにしても,別のアイデアを考えている。そうやって1日中,クリエイティブを考えている人がクリエイターと呼ばれるんじゃないでしょうか。そう考えると,質問の答えとしては「どこからでも」と(笑)。

──直近では使えなくとも,あとあと使える素晴らしいアイデアが閃くこともあるんですか?

名越氏:
 閃いたときは「オレ天才!?」と思っても,数日後に見直して「バカか,オレは!」となるケースのほうが多いです(笑)。

曽利氏:
 TOの原作は,(聴講者の学生の)皆さんと同じくらいの年代に読んだ「2001夜物語」なんです。読んだ瞬間に「うわ,映像化したい!」と思った。その思いはずっと変わらず,こうして20年経って実現したわけです。今,皆さんが何を考えているのかは分かりませんが,5年後10年後,あるいは20年後に実現するという可能性はありますよ。
 またゲームにしても映像作品にしても,お金がかかります。お金をかけずにチマチマやっていても「こんなんじゃない,こんなものを作りたいんじゃない」となってしまいがちです。そこでお金を動かすためにどうするかというと,いろんな道があると思うんですよ。いろんな方法で這い上がっていくしかないですね。お金をかけて,プロのスタッフを使って作品を作り上げたときの達成感は凄いですよ。

画像集#018のサムネイル/3DCGのトップクリエイター二人が若きクリエイター達に向けて熱弁を奮った! 「曽利文彦×名越稔洋 トップクリエイター対談」レポート
──最新作について苦心した点などを教えてください。

名越氏:
 作品を重ねていく中でのプレッシャーは,なくはないです。でもプレッシャーも楽しいですよ。僕らの商売は注目されなくなる,期待されなくなることが一番怖いです。三振してもいいからフルスイングして,「あのスイングが当たったらすごそうだから,次の打席にも立たせてみよう」と思われるだけの余地は残しています(笑)。

──そうはいってもプレッシャーがかかると大変じゃないですか?

名越氏:
 まあ,人の子ですから(笑)。最近の若い人達は,デリケートになり過ぎている感じがしますよね,それが良いとか悪いという話ではなく。でもクリエイターでありながら,人として遊びの余地を残していてほしいと,最近とくに思います。

──曽利監督はどうでしょう? TOについて苦心された点は?

曽利氏:
 20年前から原作の大ファンだったことが,縛りといえばそうでした。どうアプローチするかが,すごく難しくて。「変えたくない」という部分が,自分のエゴとしてどうしても出てしまいます。20年前の作品を現代的にアレンジするのか,それとも古典として扱うのかという部分でも葛藤がありました。結局,20年前のまま現代に問う形にしたのですが,極力変えないということを貫くのは大変でしたね。
 それでもタイトルを変えてしまったのは,“2001”という数字が今の若い人達に訴えかけないからです。名越さんや私の世代は“2001”にロマンを感じるのですが,現代の若い人達にはただの数字で過去に過ぎず,SF的な内容だと思ってもらえないかもしれません。そこでタイトルをガラッと変えたのですが,中身は精神論から何から星野之宣先生が作られたまま,現代に通用することを訴えています。

──思い入れが強い半面,それを再現するのに苦心した,と。

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曽利氏:
 実は映画のアバターも,星野先生が作ったTOの共生惑星もテーマはほぼ同じなんです。SFが好きな人は共通のテーマを持つものなんだと,あらためて思いましたね。

──お二人が影響を受けた作品を教えてください。

名越氏:
 いろいろありますが,たとえば日清のカップヌードルの歴代CMはいいものが多いですね。ロマンチックで,湯気の温かみがあって,ちょっと目頭が熱くなります。皆さんも同じだと思うのですが,「こういうものだから影響は受けない」ということはないですよ。余談ですが,「好きだ」と思ったら,そう表現したほうがいいですね。クリエイターとは,「私はこういうものが好きだ」と主張する商売です。すると,反対意見が必ず出ますので,そこでまた気づくことがあるんです。そうやって対話することで,より磨かれていきます。

曽利氏:
 子供の頃から映画が好きなんですけれども,とくに「ゴッドファーザー」,それも2作目が好きです。同じところで何回も涙します。あとは「アマデウス」ですね。エンターテイメントが好きですけれども,それだけではない作品に惹かれます。リドリー・スコット監督の「ブラック・レイン」も商業的には成功していませんが,学ぶところは多いです。
 また,今,Blu-rayでリリースされているバージョンには当時のメイキングが収録されていたりするのですが,それを見てもグッときます。同じ作る側として見ると,お金をかけたハリウッド映画でも舞台裏でやってることは一緒じゃん! という部分があって大笑いすることもありますね(笑)。逆にいえば,ここにいる皆さんがハリウッド作品を手がける可能性もあるわけですよ。

──お二人が,将来に残すものとして制作するなら,どんな作品になるでしょう?

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名越氏:
 若いうちは,重厚長大なものに結論を求めがちです。でも僕は,ちっちゃなものでも磨かれているものに興味がある。たとえば,今はゲームを作っている僕ですが,最後に残したいものは手描きの絵本になるかもしれません。僕が伝えたいこと,そしてそれを伝える方法はなんだろうと常に考えているし,その方法に対するこだわりはありません。今は,たまたまゲームに夢中ということなんです。もしかしたら,最高にウマいたこ焼きを作ることが,僕の人生の結論かもしれません(笑)。

曽利氏:
 何でもやりたがりで,いまだに収まらないんですよ。名越さんの龍が如くを見ると,「ああゴッドファーザーだ,やりてえなあ」と思いますし(笑)。アマデウスのようなスケールのものもやってみたいですよね。同じものを追いかけても仕方ないことは分かっているのですが。
 一つ,日本人としてどうしても死ぬまでにやりたいのは,実写の壮大なSFです。これは,できないかもしれないということも含めて,やりたいことですね。

──それでは,今回の講義と対談の聴講者に向けてメッセージをお願いします。

名越氏:
 講義の中で何度も押し付けがましいことをいいましたが,ここにいらっしゃるのは可能性を持った人達だと思います。ここからいろんなものが生まれていくと,僕は信じています。何より,自信を持ってやっていけばいいと思います。何か思ったら,人に言う。どんなリアクションが返ってくるかを恐れず,困らず,また返す。そのやりとりをできる人達が,将来の仲間になっていく可能性が高いです。そういった仲間を作ることも大事なんじゃないでしょうか。がんばってください。

曽利氏:
 10代の自分は逃げていた思い出があるんです。20代になって逃げないようにしようと思った瞬間に,何か変わった気がします。逃げないことは,行動が先に立つ,やってから理屈を付ける,頭で考えてもしょうがないということです。あとでつじつま合わせに苦労することもありますが,まず行動するという当時のモットーは,今も変わりません。皆さんもいろんなことを考えてしまうでしょうが,まず手を挙げて行動してみてください。

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