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インタビュー
コミュニティサービスの本質ってどこにある?――はてな・元CTO伊藤直也氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第8回
ネットサービスが当たるかどうかなんて,所詮は運
伊藤氏:
そういえば,川上さんって,ネットサービスを作るときにどんなことを考えながら企画を練っているんですか?
川上氏:
どういう意味ですか?
伊藤氏:
というのも,実は僕の中では,「コミュニティサービスを狙って成功させるのは不可能なんじゃないか」という仮説があるんです。「はてなブックマーク」とかもそうだったんですが,あまり深いことを考えずに作って,後からユーザーさんの使い方を見て「あ,そういう使い方(価値)があったんだ」みたいなところがあったというか。
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ああ,あとで「全部計算してやりました」みたいなことを言っている奴は絶対後付けですよね。大抵は嘘だと思う(笑)
伊藤氏:
はい。僕もそう思っているんですけど,川上さんの話だけは「なんかちょっと違うぞ」という感覚があって。
4Gamer:
ああ……。実は先日,直也さんとお話をする機会があって,まさにそういう話題(川上さんの話題)で盛り上がったんですよね。
川上氏:
ええ?(笑)
伊藤氏:
そうそう。川上さんだけは「なんか狙ってサービスを作れてるように見えるから凄い不思議だよね」と。
4Gamer:
もちろん,偶然もあっただろうし,運が良かったところもあるんだと思うんです。だけど,いろいろなお話を聞けば聞くほど,かなり考え抜かれているというか,成功の確率をかなり上げたうえで挑戦しているなっていうのが見えるというか。
伊藤氏:
はてなの近藤さん(※)にしても,「はてなダイアリー」みたいなサービスを作れたのは,相当運が良かったと思うんですよ。もちろん,近藤さんは近藤さんなりに考えて作ったんだろうとは思いますが,その後,まだ新しいヒットサービスを作れてないところを見ても,やっぱりまず運があったんだろうと。だから,「はてなブックマーク」もそうなんですけど,僕はネットサービスが当たるかどうかなんて「所詮,運だ」と思っているところがあるんです。
※近藤淳也(こんどうじゅんや):株式会社はてな代表取締役。「人力検索サイト・はてな」や「はてなダイアリー」「はてなアンテナ」などの開発者
川上氏:
そういうところはありますよねぇ。
伊藤氏:
……だけど,川上さんはなぜか違って見える。ニコニコ超会議にしてもそうですが,いろいろな仕掛けをかなりの精度で当てていっているじゃないですか。あれにはなんかコツがあるんですかね?
川上氏:
ニコニコ超会議はWebサービスでもなんでもないですけどね(笑)。ただ,そういう話で言うなら,僕は確かにいろいろ分析するし計算もするんだけど,そこから先がちょっと特殊なんだと思います。というのも,僕はあらゆる角度から分析して,かつ冷静に判断して,その結果「これはちょっとわからないな」っていうものをやるんですよ。
伊藤氏:
それ,以前お会いした時にも言ってましたよね。
川上氏:
はい。わかっちゃうって奴は,その段階ですでにいろんなものが消費されているってことだから,結果的にうまくいかないんですね。
伊藤氏:
なるほど……。でも,その話はなんか納得できますね。だって,うまくいくと思ってやり始めたものって,大概うまくいかないんです。
川上氏:
そうなんだよねぇ。
伊藤氏:
僕の経験則でいうと,あんまり考えないで勢いだけで作ってたものとか,こんなもん絶対うまくいかないとか思ってたものの方が,結果としてはうまくいくことが多かったです。
川上氏:
もう少し補足すると,僕の場合は,“うまくいくための保険”を大量にかけるんです。例えば,「これだったら成功する」ってモデルを作るじゃないですか。
伊藤氏:
はい。
川上氏:
それにね,「このパターンでも成功する」ってモデルを重ねるんです。それを,いくつもいくつも重ねると,どれかが当たる(笑)
伊藤氏:
なるほど。
川上氏:
保険をかけまくる。大体さ,「これは成功する」とか思っても,必ず見落としがあるから,一個だけのモデルでやっちゃうとだめなんですよ。だから,複数のパターンを考えるのがとにかく大切で。
4Gamer:
ただ,複数のパターンを考えるにしても,きっとサービスの“芯”というか,そういう部分を押さえておく必要ってありますよね。川上さんは,そこを押さえている(ように見える)のが興味深いんです。
伊藤氏:
そうなんですよね。それは僕もずっと感じていて。
4Gamer:
例えば,さっきのお話の例でいうと,「こうやって成功しました」って話は,大抵の場合,とても薄っぺらく聞こえるんです。そんなのは後付けだろってすぐに分かるし,話も全然面白くないことがほとんど。だけど,川上さんの話はとても面白いし,実践的に聞こえるのが不思議で。
川上氏:
薄っぺらいってどういう話を指しています?
