レビュー
大型機械を何台も使いこなす大規模農場を作ろう
ファーミング シミュレーター 2009
〜大地へ挑もう! ぼくらの農業生活〜
日本語版
» ズーから発売中の「ファーミング シミュレーター 2009 〜大地へ挑もう! ぼくらの農業生活〜 日本語版」は,長いタイトルからも一発で分かるように,農業をテーマにした経営シムだ。だがその実態は,一人称視点で農場の中を移動し,三人称視点で農業機械を操作するという,アクション主体の異色作。そんなゲームを,車で走り回れる経営シムがあるんですけど,やってみませんか,と編集部にだまされたレースゲーム好きライター,UHAUHA氏がレビューした。
異色の農場経営シムで,耕し,育て,収穫しよう
ズーが8月21日に発売した「ファーミング シミュレーター 2009 〜大地へ挑もう! ぼくらの農業生活〜 日本語版」は,農業をテーマにした経営シミュレーションだ。開発はドイツのデベロッパ,Astragon Softwareが担当しているが,ここは本作のほかに路線バスのシミュレータ,プール経営シム,建築物解体シムなど,ちょっと変わったテーマの作品を多く発売しているメーカーだ。
経営シムというと,一日や一か月の収支を気にしたり,儲けを出すために環境を整えたり,数字とにらめっこして経営を軌道に乗せたりするといったイメージが浮かぶが,本作においては,お金を気にして頭を抱える部分は本当にちょっぴりで,自ら農業機械に乗って畑に繰り出し,せっせと農作業に勤しむという,まさに土の暮らしの大変さを体験できるのである。
農業を扱ったゲームは,これまでにもいくつか登場しているが,おそらく「完全3D化」を果たしたのは本作が初めてとなるだろう。
歩いているときは一人称視点で,移動もW/A/S/Dキー。視点はマウスで移動など,まるっきりFPSのインタフェースが採用されている。また,トラクターやコンバインなどに搭乗すると三人称視点に切り替わり,レースゲームのように農機具を動かして作業を行っていくのである。経営シムと聞いて,勝手に俯瞰視点だろうと思っていた筆者にとって意表をつく展開だ。
ゲームには,トラクターやコンバイン(収穫機)といった農業機械が17台,畑を耕したり,種をまいたするための農機具が20種類以上登場するが,これらはすべて実在するものを忠実に再現している。Fendtブランドで有名なAGCOとオーストリアの農機具メーカー,Pottingerの二社がゲームに協力しているので,筆者を含めた日本全国のマニアな人は,さまざまな視点から舐め回すようにじっくり農業機械/農機具を眺めて歓喜の声を上げよう。耕耘機のフレームとか,もうたまらん!
楽しくも大変な農家の暮らし
ゲームにはキャリアモードとミッションモードの二つが用意されている。メインはキャリアモードだが,先にキャリアモードをプレイしても,いきなり農場に放り出されて何をしていいのかさっぱり分からずにアタフタするのがオチ(経験談)なので,まずはミッションモードを一通りプレイしてからキャリアモードに進むのがオススメだ。
農業機械/農機具は,わざわざ販売店に行かなくても売買できるが,購入したものは販売店まで取りに行かなければならない |
自動車は買えないので,島内の移動はもっぱらトラクターだ。真面目に道路上を走る必要はないので好きなところを通って移動しよう |
島内に散らばっている100本の空きビンを探し出してリサイクルボックスに入れれば評価がアップする。さすがエコの国,ドイツ |
ミッションモードにはチュートリアルを兼ねた17種類のミッションが用意されており,農業でお金を稼ぐための基本的な流れや,農業機械/農機具の操作や機能などが習得できる。
すべて時間制限つきのミニゲーム形式で,クリアまでのかかった時間によってプラチナ,金,銀,銅のメダルが獲得できる。こういうミニゲームに対し,さらに良い記録を狙って繰り返し挑戦してしまう性質の筆者としては,農作業の腕が自然に上達して嬉しい。
さて,基礎知識が身についたら,いよいよキャリアモードで農場経営の実践といこう。最初に「簡単」「標準」「難しい」の中から難度を選択するが,難度によって収穫した作物を売却する際の売値が大幅に異なる仕組みだ。当然,「難しい」の場合は必死に働いても得られる収入は少なく苦労する。また,「簡単」「標準」ではゲーム開始時にサイロに作物がすでに備蓄されているので,すぐに出荷して新たな農業機械/農機具の購入資金に充てられる。
