ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは2016年4月4日,東京都内において,統合開発環境Unityの開発者向けカンファレンス
「Unite 2016 Tokyo」を開催した。
そこで行われた講演
『「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」MayaからUnityへの橋渡し』では,同作のプロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの
渕上貴史氏と,アートディレクターであるクルーズの
野澤圭介氏が登壇。同作における,オリジナルツールを用いた開発作業の効率化について解説した。
「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」のプロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの渕上貴史氏(写真左)と,アートディレクターであるクルーズの野澤圭介氏(写真右)
![画像集 No.002のサムネイル画像 / [Unite 2016]オリジナルツールを作って作業の効率化を図る。『「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」MayaからUnityへの橋渡し』聴講レポート](/games/295/G029542/20160405039/TN/002.jpg) |
スマートフォン向けオンラインRPG「ファイナルファンタジーグランドマスターズ(以下,FFGM)」は,MayaとUnityで開発されているのだが,そこにクルーズが作ったオリジナルツールが用いられ,各種作業の効率化が図られているという。
こうしたツール類を作成したり,エンジニアとデザイナーの橋渡しをしたりするのが「サポートエンジニア」だ。ほかの会社では「テクニカルエンジニア」と呼ばれたりもするが,野澤氏いわく「R&D(Research and development,研究開発)を現場でやるような」仕事を手がけているエンジニアだという。FFGMでは1名のサポートエンジニアが現場のニーズを汲んでツール類を作り,開発を効率化してきた実績があるそうだ。
FFGMのウリとなっているのが,キャラクターメイキングの自由度の高さを,多種多様な武具で見た目をカスタマイズできる点。キャラクターの体,武器,防具など,パーツの総数は約2000にも達しているという。
これらのパーツをゲームに組み込むためには,ボーンやアニメーションなど様々な情報を持つFBXファイルが必要になり,パーツの数だけFBXファイルをエクスポートしなければならない。言うまでもなく,これは手間と時間のかかる作業だったが,クルーズではすべてのパーツをひとまとめにしてエクスポートするプラグインを開発。このプラグインは,アタッチされていないパーツや不正な法線の修正,パーツ名が命名規則に従ったものになっているかのチェックなども行ってくれるため,開発作業が大きく効率化されたのだという。
QC(クオリティチェック)の場面でも,オリジナルツールによる効率化が行われている。プレイヤーキャラクターのパーツや動作モーションのチェックでは,制作された武器/防具や動作モーションが正常に動作することを確認する必要があるが,そのためにはスマートフォンの実機を使う必要があり,かなりの手間がかかっていた。しかし,オリジナルツール「プレイヤービューア」が開発されてからは,デザイナーがPC上で直接チェックを行えるようになり,大幅なコスト削減につながったのだという。
FFGMには5つの種族が登場するが,ボディや身につける武器/防具のデータは同一で,Unityのボーンスケール値を変化させることで体格の違いが表現されている(左写真)。バトルシーンではリッチなモデル,多数のキャラクターが登場するフィールドシーンではシンプルなモデルが使われるようになっており,バトルシーンのモデルはフィールドシーンの4倍のポリゴン数を持っているのだという(中央写真)。背景も,バトルシーンとフィールドシーンで同じものを使うのではなく,フィールドシーンのものは初期シリーズを思わせるブロック状の地形となっている(右写真)
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モンスターの技エフェクトをチェックするためのツールも開発された。モンスターが技を使った際のモーションとエフェクトが想定通りの動作になっているかを確認するとき,これまではスマートフォンでプレイし,対象モンスターが出現するまでゲームを進める必要があった。そこで開発されたのが,「モンスター&エフェクトビューア」だ。これを使えば,PCでモンスターの挙動を確認しつつ,技のエフェクトも自由に再生できるため,技エフェクトの微妙なズレなども,すぐに修正することができるようになったそうだ。
プレイヤーキャラクターにしろモンスターにしろ,最終的にはスマートフォンの実機で確認する必要があるのは従来どおりだが,今回紹介された各種オリジナルツールは,その前の段階で大きな力を発揮している。
