インタビュー
凝縮されたリアルがここにある――スーパーなプロデューサーが語る「スーパーストリートファイターIV」の原点とは。カプコン小野P,スーパーハイテンションインタビュー
あのキャラのあの技はどうなった? 気になるゲームバランスの調整について
次に,既存キャラの調整についてお聞きしていきたいと思います。ゲームバランスといえば,まず……サガットですよね[2](笑)。
小野氏:
はい(笑)。でも例のコンボ[3]が使えないってわけではありません。使えるんですが,その上でほかの部分を調整してあります。
サガットを相手にする上で何が厳しいかといえば,例えばタイガーショットをバンバン撃たれて大変だと言われることもあるんですが,それって「ストII'(ダッシュ)」の頃からずっとそうじゃないですか。
4Gamer:
あぁ,確かに。サガットというキャラの個性かもしれませんね。
小野氏:
だから,そこはいまさら関係ないだろうと。で,僕らからみてサガットで一番気になったのは,そうやって砲台でいられる割に,打たれ強いことなんです。その辺はちょっと見直そう。あとは一発がクリティカルなところも,見直していきましょうと。ただ手触り感や戦術については一切変えない。……ってのが今回のチューニングをするときに,まずホワイトボードに大きく書いた大方針ですね。
4Gamer:
では逆に弱いとされたほう,バルログやガイルあたりについてはどうでしょう。
小野氏:
ガイルは強くなりましたね。ガイル使いの人には朗報ってくらい。かなり使いやすくなってます。彼らについてはウルコンへのチャンスや,セービングのチャンス,あとは判定の調整をすることによって,次へのきっかけを生みやすくしました。
具体的には?
小野氏:
ガイルはソニックブームが牽制でガンガン撃てますよ。もう完全砲台です。
4Gamer:
ソニックブーム自体は,以前もかなり高性能だった印象なんですが……。
小野氏:
溜め※時間が調整されてます。ストリートファイターって,次の行動を準備する時間が大切じゃないですか。相手の次の行動を予測して,技を仕込んでおくという。ガイルはこの時間に余裕が生まれているんですね。
4Gamer:
なるほど。それは強そう,というか相手にするのがしんどそう(笑)
小野氏:
あとウルコンに繋がる,いろんなジョイントも用意されてます。ここはガイルだけはなくバルログも同じです。バルセロナで飛んだときの判定が広がってたりとか,そこからの動作の選択肢が増えています。単発でしか使わなければ気づかないかもしれませんが,常に次の準備を考えて行動できる人には,これは大きいと思いますよ。
4Gamer:
それ以外にも,全体的な,つまりランキング的な強弱とは別に,キャラクターの相性が厳しかった組み合わせがありますよね。いわゆる苦手キャラという。例えばアベルだったらザンギエフを相手にするのがすごく辛い。逆にザンギエフはブランカがキツイ,とか。
小野氏:
その部分については,今回あえて手をいれてはいません。理由はそこを弄っちゃうと,全体が丸っこくなってしまうからです。これはもう「ストII」,さらに言えば初代「ストリートファイター」の時からの,あのバランス。ダイアグラムも何もあったもんじゃない滅茶苦茶さが残っていてこそ,この面白さなんじゃないのかと。
あぁ,それはなんとなく分かる気がします。
小野氏:
で,その得手不得手があってこそ研究する楽しみがあって,それに打ち勝ってこそギャラリーからの拍手喝采があるわけです。プレイヤーからはやっぱり色々言われるんですが,それを全部入れていったら,結局行き着くところはみんなリュウやケンになっちゃいます。だからそういう強弱感,でこぼこ感は,意図的に残してますね。
4Gamer:
そうするとチームマッチの時とかに,ぐっと戦略性が出てくるんですよね。
小野氏:
そうなんですよ! 「まず俺がこのキャラで行くから,もしダメだったときはお前に後を頼むぜ」って状況が出来やすくなる。それが今3on3※の大会が主流になっている理由の一つですよね。そのとおりです。本当に,これが伝えたかったんですよ。
4Gamer:
自分の体験でも,完全に五分なハズの同キャラ戦が一番つまらないと感じます。いや,もちろん同キャラ戦には同キャラ戦の良さがあるんですが……。
小野氏:
どっちのリュウが強いのかとか,そういうストイックな楽しさもありますけど。やっぱり相性の悪い組み合わせで勝つことのあの凄さ。最初の全国大会をダルシムが制覇するって,その背景にものすごい鍛錬とテクニックがあるわけじゃないですか。
4Gamer:
伊予選手のダルシムは,なんというかもう,異次元ですよね(笑)。
あぁいうことが起こり得るからこそ,ストリートファイターなんかの格闘ゲーム,ひいては対戦ゲームは面白いんだってことを,もっと伝えたい。ゲームの主人公って,やっぱりキャラクターじゃなくプレイヤーなんですよ。そこが醍醐味です。
4Gamer:
ええ,ものすごく良く分かります。でもそれを踏まえた上で,あえてアベル使いの身から言わせてほしいのですが,それにしたってアベルのザンギ戦はヒドいんじゃないですかね(笑)。とくにあのラリアットが……。
小野氏:
(笑)。「スパIV」で試してみてください。仰ってる部分はおそらく補正かかってると思いますよ。
4Gamer:
わかりました(笑)。ではもうすこしシステム寄りの部分についてお聞きしたいんですが,例えば賛否両論あった簡易コマンド※周りなどはどうでしょう。何か変更があるんでしょうか。
小野氏:
簡易コマンドについては実はギリギリまで迷っていて,入力のタイミングなんかは微調整しているんですが,今回も残してあります。あれを無くしちゃうと,初級編や入門編の人達が全くプレイできなくなっちゃうと思うんで。
4Gamer:
あくまで初心者のため,と。
ええ。初心者に門戸を開くという意味では,これはやっぱり入れておきたい。それでその人達には中級,上級と登っていってもらって,他の格闘ゲーム――「鉄拳」や「バーチャファイター」,「BLAZBLUE」なんかも遊んでもらいたい。だから入力の遊びについては,今回チューニングしていますが,無くしてはいません。
4Gamer:
では「投げ」はどうでしょう。「ストIV」は投げがすごく強い技として設定されてますよね。これも意図的ですか?
小野氏:
当て投げ※が強いのは,結構意図的です。投げの存在って,一時期忘れられがちだったところがあるじゃないですか。
4Gamer:
当て投げが嫌われたので,しゃがみガードを崩す方法が多様化しましたね。中段技※とか,小ジャンプとか。
小野氏:
でも僕は,投げはもっと使ってほしかったんです。だからなるべく初級編,入門編の頃は意識して投げを使ってもらいたくて,強く設定してあります。
4Gamer:
でもある意味,当て投げが初心者キラーになっている側面もあるのでは?
小野氏:
当て投げに苦労している人って,きっと次の階段を登るか登らないかの瀬戸際にいる人だと思うんですよ。だからそこを何とか乗り越えてもらって,アーケードのプレイヤーがやっているように,バチン!バチン!って投げ抜け※を連発するようなステージに進んでほしい。そういう意図もあります。
4Gamer:
なるほど。今は「ストII」と違って投げ抜けがありますから,事情は違うと。そこは読み合ってほしいわけですね。となるとシステム的な変更はほとんど無いと考えてよさそうですね。
小野氏:
基本的に僕はゲームの根幹部分=ルールブックをいじらない方針なので。せっかく15,6年ぶりに新作が出て,新しいルールブックを覚えてもらったところで,システム的に大きく変えるってことは無いですね。
4Gamer:
分かりました。ではその他に一押しの部分などは? ネットワークモードがウリだというのは先のインタビューでも伺いましたが。
小野氏:
「トライアルモード」※が見所です。前回とは違うものが沢山入っているので。前回もなかなか難しかったんですが,今回もいい問題が揃ってます。
4Gamer:
でもあのコンボ,難しい割に実戦ではあんまり役に立たなかったような……。
小野氏:
そんな声にお答えして,今回はひと味違います。実戦的なコンボが中心になってます。
4Gamer:
あぁ,それはうれしいですね。キャラ対策※の研究にも有用そうです。そういえば,発売後に「トーナメントモード」が追加されるということですが,こちらは?
小野氏:
これは前回の「チャンピオンシップモード」※みたいに,「ランクマッチ」を二分してしまうようなものではなく,ネットワークモードの第三の軸になるようなものを考えています。
4Gamer:
確かに「チャンピオンシップモード」の時には,プレイヤーの偏りが問題になりましたね。
小野氏:
その反省を生かし,今回はBPを賭けた真剣勝負なら「ランクマッチ」,みんなでワイワイ楽しむなら「チームバトル」か「エンドレスバトル」と分けているんです。「トーナメントモード」はその次ですね。出来上がり次第,ご紹介できると思いますよ。
4Gamer:
鋭意開発中ってことですね。楽しみにしておきます。
「全国大会」で発表されたアーケード版,そしてどうなるPC版?
