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フロム・ソフトウェアってどんな会社ですか。プロデューサー鍋島俊文氏を通して見えた「ARMORED CORE V」を作れた理由
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印刷2012/01/25 11:29

インタビュー

フロム・ソフトウェアってどんな会社ですか。プロデューサー鍋島俊文氏を通して見えた「ARMORED CORE V」を作れた理由

 昨今,非常に厳しい市場環境にあると言われるゲーム業界。
 内を見れば,縮小再生産を叫ばれるコア向けの人気シリーズ群やマンネリ化の問題,外を見れば,スマートフォンやソーシャルゲームといった新興勢力の台頭。ゲーム業界が一つの節目に差し掛かっていることは,今更指摘することでもない。

画像集#016のサムネイル/フロム・ソフトウェアってどんな会社ですか。プロデューサー鍋島俊文氏を通して見えた「ARMORED CORE V」を作れた理由
 ところが,こうした状況をよそに,マニアックなゲーム制作に定評のあるフロム・ソフトウェアが最近絶好調だ。昨年発売された「DARK SOULS」は,新作タイトルとしては異例の国内売り上げ35万本を記録し,全世界の累計出荷本数に至っては150万本を突破。
 さらに,2012年1月26日に発売が迫る同社の人気シリーズ「ARMORED CORE V」PS3/Xbox 360)も,「受注だけで20万本に迫る」という人気ぶりだという。

 ここに来て大きな成功を収めているフロム・ソフトウェアという会社はいったいどんな組織で,なぜ成功を収め得たのだろう。

 今回4Gamerでは,その秘密を探るべく,現場を指揮しているプロデューサー,「ARMORED CORE V」の鍋島俊文氏と,「DARK SOULS」の宮崎英高氏のお二人に,「フロム・ソフトウェアという会社はどういう会社なのか」について聞いてみることにした。
 彼らが何を考え,何にこだわり,そしてどういった仕事の仕方をしているのか。お二人の話の中から,昨今,フロム・ソフトウェアが好調な理由を探っていければと思った次第だ。

 というわけで,まずは本稿で,新作「ARMORED CORE V」の発売を控えた鍋島氏へのインタビューから掲載する。長年「ARMORED CORE」シリーズを手がけてきた同氏から見た,フロム・ソフトウェアとは……?
 また,クローズドβテストの反響やオーバード・ウェポンのデザインの秘密,目指すところなど,「ARMORED CORE V」についてもいろいろ聞いてみたので,ファンはぜひ記事を読み進めていってほしい。

「ARMORED CORE V」プロデューサー 鍋島俊文氏
画像集#015のサムネイル/フロム・ソフトウェアってどんな会社ですか。プロデューサー鍋島俊文氏を通して見えた「ARMORED CORE V」を作れた理由

関連記事:「アーマード・コア」の名前を外すことも考えた――鍋島プロデューサーが語る「ARMORED CORE V」へかける覚悟

「ARMORED CORE V」公式サイト



4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。
 前回のインタビューでは,「ARMORED CORE V」(以下,ACV)の方向性や意気込みを中心にお話いただきましたが,今回はゲームについてお聞きする前に,「そもそもフロム・ソフトウェアはどんな会社なのか」という部分にテーマを置いて,お話をうかがえればと思います。

鍋島俊文氏(以下,鍋島氏):
 よろしくお願いします。うちの会社についてですか。うまく答えられるか分かりませんが,頑張ります。

4Gamer:
 ARMORED COREシリーズにせよ,「Demon's Souls」や「DARK SOULS」にせよ,フロム・ソフトウェアさんのゲームは,ほかの会社のゲームにはない,独特のカラーを持っていると思っています。そういうゲームを作っている会社にはどんな人達が集まっていて,どういった姿勢で制作しているのか,以前から気になっていました。

鍋島氏:
 どんな会社……うーん。普通の会社には見えませんか? 僕の場合,フロム・ソフトウェアに入ったのが15年前なんですけど,ここでしかゲームを作ったことがないので,ほかの会社と比べて云々,みたいなのはよく分からないんですよ。

4Gamer:
 少なくとも,ファンの皆さんは普通だとは思っていない気がします。良い意味でユニークな位置におられるといいますか。だからこそ,“フロム脳”なんて呼ばれる,熱のあるファンが多く付いているのだと思いますし。

鍋島氏:
 フロム・ソフトウェアはそもそも,最初からゲーム制作をメインに立ち上げられた会社ではないので,その時点で,ゲーム業界では変わっている会社ではあるんですけどね。例えば,今僕は私服を着ていますが,12〜3年前は,みんなスーツを着て仕事をしていたんですよ。

4Gamer:
 確かにPlayStation初期の頃のインタビューでも,スーツ姿で答えられていることが多かったですね。当時のゲーム業界ではそれがとても珍しく映ったので,よく覚えています。

鍋島氏:
 当時は,ゲーム関連以外の仕事をしている人がスーツを着て社内にいたので,同じ会社で私服の人がいるのもおかしいだろう,という話になったのです。その結果,スーツで統一していたところ,ゲーム業界の皆さんからは逆に珍しがられてましたね(笑)。

4Gamer:
 こういうインタビューのネタにもなりますしね(笑)。

鍋島氏:
 ははは,そうですね。あとは,他社さんや中途採用で入社してきた人に,「フロアが静かで驚いた」「真面目な感じがする」とはよく言われます。ただ,そこは他社さんと比べて,そんなに変わっているのかな?