4Gamer:
悪い例を分かりやすいところで言うと,これからはスマートフォンの時代だから,スマホ市場で世界に打って出てうんたらかんたら……みたいな講演とかですよね。こういう講演はもの凄くつまらないし,身のない話じゃないですか。
川上氏:
それはまぁ,「これからスマホの時代だ」っていう頭からダメですよね(笑)
一同:
(爆笑)
川上氏:
要するに,その流れに「乗ろう」ってだけの話でしょ。その段階で聞く価値がない。
伊藤氏:
あ。でも,僕自身,そういう“つまらない話”を過去に何度かしたことがあるんで,そこはちょっと耳が痛いです(苦笑)
川上氏:
あはは(笑)
伊藤氏:
ただ,言い訳ってわけじゃないんですけど,そういう話をしてる人たちの気持ちは分かるんですよ。成り行きで基調講演とかセッティングさせられて,なんか話さなきゃいけなくなって。自社のサービスが成功した理由みたいなものを,自分たちなりに考えて話すんですけど,当の本人たちもたまたまヒットしたものを伸ばしてるだけだから,そもそも何が成功の要因かなんてわかんないんですね。
4Gamer:
なるほど。
伊藤氏:
で,何かしら無理にひねり出して真っ当なことを言おうとすると,そういう“つまらない話”になってしまうんですよ。
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サービスの競争軸が変わるタイミング
伊藤氏:
あの,これは確認なんですけど,ニコニコ動画の設計当初では,「歌ってみた」とか「踊ってみた」みたいなコンテンツが生まれてくるなんてのは当然分かってなくて,その辺は,要するにサービスしながら動向を見て伸ばしていったってことなんですよね。初音ミクとか。
川上氏:
そうですそうです。
伊藤氏:
ですよね……。うん,ネットサービスってやっぱりそういうもんなんですよね。
川上氏:
そういうもんっていうのは?
伊藤氏:
いや,さっきの話とかぶりますけど,やっぱりWebサービスの作り方っていうのは,最初は,(多少の打算はあるにせよ)何の意味があるのかも分からずに作るのがいいのかなって。で,居ついたユーザーの動向を見ながら,どう伸ばしていくのかっていうのを考える。ただ,そこまではいいんですけど,問題は最初の火種というか,盛り上がりをどうやって作るのかがみんな分からないってところで。
4Gamer:
最初の勢いというか,熱量みたいなものですよね。
伊藤氏:
うん。ネットのサービスがブレイクするためには,まずそういう火種が必要になるんです。そういう熱量がないとそもそも盛り上がらない。ただ,その勢いもすぐに廃れてくるから,常に手を入れていかなきゃいけないんですけど。
4Gamer:
それは,手早くサービスをバージョンアップしていくとかってことですか?