ではそろそろ,要望もかなり来ているであろうアーケード版についてお聞きしたいんですが……今の時点でなにかお話いただけることがあるでしょうか?
小野氏:
こちらは来週,4月4日の全国大会決勝で,開発が「決定しました」という発表をさせていただく予定です[1]。
4Gamer:
おお!
小野氏:
でも今のところ,一切何もできていませんから(笑)。だからみんなが半袖着てる時期とかには出ないですね。まさにこれから,さっきのトーナメントモードの制作が終わった後で,手をつけることになります。
4Gamer:
となると家庭用がかなり先行する形になるわけですね。そうすると今回は,コンシューマ版で鍛えた人達が,アーケードに流れていくことに?
小野氏:
それは期待してますね。今までの開発スタイルだと,アーケード基準で,アーケードのプレイヤー達のスキルで考えて,最終チューニングを加えた上で,コンシューマ版を出すって形でした。アーケード版でチューニングを変えるかどうかは,まだ決まってませんが,今回は逆に,コンシューマで対戦の楽しさを知った人達を,負けた人が百円玉を払い続ける修羅の世界へ誘うっていうね(笑)
4Gamer:
まさに名人戦の世界ですね。
小野氏:
もちろんアーケードのカプコンってことで,「ストIV」の盛り上げに一役買ってくれたオペレーターの皆さんにも報いたい気持ちもありますし。あと,こういうこと言うと偉そうって思われそうですが,やっぱりこう文化としてアーケードを残したい,守っていきたいというのは,感じています。
4Gamer:
アーケードもちろん気になるんですが,もうひとつ聞いておかなければならないことが。4GamerはPC版をプレイしている読者も多いんですが,今のところ音沙汰のないPC版のご予定は?
小野氏:
前作の実績を考えれば出すべきなんですが,まだ決定していないというのが現状です。決まってしまえば,元々そういう統合環境の中で作っていることもあり,割とすぐに出せるんですが。
4Gamer:
可能性はあるわけですね!
小野氏:
ただPC版を出すに当たって,Games for Windows※をどう絡めるのかというのは課題になります。結局前回はXbox 360との接続は実現できなかったので。そういった部分もあわせて,僕の個人の意見で言うと,アーケード版と一緒に出したい,という気持ちです。
4Gamer:
では,ニーズ的に難しいというわけではない?
小野氏:
はい。そういうわけではないです。だからPC版をお待ちいただいてる人は,ぜひカプコンまで要望を送ってください。流れが変わると思いますよ(笑)。
4Gamer:
これは期待しちゃいますね。ところで今回,ソフト自体がかなり低価格に設定されていますよね。この辺は何か理由があるんでしょうか。
小野氏:
作ってる僕らからすると,今回の「スパIV」は「V」に限りなく近い「4.9」という感覚なんですが,プレイヤーの皆さんが「なんでオンラインアップデートにしないんだ!」って思うのも無理からぬところがあるかな,と。
4Gamer:
コンシューマ版の「ストIV」から考えると,わずか1年で次が出ちゃうのか,と。
小野氏:
しかも「スーパー」っていういうのが,いかにもね。ならせめて価格のところでは,納得してもらえる形にしたいってことで,開発と営業で相談して,前作の半分というこの価格設定にさせてもらいました。
4Gamer:
本当にそれだけなんですか?
さらに言うと「ストIV」を出させてくれたプレイヤーの皆さんに,ちょっとおこがましいですが,感謝の気持ちは伝えておきたい。作らせてくれてありがとう,っていう。開発スタッフも決してリソースが潤沢なわけでなく,やっぱり儲けがないと次が作れない事情もあるんですが,その中でできる限りのことはやりましょう,と。ま,ここで言うできる限りっていうのは,せいぜい不眠不休くらいなものなんですけど(笑)
4Gamer:
不眠不休……。
小野氏:
あ,もう一つ,R35世代の人全員には,前作がまだ行き渡ってないんじゃないか,という理由もありますよ。その狙いの一環として,iPhone/iPod touch版を先日リリースさせてもらいました。「あ,ストIIの新しいやつ出てたんだ。俺が知らない間に4番目になってたのか」,そう気づいてもらえた時に,もう一回,買いやすい価格で出しておくってのは重要かなと。
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