連載
【山本一郎】リトアニアから愛を込めて。「アーセナル オブ デモクラシー」で,悲哀の小国を何とかしてみようと思ったら,こうなった
第四章:ソ連,襲来
「ソ連と戦争だ!」
史実に抗い,敢然と立ち上がるリトアニア。かっこ良すぎ。もちろん,考えているのは,アメリカからの援軍がやってくることを前提に,それまで一年間か,あるいはそれ以上の期間ず〜っと,ソ連の猛攻を耐え忍ぶことにある……たったの陸軍3個師団で。
なんといっても,アメリカはこれから軍隊を作るんだからな。一からアメリカ陸軍や海軍が建設され始めるのだよ。そこから,大西洋を隔てた遥かリトアニアまで援軍を送ってくるまでには,季節を一巡しなければならない。つまり,リトアニアが生き残るにはソ連の大軍を相手に要塞一丁で二年近く我慢しなければいけないのだ。
かくして,レニングラード攻防戦なんかよりはるかに熱い,リトアニアの戦争が始まった。
ドイツ軍とルーマニア軍がウクライナ方面で順調にソ連を包囲殲滅している姿を見て,これはいけるんじゃないか感が漂い始め,ソ連のリトアニア包囲に穴ができることが多くなった。ドイツ軍の快進撃に便乗するならいまがチャンスではないのか。虎の子の3個師団のうち2個師団を出して,ソ連軍押し返しの反撃をチラチラッと開始。
さらにアメリカからエアボーン部隊が次々に到着。どうやって来たのか不明だけど,すげぇ数の戦術爆撃機などがやってきて,支援体制が充実していく。
またたく間にソ連に奪われていた旧領を回復したばかりか,なけなしの金と資源でアメリカから買い取った歩兵部隊の補充がそこそこ進んだので戦線へ投入。旧ラトビア領まで踏み込んで,一部領土を確保する。ここへ念願のアメリカ軍上陸部隊第一陣が4個師団ほどやってきたので,これらと連動し,えっさほいさとレニングラード近辺までソ連軍を押し返す。おお,予想を超えた大戦果だ! やった,やったぞ,リトアニア!
アメリカ軍による圧倒的な空軍支援に恵まれ,ソ連領ミンスクまで占領したところで,おもむろにソ連と和平交渉。まあ,小国救済仕様の入ったMODだから願える講和ではありますが,いつまでもアホみたいな物量を誇るソ連と戦争を続けられるはずもない。4%とか鼻クソみたいな成功率にかけてみたら,講和が一発で見事成立し,リトアニアはラトビア領を含むバルト諸国の一部を有する中堅国家まで成長した。我ながら,これは凄い。今日が戦勝記念日だ。おめでとう,リトアニアの国民諸君。ありがとう,アメリカの皆さん。リトアニアはこんなに立派になりました。
ドイツ軍がソ連に打撃を与えているのを尻目に,火事場泥棒的にリトアニアは旧領を回復,ついでにマジルベ半島でソ連軍を包囲して解体するなどの戦果を挙げる |
しかし,頭数が揃っているソ連はやっぱり強い。押したり退いたりしながら,ドイツ軍がソ連を撃破するタイミングを図り,リトアニア領を拡大していく |
ただし,たかが4年間の独立を守るための戦いで,リトアニアに残ったダメージは計り知れなかった。それは,必要な犠牲であったかもしれないが,もはや兵士の補充が続かないほどにマンパワーをすり減らしてしまったのである。
当面の苦境を脱したとしても,リトアニアには次の戦争に見舞われたときに戦い抜くだけの余力は残されていない。広がった領土を守るための軍隊も,当初からいた3個師団が疲弊した状態のまま残っているだけで,前線に配置できるだけの部隊もいない。アメリカから買い取った守備兵部隊もほとんど補充されないままになっており,まあ,ひと押しされたら確実に壊滅するレベルだ。
しかも,戦争が終わったのでアメリカ人は帰ってしまう。これはヤバイ。ねえ。ちょっと。リトアニアは思案を巡らせる。何か方法はないだろうか。アメリカが,欧州に居続ける方法は。
