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日本ファルコムのゲーム作りの哲学とは?――近藤季洋氏に聞いた「英雄伝説 零の軌跡」に込めた思い
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印刷2010/09/30 00:00

インタビュー

日本ファルコムのゲーム作りの哲学とは?――近藤季洋氏に聞いた「英雄伝説 零の軌跡」に込めた思い

ファルコムの開発体制とゲーム市場について


4Gamer:
 ちょっと零の軌跡の話題からは外れますが……,ファルコムの開発体制って一体どうなっているのですか? いつも非常に質の高い作品を出されるので,昔から気になっていたんです。実はあまり表に出てきませんし。

画像集#006のサムネイル/日本ファルコムのゲーム作りの哲学とは?――近藤季洋氏に聞いた「英雄伝説 零の軌跡」に込めた思い
近藤氏:
 いやぁ,ウチは小さな会社ですから……。そんな特殊なことはしてないと思いますが。

4Gamer:
 現在,会社の規模的にはどのくらいなんでしたっけ。

近藤氏:
 開発から広報から全員を含めても50人くらいですね。開発ラインは,常時5本くらいが動いている感じで。

4Gamer:
 50人で5ラインですか。それは小さい企画とか含めて,いくつも兼務しているような形ですか?

近藤氏:
 はい。やっぱり何か光ったものがある人には,いろいろやってほしいですから(笑)。どうしてもそうなっちゃいますよね。多い時では,8ラインくらい並行で動いていた時期もあります。

4Gamer:
 でもファルコムさんって,外注を使ったりという話をあまり聞いたことがありません。50人でそんなに複数の開発ラインを回せるものなんですか?

近藤氏:
 ウチは完全に内製ですね。開発が佳境になると,やっぱり「外注を使いたい」って話も出るんですけど,外注は外注で管理が大変だと思いますし,そこは我慢して全部内部で作っています。むしろ私から見ると,外部の会社さんを使って上手く回しているゲームメーカーさんの方が凄いなと思ってしまいますが,そこは企業文化なんですかね。

4Gamer:
 企業文化かもしれませんね。ただ,企業文化という意味ですと,ファルコムさんはずっとPCゲームをメインでやってこられて,コンシューマ機に本格的にシフトしたのはここ最近のことですよね。そこの決断に至る過程や,それからの変化にはどういったものがあったのですか?

近藤氏:
 まずプレイヤー層でいえば,コンシューマ市場に主軸を移すことで,比較的若いプレイヤーの方が増えました。もちろん,PC-88時代以降ずっとファンでいてくださっている方がもいて。

日本ファルコムのオフィスに飾られているフィギュア達。イースの主人公「アドル」など,お馴染みのキャラクター達が勢揃いだ
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4Gamer:
 ビジネスという面ではどうですか?

近藤氏:
 会社の売り上げという意味では,PCやってた頃とトントンって感じですね。もちろん,PCゲーム全盛期の頃との比較は難しいですけれど,利益率とか単価という意味では,やっぱりPCだけでやっていた頃の方が良かったんですよ。コンシューマ市場に取り組みはじめて,売り上げ本数自体は増えましたが,ライセンス料やそのほか諸々の雑費がかかるようになって。そうした部分を差し引いて「トントン」というところです。

4Gamer:
 時代やマーケットの変化という意味で考えると,昨今のRPGというジャンルについてはどう考えますか?

近藤氏:
 これはまた,難しいテーマですね。おっしゃりたいのは「RPGがニッチ化しているのか」みたいな部分だとは思うんですけど。

4Gamer:
 世界のゲーム市場が大きく広がって,そこでアクションゲームなりが主流になっている中で,相対的にRPG(≒日本市場)がニッチ化しているという捉え方はできると思うんですよね。

近藤氏:
 確かにそういう側面はあるとは思います。ただ,そんな中でも,まだまだ“花形”だとは思うんですよ,RPGって。少なくとも国内で出ているタイトルを見ていても,やっぱりRPGは主流のジャンルですし,我々の一番得意な分野もそこです。

4Gamer:
 ちなみにファルコムさんは,海外市場や海外展開についてはどう考えているのですか?