プレイヤーは不思議な運命(どんな運命だろうか?)によってとある島の農場主になった。手に入れた農場には,トラクターやコンバインのほか,脱穀機,種まき機など農作業を行うための道具が一通り揃っている。そのほか,農場には農業機械/農機具の保管や燃料補給,収穫した作物を貯蔵しておくサイロがある。
作物を育てるのに不可欠な畑は島の半分以上を占めるほどの面積が用意されており,ほかに農業を営むライバルもいないため,すべての畑を独占利用できるからビックリ。どんな人から農場を相続したのか,気になって眠れないほどだ。
ミステリーサークルを自作したところ |
広さ約4平方kmというこの島には,収穫した作物を出荷するために何度も往復することになる港,製粉所,醸造所,園芸センター,そして農業機械/農機具を売買するための販売店がある。ほかには教会や運動場,スーパーマーケットに灯台,ストーンサークルといったさまざまな施設や名所があるが,どれも近くに行くと環境音が聞こえてくる程度の景観アイテムであり,運動場で運動をしたり,スーパーで買い物したりできないのが残念だ。
また,島内にはどういうわけか合計100本の空きビンが落ちており,空きビンを集めて回収ボックスに入れると少額の報酬と島民の評判が得られる。道路に一般車が走っているだけで,人っ子一人見かけないこの島で評判を気にする必要があるのかどうか不明だが,評判を上げると販売店で農業機械/農機具を売却する際に高く売れる。
だから,ときに作業の手を休め,トラクターに乗り込んで空ビン集めに精を出したいところだが,やることが地味すぎる!
ミッションモードで獲得できるメダルは単なる目標で,プラチナメダルを取ったミッションでも繰り返しプレイ可能。最初は切なくなるような記録しか出ないと思うが,何度も繰り返し挑戦することでメキメキ上達し,頑張ればゴールドメダルくらいは取れるはず |
ミッション:「障害コース」
トラクターだけかトラクター+トレーラーで障害コースを制限時間内に素早く走り抜ける。速すぎると跳ねて,うまく旋回できない |
ミッション:「高く積み上げろ」
フロントローダーつきのトラクターを使って,パレットをできるだけ高く積み上げる。フォークの上下,前後の操作がなかなか難しい |
ミッション:「霧の中の岩,宴の後」
散らばった岩や樽をシャベルやブレードで取り除く。できるだけ集めて一気に取り除きたいが,これが難しくてイライラする。キー |
農業に王道なし! 地道な作業の繰り返しが大切だ
畑で収穫できる作物は,小麦,大麦,キャノーラ(アブラナ),トウモロコシの4種類。キャンペーンモード開始時,農場近くの畑に4種類の作物が収穫できる状態になっているので,さっそく収穫用カッターを取りつけたコンバインに乗り込んで,畑へゴーだ!
おっと。トウモロコシだけは専用カッターが必要なのだが,最初は所有していないので資金を貯めて購入してから収穫しよう。
耕耘機で畑を耕し,種まき機で作物の種をまき,噴霧器で肥料を散布する。作物が育ったら,コンバインにカッターを装着して収穫の日を迎える。刈り取りが終わったら藁を片付け,再び畑を耕して次の種まきの準備だ! ああ,楽しい |
コンバインを走らせて畑に着いたら,カッターを動作させて収穫開始。スピードを出し過ぎるとカッターが外れたりするので,数字キーで速度を固定し,ハンドル操作のみで作業すると楽ちんだ。農業機械の操作はほとんど共通であり,操作ヘルプも表示できるので,何を使う場合も困ることはないはず。
農業機械の搭乗時は基本的に三人称視点だが,実際に運転席に座っている気分を味わえる一人称の運転席視点にも切り替えられる。
筆者は実家が農家だったため,子供の頃にトラクターやコンバインに乗った経験がある。農機具などの形状は日本とドイツで大きく異なるものの,運転席視点でプレイしていたら,刈り取ったあとの藁の匂いなどが思い起こされて妙に懐かしく,なんともいえない気分になったのは照れくさいので秘密だ。
農作業はそれほどスピーディには進まない。とくにゲーム序盤の農業機械はスピードが出ないし,カッターの幅も狭いため,畑を行ったり来たりするハメになる。ぶっちゃけ,イライラしてくるが,こればかりは資金を貯めて高性能な農機具を揃えるしかないのだ。