……そうか,アメリカ人がヨーロッパにアメリカ人の土地を持てばよいのだ。それに気づいたリトアニアは,政策スライダーを民主から独裁へ,そ〜っと一個動かすのであった。
第五章:リトアニア,生き残るための陰謀
まず,リトアニアはドイツによって欧州を追い出されたベルギーに目をつけた。ベルギーはアフリカに首都を移して国力のほとんどを喪失していたが,ありあまる金を蓄えていたのだ。リトアニアは,何度かに分けて資源をベルギーに売り,わずかばかりとはいえ,マイナスになっていた国庫の回復に努める。
そして,諜報スライダーを引き上げ,スパイを送り込める閣僚を選ぶ。スパイの送り込みに+5%のボーナスを持つその閣僚は,開放社会っぽい手頃な欧州の国を探し,スウェーデンに白羽の矢を立てたのだ。
続々とスウェーデンに入国するリトアニアのスパイ達。目的は,世界的にスウェーデンの風評を落とし,宣戦布告しやすい状況を作るためだ。言ってみればステルスマーケティングだ。違うような気もするが。リトアニアがスウェーデンを攻めれば,同盟国たるアメリカも歩調を合わせて攻め込み,そして併合するだろう。かの地に星条旗がへんぽんと翻るわけだ。
一方,バルバロッサ作戦は風向きが変わってきていた。リトアニアがソ連との講和を終えた半年後ぐらいからドイツ軍がソ連軍の反撃を受けて崩れ始め,ベルリン目前までソ連軍が殺到するという事態に陥ったのだ。これはマズい。講和を終えたとはいえ,ソ連がこっちに矛先を向けなおしたら,リトアニアに明日はない。急いでスウェーデンのアメリカ化を促進しなければならない!
と言いつつ,リトアニアとドイツの国境付近のドイツ軍が手薄になっているのを見ると,どうしても流れ出るヨダレを押さえきれないのは人情かしら。ドイツ軍がいないってことは,もうその地域は要らないってことだよね。ね。メーメルぐらいは返してくれないかなあ。
ということで,どさくさまぎれに領土拡大のためにドイツに宣戦布告を敢行。ええ,こっちが悪いってことはよーく分かってます。でもね,取れるときに取っておかないとさ,ほら,いろいろあるじゃないですか。と,おもむろにドイツへと攻め込み,海に接するプロヴィンスを複数確保。こないだのお返しだ。
そしてドイツ軍は壊滅し,ついにドイツがソ連に降伏。ヒトラーは過去の歴史になり,ソ連の衛星国樹立ラッシュ到来だ。本来なら第二次世界大戦はこれで幕を引くはずだが,まだまだ続くよ戦争は! っていうか,ソ連がマジ強い。オーバーキルというか,連合国が入るスキもないぐらい。ドイツを滅ぼし,返す刀で欧州全体を共産化の波に巻き込んでしまった。
ぼやぼやしている暇はない。ドイツ領をちょっと食って領土が増えたリトアニアは,諜報活動の結果として好戦性が上がったスウェーデンに宣戦布告だ。ええ,もう,どーんと。おまえに宣戦布告する資格があるの? と問い詰められても,スウェーデンに何の罪があるのか真摯に訊かれても,そこにスウェーデンがあるからとしか答えられない。これこそ,冷酷非情な国際政治の醍醐味というやつだ。
ドイツに宣戦布告し,敵のいないドイツ領を奪取しようとするリトアニア軍。これこそ火事場……。なお,守備隊が増えているように見えるが,アメリカ軍からの払い下げのため定員は充足されておらず,ストレングスはほぼ0の状態 |
そして,あっという間にアメリカに駆逐され,占領されるスウェーデン。ごめん。ほんと悪かった |
ほぼ時を同じくしてソ連が日本に宣戦布告。あらまあ。極東では,日本はいまだに中国国民党と組み合って,一進一退の攻防を繰り広げているが,アメリカはすでにリトアニアと組んでソ連と戦争していたため,真珠湾のイベントは発生せず,おそらく日本はアメリカからせっせと石油を輸入し続けているものと思われる。つまり,日本はリトアニアの味方ということだ。