近藤氏:
 これは僕個人の考えなんですど,海外展開を踏まえて,海外ものを意識したものを僕達が作るのって難しいと思うんですよ。海外のものを受け入れられる云々でいったら,現地の人が作ったものにはかなわないわけですし。

4Gamer:
 そうなんですよね。

近藤氏:
 だから,そこを無理矢理なんとかしようって思うよりは,まず身近な国内のところでキチンと受け止めてもらえるものを作るというところでやっていって,それが出来て初めて,その先に海外で展開していくってものがあるのが一番いいと思うんですね。

4Gamer:
 確かに。

近藤氏:
 小説にしろ絵画にしろ,世の中には“名作”と呼ばれるものが無数にありますよね。そういう名作っていうのは,恋人のためだったり家族のためだったり,そういった“身近な人のため”に書かれたものが広がっていくケースが多いと言います。僕らが目指すものも,そういったものに近いのではないかなと。

4Gamer:
 しかし一方で,よく「JRPGってこういうところがダメだ」みたいなことを海外で言われたりしますよね。

近藤氏:
 それは,JRPGが進化を止めたから言われているだけであって,またきちんとコンテンツを進化させていく手法を編み出しさえすれば,きっと活路はあると思うんですね。それを成し遂げた時に,また改めてJRPGが認めてもらえるんじゃないかと思うんです。我々ファルコムとしては,そこを目標として頑張っていきたい。JRPGが駄目だからといってシューターを作るというのは,それは僕らのやり方とそりが合わないわけで。それはそれで逃げなのかなとは思います。

画像集#060のサムネイル/日本ファルコムのゲーム作りの哲学とは?――近藤季洋氏に聞いた「英雄伝説 零の軌跡」に込めた思い


ファルコムのゲーム作りの哲学とは


4Gamer:
 最近話題のソーシャルゲームやブラウザゲームに関してはいかがでしょう? 今後,ファルコムとして取り組む予定などはあるのでしょうか。

近藤氏:
 今この場で具体的なお話はできませんけれど,時代や環境が変化している以上,何かしらの対応はせざるを得ないですよね。

4Gamer:
 ずっと同じではいられないですからね。ただ,その中でどう“ファルコムらしさ”みたいな物を残していくか,という議論だとは思うのですが。

近藤氏:
 ええ,まさにおっしゃるとおりで。何か新しいチャレンジが必要だとしても,ファルコムが創業からずっと守ってきた“エッセンス”は残していかないと駄目だろうとは考えているんです。

4Gamer:
 その意味では,“ファルコムらしさ”とはなんだとお考えですか?

画像集#008のサムネイル/日本ファルコムのゲーム作りの哲学とは?――近藤季洋氏に聞いた「英雄伝説 零の軌跡」に込めた思い
近藤氏:
 それはやっぱり,「キチンと作る」あるいは「丁寧に作る」というところだと思うんです。今,ファルコムを支持してくださる方っていうのは,そこに対して信頼を頂いていると思うんですよね。キチンとしたものを作って,世の中に出して,そしてそれを楽しんでもらうってところに尽きるのではないかと。ソーシャルゲームでもオンラインゲームでも,そこが疎かだと将来的には続かないと思うんです。

4Gamer:
 ただ,そういう意見がある一方で,言い方が悪いですが,非常に「シンプルなゲーム」でありながら大きな結果(売り上げ)を出しているものがあります。

近藤氏:
 まず経営者という視点で見れば,とても儲かっているという状況は,単純に「羨ましいな」というところはあるにはあります。ただ,その裏側にどういう努力や工夫があるのだろう? というところにも同時に関心があって。実は私も「怪盗ロワイヤル」を遊んでいるのですが,面白いと思うエッセンスの取捨選択が良くできているというか。そういう感想は抱いています。

4Gamer:
 うまく“つまんで”いるんですよね。

近藤氏:
 そうなんです。入力に対する結果の見せ方であったり,コミュニケーション要素であったり,古典的なゲームあるいはオンラインゲームが持つそれぞれの“面白さのエッセンス”だけを上手く抽出して,手のかからない形で提供しているんですよね。

4Gamer:
 ブラウザゲームなんかも同じような感じなんですよね。

近藤氏:
 よく企画書とかで「魅力的なキャラクター」みたいな売り言葉が出てくることがあるんですけど,それって実はもの凄く難しいことで。やっぱりそれなりのセンスを持って取り組んで,具体的に可愛いってなんだ?という追求や,それこそアイドルのプロデュースのような難しさと大変さが,そこにはあるわけです。

4Gamer:
 分かります。

近藤氏:
 「怪盗ロワイヤル」にしても,最初は正直「シンプルすぎてどうなのかな」って思っていたんです。クリックしたらすぐに結果が出るじゃないですか。あれにすごい違和感があったんですね。「YOU WIN!」って,計算の結果だけ跳ね返ってくるようなあの味気なさが,最初はなんとも受け入れがたかった(笑)。

4Gamer:
 でも,例えば食べ物の分野でいえば,高級料理もあれば,10円で買える駄菓子もあって。それはどちらが上か下かというものではなくて,単純にニーズやマーケットの違いでしかない。そう考えると……。