伊藤氏:
もちろん,そういう部分も大切なんですけど,一定の規模を超えてくると,そこですらなくなってくるというか,そういう問題もあって。
4Gamer:
どういうことでしょう。
伊藤氏:
つまり,サービスの最初の方は,とにかく早く作るとか,使いやすいとか,イケてるとか,あるいは需要にフィットしてるとか,そういうところが勝負のポイントになるんですけど,それが段々と,ちょっと機能を改善したくらいではまったく響かないようになっていくんですよ。
川上氏:
あー,はいはい。
伊藤氏:
なんていうのかな,どっかのタイミングで変わるんですよ。競争原理というか,競争軸が。
川上氏:
そうですね。
伊藤氏:
そして,そこからはもう全然違うところでの戦いになっていく。例えば,CMを打ってみるとか,超会議やってみたりとか,そういうところが勝負の舞台になってくるんですよ。僕は,そこの切り替えどころが未だに分からないから,川上さんに興味があるんですけどね。
川上氏:
サービス当初の勢いがそのまま使えるのは,最初の一年だけだと思いますよ。二年目からはもう切り替えないと駄目です。旬なタイミングは一年程度で,二年目からはテコ入れの連続だと思う。
伊藤氏:
ただ,そこがね。どこのサービスでも結構難しい部分で,うまくいってない会社が多いと思うんですよ。最初こそ,エンジニアリングとか物作りの精神が重要だとか言って,たまたまヒットするんですけど,そこから先の勝負,インタフェースや機能を良くしたくらいじゃ盛り上がらないフェーズに入っていくと,途端に何をしていいかわからなくなって失速していく。そういう人あるいは会社が凄く多いと思うんです。
川上氏:
ニコ動もやっぱりね,寿命が延びた大きな理由の一つは生放送なんですが,それに加えて,ニコニコ大会議やニコニコ超会議をやったことがやっぱり大きくて。
伊藤氏:
そう! 絶対そうなんですよね。僕もそうだと思ってて。でも,普通の考え方をしてたらそんなことやらないじゃないですか。
川上氏:
そんなことって(笑)
伊藤氏:
だから,そこのギアチェンジって,もの凄く難しいと思うんです。とくに真面目にサービスを作ってるエンジニア(運営者)ほど,そこの切り替え方が分からなくなる。あまりにも経験がないことだから,そもそもそういう発想すら出てこない。だから僕も「はてなブックマーク」ではできなかったんですけどね。
4Gamer:
そのあたりは,なんか自分(4Gamer)に置き換えて考えても分かる気がします。
伊藤氏:
だからグリーに入った時も,一番最初に思ったのは「エンジリアリングじゃないところで勝負してる!」ってところだったんですよね。それが凄くよく分かったんです。技術的なことは当然満たすべき条件でしかなくて,実質的にはどういうタイミングで製品を出して,どれだけCMを投下して,そこからどれだけ利益を上げるかって,そこが勝負どころだった。
川上氏:
ま,それはそれでね。必勝パターンがうまく機能している時期というか,言ってみればマリオでスターを取ってる状態みたいなものだから。そういう時は,何も考えずに走り続ければいいんだと思いますよ。
伊藤氏:
だから,振り返って考えてみても,「はてな」って会社は,そういうところが本当にへたな会社だったなと思うんですよ。
川上氏:
「はてな」に限らず,みんな真面目ですよね。真面目すぎるんですよ。最初の成功モデルにとらわれすぎるし。
伊藤氏:
でも,そういう会社がほとんどだと思うんです。ありふれた言い方をすると,「良い物を作ったのにマーケティングで失敗した」みたいなサービスがどれだけ多いかってことですね。ギアチェンジの時にどれだけ突飛なことをやるかっていう発想に行きつかなかった例は山ほどあると思うんですよね。
川上氏:
その辺は「同じことをやってたらダメだ」って恐怖感があるかどうかじゃないですか?
