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“イトケン”こと伊藤賢治氏と“ヒャダイン”こと前山田健一氏が初遭遇。音楽的ルーツからゲーム音楽について思うこと,そしてプロ論に至るまで語り合ってもらった
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印刷2011/08/20 00:00

企画記事

“イトケン”こと伊藤賢治氏と“ヒャダイン”こと前山田健一氏が初遭遇。音楽的ルーツからゲーム音楽について思うこと,そしてプロ論に至るまで語り合ってもらった

 昨年の夏,“ヒャダイン”こと前山田健一氏インタビューを掲載したことを,覚えている人はいるだろうか? そのインタビューの最中,前山田氏は「ゲーム音楽では,伊藤賢治さんの作品に最も影響を受けた」と語っていた。
 実はその段階で,前山田氏と,前山田氏が影響を受けたという伊藤賢治氏の対談を実現できないものかと考えていたのだが,当時の前山田氏はそんなネタ振りに対し「いやいや,そんなの恐れ多いです」と即答。一度は胸の奥にしまっていた。

前山田健一氏
1980年生まれ。作曲家,作詞家,編曲家,歌手。自身曰く「鳴かず飛ばずの時代」(2007年〜)に,ヒャダイン名義でゲームのアレンジ曲をニコニコ動画で発表し,話題を呼ぶ。2010年5月に,ヒャダインがプロであることを告白。東方神起,月島きらり starring 久住小春,麻生夏子,ゆいかおり,ももいろクローバー(Z),私立恵比寿中学などの楽曲を手がけている。本年4月にはヒャダイン名義で歌手デビューも果たした
伊藤賢治氏
1968年生まれ。作曲家,ピアニスト。1990年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)入社。「ファイナルファンタジー外伝 聖剣伝説」「ロマンシング サ・ガ」シリーズ,「サガ フロンティア」などの音楽を担当。2001年に独立してフリーに。いわゆる“イトケン節”に心を震わされたゲーマーは数多い。最近では,「デビルサバイバー2」(アトラス)の音楽を手がけているほか,ライブ活動なども行っている
画像集#001のサムネイル/“イトケン”こと伊藤賢治氏と“ヒャダイン”こと前山田健一氏が初遭遇。音楽的ルーツからゲーム音楽について思うこと,そしてプロ論に至るまで語り合ってもらった

 約1年の月日が経過。前山田氏は,相も変わらず作曲家,作詞家,編曲家としても多方面にわたって活躍しているのみならず,4月にはテレビアニメ「日常」の主題歌,「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」で,歌手としてもメジャーデビューを果たした。
 一方の伊藤氏も,5月にTwitterでファンからの問いかけに対し「機会があれば、(前山田氏と)何かやりたい」と発言していた。
 前山田氏の環境も変わり,さらに伊藤氏の視界に前山田氏が入っていることが明らかになったからには,あらためて対談の企画を進めてみたい。誰に頼まれたわけでもない使命感に駆られ,お二人にコンタクトを取ってみたところ,「ぜひ!」とのお返事をいただくことができた。

 そして実現したのが,今回の対談である。初対面となるお二人だったが,音楽的ルーツ,ゲーム音楽に対する思いなど,約2時間の対談は最初から最後まで途切れることのない言葉の応酬に明け暮れた。その模様を,ほぼノーカットでここにお届けしよう。ゲーム以外のキーワードについては,主観バリバリの用語集も用意したので,そちらもぜひご覧いただきたい。


表方をやるようになって叩かれた前山田氏と

叩かれ慣れている伊藤氏


4Gamer:
 本日はよろしくお願いいたします。
 昨年,前山田氏にインタビューをさせていただいたとき,「ゲーム音楽で最も影響を受けたのが伊藤賢治さんの作品」ということをうかがいました。

前山田健一氏(以下,前山田氏):
 いやもう,本当にそうなんですよ。だから今日はお目にかかれて嬉しいです。しかも伊藤さんと同じ音楽家として話せるのは,もの凄い誉れですね。これまでやってきて良かったです。よろしくお願いします。

伊藤賢治氏(以下,伊藤氏):
 それは光栄です。こちらこそ,よろしくお願いします。

4Gamer:
 早速ですが,前山田さんにうかがいたいことがあります。これまで作詞家,作曲家として,いわば裏方としての活動がメインでしたが,今年の4月に歌手としてメジャーデビューを果たしましたよね。それによって何か変わったことはありますか?

