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[CEDEC 2021]CD PROJEKT REDのコミュニケーションマネージャーが語る,コミュニティマネジメントの役割と重要性
櫛引氏は,CD PROJEKT REDに2017年に入社し,「サイバーパンク2077」や「ウィッチャー」シリーズ,「グウェント ウィッチャーカードゲーム」といったタイトルにおいて,日本向けコミュニティマネジメント・PRを担当している人物だ。
コミュニティマネージャーという職種は,海外の開発やパブリッシャの求人では当たり前に見るようになったものの,日本ではあいまいなイメージで捉えられているという。Twitter担当,あるいはPRやマーケティングとの違いは何なのかというものだ。
コミュニティマネージャーの基本業務は,大きく分けて「発信する」「聞く」の2つだ。
会社の顔として,TwitterやFacebookといったチャンネルを持ちながら,メッセージをコミュニティに届けていく。必要であれば,画像や動画などのアセットも社内調整し,効果的な方法で情報を発信する。
その投稿に対して,どのようなアクションがどれだけ取られているのか。人々がゲームや会社に対してどんなことを話しているのかなど,モニタリングという行為を通して,聞く。
この2つを交互に行いながら,ブランドそのものの姿と,それを取り囲むコミュニティを形作るのが,大きなミッションになるという。
また,ゲームのライフサイクルという大きな枠組みにおいても,コミュニティマネージャーは関わっていくことになる。ゲームの発売前であれば,発売に向けてどれだけ大きく活発なコミュニティを作り出せるかは,売り上げに直結する。
戦略的に,いつTwitterやDiscordのアカウントを開設するのか,そこで何をどのタイミングで投下していくのかなどを,マーケティング部門やPR部門と連携しながら,月単位,年単位の長期間で盛り上がりを形成していく。
ほかにも,プレイヤーからの意見を吸い上げて開発に共有する,あるいは開発からのメッセージをプレイヤーに伝える橋渡し的な役割も,コミュニティマネージャーの仕事だ。
つまり,コミュニティマネージャーの仕事は,PRやマーケティングと被っている部分が多くある。この3つの部署は,ターゲットや活躍のフィールドこそ異なっているが,ブランドとしてのメッセージ性は共有する必要があるため,密な関係が求められる。そのため,櫛引氏のように,役割を兼務する会社もあるという。
話は昨今のコミュニティの傾向にも及んだ。櫛引氏が特徴として挙げたのは3つで,まずはマルチプラットフォームであるということ。ゲーマーの情報交換の場所は,TwitterやDiscord,Instgram,LINEというように,さまざまなプラットフォームにわたっている。加えて,1人のプレイヤーが複数の場所を目的によって使い分けるのが当たり前になっている。
そのため,コミュニティマネージャーからすれば,プレイヤーのプラットフォームの移動に合わせて,手を変え品を変え柔軟な戦略を取っていなかければならない。
2つめは距離の近さだ。公式の企業アカウントだけでなく,開発者本人もアカウントを持っている時代であり,クリエイターとプレイヤーの距離が非常に近い。そのぶん,“炎上”のリスクも増大しているが,コミュニティの声を直接開発工程に採用できるメリットもある。
3つめは,能動的になった消費者の動向だ。昨今の消費者は,受動的に情報を与えられるのを待つのではなく,能動的に膨大な情報の中から選択し,クリエイター側にまで干渉してくる。その結果,双方向のコミュニケーションが主流になってきていると,櫛引氏は述べる。
そうしたゲーマーは,遊ぶゲームをどのように選んでいるのだろうか。それは,キャラクターデザインやジャンル,対応ハードなど,合理的な判断だけで決まるものではないという。コスプレや同人誌のような二次創作から入ってくる人であれば,二次創作がしやすいかを重要視するし,eスポーツであれば,大会の有無や賞金規模なども気にする。ネガティブな例では,開発側からの差別的な発言により,特定の層が離れていくこともある。
