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開発者が楽しんでゲームを作るからこそ,プレイヤーも楽しめる。「野生の地:Durango」の開発元が語る創造性の高い組織作り
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印刷2016/04/28 15:43

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開発者が楽しんでゲームを作るからこそ,プレイヤーも楽しめる。「野生の地:Durango」の開発元が語る創造性の高い組織作り

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 開発者向けイベントNexon Developers Conference 2016の2日目となる2016年4月27日,モバイルゲーム「野生の地:Durango」を開発するWhat! Studioのディレクター,イ・ウンソク氏によるセッションが行われた。
 テーマは「独創的なチーム作りを目指す,What! Studioの組織文化」で,どのような開発チームでDurangoが作られているかが語られた。

 What! Studioは,Nexonの新規開発スタジオだ。組織文化について紹介するといっても,まだ肝心の開発タイトルが世に出ていないので,イ氏は「NDCでスピーカーをやる前に,(Durangoを)完成させて配信するべきだと思われるかもしれないが」と冗談を交えつつ,開発者の祭典であるNDCに参加することで,自分達の成長にもつながるとコメントしていた。

 さて,イ氏はまず,来場者に向けて「Stone Soup」という童話を紹介した。この内容をざっくりと説明すると,ある町にお腹をすかせた旅人が訪れ,食べ物を分けてもらえないか人々に頼んだものの,見知らぬ旅人を誰も相手にしなかった。そこで,窯に水と石を入れて,「作り終えればおいしいスープができるが,材料が足りないから助けてほしい」と頼むと,興味を持った人が少しずつ材料を持ち寄り,最後は立派なスープができるという話だ。

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 これはつまり,まずは自分で何かをやりはじめ,その結果素晴らしいものができるというビジョンを見せることさえできれば,周りの人々が協力してくれるということだ。このビジョンというのは,少しでも目に見えるものがあると効果的で,Stone Soupで例えれば,窯に水と石を入れただけのとてもスープとは呼べないものであっても,興味を引くことに成功するというわけである。
 また,Stone Soupには「自発性」と「参加」という要素も見られる。人々は,スープのビジョンに興味を持って,自ら材料を入れた。最初は傍観者であっても,積極的な参加者に変わったのだ。
 そして,このスープは個人の力で作られたものではなく,集団創作の結果生み出されたものである。

 こうした過程は,What! Studioのゲーム開発の環境に似ていると,イ氏は話す。このStone Soup式の制作方法というのは,集団が創造性を発揮しやすい形だというのだ。
 では,なぜゲーム開発に創造性が必要なのか。それは,ゲーム産業というものが,厳しいグローバル競争にさらされているからにほかならない。これが,例えばレストランであれば,いかに最高レベルの料理を出そうとも,実際に料理を食べられるのは,近隣の人々や一部の遠くから足を運んできた人だけだ。しかし,ゲームはそうではない。どこにいる人でも,世界最高レベルのゲームを楽しむことができるうえに,その品質によって価格が大きく変わることもないのだ。
 その結果,一握りのスーパースターがすべてを持っていってしまうというのが,ゲーム業界なのである。

Metacritic Scoreをもとにした,ゲームの分布。ほとんどのゲームは平均的な評価で,高得点,あるいは低得点のタイトルは一握りとなる。しかし,販売量は一部の人気作品(イ氏の例えを用いればスーパースター)だけに集中している
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 そして,どのプラットフォームにおいても,いずれ似たようなタイトルが溢れることになる。昔は革新的だったMMORPGも,今では似たようなものを簡単に作れるようになってしまった。そういった環境で生き残るためには,独創性や創造性が必要になるというわけだ。ただし,ゲームの場合は,個人の創造性ではなく,集団の創造性がなければいけないとイ氏は述べる。