画像集#003のサムネイル/“イトケン”こと伊藤賢治氏と“ヒャダイン”こと前山田健一氏が初遭遇。音楽的ルーツからゲーム音楽について思うこと,そしてプロ論に至るまで語り合ってもらった
前山田氏:
 そうですねぇ。いろいろと環境が変わって,せわしない感じになってきたのは確かですね。
 それと,表方をやるようになって,叩かれる回数が増えたのも変わったことでしょうか(笑)。

4Gamer:
 やっぱり叩かれるとこたえますよね。

前山田氏:
 なので,最近はなるべくそういうものを目に入れないようにしています。どうしても見えちゃうんですけどね。何だか僕が一部関わっているだけのものでも,全責任が僕にあるかのようなことを言われたりもしますし(笑)。

伊藤氏:
 存在が見えやすい分,怒りの矛先になりやすいんでしょうね。

4Gamer:
 ほかの裏方よりも目立っている,というのは確かでしょうし。

前山田氏:
 そうなんですよね。だから気にしないことにはしているんですが(笑)。ただ,その代わりってわけじゃないですけど,アニサマ(※1)をはじめ,ライブにも出させていただけるようになったのは,凄く光栄ですし,嬉しいことです。
 ……という変化がありましたね,ここ1年ぐらいで。

4Gamer:
 例えば表に出ることによって,発見したことなどはありますか?

前山田氏:
 表に出る人のたいへんさは分かりました。みんなよくやってるんだなぁっていうのは,あらためて思いましたね。

4Gamer:
 いきなりちょっとしんどい話題になりましたが,伊藤さんはご自身で作られた楽曲に対して,叩かれたりした場合はどういう風に対処してきましたか?

伊藤氏:
 僕らの場合は,叩かれてナンボみたいなところがあるんですよ。だから,どんな叩かれ方であっても,ちゃんと向き合ってきましたね。

前山田氏:
 ええっ,メンタル強いですね!

画像集#004のサムネイル/“イトケン”こと伊藤賢治氏と“ヒャダイン”こと前山田健一氏が初遭遇。音楽的ルーツからゲーム音楽について思うこと,そしてプロ論に至るまで語り合ってもらった
伊藤氏:
 いえいえ,強くなったんですよ。元々はこんな性格じゃなかったんですけど(笑)。
 スクウェアの頃は,会社の看板を背負っている部分もありましたし,会社がマスキングしてくれる部分もあったんで,ある意味では助かっていたんです。でもフリーになると,自分自身がメインの看板になるわけだから,覚悟しないとな,と思ってやってきました。
 まあ,小さい頃はいじめられっ子だったんで,そういう耐性は元からついていたんでしょうね。だからそれに対して,負けるものか! みたいなところはあります。

前山田氏:
 叩かれても,それをエネルギーにしてやるみたいな感じですね。それは僕もあります。
 逆に褒められ続けているときって,いい曲ができないんです。むしろ,何かへこんだりしたときとか,イヤな思いをさせられたときのほうが,「見返してやるんだ」みたいな気持ちが出て,いい曲ができたりするんです。そういう負のエネルギー,負のガソリンは使いますね。そこはもしかしたら,伊藤さんと共通しているのかもしれません。

伊藤氏:
 明るい気持ちより負のエネルギーのほうが,原動力としては強いんですよね。

前山田氏:
 そうなんですよ。体にはあんまり良くないかもしれないんですけど。

伊藤氏:
 でも,負のエネルギーでいいものができても,「お前ら見たか!」みたいな気持ちにはならなくて,「よし,できた!」っていう感じで自己満足しちゃうんですよね。

前山田氏:
 分かります。当初の見返してやろうという目的は,いいものが仕上がると忘れちゃうんです(笑)。

4Gamer:
 どこか反骨心みたいなものがないと,しんどい思いをしてまでものを作っていこうという気持ちにはなりにくいんですね。

前山田氏:
 そうなんです。やっぱり,この野郎! っていう気持ちがないと。
 でも実は,褒められも叩かれもしない状態が一番きついんです。叩かれているほうが,話題になっているということですから,まだマシなのかなって。

4Gamer:
 何かを作っていくうえで,反応がないというのは寂しいものですよね。

前山田氏:
 ええ。好きな言葉に,マザー・テレサの「好きの反対は無関心」というのがあるんですが,好きの反対は嫌いじゃないんですよ。

4Gamer:
 物作りだけじゃなく,身近な人間関係でもそれは当てはまりますよね……。ともあれ,表に出て叩かれるという経験は,裏方としてのお仕事にも生きるものなんでしょうか?