つまりは「ゲーム以外の部分」まで,しっかりと見られるようになったということだ。プレイヤーは,膨大な数がリリースされるゲームの中から,何かしらの理由で取捨選択していく。このとき,重要となる「ゲーム以外の部分」は,プレスリリースや広告から読み取れるようなものではない。
では,ゲームが溢れている中で,どのようにしてブランドとして突出していけばいいのだろうか。櫛引氏は,ここがコミュニティマネージャーの腕の見せどころだと話す。
先の「ゲーム以外の部分」,例えば「開発者に好感が持てる」「コミュニティがポジティブで活発」といった部分は,感情に紐づく要素だ。人間は,感情を揺さぶられたときに,その対象に強い結びつきを感じる。ここをしっかり掴むことで,他社と差別化が図れるという。
この強く結びついたロイヤルティ(忠誠度)の高い,行動力のあるファンをいかに増やすかが,コミュニティマネジメントの究極的な目標となる。
こうした目標に対して,どのような指標を設定していくべきか。コミュニティの活発度や忠誠度といった,感情に根付いた部分は,量的なデータでは表現しづらい部分があるという。中には,Twitterのフォロワー数をコミュニティマネジメントのKPI(重要業績評価指標)に設定する会社もあるが,櫛引氏はこれには否定的だ。フォロワー数を増やすだけなら,ギフト券などを配ればよく,これは売上にはつながっていない。
そこで櫛引氏は,量的なデータではなく質的なデータにも注目すべきだと提案した。1つめのKPIの例はエンゲージメントだ。コミュニティの全体量に対して,アクションを取ってくれる人がどれだけいるか,つまり先ほどの行動力のあるファンの割合を測るような例として,
(いいね+コメント数+RT)/総フォロワー数×100=%
という式を示した。この式単体ではあまり意味はないが,これをどのような投稿のエンゲージ率が高いか,どの地域や期間のエンゲージ率が高いかなどを取っていくことで,忠誠度の高いファンベースの推移を追っていくことができるという。
もう1つの例がセンチメント(感情分析)だ。コミュニティの会話を,ポジティブ,ネガティブ,ニュートラルの3種類に分類し,ゲームや企業に対する感情の推移を測定する。ここの会話の例としては,ゲーム名でエゴサーチしたときにどのようなことが話されているのかなどが挙げられる。
この測定は,対象によってはビッグデータ解析の領域に入ってくるため,サードパーティ製ツールを用いるという手はあるが,皮肉やネットスラングをAIが自動分析するのは難しい。また,日本語のような特殊で複雑な言語は,海外製の優秀なツールでも太刀打ちできないことが多く,現状は各国のエキスパートであるコミュニティマネージャーたちが手作業で正確な分析を行わなければならない部分だと補足していた。
コミュニティマネージャーの仕事は,ファンを集めて終わりではない。コミュニティを育てていかなければならないからだ。一度質の高いコミュニティを構築できれば,連鎖反応のように良い雰囲気が広がっていき,最終的には自浄作用と拡大力を持った自ら成長するコミュニティとなる。
逆に,悪質な声を野放しにしてしまえば,負のサイクルに陥り,新規プレイヤーの獲得さえも阻害してしまう。
質の高いコミュニティを作るには,受動的な態度ではなく,「どのようなコミュニティにしたいか」という決意を持ったマネジメントが必要になる。場当たり的な対応を繰り返していると,本来支持を得たかった層を取りこぼしかねない。
コミュニティの中で,周りのプレイヤーを助けたり,ファンアートや情報を共有するなど,積極的に活動するファンには,さまざまな方法で評価してあげるべきだと櫛引氏。ファンアートやコスプレを公式アカウントから紹介したり,貢献度の高いメンバーにアーリーアクセスの権限を与えたり,特別なDiscordサーバーに招待して開発側と意見交換をできるようにしたりといった具合だ。彼らの努力に報いることで,さらにロイヤルティを上げられるだけでなく,開発側がきちんとコミュニティを見ているというアプローチも行える。
