三日月宗近と足利義輝の物語が映画館で再び。尾上松也さんらが登壇した「シネマ歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』」舞台挨拶レポート

　DMM GAMES / NITRO PLUSの「刀剣乱舞ONLINE」を原案とした新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」（2023年7月上演）が，映画館の大スクリーンで鑑賞できる“シネマ歌舞伎”として，2024年4月5日から全国で上映される。

　これに先駆けて，3月25日にシネマ歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐」舞台挨拶付き完成披露上映会が行われた。本稿では，企画・演出も担当した三日月宗近役の尾上松也さん，足利義輝／小狐丸役の尾上右近さん，松永久直／同田貫正国役の中村鷹之資さん，義輝妹紅梅姫／髭切役の中村莟玉さん，膝丸役の上村吉太朗さん，小烏丸役の河合雪之丞さんが出演した，舞台挨拶の模様をお伝えする。

あらすじ（公式サイトより引用）

時は西暦2205年。
室町時代後期の歴史を改変するために時間遡行軍が出撃した報告を受け，審神者は三日月宗近（みかづきむねちか），小烏丸（こがらすまる)，髭切（ひげきり），膝丸（ひざまる），同田貫正国（どうだぬきまさくに），小狐丸（こぎつねまる）の六振りを呼び出し，永禄年間（1558〜1570）に向かわせる。

しかし三日月宗近は，逡巡する様子を見せる。実は時の将軍足利義輝は，三日月宗近の最初の主であったとも，その愛刀であったとも伝わるためである。

やがて永禄の世に顕現した刀剣男士たちは，足利義輝や紅梅姫，執権の松永弾正，久直親子たちと交錯しながら，歴史を守るための戦いに身を投じていく……。

構想2年。歌舞伎で表現する「刀剣乱舞」への想い

　舞台挨拶では企画から携わっている尾上松也さんから作品への想いや，それぞれが演じた刀剣男士について語られた。

　本作の構想は約2年にもわたり，尾上松也さんはNITRO PLUS，松竹，そして共同演出の尾上菊之丞さんと何度も話し合いを重ねたという。そのなかで2023年の正月ごろに決まりかけていた物語が，「三日月宗近と足利義輝の物語をやりたい」という尾上松也さんの強い想いで，急きょ変更になったという裏話も明かされた。

　それだけ，こだわり抜かれた作品であり，完成度の高い舞台を作り上げた歌舞伎役者の皆さんの凄さを実感するエピソードだ。

　以降は，各キャストのコメントを掲載する。

写真左から上村吉太朗さん，中村莟玉さん，尾上右近さん，尾上松也さん，中村鷹之資さん，河合雪之丞さん

尾上松也さん（三日月宗近役）：
　何か自分で新作歌舞伎をと長年考えておりまして，そのなかで出会ったのが「刀剣乱舞」です。最初は，純粋に人気がある作品ということで興味を持って拝見するようになりました。そのなかで歌舞伎との親和性が高く，ストーリーはもちろんキャラクターの造形も歌舞伎にしたら面白そうだなと思っていました。

　ほかにも候補があるなかで，「刀剣乱舞」がいいのではないかと思ったもう1つの理由が，それぞれのメディアミックスで，オリジナルのストーリーが描かれていることです。ゼロからオリジナルストーリーを考えられることも魅力的で，この2点を理由に新作歌舞伎として企画したいと思いました。

　三日月宗近はファンなら誰でも知っている顔役，看板のような存在です。その役どころを忠実に，三日月宗近を落とし込んだらどうなるのか，そして歌舞伎でしかできない表現をしたいと考えていました。クールで感情を出さない三日月宗近が，足利義輝の前だといつもと様子が違ってしまう。そういったものを出すために，それ以外のときはものおじせず，雰囲気を崩さないことを心がけていました。

尾上松也さん

尾上右近さん（足利義輝／小狐丸役）：
　二役，務めさせていただきました。小狐丸では三日月宗近との兄弟分のような関係性，六振りのときは一緒に時代を旅する運命共同体であり，ムードメーカー的なところもあるのかなと思っています。

　余談になりますが出演するかもというお話があったころ，別のお仕事で伏見稲荷大社（京都）に行った際，小狐丸が作られた井戸のある御劔社（みつるぎしゃ）にお参りをしたんです。僕は気がつかなかったんですが，スタッフさんいわく空気がピタッと止まった（ような雰囲気になった）らしくて，「小狐丸役になるかもね」なんて話していたら，本当に決まって。僕は，小狐丸に選ばれし者だと思っています。誇りをもって，務めさせていただきました（会場から大きな拍手）。

　足利義輝が将軍になっていくサクセスストーリー，そしていろいろな運命に翻弄されていくのを見守り続ける三日月宗近。心打たれるストーリーだと台本を読んだ時から思いましたし，僕自身も子どものころから松也さんにお世話になっているので，その関係性と被る部分があり，僕と松也さんの関係性じゃなければ作れなかった部分かなと思っています。