近藤氏:
 簡単な作りだからといって,バカにはできないですよ。本当に。

4Gamer:
 ソーシャルゲームはソーシャルゲームでいろいろな課題を抱えていると思いますが,見るべきところ/学ぶべきところも少なくない。

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近藤氏:
 僕は愛知県豊田市出身なんで,よく自動車の話に置き換えて物事を考えることが多いんですけれど,いわゆる従来のゲーム業界っていうのは,ずっとスポーツカーを作ってきたんだと思うんですよ。で,遊ぶ側もスポーツカーこそが車である/ゲームである,という流れの延長線で,なんとなく二十年ぐらい推移してしまった。

4Gamer:
 最近は,携帯電話しかりソーシャルゲームしかり,いろんな新興勢力が台頭してきましたよね。ニンテンドーDSやWiiのヒットにしても,ポイントは「ニーズの変化/多様化」ですし。

近藤氏:
 自動車で言えば,スポーツカーブームが一段落して,軽自動車やミニバン,あるいはSUV(Sport Utility Vehicle)なんかが出てきたってことだと思うんですよね。でもそれは,ゲーム業界が普通の産業になってきたことの裏返しで。今までが逆に異質であり過渡期だったんだと思うんです。だから,そうした変化に対する柔軟さや努力を,従来のゲーム業界が怠っていたという意識は持っています。

4Gamer:
 では改めて聞きますが,そんな時代の中で,ファルコムが目指す方向性とはなんでしょう。

近藤氏:
 繰り返しになりますけど,やっぱり「きちんと作る」に尽きますね。とくにウチは,ゲームの手触りや感触っていうのを凄く大事にしていて。単純に触っていて面白いって感じる部分にはこだわっています。

4Gamer:
 ゲームの手触りっていうと,ややもすると抽象的に聞こえますけど,そこをよりよくするためには具体的にどういう工程を踏まれるんですか。

近藤氏:
 手触りがよくない場合は,原因ははっきりしていて,例えば走ってる時の感触が悪いんであれば,グラフィックスのパターンが悪いか,プログラムのチューニングが甘いかのどっちかだけなんです。そしてそれって,言ってしまえば「努力すれば必ず正解に辿りつける」部分なんですよね。そこに対して「ちゃんとやる」っていうのが,ファルコムのやり方です。

4Gamer:
 料理で言うなら,スープを作るのに「丁寧にアクを取りましょう」みたいな話というか,そこがしっかりしているからファルコムのゲームは面白いのかな。

近藤氏:
 ファルコムってなんというか,凄いカリスマ的なクリエイターがいて,その人を中心にゲームを作ったりというわけではなくて,スタッフの一人一人が自分の持ち味を持ち寄って作っている側面が強いんです。各スタッフの良さは,もしかしたら「平均よりちょっといい」くらいかもしれないけど,そういった「ちょっといい」をかき集めて,他社さんにも負けないようなゲームを作るっていう。それがファルコムのゲームの作り方ですね。

4Gamer:
 うーん,興味深いです。さらっと言いますけど,結局はそれが一番難しいですよね。

近藤氏:
 うちみたいな会社があるほうが,業界的にも面白いと思うんですよね。だから,もっと頑張らないといけない。

4Gamer:
 先の食べ物の例え話に戻りますけど,ファルコムって食べ物屋さんで例えるなら,どういったイメージになるんでしょうか。老舗(しにせ)の饅頭屋とか有名ラーメン店みたいなイメージなんでしょうか。

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近藤氏:
 どうなんでしょう(笑)。でも,新しい物を追及する老舗でありたい,とは常々考えています。ゲームの作り方は,一枚一枚せんべいを焼いているみたいな形かもしれませんが。

4Gamer:
 「英雄伝説 零の軌跡」も,ファルコムらしい“丁寧さ”が感じられる仕上がりですよね。

近藤氏:
 はい。零の軌跡には,僕らが持っているものすべてを丹精込めて盛り込んだつもりです。英雄伝説ファンの方はもちろんですが,ぜひいろんな方に遊んでみてほしいですね。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。


 日本屈指の老舗ゲームメーカーとしてその名を知られ,そのゲーム制作能力には定評のある日本ファルコム。「イース」シリーズや「英雄伝説」シリーズなど,常に高いクオリティの作品を生み出す同社の秘訣はなんなのか。今回のインタビューでは,その秘密の一端を聞き出せればと考えていたのだが,そこにはなんの種も仕掛けもなく,ただ「丁寧に作る」という姿勢だけであった。しかし,それこそが最大の「秘訣」ということなのかもしれない。

 ちなみに今回のインタビューに先駆けて,「英雄伝説 零の軌跡」を開発版ROMで少し遊ばせてもらっていたのだが,本作は,そんな“日本ファルコムらしさ”が随所に感じられる作品だ。ゲームシステム,グラフィックス,サウンド,そしてストーリーが高い次元でまとめられており,オーソドックスなRPGとしては,ほとんど“完成形”と言って差し支えないのではないかと思えるほど。この秋に腰を据えて楽しむ一本として,是非注目してみてほしい。

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