4Gamer:
 真面目というのは納得してしまいます。なんというか,ゲームの作りに職人気質みたいな部分を感じますから。

鍋島氏:
 ずっと同じ会社で働いていると,変わっているという実感はないんですけどね。でも,周りから異口同音に「変わっている」とは言われているので,何かが違う会社なんだろうとは思います。
 ただ,いわゆる企業文化みたいなお話で言えば,以前は基本的に中途採用を行っていませんでした。今は積極的に採用するようになりましたが,社長のポリシーで,基本的に新卒だけを採用していました。

4Gamer:
 ポリシーですか?

画像集#018のサムネイル/フロム・ソフトウェアってどんな会社ですか。プロデューサー鍋島俊文氏を通して見えた「ARMORED CORE V」を作れた理由
鍋島氏:
 ゲーム作りって,とくに日本の場合は会社ごと,ひょっとしたらスタジオやチームごとにやり方が違いますよね。そのため,それぞれのやり方に凝り固まってしまって,一緒に仕事をしたときにそれが原因でうまくいかないことがあります。だったら,新卒の子を時間をかけて育てていって,“基本的な方向性”を共有できるスタッフで開発を進めましょう,というものでした。

4Gamer:
 なるほど。でも,一本筋が通ったようなゲームを作る場合は,確かにそういう環境が必要なのかも……。

鍋島氏:
 ただ,最近はそうも言ってられない事情もあって,中途採用もしていますけど。

4Gamer:
 新卒にせよ中途にせよ,「こういう人を採用したい」みたいな指針はあるんですか?

鍋島氏:
 僕はもともとプランナーなので,今でもプランナーの採用に立ち会っていますが,何年やっても人材の採用は難しいですね。プログラマーやグラフィッカーなら,最低限必要なスキルというのはあるので,多少は絞りこみやすいんですけどね。コードが書けない人や絵を描けない人を採用するわけにはいきませんから。

4Gamer:
 プランナーの場合は,「これがないとダメ」という必須スキルはありませんからね。

鍋島氏:
 そうなんですよ。あえて言うなら,地頭の良さや,伝えるべきことが一発で伝わるようなコミュニケーションスキルは重視しています。僕自身は採用に関わりませんでしたが,DARK SOULSの宮崎と一緒のチームで仕事をしたとき,「こいつは仕事できるな」と感じましたよ。

※宮崎氏はフロム・ソフトウェアに中途採用で入社している。

4Gamer:
 宮崎さんは,ゲームクリエイターの経歴としてはかなり異色ですから,端から見ていると,宮崎さんのような方がたった数年でプロデューサーまで任されてしまうという,フロム・ソフトウェアの組織のありようが,良い意味で結構な驚きといいますか……。

鍋島氏:
 あともう一つ,聞いて驚かれるのが,開発チームの人数が少ないことでしょうか。

4Gamer:
 それは,開発規模の割にはという意味ですか?

鍋島氏:
 はい。人数が少ない分,それぞれの負荷は大きくなりますが,これも先ほどの話と同じで,僕らは意識を共有できている人間で作りたいんですよ。

4Gamer:
 なるほど。昨今の大規模開発のゲームとはまた違う“持ち味”が生まれるのは,そういった意識の共有がうまくできているから,ということなのかもしれませんね。開発メンバーの方針がブレないから,“フロムらしさ”みたいなものが生まれているのかも……。


フロムのゲームを食べ物に例えると「ラーメン二郎」?


4Gamer:
 ところで,今回のACVには3年の開発期間が掛かっていますが,これだけ長い期間というのはシリーズ中でも異例ですよね。

鍋島氏:
 そうですね。最長です。

4Gamer:
 そこまで開発期間を長く取ることになったのは,会社の方針転換や社内の体制変更などがあったからなのでしょうか。

鍋島氏:
 社内の体制というより,ACの場合は方針がはっきりと変わったのです。ACはこれまで,平均すると1年に1本ぐらいのペースでタイトルを出してきましたが,長いこと続けてきた結果,近年はどうしてもマンネリ化していました。それはユーザーさんからよく言われていましたし,僕ら自身も認識していたことです。

4Gamer:
 常に変化を求められるのは,長く続いているシリーズの宿命ですよね。

鍋島氏:
 ええ,今までと同じような進化のさせ方ではそろそろヤバイな,と感じていたんですよね。そういう思いがあるなかで,タイミングよくバンダイナムコゲームスさんと一緒に仕事ができるという話が出てきて。これはチャンスだと思い,長期間に及ぶ大規模なゲーム開発に挑戦したのです。
 もう一つ,こちらは割と正直に言いますけど,これまではコンスタントに出していかないと「忘れられてしまう」という危機感があって,とにかくスピードを重視していたというのもあります。

画像集#004のサムネイル/フロム・ソフトウェアってどんな会社ですか。プロデューサー鍋島俊文氏を通して見えた「ARMORED CORE V」を作れた理由

4Gamer:
 忘れられてしまう?