画像集#005のサムネイル/“イトケン”こと伊藤賢治氏と“ヒャダイン”こと前山田健一氏が初遭遇。音楽的ルーツからゲーム音楽について思うこと,そしてプロ論に至るまで語り合ってもらった
前山田氏:
 そうですねぇ……。ん〜,そんなに変わらないですね(笑)。制作スピードも変わってないですし,叩かれたからといって妥協しようとも媚びようとも思わないですし。
 好きな言葉ばっかりで申し訳ないんですけど,中島みゆきさんの「宙舟(そらふね)」という歌の歌詞に,「おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールをまかせるな」という一節があるんです。僕のことを叩く人に,僕の主導権を渡さなきゃいけない理由なんてないんですよ。だから,時には傷ついたりしながらも,マイペースでいこうと思っています。

4Gamer:
 でも傷つくことは傷つくんですよね? では,なぜそれでも曲を作り続けようと思うんですか?

前山田氏:
 それは単に,曲を作るのが大好きだからです。

伊藤氏:
 ああ,前山田さんは先天的にそういう部分があるんですね。

前山田氏:
 そうなんでしょうね。作曲家の友達に聞いていると,はっきり2パターンに分かれるんですよ。曲を作るのが大好きで,とにかく早く仕上げるタイプと,自分が作った曲に納得できてなくて,毎回葛藤しながら長い時間をかけるタイプに。
 僕は前者なんですけど,伊藤さんはどちらのタイプですか?

伊藤氏:
 僕の場合は……そうだなぁ,どちらのタイプでもあるし,どちらのタイプでもないかもしれません。というのも,もともとは曲を早く仕上げることを強いられてきた側で,それに応えてきたとも思うんです。
 でも,キャリアを積んでいろいろな方法を知ったことで,迷いが出るようにはなりました。こっちもいいけど,あっちもあるよね? みたいに。そうやって迷いながら作業する時間が2倍,3倍になってきたので,トータルでの判断も遅くなるようにはなったかなと。

前山田氏:
 それは選択肢が増えたからこその悩みですよね。僕に言わせれば,贅沢です(笑)。僕は今,自分ができることの幅が伊藤さんほど広くないので,悩むまでもないのかもしれないです。
 ……でもそうですよね,キャリアを積んでいくことで自分の中の引き出しが多くなっていったら,どの引き出しを使うべきかというのが難しくなるんでしょうね。

伊藤氏:
 そうなんです。それに,どの引き出しも好きだからこそ,悩んでしまうんです。その中から一つを選択するときに,本当にそれで大丈夫か? って。これは若い頃にはなかった悩みです(笑)。


自分が作る曲が好き

だから,自分の曲で泣くことも


4Gamer:
 お二人とも,多忙な作曲家だという印象があるんですが,いろいろな仕事が積み重なりすぎて,「もう作れない!」みたいにパンクしてしまうことはないんですか?

伊藤氏:
 「ロマンシング サ・ガ3」や「サガ フロンティア」のときは,作り終わると倒れてましたね。スケジュールが無茶苦茶で(笑)。
 とくにサガフロのときはひどくて。徹夜続きで作り終わった直後に自分の部屋から出たら,たまたま植松(伸夫)さんが通りがかって,「おお,疲れた顔してるけど大丈夫か?」と声をかけられたんです。そこで「ちょうどいま,出来上がりました」と答えたら,「た」の瞬間に両方の鼻の穴から鼻血が出たんですよ。

4Gamer:
 ええっ!?

画像集#006のサムネイル/“イトケン”こと伊藤賢治氏と“ヒャダイン”こと前山田健一氏が初遭遇。音楽的ルーツからゲーム音楽について思うこと,そしてプロ論に至るまで語り合ってもらった
伊藤氏:
 しかもそれで終わりじゃないんです。その翌々日がサウンドトラックの収録だったので,曲のタイトルを考える必要があって会社に泊まったんですね。で,翌朝になって収録に行こうと思って起きようとしたら,体が動かないんですよ。妙に体も熱くて,体温計で測ったら38℃近かったんです。僕は平熱が35℃代の前半ぐらいなので,普通の人にとっては39℃ぐらいのものなんですよね。
 起き上がれないというのは初めての体験だったので,これは異常だと思って,同じビルにあった病院に行って点滴を打ったんですけど,スタジオには行かなきゃいけないんですよ。本当は誰かにディレクションを頼みたいんですけど,自分の曲なので頼めないんです。だから行かなきゃどうしようもなくて。で,外に出たら台風で。

4Gamer:
 泣きっ面に蜂とはまさにこのことですねぇ。

伊藤氏:
 ええ,あのときは泣きながら行きましたね。結局それを経て,翌日から一週間は体が動かなくなりました(笑)。

前山田氏:
 HPが限界まで削られていたんでしょうね。
 そのとき,MPというか思考能力は残っていたんですか?

