レビュー
高付加価値路線のRTX 2080にはどれだけの魅力があるのか
MSI GeForce RTX 2080 GAMING X TRIO
2018年9月20日の「GeForce RTX 2080」(以下,RTX 2080)および「GeForce RTX 2080 Ti」(以下,RTX 2080 Ti)のデビューから約1か月半が経過し,主要なグラフィックスカードメーカーからはさまざまなモデルが市場投入されるに至っている。流通量,そして国内価格の両面でゲーマーの期待に応えられているとは言いがたいものの,少なくとも選択肢自体は増えてきていると言っていいだろう。
今回取り上げるMSI製のRTX 2080カード「GeForce RTX 2080 GAMING X TRIO」(以下,MSI 2080 GAMING X TRIO)は,そんな選択肢の中にあって,RTX 2080搭載の高級モデルという位置づけだ。
ではこのMSI 2080 GAMING X TRIOにゲーマーは何をどれくらい期待できるだろうか。ミニレビューでその実力に迫ってみたい。
RTX 2080 Tiの「GAMING X TRIO」モデルと同じ,巨大なGPUクーラーを搭載。カード長は30cm超級に
RTX 2080というプロセッサがどんな製品なのかはGPUレビュー記事を参照してもらうとして,さっそくMSI 2080 GAMING X TRIOのカードそのものを見ていこう。
さらに言えば,マザーボードへ差したときの垂直方向へ向かってブラケット部から実測約33mm(※突起部除く)もはみ出ているので,その外観は端的に述べて巨大だ。
付け加えると,搭載するファンが2種類の異なる羽を交互に組み合わせた「Torx Fan 3.0」(トルクスファン3.0)仕様になっていたり,GPU温度が60℃を下回ったときにファンの回転を止める機能「Zero Frozr」(ゼロフローザー)を採用していたり,付属アプリケーション「Mystic Light 3」(ミスティックライト3)からクーラー上に搭載するLEDの色や光り方を制御できたりする点も,MSI 2080 GAMING X TRIOとMSI 2080 Ti GAMING X TRIOとで完全に同じである。
搭載するファンはサイズにかかわらずTorx Fan 3.0仕様。途中からひねりを設けた羽で風圧を,2つの突起がある羽でエアの拡散力をそれぞれ高めているとMSIはアピールしている |
専用の統合アプリケーション「Dragon Center」にある「Tools」から,Zero Frozrの有効/無効を切り換えられる。標準では有効だ |
外部出力インタフェースも同じなので,唯一の違いは,MSI 2080 Ti GAMING X TRIOだと8ピン
外部出力インタフェースはDisplayPort 1.4a |
電源コネクタは8ピン×2。空きパターンのようなものは見えないため,基板デザインはMSI 2080 Ti GAMING X TRIOと異なるようだ |
ここで,MSI 2080 GAMING X TRIOの動作クロックを整理しておこう。
高級モデルという説明で察した読者も多いと思うが,本製品はメーカーレベルで動作クロックを引き上げた,いわゆるクロックアップ(Factory Overclocked)モデルである。
動作モードが「OC」「Performance」「Silent」と3つあり,前出のDragon Centerから切り換えられる点はMSI 2080 Ti GAMING X TRIOと同じ。また,現状のDragon Centerは「工場出荷時設定のPerformanceモード以外を利用するためには常駐させる必要があり,常駐させるとCPUリソースを消費する」不具合を抱えているところも同じだ。
3モードの動作クロックとテスト中のGPUコア最大クロック,Power Target(電力目標)は下にまとめたとおりだが,現時点ではPerformanceモード以外は使えないと判断すべきだろう。「性能がどの程度下がるか」は後述するが,MSIには早急な対策を求めたい。
- OCモード:GPUベース1530MHz,GPUブースト1875MHz,メモリ1.428GHz相当,Power Target 100%
- Performanceモード:GPUベース1515MHz,GPUブースト1860MHz,メモリ1.4GHz相当,Power Target 100%
- Silentモード:GPUベース1365MHz,GPUブースト1710MHz,メモリ1.4GHz相当,Power Target 100%
なお,後述するテスト環境において,テスト中の動作クロックをMSIのオーバークロックツール「Afterburner」(Version 4.6.0 Beta 9)で追ってみたところ,OCモードで1980MHz,Performanceモードで1965MHz,Silentモードで1815MHzまで,それぞれGPUコアクロックが上がっているのを確認できた。
付け加えると,Afterburnerを使えば,
- GPUコア電圧:動作モードごとの定格に対する増分を0〜100%の範囲で1刻み
- メモリクロック:−502〜+1000MHz相当の範囲を1刻み
- ファン回転数:25〜100%の範囲を1刻み
大型クーラーの下にはFounders Editionより充実した電源部あり
GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為である。それをお断りしつつ,今回はレビューのため特別に取り外し,GPUクーラーと基板をチェックしてみよう。
Tri Frozrクーラーを取り外したところ。写真右上部分のプレート形状が異なるものの,それ以外の仕様はMSI 2080 Ti GAMING X TRIOが搭載するものと同じようだ |
メモリチップ,そして外部インタフェース側に近い電源部用のヒートシンク兼補強板を外したところ。これで基板へアクセスできるようになる |
一方,基板デザインのほうはMSI 2080 GAMING X TRIO独自のものになっている。
Founders Editionとの比較を実施