鍋島氏:
 うちは大手のメーカーさんと違って,年に何十本も出せるような規模はありません。かといって,3年に1回しかタイトルが出ないとなると,フロム・ソフトウェアという会社自体を覚えてもらえませんから。

4Gamer:
 たしかに,これまでのACが数年に1本しか出てこないタイトルだとしたら,今のような「代表的なロボットゲームの一つ」として認識されることはなかったかもしれません。

鍋島氏:
 1作目を出した時も,その次の「アーマード・コア プロジェクトファンタズマ」を半年後にすぐ発売しましたからね。

4Gamer:
 今考えても,続編が半年後ってかなり無茶なスケジュールですよね。

鍋島氏:
 あれは非常に大きなチャレンジだったと思うんですよ。それまで出していた「キングスフィールド」とはジャンルがまったく違っていましたから。会社の規模も今よりずっと小さかったので,失敗は絶対にできません。1作目は評判も売り上げも良かったので,それをなにがなんでも盛り上げるために,2作目を必死で作っていたのを覚えています。

4Gamer:
 ただ,これは結果論かもしれませんが,今回のACVは,3年という期間が空いたことで,ユーザーの期待が逆にかなり高まったという雰囲気を感じているんです。もちろん,これまで1年に1本ペースで出してきた結果,フロム・ソフトウェアやACの認知度が一定以上の水準になっていたという,ベースがあってのことだとは思いますけど。

鍋島氏:
 空いた時間の分だけ期待が高まっているのは,僕も感じています。我々もこれまでにいろいろなことを試しているんですが,例えば,2009年にPSPへの移植版を3連発で出したことがありました。けれど,これはセールス的にはうまくいかなかったんです。1作目は好調だったものの,2作目,3作目が発売されるまでの期間が短かすぎて,盛り上がりには欠けてしまって。

4Gamer:
 そういえば,PSPの移植版は4か月に1本ぐらいのペースで出ていましたね。発売当時は「もう出たの!?」と思った覚えがあります。

鍋島氏:
 たぶんですけど,これは「さっき食べたばかりだから,もういいです」みたいな感じになってしまったんでしょう。遊んでくれた人に飢餓感がなかったといいますか。
 それに今の時代,コンシューマゲーム機でわざわざテレビを占領してゲームをするのなら,発売までの期間が短いことよりも,ある程度のボリューム感やクオリティが求められている,という側面もあるのだと思います。

4Gamer:
 変な例えで申し訳ないですけど,フロム・ソフトウェアのゲームって,食べ物に喩えるとしたら,どんなものだと思われますか?
 例えば,ソーシャルゲームや携帯電話向けのゲームなんかは,手軽という意味でカップラーメンみたいな感じだと思いますし,マリオやポケモンなどの本当にメジャーなタイトルは,パンやご飯みたいなイメージで。
 その点,フロム・ソフトウェアのゲームは……なんでしょうね。「たまに無性に食べたくなる何か」みたいなイメージなんですけど。

画像集#003のサムネイル/フロム・ソフトウェアってどんな会社ですか。プロデューサー鍋島俊文氏を通して見えた「ARMORED CORE V」を作れた理由
鍋島氏:
 なるほど……いや,そういう意味でいうなら,僕らはきっと「ラーメン二郎」みたいなポジションなんじゃないですか(笑)。

※関東にある,カルト的な人気を誇るラーメン屋

4Gamer:
 あー!(笑)

鍋島氏:
 ふと食べたくなって,寒い中でも,ラーメン屋の行列に並びにいくみたいな感じですよね(苦笑)。

4Gamer:
 なんか妙に納得してしまう喩えですよね。がっつり,こってりした感じがフロムゲーの持ち味なのかな。

鍋島氏:
 僕らが作るゲームはよく「変わってる」と言われるので,ものすごくポピュラーな料理ではないんでしょうね。DARK SOULSでも,宮崎が「激辛だけどうまい」みたいな例えをしていましたが,フロム・ソフトウェアのゲームは,「特定の人にものすごく需要がある」という形になっているのだと思いますよ。そういう意味では,やはりうちはちょっと変わった“専門店”なのでしょう。

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