欧州戦線を片付けたソ連が,極東日本を屈服させる可能性が高まり,ユーラシアはまさにスターリニズムの深淵に墜ちようかという瀬戸際の状況になってきた。ええい,アメリカ召喚! スウェーデンを占領しておしまい! ということでスウェーデンに宣戦布告をぽちっとな。
突然の奇襲を受けたスウェーデンは,数と質の暴力を誇るアメリカ軍に大挙上陸され,爆撃され,完膚なきまでにボコボコにされて,講和の声を上げる間もなく光の速さで壊滅してアメリカに併合された。すまない,スウェーデン。こうするしかなかったんだ。たぶん。
さらに,ソ連から独立した衛星国ポーランドへ宣戦布告するリトアニア。もちろん,かつての同君連合ポーランドを回復するため,全力で戦争させていただきますとも。まあ,主力で戦うのは一応リトアニアなのだが,スウェーデンを占領したアメリカ軍によるシャレにならない物量の爆撃機に助けられ,新生したばかりのポーランド軍が木っ端微塵にされてゆく。かわいそうなポーランド。いま解放してあげるから。
第六章:リトアニア,栄光からの凋落
その頃極東では,予想どおり中国国民党との抗争に明け暮れていた日本の横腹を突く形で,ソ連軍が日本と満州に殺到。文字どおり破壊的な突破力で満州を蹂躙し,あっという間に赤化して併合した。しかも途中で,中国国民党やチベット,ネパールなどどう考えても無関係な周辺諸国にも宣戦布告し,これも併合。共産化の波がアジアを飲み込んでゆく。
チェコスロバキアに宣戦布告したと同時に,チェコスロバキア軍の頭上から爆弾の雨を降らせる。奇襲攻撃,もうしわけない |
チェコスロバキア併合。下のハンガリーとリトアニアの国の色が被ってて分かりにくいけど,おそらくリトアニアがこんなに成長するとはゲームデザイナーも思ってなかっただろう |
この時点で,すでにソ連の工業力はアメリカをはるかに凌ぎ,欧州やアジアの戦いで経験を積んだソ連軍の前に立ち塞がれる国はない。欧州を中心とする世界は,ソ連に組み込まれたも同然だ。そう,リトアニアとデンマーク,ノルウェー以外は。
ソ連が日本を破ったあとは,確実にリトアニアに攻めてくる。なにしろ,ソ連の侵攻に唯一抵抗し講和に持ち込んだ国,それがリトアニアであり,近い将来,必ずソ連はリトアニアへの復讐を果たそうとするだろう。その日のために,リトアニアにできることは何か? リトアニアに,対ソ戦の準備をする時間は残されているのか?
必死で考えを巡らせつつ,ソ連から独立したものの同盟を結んでいないギリシアとの関係を強化していたら,驚愕の一報が飛び込んできた。
「アメリカが,ソ連に宣戦布告しました!」
「同盟国であるリトアニアもソ連と戦争です」
待て! 待て待て待て待て! 奇襲なの? やるならやるでひと言教えてくださいよ! 私ら何も準備してないじゃないですか! リトアニアはアメリカの同盟国っすよ。自動的にソ連と戦争じゃないですか。正面のソ連だけじゃなくて,背後には東ドイツが無傷で残ってるんですけど。挟まれてるんですけど。前も後ろも敵なんですけど。ここまでなんとかやってきたのに,死んじゃう! リトアニア死んじゃう!
もちろん,ディスプレイの前で,不肖,この私,絶叫しました。この一連のプレイの最中に39歳の誕生日を迎えた私ですが,ええ,いい歳して叫びましたとも。「まーじーでー!!」とか言っちゃったし。いやあ,いくつになってもストラテジーゲームはいいもんだ。
ある種の逆奇襲が決まった形になり,不十分な体制でソ連軍と戦うことになったリトアニアに未来はあるのか? 何度プレイしても,リトアニアはなんともならないのか?