テスト環境の構築に話を移したい。今回,比較対象にはRTX 2080 Founders Editionを用意した。要するに,クロックアップモデルであるMSI 2080 GAMING X TRIOが,Founders Editionに対してどれだけアドバンテージがあるかを確認しようというわけである。
用いたグラフィックスドライバは,テスト開始時の最新版となる「GeForce Hotfix Driver Version 416.64」。とくに断りのない限り,Windows 10の電源プランは最大性能を期待できる「高パフォーマンス」で統一する。
そのほかテスト環境は表のとおりだ。
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション22.1準拠。ただし,今回はミニレビューということで,「Far Cry 5」「Middle-earth: Shadow of War」「Project CARS 2」のテストは割愛している。
解像度はRTX 2080が4K環境を想定していることもあり,3840
Founders Editionとのスコア差は数%程度ながら,最小フレームレートで違いが出る傾向に
Dragon Centerを常駐させたうえで動作モードを変更すると性能が下がるという件については,「3DMark」(Version 2.6.6174)でOCモードを選択したときの結果を掲載することで説明する点と,グラフ中に限り,スペースの都合でMSI 2080 GAMING X TRIOを「MSI 2080 GX」と表記する点をお断りしつつ,その3DMarkから順にスコアを見ていこう。
グラフ1は「Fire Strike」における総合スコアをまとめたものだ。MSI 2080 GAMING X TRIOとRTX 2080 Founders Editionとのスコア差は「Fire Strike Ultimate」時に最大の約2%となった。これは,より描画負荷の低いテスト条件ではRTX 2080にとって負荷がそれほど大きくなく,MSI 2080 GAMING X TRIOが持つ「GPUコアクロックが高い」という優位性を発揮しにくいということなのだと思われる。
なお,OCモードはFire Strike“無印”でPerformanceモードを下回っているが,それ以外のテスト条件では約1%高いスコアを示した。
続いてグラフ2はそのFire Strikeから,GPUテストである「Graphics test」のスコアを抜き出したものだが,ほぼ総合スコアを踏襲する結果となっている。OCモードのスコアは全テスト条件でPerformanceモードを1〜2%程度上回った。
CPUテストである「Physics test」のスコアをグラフ3にまとめたが,テストではCPUが揃っているため,MSI 2080 GAMING X TRIOとRTX 2080 Founders Editionとでスコアに大きな違いは見られない。ただそれだけに,OCモードでPerformanceモード比約97%に留まり,「Dragon CenterによるCPUのリソース消費」がスコアから読み取れるのは気になるところだ。
GPUとCPU両方の性能がスコアに影響を及ぼす「Combined test」の結果をまとめたものがグラフ4だが,ここでもMSI 2080 GAMING X TRIOとRTX 2080 Founders Editionの位置関係は変わらない。両者のスコア差は最大でも約2%となっている。
OCモードはFire Strike“無印”においてCPUの影響が大きいようで,Performanceモード比で約85%にまでスコアを落としてしまった。
3DMarkのDirectX 12テストである「Time Spy」,その総合スコアがグラフ5だ。MSI 2080 GAMING X TRIOはRTX 2080 Founders Editionに対して約2%高いスコアを示している。Time Spyの描画負荷はFire Strikeより高いため,クロックアップ効果が出やすいということなのだろう。
OCモードはPerformanceモードに対して約1%高いスコアを示した。
Time SpyにおけるGPUテスト結果がグラフ6で,ここだとMSI 2080 GAMING X TRIOとRTX 2080 Founders Editionのスコア差は2〜3%程度へとわずかに開いたが,基本的には総合スコアを踏襲するものだと評していいだろう。
同じくTime SpyからCPUテストの結果を抜き出したものがグラフ7で,ここだとMSI 2080 GAMING X TRIOとRTX 2080 Founders Editionは横並び。OCモードだと若干スコアを落としている。
グラフ8〜10は「Overwatch」の結果になる。
ゲームの仕様上,300fpsがフレームレート上限となるため,1920
ベンチマークレギュレーション22.1でテスト方法を変更した「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」(以下,PUBG)の結果がグラフ11〜13となる。
MSI 2080 GAMING X TRIOは,RTX 2080 Founders Editionに平均フレームレートで2〜4%程度のスコア差を付けた。また,最小フレームレートだとRTX 2080 Founders Editionから4〜5%程度高い。これだけ違いが出れば惹かれる人もいるのではなかろうか。
グラフ14〜16は「Fortnite」の結果だが,ここでのMSI 2080 GAMING X TRIOとRTX 2080 Founders Editionとの平均フレームレート差は2〜4%程度。ただ,OverwatchやPUBGと同様,最小フレームレートだとギャップはやや広がって3〜5%程度になる。
動作クロックを引き上げてあるMSI 2080 GAMING X TRIOでは,より高いクロックで動作することがFounders Editionと比べて多くなり,その結果が最小フレームレートの向上につながっているのではなかろうか。
