テストレポート
「GeForce GTX 980」のSLI動作を3-wayと2-wayで試す。これは確かに「4K解像度用」だ
筆者もその一人だったのだが,そんなタイミングで,数日間のみながら,GTX 980搭載カードが手元に3枚揃った。というわけで今回は,2-way,そして3-wayのSLIで,GTX 980の性能(と消費電力)がどこまで伸びるのかをチェックしてみたいと思う。
GTX TITAN ZやR9 295X2と比較
3-way SLI時は8レーン×3動作に
テストにあたって用意したのは,「Intel X99」プラットフォームだ。具体的にはASUSTeK Computerの「X99-DELUXE」と,「Core i7-5960X Extreme Edition/3.0GHz」(以下,i7-5960X)を軸に,PC4-17000 DDR4 SDRAMの4GBモジュール4枚を組み合わせたものとなる。Intel X99プラットフォームを選んだのは,i7-5960XであればCPUがPCI Express 3.0を40レーン持つため,少なくとも2-way SLIであれば16レーンずつ確保できるという理由からだ。
ただ,試してみたところ,2-way SLI構成時は目論みどおり16レーン×2で動作したものの,3-way SLI構成時は「16レーン×2+8レーン×1」だとSLI動作にならず,差すPCI Expressスロットを変えることで8レーン×3へ設定を変更することになった。このあたりは情報が少ないのだが,過去の経験と照らし合わせるに,おそらくは,3-way SLI動作にあたってレーン数を揃える必要があるということなのだと思われる。
GTX 980リファレンスカード |
GV-N980G1 GAMING-4GD。このカードの詳細はレビュー記事を参照してほしい |
つまり,3-way SLI動作にあたって,3枚全部同じカードで揃えることはできていないわけだが,SLI動作の場合,動作クロックは最も低いカードのそれに揃えられるため,今回のテストは(冷却系やカード単位の消費電力を無視する限り)リファレンスクロックのGTX 980カード3枚を用いたものという理解で問題はない。
比較対象として用意したのは,GTX 980リファレンスカード1枚の構成と,リファレンスデザインを採用するGIGA-BYTE TECHNOLOGY製「GeForce GTX TITAN Z」(以下,GTX TITAN Z)カード「GV-NTITANZD5-12GD-B」,そして「Radeon R9 295X2」(以下,R9 295X2)リファレンスカードだ。
グラフィックスドライバは,GTX 980で「GeForce 344.16 Driver」,GTX TITAN Zで「GeForce 344.11 Driver」,R9 295X2で「Catalyst 14.9.1 Beta」を用いることにした。いずれもテスト開始時点の最新版だ。GeForceの2製品でバージョンが異なるのは,344.11のリリース後に発覚したGeForce GTX 900シリーズ関連の問題を修正したものとして344.16が出たためだが,両者の最適化度合いは基本的に同じと考えて差し支えない。
そのほかのテスト環境は表のとおりだ。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション15.2準拠。「3DMark」は,テスト開始後に新版がリリースされているが(関連記事),レギュレーション更新に向けた十分なデータが得られていないことから,今回はVersion 1.3.708を用いる。また,「Battlefield 4」(以下,BF4)に限り,R9 295X2はDirectX 11モードのほかにMantleモードでもテストを行うこととした。
テスト解像度は,2560×1600ドットおよび3840×2160ドットの2パターンを選択。ただし「BioShock Infinite」だけは,公式ベンチマークに4K解像度の設定がないため,2560×1600ドットのみとなる。
なお,これは筆者のGPUレビューにおける“いつものこと”だが,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性を排除するため,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。
SLI構成で勢いよく“伸びる”GTX 980
ただし3-wayはスコアが落ちるケースも
グラフは基本的にGeForce→Radeonの順で並べてあるが,クリックするとより負荷の高いテスト条件のスコアで並び変えたものを表示するようにしてあると紹介しつつ,テスト結果を順に見ていこう。