　音楽もステキで，2人とも泣いちゃうというのもありましたね。お稽古で最初から泣くことはないんですけど……。

尾上右近さん

尾上松也さん：
　三日月宗近と足利義輝の対決のシーンでは，こんな音楽がほしいとお願いしたら，期待を上回るものがきてしまったんです。泣くのも涙がぽろっと落ちるのではなく，子どもがお母さんに怒られたときのような（しゃくりあげるような）。

尾上右近さん：
　いざお稽古のときも2人とも泣いていて，「じゃ，やめればいい」となるくらい感情移入が過ぎる稽古場でした。その熱量は舞台でも出ていたと思いますし，スクリーンにも投影されていると思うので，ぜひご注目していただきたいなと思います。


中村鷹之資さん（松永久直／同田貫正国役）：
　原作のある歌舞伎に出演するのが初挑戦で，ドキドキしていました。どんな作品なんだろうと思って見たら，スラッとした登場人物たちばかりで，僕で大丈夫なのかというのも懸念でした。同田貫正国役に決まったときに，ファンの方に「同田貫正国は長身のキャラじゃないので大丈夫です，できると思います」と励ましていただきました（笑）。さらに，私の知り合いに同田貫さんがいるという奇跡もあって。同田貫正国が実直で，無骨で，自分に通じる部分があるなと稽古をしているなかで感じました。

　もう1役の松永久直も違った実直さがあって，共通した真面目さがあるなと思いました。それを二役でどう演じ分けるか日々考え，愛着のわく忘れられない役になりました。

中村鷹之資さん

中村莟玉さん（義輝妹紅梅姫／髭切役）：
　私も最初の気持ちは，鷹之資さんと同じでした。髭切役ですと決まったときに，本当にシュッとした長身で，面長な役。プロデューサーさんからお役が決まったという連絡をいただいたときに，「1000年以上の歴史がある一振りで，世の中に無頓着で，弟の名前もすぐに忘れてしまう。莟玉さんにぴったりです」と言われ，そう思われていたんですねと（笑）。

　真面目な話をさせていただくと，そういう部分が役とマッチすると思ったいただけたのであれば，作りこみ過ぎず自分と合うように役を掴んでいくのがいいのかなと思いました。

　「刀剣乱舞」では，刀剣男士たちの恋模様は描かれないとうかがっていました。今回は歌舞伎ということで，義輝妹紅梅姫がヒロインのような存在で，三日月宗近に恋をしています。振り向いては，もらえないんですけど（笑）。これまでになかった恋を描けるのはチャレンジでしたし，素晴らしい音楽もあって美しいシーンになっています。それが映画だとどう見えるのか，楽しんでいただけたらと思います。

中村莟玉さん

上村吉太朗さん（膝丸役）：
　私も膝丸役と言われたときは，脅されるように「人気の高いキャラクターなので」と何回も言われました。膝丸は歌舞伎にもつながる部分もあるし，松也さんが稽古から「歌舞伎のあの役で」とイメージしやすい役を言ってくださいました。そのなかで，オリジナルの歌舞伎の膝丸をお届けしたいという気持ちが強かったです。

　髭切の兄者が，莟玉さんで本当によかったと常に思っています。どんな球を投げても返してくれるので，安心して役を務められましたし，毎日楽しかったです。見どころは，名前を忘れられるところじゃないでしょうか（笑）。

上村吉太朗さん

河合雪之丞さん（小烏丸役）：
　松也さんからお話をいただき，ありがたいなと思いながらお受けしました。小烏丸は女形にあうお役ですし，歴史もある一振り，見ての通り私がちょっとだけ年上なのでちょうどいいかなと思って（笑）。爽やかでたおやかなお役なので，それに近づけるように務めさせていただいたつもりです。

河合雪之丞さん

尾上松也さん：
　雪之丞さんには，途中でセリフを増やしましたよね。一幕の終わりに六振りで会話するシーンがあるのですが，セリフが足りないと感じたんです。そこで「明日から，これ言ってください」とお願いしたときの慌てふためきっぷりは忘れられないです。でも，完璧でした。

河合雪之丞さん：
　ありがとうございます。


　最後に尾上松也さんがシネマ歌舞伎ならではの見どころとして，歌舞伎の観客席からは見えづらい衣装やセットなどの細かいディティールに注目してほしいと語った。また，表情がスクリーンに大きく映し出されることで分かる感情の動きや，客席からは見えないアングルで撮影されたシーンなど，新しい作品を見る気持ちで楽しんでほしいとのことだ。

　なお，チケットは各劇場で発売中だ（一般2200円，学生・小児1500円／税込）。上映館や時期などは，公式サイト（外部リンク）を確認しよう。

新作歌舞伎「刀剣乱舞」 公式サイト