伊藤氏:
 あ,それは大丈夫でした。とにかく体力的な限界で。

4Gamer:
 千代の富士なら引退ですね。

前山田氏:
 逆に,HPはあるのにMPが削られることはありますか? 体力はあるはずなのに,とにかく曲が出て来ないとか。

伊藤氏:
 あんまりないですね。悩むことはもちろんあるんですけど,何かのきっかけでポンってスイッチが切り替わる瞬間があるんです。僕の場合,イントロの2小節さえできれば,その曲の8割が出来上がるので,そこさえクリアすれば「勝った」というタイプですね。それまでは本当に苦しいんですけど(笑)。

前山田氏:
 分かります。僕の場合は歌メロばっかりなので,Aメロ,Bメロ,Cメロのどれかが出来れば,構図がかっちり決まって,その時点で胸のつかえがなくなるんですよ。そこからはツルツルツルっといきますから。
 でも歌モノって,ゲーム音楽を作るよりたぶんハードではないので,HPはたっぷりあるんですよ。忙しくても7〜8時間は寝れますし。

4Gamer:
 徹夜続きみたいなことはあまりない,と。

前山田氏:
 幸いにも。ただ,ときどきMPが凄く減ることがあるんですよね。とくに僕の作る曲はひょうきんなものが多いので,ひょうきんの泉,面白の泉が枯れるときがあって……困ることはありますね。

4Gamer:
 その泉は,どうやるとまた満たされるんですか?

前山田氏:
 宿屋ですね。寝るしかないんです。ただ,最近回復がちょっとずつ遅くなっている感はありますね……。

伊藤氏:
 ちゃんと眠れてますか?

前山田氏:
 眠れなくなるときもあります。

伊藤氏:
 悩んじゃうんでしょうねぇ。
 僕の場合,気を失うみたいに眠ってます(笑)。よし,寝るぞ! じゃなくて,ギリギリまで寝ないで頑張るような感じで。だから机の下で寝てることもしばしばあります。

前山田氏:
 プロフェッショナリズムを感じますねぇ。

4Gamer:
 どちらかというと,ライフスタイルがゲームの開発者に近いかもしれませんね。

画像集#007のサムネイル/“イトケン”こと伊藤賢治氏と“ヒャダイン”こと前山田健一氏が初遭遇。音楽的ルーツからゲーム音楽について思うこと,そしてプロ論に至るまで語り合ってもらった
伊藤氏:
 長年やってきた業界がそうでしたからね(笑)。
 でも最近は,自分で自分の首を絞めているようなプロジェクトが原因なんです。これ楽しそうだから一緒にやってみない?」なんて声をかけられて,「いいね,すぐやろう!」みたいな感じであれこれ手を伸ばしてみたら,エラいことになってしまって(笑)。

4Gamer:
 でもそういう勢い重視のものは,時間があるときにやろうと思っているとなかなか形にできなくて,それがストレスになったりもしますよね。

伊藤氏:
 そうなんですよ。機が熟すのを待つよりも,今やろうと思ってしまうんで。

前山田氏:
 当たり前ですけど,それができるのは,お仕事が好きだからこそですよね?

伊藤氏:
 ええ,基本的に好きです。だからこそ続けられているんです。

前山田氏:
 ですよね! 僕もやっぱりこれだけ作っていても,音楽を作ることに飽きないんですよ。
 ところで,ご自分で作られた曲はお好きですか?

伊藤氏:
 好きですね。「聖剣伝説」の「ライジングサン」という曲や,「ロマンシング サ・ガ」のいくつかの曲にはとくに思い入れがあります。だからいまでも聴くと当時のことを思い出したり,時には泣いてしまったりするんですよ,自分の曲なのに。我ながら気持ち悪いと思うんですけど(笑)。

4Gamer:
 前山田さんもトラックダウン中に泣いちゃうんですよね?

前山田氏:
 そうなんですよ,毎回泣いちゃうんです。

伊藤氏:
 きっと僕達は似てるんですね,そういう意味では(笑)。

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