悪い雰囲気を察知した場合は,どこに発信源があるのかを分析し,対象のプレイヤーに対してはしかるべき処罰を与えることも,ときにはやむを得ない。とくに,マルチプレイのゲームで,コミュニティ間でいじめや差別が起こっているときに,公式がしっかりとした立場を表明することは,それ以外のプレイヤーの安心につながる。
いずれにせよ櫛引氏は,コミュニティを常にミクロな視点で観察し,意志を持ったマネジメントを行うことが,コミュニティマネージャーの責務であると考えているという。
続いては,ここまでの話を踏まえ,櫛引氏が実際に行ってきたコミュニティ施策を紹介された。
まずは「サイバーパンク2077」のリリース前に1年かけて行ったコスプレコンテストだ。最初はオフラインで,世界5か所のコンベンションに絡めて予選を行っていたが,新型コロナウイルスの影響で決勝戦はやむなくオンラインで行うなど,苦労したという。
ゲームのリリース前に,キャラクターを対象としたコスプレコンテストを行うのは珍しく,社内でも衣装づくりのためのキャラクター資料を収集するのは難しかったそうだが,結果的には,多くの人にゲーム性だけでなく世界観やファッションで興味を持ってもらえたそうだ。
ゲームの機能として実装されている,フォトモードを活用したSNS上でのコンテストも行われた。ゲーム内の画像や動画をSNS上で共有してもらうのは,ゲームのリリース後の盛り上がりとして有効だという。このようなコンテストやキャンペーンは,ゲームの周知だけでなく,一度離脱してしまったプレイヤーの再獲得にも貢献するとのことだ。
海外のゲームは,開発者とコミュニティの結びつきが薄くなりがちだ。それを解消するために,コミュニティマネージャーが中心となり,開発者からプレイヤーへ,プレイヤーから開発者へという,双方向のコミュニケーションをサポートしているという。開発者ビデオを立ち上げて,進捗状況を共有したり,イベント内でQ&Aを設けて,コミュニティからの質問に答える機会を作ったりなどだ。
ただし,多言語展開のゲームの場合,コミュニティ間の情報格差を生まないということに気を付けなければならない。もし公開された動画に自分たちの言語の字幕がなかったら,そのコミュニティは大事にされていないように感じてしまう。コミュニティマネージャーが小まめなサポートを提供することで,「あなたのことを大事に思っていますよ」というメッセージを発信していくことが重要だ。
先に話に出た報酬の施策については,毎週木曜日はファンメイドの創作物を公式チャンネルで紹介する日と決めたり,定期的にコミュニティ内を巡回して何か紹介するものがないか探したりしているという。
ゲームの周年の節目には,コミュニティのメンバーからコメント動画を集めて,感謝のまとめビデオを作るなど,皆が物語の一員として感動を共有できる施策を実施した。このような取り組みは,規模によっては比較的簡単にできることだが,コミュニティには非常に喜ばれ,インプレッションやエンゲージ率も高くなる傾向があるため,費用対効果の高い施策であるそうだ。
コミュニティマネージャーという仕事には,高いコミュニケーションスキルや言語能力,ブランドの顔としての自覚,常にアンテナを張ることなどが求められると,櫛引氏は考えている。氏は,社会人の常識チェックのような項目であることは指摘しつつも,それらすべてが高い数値を求められる仕事だと話す。これらは,後からの教育で身につくようなものが少なく,向き不向きのある職種と認識しているようだ。
櫛引氏によれば,コミュニティマネージャーは日本での知名度が低い役職であるが,そこを逆手に取れば,他社より一歩抜きんでるチャンスだという。一生懸命開発したゲーム,ひいては業界全体の発展のため,コミュニティマネージメントという側面にも注目してほしいと聴講者に語り,講演をまとめた。
「CEDEC 2021」公式サイト
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