今週のテーマ:PC専用FPSの最後の輝き(個人の感想です)
今週の
「東京レトロゲームショウ2016」は,2007年にエレクトロニック・アーツからリリースされたFPS
「クライシス」をピックアップしたい。2007年のゲームが“レトロ”かどうかについてはご意見もおありかと思うが,諸般の事情によりぜひ取り上げさせていただきたい所存だ。無性にプレイしたかったんです,あたし。
これが9年前の次世代グラフィックスだ!
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「クライシス」を制作したのは,ドイツのデベロッパCrytekで,もともとはゲームエンジンを開発することを目的としたメーカーだった。2000年にロンドンで開催されたゲームイベント,ECTS(European Computer Trade Show)では,南の島のジャングルやそこに生息する恐竜などを緻密に再現した
「CRYENGINE」のデモをNVIDIAのブースで行っていた。Crytekはその後,いくつかのデモを公開し,それらをベースにして作られたのが,2004年にリリースされた
「Far Cry」だった。
そういう経緯のタイトルであり,また,同じ2004年に
「DOOM 3」「Half-Life 2」がリリースされたこともあって,発売当初は「CRYENGINE」のグラフィックスに注目が集まったが,やがて,ゲーム内容も評価されるようになった。「DOOM3」「Half-Life 2」の影に隠れてしまった感はあるが,それなりのヒットを記録した。
当然,続編も期待されたが,「Far Cry」発売後にCrytekはパブリッシャをUbisoft EntertainmentからElectronic Artsに変更したため,「Far Cry」の知的財産権はUbisoft側に移り,名前が使えなくなった。そのため,Crytekがまったく新しいタイトルとして制作したのが,「クライシス」というわけだ。ちなみにUbisoftは「Far Cry」の続編として独自に
「Far Cry 2」を制作して2008年にリリースした。同作はアフリカを舞台にしたオープンワールドFPSで,筆者個人は非常に好きでかなりプレイしたのだが,セールスは期待されたほどではなかったらしい。しかし,2012年の
「Far Cry 3」と,2014年の
「Far Cry 4」では高評価を得,Cytekの手を離れた「Far Cry」シリーズは,今やUbisoftの看板シリーズの1つに成長している。さすがはUbisoftだ。
かなりいろいろなオブジェクトが破壊可能であるところも,モダン
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なんの話だっけ? そうそう,そんな「クライシス」は発表段階からそのグラフィックスに注目が集まっていた。PC専用ということで,そのときの最高のCPUだのGPUだのに加えて,大きなメインメモリとグラフィックスメモリを要求する豪華仕様であり,もちろん筆者の環境では当時,グラフィックスレベルを最高にするとラグってお話にならなかった。しかし,約9年を経た現在,編集部で与えられたPC
※でごく普通に最高画質ですんなりプレイすることができ,筆者はついに勝った! 誰が何に勝ったのかはよく分からないが,
ともかく勝った! 科学技術の進歩はすごいと思う。
FPSなのでプレイしているときは分かりづらいが,プレイヤーキャラクターもこのナノスーツを着ている
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さて,そんな「クライシス」の舞台となるのはフィリピン海に浮かぶ孤島,リンシャン島だ。アメリカの調査チームが島で謎の遺跡を発掘するが,いきなり北朝鮮の特殊部隊が上陸してきて島内を制圧。調査チームは消息を絶つ。彼らの救助と,北朝鮮軍の動向を探るために島に送り込まれたのが,アメリカ軍特殊部隊
「ラプターチーム」で,プレイヤーはその1人,
ノーマッドとしてゲームを進めることになる。
プレイは「DOOM」以来の伝統と格式を誇る“ランボースタイル”で,仲間と一緒に戦っていくといった場面はほとんどなく,襲ってくる多数の敵をノーマッド1人でバッタバッタと倒していくという感じだ。そんなスーパーマンぶりにリアリティを与えるのが,ラプターチームの着ているハイテク戦闘服,
ナノスーツだ。ナノスーツには4つのモードがあり,通常は防弾機能が高く治療能力もある
「マキシマムアーマー」だが,高速移動が可能な
「マキシマムスピード」,筋力が大幅アップする
「マキシマムストレングス」,そして姿を消せる光学迷彩
「クローク」を選択できる。
気づいていないようだ
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とくに「クローク」は強力で,こっそり敵に忍び寄って首っ玉を押さえ,「マキシマムストレングス」に切り替えて遠くへ投げ飛ばす,みたいなことも簡単にできる。こうした各種モードを状況に応じて切り替えることで,戦術は多彩になり,同じ場面でもいろいろな攻略法を考えることができる。これが楽しい。敵を全部倒したあと,撃つと爆発する「FPSでお約束のドラム缶」があったことを知り,これを使ってみたさに,もう一度同じ場面をやり直すといったことも一再ではなかった。流れるようにモードをチェンジし,次々に敵を倒していけたりすると,思わず自分の強さに酔いしれてしまうはずだ。
徒歩で戦うだけでなく,戦車に乗ったり高射砲を撃ったりして戦う場面もスパイス的に登場するので,それほど単調さも感じない。
慣れると,病みつき。首をつかんで,ウリャ! とぶん投げる
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とはいえ敵AIも,頭の良さにはちょっとムラはあるものの割と優秀で,しかも数が多いので,自分の強さに酔っていたら,増援の大部隊にあっさりやられてしまうこともあるだろう。正面攻撃はたいてい成功しない。無敵の「クローク」も,敵の弾丸を食らってエネルギーを失うと,解除されてしまうのだ。
登場人物はそれほど多くなく,物語の展開も比較的シンプルなので,英語でも問題ないと思う
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もっとも,その楽しさはゲーム全体の3分の2ぐらいまでで,敵が北朝鮮軍から
エイリアンにシフトすると,いろいろな戦略もとりにくくなり,ゲームの流れも直線的になってしまう。このエイリアンの存在がゲームメディアの不評を買ったことを覚えている人も多いと思うが,筆者も苦手。空中をあっちへフラフラ,こっちへフラフラで,撃っても当たらないったらありゃしない。キー。また,尻切れのストーリーや,ステレオタイプなキャラクターなども弱い点として指摘されている。
話題だったグラフィックスだが,今見ても非常に美しいとは思うものの,時代の流れと共に同レベルのタイトルも増えてきたのも事実。とはいえ,PC専用タイトルだからこそ,限界突破でやるだけやるぜ,みたいなCrytekの心意気は現在でもいいじゃないかと思う(上から目線)。最近,そんなPC専用タイトルってありましたっけ。ないですよね。
続編以降は,コンシューマ機版も同時発売されるようになり,個性はやや薄れてしまったものの,PC専用FPSの最後の輝きだと勝手に思っているこの「クライシス」,あなたもぜひプレイしてほしい。
GameSpyのサービス停止により,現在,マルチプレイはできない状況だ
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※CPU:Core i 5/3.0GHz,グラフィックスチップ:GeForce GTX 960,メインメモリ:8GB,グラフィックスメモリ:2GB