作物運搬中に事故発生……。でもノーペナルティ |
収穫を続けているとコンバインのタンクが満杯になり,これ以上の収穫ができなくなる。そこでトラクターにトレーラーを装着してコンバインに横付けし,コンバインのアームを回して収穫した作物をトレーラーに移せば再び収穫作業が続けられるのだ。回収した作物はそのまま港,製粉所,醸造所,園芸センターに出荷してもいいし,農場にあるサイロに保管しておいて売値が上がったときに売ってもいい。
作物の集荷場である港や醸造所の場所が分からないときや,4日先の天気予報を見たい,あるいはサイロの備蓄量を確認したいときなどは,PDA(デフォルトでIキー)を開こう。作物の出荷価格は日々変化しているため,日付が変わるたびに確認することになるはずだ。
収穫の終わった畑では次の作物を育てる準備をする。流れとしては,耕耘機で畑を耕し,すきで土をならしたら,種をまく。作物が育つのを待つ間に肥料を散布し,作物が育ったら収穫し,出荷するかサイロに備蓄する。これらの作業を繰り返して資金を稼ぎ,新しい農業機械/農機具をどんどん購入して,がっぽがっぽ稼げる大農場主を目指していくのである。簡単だ。
何台もの農業機械を使う大規模農業を営もう
さて,すでに気づいた人もいると思うが,農業機械は何台も購入できるものの,プレイヤーが直接操作できるのは一台だけだ。たくさんの畑があり,多くの農業機械を所有しているのに,一つの作業が終わったら次の作業を順番にせっせとこなすのはシャレにならないほど大変だし,実際,やってられない。そんな悩みを解消してくれるのが,プレイヤーの代わりに農業機械を動かしてくれる雇用者だ。
人を雇って大量の農業機械を同時に動かすのが,本作の醍醐味。雇用者が作業中のコンバインと併走しながら作物を回収すると敏腕農家っぽくてメチャクチャ格好いいが,この気持ちはプレイした人じゃないと分からない |
それぞれの農業機械に対して一人の雇用者を割り当てられるので,例えば脱穀機で脱穀中のトラクターを数台走り回らせながら,隣の畑ではキャノーラの種をまき,離れた大きな畑では2台のコンバインが収穫作業を行うなどという,まさに大規模農場の雰囲気が味わえる。
ただし,雇用者が作業できるのは畑の農作業のみなので,コンバインからの作物回収や,畑から農場への移動などはプレイヤーが行うことになる。また,雇用者のAIはあまりお利口ではなく,まだ刈り取るべき作物が残っているのに作業完了したり,木に引っかかったり,一般車と接触し動けなくなっていたりすることがしばしばだ。そのため,きちんと働いているかどうか頻繁にチェックする必要がある。
かくして,プレイヤーは雇用者がやり残した作業をやることになる。トラクターでトレーラーを引っ張り,あっちこっち走り回るとヘトヘトになるが,美しい夕焼けを背景に,何台もの農業機械が畑の中を移動しているの光景を眺めていると,生意気にも本当に大農場主になった気分になれるから不思議だ。きれいだなあ。
本作は農場経営シムというより,タイトルにもあるとおり農業生活を楽しむゲームである。経営面の作業は無に等しく,収穫時期を気にする必要もない。種をまけば,まいてるそばから発芽するし,収穫時期を迎えた畑をそのまま放置しても一向に枯れることはない。すきで土をならさずに種をまいても問題ないし,肥料を与えなくても育ってくれるしと,シミュレーションというには省略されている部分が多いのだ。
本作における農作業とは,あらかじめ一連の流れが決まっており,それをこまめに繰り返すことが基本となる。ここをどう受け止めるかでゲームの印象が変わると思うが,筆者の場合,作業的だなと感じことはあるものの,たくさんの農業機械が同時に稼働している畑の中をトラクターで見て回るのが妙に楽しくなり,毎日せっせと仕事に精を出している。
というわけで,ぜひ,類作なきスタンスで農業をゲーム化した,異色の作品をプレイしてほしい。ちょっと飽きるのが早そうなので,家畜が飼えるものや,果樹園が作れるような拡張パックにも期待したいなあ。
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ファーミング シミュレーター 2009 〜大地へ挑もう! ぼくらの農業生活〜 日本語版
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