大量のFBXファイルがエクスポートされる開発現場においては,「FBXバージョンチェックツール」も欠かせないオリジナルツールだという。FFGMの現場では,安定性の観点からバージョンを2012に統一することになっている。それでも多くの人々が関わるだけに,ケアレスミスからバージョン違いのFBXファイルをエクスポートしてしまい,バグの原因になることもあるのだという。もちろん,バグが出るたびに一つ一つのファイルをチェックしているわけにもいかないわけで,チェックツールはなくてはならない存在なのだ。
こちらはオリジナルツールの一つ「バッチングツール」。大量のFBXファイルをドラッグ&ドロップで一気にPrefab化できるうえ,モーションなどを修正した際にPrefabも自動更新される
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![画像集 No.022のサムネイル画像 / [Unite 2016]オリジナルツールを作って作業の効率化を図る。『「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」MayaからUnityへの橋渡し』聴講レポート](/games/295/G029542/20160405039/TN/022.jpg) |
FFGMではカスタムシェーダも用いられ,スマートフォンにおける安定動作と表現力のバランスを取っている。スマートフォンと一口に言っても,最新のハイスペック機から型落ちの旧モデルまで様々で,FFGMでは約100種が推奨端末として挙げられている。ここで快適な動作と高品質なグラフィックスを両立しているのが,クルーズが作成したオリジナルシェーダだ。
たとえば「Alpha Fade」は,討伐されたモンスターがフェードアウトしていく様を表現するオリジナルシェーダだ。モンスターに限らず,FFGMで使われているテクスチャは,容量を削減するためアルファチャンネルを持っていない。しかし,Alpha Fadeがあれば,シェーダ側でフェードアウト的表現を行ってくれるため,データ量の削減と演出効果の両取りができるわけだ。
降臨モンスターは,通常モンスターとは違った消え方をするが,このときには「Pattern Dissolve Fade」シェーダが使われている。「降臨モンスターが討伐されたときは,初期FFシリーズのような徐々に消えていく表現にしてほしい」というスクウェア・エニックスのオファーに応えて作成されたものだ。これはすべての降臨モンスターに対応しており,消滅パターン用のテクスチャ1枚でオファー通りの表現が実現可能だという。
冒頭でも説明したが,これらのツール類は,開発作業の中で必要が生じるたびに,サポートエンジニアの手によって作られたものだ。クルーズではFFGMに限らず,他のタイトルでもサポートエンジニアが採用されており,環境に合わせたツール開発が進められている。汎用性が高いものに関しては,複数タイトル間での共通化も行われているとのことだ。
プレイヤーキャラクターの肌も色ごとにテクスチャデータを持つと容量が大きくなってしまうため,シェーダで表現するという工夫が施されている
![画像集 No.027のサムネイル画像 / [Unite 2016]オリジナルツールを作って作業の効率化を図る。『「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」MayaからUnityへの橋渡し』聴講レポート](/games/295/G029542/20160405039/TN/027.jpg) |
![画像集 No.028のサムネイル画像 / [Unite 2016]オリジナルツールを作って作業の効率化を図る。『「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」MayaからUnityへの橋渡し』聴講レポート](/games/295/G029542/20160405039/TN/028.jpg) |
FFといえばクリスタルの輝きだが,本作では16×16のグレースケール画像をスクロールさせることで擬似的なスペキュラ表現を行っている
![画像集 No.029のサムネイル画像 / [Unite 2016]オリジナルツールを作って作業の効率化を図る。『「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」MayaからUnityへの橋渡し』聴講レポート](/games/295/G029542/20160405039/TN/029.jpg) |
この講演を通じて感じられたのは,問題を根本的に解決しようとする意思の大切さだ。ゲーム開発に限らず,あらゆる仕事には「手間のかかる作業」が生じるものだが,「仕方ない」と諦めて,マンパワーで処理してしまいがちである。しかし,ここで視点を一段階高め,問題を解決するためのオリジナルツールを作ることができれば,時間と予算を大きく節約できる。オリジナルツール制作にかけたコストがどれほどの利益を生んだのか,具体的な数値として提示することは難しいかもしれないが,アップデートを継続的に行う必要がある(サービスしている限り開発が終わらない)オンラインRPGの現場にとっては,極めて効果的な投資といえるだろう。