伊藤氏:
うーん,一応,自分が「はてなブックマーク」をやってた当時も,「サービスを改良しているだけじゃこれ以上伸びない。なんかしなきゃ」とは思っていたんですけど,そこでコンテンツのところとかに手を突っ込むのって,やっぱり躊躇してしまうんですよ。なんせ分からないですから。
川上氏:
まぁ,止まっていることに対して安心感を持つみたいな心理も働きますしねぇ。本当は変わり続けなきゃいけないんだけど。
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それに,あんまり特定のコンテンツに肩入れすると,そこが特定の色に先鋭化してしまったりするし,判断が難しいじゃないですか。逆に今の「はてなブックマーク」は,そういうことをしてこなかったから,今のようなサービスになってるって見方もできますし。ニコ動とかも,政治とかそっちに手を突っ込んでいったけど,もしそれをしなかったら,また別の色がついていたんじゃないですか?
川上氏:
まぁサービスの色なんてものは,どっちにしても何かしらつくんですよ(笑)
伊藤氏:
でも,運営側が明示的に政治に手を伸ばすとか,あるいはエンタメに伸ばすってやった瞬間に,ばーっといくじゃないですか。そこの決めがね,怖いんですよ……。
川上氏:
あとは,誰もやってないことをやるっていうのが,やっぱり大事ですよね。ニコニコ超会議にしたって,あれがなんで成功だと思われているかといったら,誰もやったことがないから,比較の対象がないんですよ。
伊藤氏:
確かに。なにが成功なのかって言われると……。ただ,ネットサービスってなんだかんだでカウンターカルチャー的なものっていうか,マイナーなものというポジションでしたから,そういうものが10万人ぐらいをリアルに動員したっていうのは,あれが初めてだったんじゃないですか。
川上氏:
うん。僕は,ニコニコ超会議をやるにあたって,「10万人集める!」と宣言したんですけど,そう言った瞬間に,それが尺度になるんです。結果的には9万2000人だったんだけども,あんだけ盛り上がったんだから成功だよね!って,多くの人がそう思ってくれたわけですよね。
伊藤氏:
そうですねぇ。
川上氏:
でも冷静に考えたら,サブカルチャーイベントって意味では,コミックマーケットが三日間で50万人以上集めたりしているわけです。じゃあニコニコ超会議はなんで話題になったのかというと,サブカルチャーイベントなんだけど,コミケではないものだったから。新しいものだったから,いろんな人に注目されたわけですよ。
4Gamer:
それは確かに。
川上氏:
その意味でもね,誰もやってないことって得なんです。みんな,そのことを本当にわかってないと思う。
伊藤氏:
いやでも,本とかを読むといくらでも書いてあるじゃないですか。ブルーオーシャンだレッドオーシャンだと,人がやらないことをやれと。でも,実際はどうかというと,ほとんどの人は,他人がやらないことをやってるつもりが,実はみんながやってることをやっているわけですよね。人がやらないことをやるっていうのは,本当に見つけるのが大変だと思うんですよ。
川上氏:
そこはね,方法論としてあるんですよ。どうやってブルーオーシャンを見つけるのか。
伊藤氏:
へえ?
川上氏:
つまりね,やらない理由を探すんですよ。で,普通は「こういう理由があるからやらないんだ」で終わるじゃないですか。そこをあえてやるんですよ。しかも,こういう理由でやらないんだってことを,ちゃんと理解したうえで。それが一番のポイントだと思います。
4Gamer:
その辺りは,以前おっしゃっていた触媒うんぬんの話にも通じますよね。
川上氏:
はい。
4Gamer:
ただ……,やっぱりそこの決めというか,判断って,普通の会社ではなかなかできないとも思うんですよね。とくに新しいことだと“根拠”がないので,どうしても最後の一押しができないでしょうし。
川上氏:
だからね,オーナー経営者とサラリーマン経営者との最大の違いっていうのは,まさにそこなんです。オーナー経営者はそこで暴走できるんですよ。
伊藤氏:
なるほど。
川上氏:
そしてオーナー経営者っていうのは,そこで暴走ができるっていうところを,ちゃんと戦略として活かさなきゃだめなんです。
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