最終章:哀愁のリトアニアと,世界を支配する大帝国の誕生
突然のアメリカの宣戦布告にも動じず,まるで知っていたかのようにリトアニアへ攻め込むソ連軍。ソ連はずっと対リトアニア感情が悪く,国境線に分厚く軍隊を貼り付けたままだった。そのため,補充が満足でない防衛隊や,最新式だけど兵員の補充が終わっていない師団,あるいは軍隊そのものがいない前線プロヴィンスがあるというこちらの防衛事情がすっかりバレていたのだろう。
持ちこたえられず,西部ドイツ方面戦線は完全に崩壊。もはや首都カウナスまでフリーラン状態。再編成して迎え撃とうにも全軍をソ連との防衛に入れており予備兵も遊軍もございません |
後背地が完全に占領され,前線が完全に孤立して各個殲滅されそうな危険な事態に。なお,本作では敵と隣接していると再配備ができないというステキ仕様になっている |
1936年の開始以来,ずっとリトアニアの最前線で苦楽を共にしてきた3個師団も首都近郊の野戦で包囲され,2個師団が撤退できずに壊滅した。最後にわずかに生き残った部隊も激しい戦闘で消耗し,ぼろ布のように破壊されて後退。補充らしい補充も受けられないまま敗走を重ねる。
対ソ前線には機動力のない守備隊をメインに防衛線を構築していたため,一か所突破されると,機動戦力で包囲され,十字砲火で損害を出して継戦能力を失い,やがて総崩れになる。前のバージョンなら再編成で逃がせたのに,今回はそれもできない。
戦乱の続いたこの15年間,リトアニアが営々と積み上げてきた領土も国民もあっという間になくなり,もはや首都カウナスといくつかのプロヴィンスが最終防衛として残るのみだ。前回とは異なり,包囲されたらもう要塞と疲弊した部隊だけでは守り切れない。
一方,こちらの意表を突いてソ連に宣戦を布告したアメリカは破竹の勢いで進撃し,気づけばモスクワに迫ろうとしている。作戦開始後わずか二週間程度でソ連の傀儡フィンランドを併合。さらに西欧ではオランダに強襲上陸をかけ,ベネルクス地域や旧フランス領を根こそぎ回収する。アメリカ,強すぎ。
さらに,インドを奪われて欧州本土に上陸もできず,手も足も出なかったイギリスは,パルチザンの手を借りてイタリア半島に上陸し,これを確保した。ついでにインドへの上陸作戦にも成功して,ようやくロイヤルネイビーらしい動きを見せるようになってきた。極東では,日本がアメリカの宣戦布告を待っていたかのように反攻に転じ,領土を回復していく。頂点を極めたソ連が,転がり落ちるように各地で敗北を重ねているのだ。
アメリカが赤軍を圧倒するの巻。西欧でもアメリカ軍が上陸に成功,一気にモスクワを陥落させそうな勢い。なんだこれ? |
極東では,日本がソ連への反撃に成功。ソ連のパルチザン祭りに乗じて国勢を回復しているように見える。見える,明日が見えるぞ! |
ついに,リトアニアにも再び春がやってきた。モスクワを奪取したアメリカが,いやアメリカ様が「ついでに」リトアニア周辺のソ連軍やドイツ軍を一掃しにきたのだ。それも,あっという間に,ものの3週間足らずで全リトアニア領を回復したのである。まあ,どさくさまぎれにソ連領を奪取するなど,リトアニア軍も最後の意地を見せたけどさ。
この状況を見て,どこかでアメリカ様の攻勢が止まったときのために,機甲師団の建設でもしておこうと思ったのだが,あんた達の助力など不要とばかりに単独でシベリアダッシュを敢行し,またたく間に大陸の反対側の日本とご対面するアメリカ様。今までの,あの強大なソ連とはいったい何だったのか。恐るべし。偉大すぎるぞアメリカ様。
イギリスがインドを回復。もはやソ連は風前の灯。ゲーム終了へ向けて猛奪取が続く |
アメリカ様が,ソ連の全領土を回収してソ連を併合。勝った…… |
そして,世界の終わりは突然やってくる。ここで不正終了が立て続けに発生し,ゲームの続行が困難になってしまったのだ。まあ,放っておいても,1964年まではずっとこのままであったとは思うけど,途中で断念する形になってしまったのはちょっともったいない。だがしかし,世界に冠たるアメリカ帝国の唯一にして無二の同盟国であるリトアニアは,ポーランドと共にさらなる発展を遂げたに違いない。
やればできるじゃないか,リトアニア。一時はどうなることかと思ったけど,最高に楽しいプレイでありました。リトアニア万歳!
■■山本一郎■■ 言わずと知れた著名ブロガーで,その鋭い観察眼と論理的な文章力には定評がある。が,身も蓋もない業界話にはもっと定評がある。ゲーマーとしても知られており,時間が無いと言いつつも,膨大に時間を浪費するシミュレーションゲームを愛して止まない。先日,仕事でロシアを訪れていたという山本氏だが,「極寒の地にいて暇だから,なんか面白いブラウザゲームでも教えてください」と無茶振りしてきたことは記憶に新しい。まぁ結局,Steamを立ち上げて「Arsenal of Democracy」を遊んでいたようですけど。ちなみに当編集部に在籍している松本は,旧ソ連時代の末期(ソ連が崩壊する直前だ)にかの地を訪れたという強者。なんでも「入国するとき,普通に賄賂を要求された」など,面白げな逸話に事欠かないわけだが,当人に「なんでそんな時期にソ連へ?」と聞いたところ,「いや,覚えていない」と返されてしまった。……まぁ,人生のどこで危険を冒すかは人それぞれだとは思います。 |
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アーセナル オブ デモクラシー【完全日本語版】
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