 集団の創造性とはどのように発揮されるのか。「船頭多くして船山に登る」ということわざがあるように,集団で何かをするのは簡単なことではないが,うまくいけば,個人の創造性をはるかに超える効果があるという。
 集団創作がうまくいっている例としてイ氏が挙げたのが,Pixarのアニメだ。Pixarのアニメ制作過程は,事前制作のプリプロダクションと,本格な制作に入るプロダクションに分かれている。プリプロダクションは,少ない人数のコアメンバーで,数年かけて完璧なストーリーボードを作ることを目的に行われる。彼らは,今後完成されるアニメを何度も見て,率直な評価を下し,創造性を発揮して,内容の修正や共有を徹底して行うのだ。
 数年が経ってプロダクションの段階に入ると,大規模な人材や製作費が投入され,1〜2年の間に集中して制作が行われる。しかし,この段階で変更点が発生した場合,人数が多いので情報の共有が難しくなる。だからこそ,プリプロダクションで完璧なものを用意して,アニメを作り上げるというわけだ。

 ただ,この方法でゲームを作ってうまくいくのかというと,それは難しいとイ氏は述べる。アニメであれば,例えば1日1回2時間みんなで見て情報を共有するといったことが可能だが,ゲームの場合はプレイ時間が長すぎるからだ。また,インタラクティブなものなので,共通の体験ができるとも限らない。
 そのため,ゲーム開発は不確実性との戦いであり,「何を作るのか」「それは作れるのか」「そしてそれは面白いのか」という三つの答えを探していく行為でもあるのだ。

イ氏の個人的な失敗談も披露された。以前は,創造性が高いゲームを作りたいと思い,ディレクターの権威を使って人員に命令をしていたのだという。しかし,命令されている側は,「自分を信じてもらえない」「失敗する自由がない」と感じてしまい,モチベーションが低下してしまった。ボスが回答を与えてしまうとそこが限界になってしまうので,グループの創造性を伸ばそうと思ったら,質問や討論を通じてより良い答えを見つけることが大切だと実感しているそうだ
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 続いて,「創造性に向いている組織とはどのようなものか」という話題に移った。まず必要なのはビジョンだ。ビジョンと人材は好循環の関係にあり,ビジョンがあれば良い人材が集まり,良い人材がいればビジョンは作りやすいのだという。そしてこの循環を生み出すためには,とにかく目に見えるものを作って共有することが重要だ。

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 加えて,自発性も創造性を生む大きな力になる。何も言わなくても,うまく組織がまわるように,人員の行動ではなく,動機をコントロールすべきである。そのためには,組織の目指すポイントを明確に定め,みんなで同じ方向に進める環境を整えなければならない。ただし,設定したポイントが間違っていることもあるので,修正できるようにしておくことも重要だと付け加えていた。

 また,軍隊や工場のような,責任やプロセスをはっきりさせて,リスクを最小限に抑えるような組織は,ゲーム作りには向いていないという。硬い組織構造では,創造性を発揮できないからだ。デザイナーとエンジニアが何かを作るときに,直接やり取りするのではなく,上にいるマネージャーを通して承認をもらって……といったプロセスが必要になるのは,時間の無駄である。
 組織構造はなるべく単純かつ柔軟にするべきで,マネージャーがすべてを把握しきって支配する必要はない。組織を構成するメンバーが,ストレートに意見を言える環境こそが大切なのだ。

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 さらにイ氏は,ディレクターが権威を持ってゲームを開発するシステムは古いと述べる。リーダーにカリスマがあることは悪くはないが,シングルプレイのゲームならともかく,オンラインゲームの場合はあまりに要素が多く複雑なので,ディレクターがすべてを知り尽くして正しい決定を下すのは難しい。そのため,プロデューサーとクリエイティブディレクターの組み合わせで判断していくのが向いていると話す。

 以上を踏まえたうえで,What! Studioはどのような体制になっているのか。まずビジョンは,「私達の作るゲームが全世界から愛されること」であるという。ただ,これは抽象的なので,はっきりしたビジョンとして,「オタクがコスプレしたいと思わせるほどのゲームを作る」というものもあるそうだ。これは別にコスプレが見たいという話ではなく,世界中にファンができるようなゲームを作りたいということだと話していた。