グラフ1は3DMarkの結果で,GTX 980のシングルカード構成と比べ,2-way SLIでは40〜56%程度,3-way SLIでは61〜95%程度のスコア向上が見られる。描画負荷の高い「Extreme」プリセットでより大きなスコア差を付けているのは,高負荷環境に強いマルチGPU構成ならではの傾向といえるだろう。
デュアルGPUカードと比較してみると,2-way SLIはR9 295X2とほぼ互角。GTX TITAN Zに対しては17〜25%程度高いところに立った。
続いてグラフ2,3はBF4のテスト結果をまとめたものだが,BF4で採用されるゲームエンジン「Frostbite 3」がマルチGPU動作へ最適化されていることもあり,SLI構成時に見られるスコアの伸びは見事だ。対GTX 980で,GTX 980の3-way SLIは91〜132%程度,2-way SLIでも70〜73%程度のスコア向上が見られる。
2-way SLIとR9 295X2の比較では,DirectX 11モードのR9 295X2と互角以上,MantleモードのR9 295X2以下。BF4がRadeonへ最適化されていることを考えると,この結果も上々と評していいように思う。ただ,3840×2160ドット時にR9 295X2とのスコア差が縮まり,「標準設定」でわずかにかわされているのも事実だ。
レビュー記事でも指摘したように,GTX 980ではメモリの利用効率が向上し,256bitメモリインタフェースの割に実効メモリバス帯域幅が大きく,メモリ周りがボトルネックになるケースは少ないが,それでも超解像度環境ではさすがに影響が出てくるということを再確認する結果となったわけである。
「Crysis 3」においても,SLI構成のスコアは景気のよいものとなっている(グラフ4,5)。対GTX 980シングルカードでGTX 980の3-way SLIは142〜165%程度,2-way SLIでも74〜87%程度のスコア向上率が得られているので,効果は抜群といったところだ。ベンチマークレギュレーションで規定される合格ラインの平均40fpsに,3-way SLIが3840×2160ドットの高負荷設定であと一歩のところまで迫っているのも感慨深い。標準設定のスコアも見るに付け,GTX 980の3-way SLIならば,Crysis 3を4K解像度,かつ高いグラフィックス設定でプレイできると言ってしまっていいだろう。
2-way SLIがR9 295X2に対して有意なスコア差を示している点も押さえておきたいところだ。
2560×1600ドット解像度で実行したBioShock Infiniteのテスト結果がグラフ6である。もともと現行世代のハイエンドクラスのGPUにとってそれほど負荷の高いテストではないうえ,4K解像度のテストを行っていないので,BF4やCrysis 3と比べるとSLIが示すスコアの伸びは大人しいものとなった。
ただそれでも,GTX 980のシングルカードと比べて,3-way SLIが76〜88%程度,2-way SLIが58〜62%程度高い値を示しているので,3DMarkとほぼ同じような傾向にはなっているといえる。
公式の高解像度テクスチャパックを導入し,グラフィックスメモリ負荷を高めてこそあるものの,現行世代のハイエンドGPUからすると“軽すぎる”テストになってしまっている「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)。それでも超高解像度環境なら何か変わるのではないかと実行した結果がグラフ7,8となる。
結果はご覧のとおりで,標準設定の2560×1600ドットはぐうの音も出ないほどの横並び。描画負荷が高くなるにつれて“120fps頭打ちクラブ”から脱落するテスト対象が増えていくのだが,そんななか,GTX 980の3-way SLIだけは「Ultra設定」の3840×2160ドットでも相対的なCPUボトルネックによる頭打ちとなった。見事というかなんというか,といったところだ。
同条件で2-way SLIを見てみると,R9 295X2とは互角。GTX 980シングルカードに対しては約66%高いスコアを示している。
ここまでとは少し異なる結果になったのが,グラフ9,10の「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」(以下,新生FFXIVベンチ キャラ編)である。具体的には,「標準品質(デスクトップPC)」において,GTX 980の3-way SLIのスコアがGTX 980の2-way SLIを下回った。「最高品質」では順当なスコアを示していることからすると,新生FFXIVベンチ キャラ編においては,描画負荷が低すぎる場合,3基あるGPUの調停動作が足を引っ張る可能性があるということなのだろう。SLIは描画負荷が低い局面だとスコアを伸ばしにくいが,その影響が出ているというわけである。