グラフ17は,「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」(以下,FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチ)のスコアをまとめたものとなる。
ここでは,CPUのボトルネックが近いためか,1920
そのFFXIV紅蓮のリベレーター ベンチにおける平均フレームレートと最小フレームレートの結果がグラフ18〜20だ。
平均フレームレートは,総合スコアを踏襲する形となっており,2560
FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチの最小フレームレートはCPU性能の影響を受けやすいため,スコアは並びつつあるが,3840×2160ドットのみ約12%の開きが見られた。
消費電力を見るに,クロックアップの代償は少なくない。GPUの冷却性能と静音性は良好
MSI 2080 GAMING X TRIOはクロックアップモデルであるため,消費電力の増加が懸念される。そこで,「4Gamer GPU Power Checker」(Version 1.1)を用いてFFXIV紅蓮のリベレーター ベンチ実行時におけるカード単体の消費電力を測定し,Founders Editionと比較してみることにした。
その結果がグラフ21となる。RTX 2080 Founders Editionだと350Wを超える場面が1回きりで,400Wに届くことはまったくないのに対し,MSI 2080 GAMING X TRIOは350W超を45回記録し,うち10回は400Wを超えてしまっている。MSI 2080 GAMING X TRIOの消費電力がFounders Editionをかなり上回ってしまっているのは明らかだ。
グラフ22は,グラフ21で得たデータの中央値を求めたものだが,両者の違いは34Wと,MSI 2080 GAMING X TRIOでクロックを引き上げた代償は消費電力の増大としてきっちり払わされている印象がある。
参考として,ログが取得可能なワットチェッカーである「Watts up? PRO」でシステム全体の最大消費電力も比較してみよう。
テストにあたっては,Windows 10の電源プランを標準の「バランス」に戻したうえで,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されるように設定。そして,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時,OSの起動後30分間放置した時点を「アイドル時」としている。
その結果がグラフ23だが,各アプリケーション実行時におけるMSI 2080 GAMING X TRIOとRTX 2080 Founders Editionとの差は14〜43W。ほぼグラフ22の結果を踏襲したと言っていいのではなかろうか。
GPUの温度もチェックしておきたい。ここでは室温を約24℃に保った環境で,システムをPCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態に置く。そのうえで,3DMarkを30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,「GPU-Z」(Version 2.14.0)からGPUの温度を取得した。
その結果をグラフ24に示す。MSI 2080 GAMING X TRIOとRTX 2080 Founders Editionでは温度センサーの位置が同じとは言い切れず,そもそも温度の制御法とGPUクーラーも異なるため,横並びの評価にあまり意味はない。それを踏まえて見てみると,MSI 2080 GAMING X TRIOは高負荷時でも65℃と,消費電力の割には低い温度を保てている。Tri Frozrクーラーは相応に高い冷却性能を持っていると言ってよさそうだ。
なお,アイドル時にMSI 2080 GAMING X TRIOのGPUの温度が高めなのは,Zero Frozr機能によってファンの回転が停止するためである。
Tri Frozrの動作音も確認しておきたい。今回は,カメラをカードと正対する形で30cm離した地点に置き,PCをアイドル状態で1分間放置した状態から,FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチを最高品質の3840
最初の1分間はファンが停止するため,聞こえるのは周りの環境音だ。ベンチマークを実行すると20秒(=ファイル冒頭から80秒)ほどでファンが回転を始めるが,面白いのは,画面左端の90mm角相当のファンだけ止まったままという点だろう。このファンはベンチマーク実行後40秒(=ファイル冒頭から100秒)を過ぎてからようやく回り始めているのだが,MSI 2080 Ti GAMING X TRIOだとこうした挙動は確認できていないので,MSI 2080 GAMING X TRIOではファンの制御方針を変えてある可能性が高そうだ。
ベンチマーク実行3分後(=ファイル冒頭から4分後)になるとファンの回転数は最大に達しているが,その動作音はMSI 2080 Ti GAMING X TRIOと大して変わらないレベル。ただ,MSI 2080 Ti GAMING X TRIOだとファンの風切り音に高い周波数のものが混じっている印象を受けたが,MSI 2080 GAMING X TRIOではそれがなかった。このあたりはファンの回転数制御方針の違いによると思われる。
コストパフォーマンス的に褒められないが,電源部とGPUクーラーは魅力的
とはいえ,Founders Editionと比べてゲームにおける最小フレームレート向上を期待できるという点や,しっかりした電源部,そしてカードの大きさがもたらす冷却性能および静音性の高さという魅力はある。
総じて,少なくとも現時点だと万人に勧められるものではないものの,ハードウェアレベルでの高い品質を求めるのであれば選択肢になり得る存在だろう。より多くのゲーマーに勧められるようになるためにも,MSIにはソフトウェアの早急な改善を求めたい。
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