What! Studioのイメージ。散らかっているが,小奇麗に整頓されているよりも,こういった環境のほうが創造性が刺激されるという
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 また,参加,主張,討論の開放性が重視されているという。意見を主張するのは誰でも自由で,専門分野でなくても意見を述べることができる。その意見を受け入れるかどうかは,専門の人間の判断によるが,意見に耳を傾ける姿勢は,常に持つようにしているそうだ。
 組織のレイヤーはできる限り減らしており,マネージャーがコミュニケーションの窓口にならず,担当者同士が直接やりとりする形となっている。そのやりとりはオープンな形で行われ,後からマネージャーが参加することも可能だ。

 ただ,コミュニケーションを重視しているせいで悩ましい部分もある。35人ほどのメンバーが常に20個ほどの団体チャットルームで会話をしているので,情報量が多すぎるというのだ。マネージャーが数日留守にすると,その間のやり取りを把握するだけで,相当な時間がかかってしまうという。
 また,リアルタイムでの会話を重視しているので,仕事の集中力も途切れてしまう。ただ,こうした問題があったとしても,コミュニケーション不足で失敗するよりは,過剰になるほうがマシだと考えているそうだ。

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具体的なコミュニケーションの方法についても紹介された。一番手軽なのは会話だ。送信は楽だが,伝達量が少なく,保存性にも難がある
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文章は送信者と受信者のコスト,伝達量が高い手段だ。保存性も高い

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絵は送信コストと伝達力が高い手段となる。受け取る側は見るだけなので,文章を読むよりも簡単に受け入れられる
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映像は,絵よりもさらに送信コストと伝達力が高い。最後まで見なければいけないので受信コストも高くなる

What! Studioでは,画像や映像を張り付けられるチャットルームで,濃密なコミュニケーションを取っているという
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映像以上に高コストだが,効果的に伝達できるプレゼンテーション
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もっとも伝達力が高く,ゲームの不確実性を低下させられるコミュニケーション手段として紹介されたのが,プロトタイプを作るというもの。Durangoも,さまざなプロトタイプが作られて共有されたそうだ
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What! Studioは,「ブラックリストにもとづいて寛容性を持つ」文化になっている。“ここでだけUターンをしても良い”ではなく,“ここでだけUターンをしてはダメ”というような感じで,これが創造性を刺激するのだと述べる
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 What! Studioは遊び心を許容する職場でもあるという。直接の業務とは関係ないが,コミュニケーションを取るためのチャットルームに面白おかしいトークBOTを追加してみたり,あるいは動くネタ画像を作って貼ってみたりといった感じだ。こうした無駄とも思えることを仕事中に行うのは,楽しいチーム文化につながるとイ氏は認識している。
 開発者が楽しい気持ちでゲームを作るからこそ楽しいゲームが生まれるのであって,地獄のような環境でゲームを開発しても,プレイヤーを地獄に導くだけだと話していた。

開発者の遊び心が,成果物につながることもある。あるアーティストAさんがストレス解消にDurangoで作ったネタ機能があり,それが社内向けの映像に映っていた。それを見た別のデザイナーBさんが,正式に実装したらどうかと提案したところ,Cさんが乗ってきて実装されてしまったという具合だ。一人の行動が,周囲の興味を引いて自発的な参加者が増えていくという,Stone Soupのような例だ
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 最後にイ氏は,結論として以下のまとめを紹介して,セッションを締めくくった。こうした環境で作られているDurangoが,どういったゲームになるのか。配信される日を楽しみに待ちたい。

  • 生き残るためには創造性が重要だ
  • ゲームの開発は集団の創造性が必要で,不確実性も高い
  • 権威主義の複雑な組織構造は,創造の障害になる
  • ビジョン,自発性,開放性,コミュニケーション,寛容性,これに遊び心を加えると集団の創造性は爆発する
  • 開発者が楽しんでこそプレイヤーも楽しめる
  • 関連タイトル:

    野生の地:Durango

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