なお,総合スコアでは分かりにくいという人のため,グラフ9’,10’には平均フレームレートベースのグラフも用意してみた。興味のある人はこちらも参考にしてほしい。GTX 980の2-way SLIとGTX TITAN Z,R9 295X2であれば,最高品質の3840×2160ドットでもまったく問題なく新生FFXIVをプレイできると推測できる数字だ。
グラフ11,12にスコアをまとめた「GRID 2」も,新生FFXIVベンチ キャラ編と同じようなスコア傾向になった。2560×1600ドットでは,GTX 980の3-way SLIでスコアが伸びきらない。しかし3840×2160ドットなら,対GTX 980シングルカードで3-way SLIが114〜136%程度,2-way SLIが61〜68%高いスコアを示しており,総じて,3DMarkやBioShock Infiniteと似た傾向になっている。
GTX 980の2-way SLIでシステム全体が500W程度
3-wayでもR9 295X2より消費電力は低い
GTX 980のSLI動作で気になるのは,性能以上に消費電力だという読者も少なくないだろう。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用い,今回のテストシステムにおける消費電力を測定してみたい。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。
その結果はグラフ13のとおりだ。アイドル時の消費電力を見てみると,GTX 980の2-way SLIはGTX 980シングルカード比で11W増え,3-way SLIだとそこからさらに8W増えている。カードの枚数が増えているので,さもありなんという結果である。
一方のアプリケーション実行時だと,GTX 980の2-way SLIでは,GTX 980のシングルカード構成から154〜193W高くなっている。「TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)=消費電力」ではないが,ともあれ,GTX 980のTDPが165Wなので,おおむねカード1枚分の増大があるイメージだ。GTX TATAN Zより41〜79W,R9 295X2と比べると162〜247Wも低いというインパクトは大きい。
また,GTX 980の3-way SLIがR9 295X2を下回っているという点にも注目しておくべきだろう。これは素直に驚いた。
最後に,GPUの温度も確認しておきたい。ここでは3DMarkの30分間連続実行時点を「高負荷時」とし,アイドル時ともども「GPU-Z」(Version 0.7.9)からGPU温度を取得することにした。テスト時の室温は24℃で,システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラックの状態に置いてある。
グラフィックスカードごとにGPUクーラーが異なり,温度センサーの位置やファンの回転数制御の方法も異なるため,横並びの比較にあまり意味はない。ここでは,GTX 980 SLIやGTX 980 3-way SLIがどの程度の温度になるのかの参考にしてもらえればと思う。
というわけで結果はグラフ14のとおり。カードが隣接して配置されることになるため,3-way SLIでは1枚めと2枚め,2-way SLIでは1枚めの温度がどうしても高くなりがちだが,アイドル時,高負荷時とも,スコアはGTX TITAN Zとほぼ同じだ。あえていえばアイドル時の温度がやや高めだが,問題のあるレベルではない。
なお,R9 295X2がアイドル時のセカンダリGPUでN/Aとなっているのは,省電力機能「AMD ZeroCore Power Technology」により,電力供給がカットされているからだ。
費用対効果を考えると現実的なのは2-wayか
4K解像度が前提なら検討の価値がある
ただ,2-wayで2560×1600ドットでは真価を発揮できないケースがある。NVIDIAは最近,ハイエンドGPUのSLI構成を「4K向け」と位置づけているのだが,実際,現行世代のSLIは4K解像度のディスプレイとセットで使う前提に立ったほうがよさそうだ。
いずれにせよ,GTX 980の持つ消費電力の低さは,2-way SLIでも3-way SLIでもかなり魅力的といえる。電源ユニットに対する要求も低いので,GTX 980カードを購入したのであれば,将来的なアップグレードパスとしてSLIを考慮に入れておくというのも面白いのではなかろうか。
NVIDIAのGTX 980製品情報ページ
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