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【Jerry Chu】アクションゲームにストーリーは必要不可欠か
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印刷2016/06/25 12:00

連載

【Jerry Chu】アクションゲームにストーリーは必要不可欠か

Jerry Chu /  香港出身,現在は日本の大学院で勉強中

画像集 No.001のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームにストーリーは必要不可欠か

Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」

Twitter:@akemi_cyan


アクションゲームにストーリーは必要不可欠か


 ストーリーは,いまやゲームにとって必要不可欠な要素となっている。

 グラフィックス技術の進化につれて,ゲームにおけるストーリーはどんどん壮大になっていった。少年少女の冒険を描いた「ファイナルファンタジー」シリーズや,社会的な事件をテーマにしてきた「メタルギアソリッド」シリーズなど,ストーリーに重きを置いた作品は高い人気を獲得している。昨今,スマホゲームを見回してみても「重厚なストーリー」「感動的な物語」といった謳い文句をよく見かける。

 ただ,ゲームとは本来,必ずしもストーリーを楽しむためのものだっただろうか。ファミコン時代には「ストーリーのない(または希薄な)ゲーム」のほうが多かった気がする。
 「姫がさらわれたから助けに行く」「宇宙人が侵略してきたから迎え撃つ」「魔王が復活したので倒しに行く」など,当時のゲームにおけるストーリーは必要最低限の動機付けでしかなかった。むしろ,それらは「世界設定」と呼ぶものだろう。
 「テトリス」や「パックマン」に至っては抽象的な符号しか登場せず,ストーリーと呼べる要素は皆無だった。ゲームとは「遊ぶための玩具(ツール)」であり,楽しければ別にストーリーがなくても良かったのだ。

画像集 No.011のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームにストーリーは必要不可欠か

 1993年に発売された「DOOM」は,まさに「ストーリーのないゲーム」の代表格と言えよう。
 id Softwareによって生み出された「DOOM」は,FPSというジャンルを確立させた名作だ。プレイヤーは主人公の名前すら知らないまま,無人の火星基地に放り込まれ,無数の悪魔と殺し合いを強いられる。広大なマップを走り回り,アーマーと弾薬を集めていく。多彩な銃器を使い分けながら,モンスターを粉砕する。
 当時の最高峰に位置する3Dグラフィックスを実現した本作は,世界中のゲーマーの心を鷲掴みにし,FPSブームのの火付け役として歴史に名を刻んだ。

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 「DOOM」は緊張感と爽快感に満ち溢れていたが,ストーリーがないばかりか,むしろストーリーを蔑(ないがし)ろにした。「DOOM」のプログラマーだったJohn Carmack氏は,本作の開発にあたり,「ゲームにおけるストーリーは,ポルノ映画のストーリーと同じだ。あって当然だと思われるが,さほど重要ではない」と主張している(出典元:David Kushner著「Masters of Doom: How Two Guys Created an Empire and Transformed Pop Culture」Chapter 8より)。
 「戦闘」と「回避」こそ,「DOOM」の醍醐味であり,ストーリーが入り込む余地なんかない。主人公は何者なのか? なぜ主人公が無人の火星基地にいるのか? なぜ火星基地に悪魔がいるのか? そんなことはどうでもいい! とにかく戦え! 悪魔どもを蹴散らせ! ただ殺し合いに興じるためだけにある。「DOOM」とは,そんな純粋なゲームだった。

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 2016年5月,Bethesda Softworksから発売された新生「DOOM」PC / PlayStation 4 / Xbox One)には,初代「DOOM」の趣旨が忠実に受け継がれていた。
 開幕直後,火星基地で目覚めた主人公はいきなり襲ってくる悪魔を素手でぶっ潰す。レーザー銃を拾い上げると,迫り来る悪魔を次々と撃ち抜いていく。基地の担当者から連絡を受け,「互いに協力し合い,この状況を乗り切ろう――」と事情を説明してもらっているにも関わらず,主人公はいきなりパネルを掴んで投げ捨てるのだ。
 「細かいことはどうでもいい! 悪魔をやっつければいいんだろ?」と言わんばかりである。

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 初代「DOOM」と違い,新生「DOOM」にはストーリーがある。主人公以外のキャラクターが登場し,世界設定を説明するテキストも用意されている。
 だが,主人公はそれらを軽んじているような素振りを見せる。ストーリーを説明するパネルを壊し,NPCの指示を無視して施設を破壊する。無愛想に見えるが,新しい武器を手に入れると丁重に持ち上げ,興奮した視線でそれを撫でる。
 「何があったかは気にするな! 俺はただ銃を撃つためにここにいる」というスタンスが無言のうちに伝わってくる。

 それに呼応するかのように,プレイヤーも「銃を撃ち続けたい」という気分になるだろう。ファイアボールを投げてくる「インプ」,肉弾戦を好む「ヘルナイツ」,空を飛ぶ「カコデーモン」など,個性的な敵が入り乱れる戦場。猛スピードで襲いかかる悪魔を相手に,物陰に隠れる意味はない。
 悪魔の攻撃をかわしながら走り回り,視界に入ったものから銃弾を浴びせ,弱らせたところに素手でとどめを刺す。状況に応じて,とっさに武器の使い分けを判断しなくてはならない。新生「DOOM」の戦闘は,初代にも増して緊張感と爽快感に溢れている。

ゲーム内では「Super Shotgun」と呼ばれるが,木製のハンドルから二連式の銃身まで,レトロテイストに満ちた外見だ
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 主人公の使える武器には,チェーンソーと中折式ショットガンがある。どちらも「DOOM」ではお馴染みの武器だが,ちょっと考えてみるとおかしい。チェーンソーとは,木を切ったり削ったりするための工具だが,木の生えない火星で必要だろうか。レーザー銃とプラズマライフルが配備されているスペースステーションに,中折式ショットガンとは時代遅れではないか。
 だが,つまらない常識はどうでもいい。なぜなら,チェーンソーと中折式ショットガンで悪魔を蹴散らすのは楽しいから。アクションあってのゲームであり,ストーリーはアクションの動機付けに過ぎない。より楽しくするためなら,多少理屈に合わないことでもやってしまう。新生「DOOM」は,相も変わらずに純粋で遊び心に溢れたゲームなのだ。

チェーンソーの説明文では「使い物にならないのに,なぜか密輸入されている」と冗談を飛ばしている
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 id Softwareの代表作と言えば,1992年に発売された「Wolfenstein 3D」も有名だ。本作もまた,MachineGamesによるリブート作「Wolfenstein: The New Order」PC / PlayStation 4 / PlayStation 3 / Xbox One / Xbox 360)が2014年にリリースされている。

「Wolfenstein 3D」
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 だが,ストーリーを重視しなかった原作とは異なり,リブート作では「ナチスの軍勢に1人で立ち向かう」というコンセプトを踏襲しつつも,ナチスによる暴挙や絶望的な劣勢に抗うレジスタンス達の生き様が緻密なカットシーンで描かれる。サイボーグと戦ったり,スペースステーションに侵攻したりといった派手な戦闘シーンだけでなく,圧倒的な強敵に立ち向かう絶望感が常に感じられる重厚なFPSだ。
 新生「DOOM」は「スリルのある戦闘」を原作どおりに再現したが,「Wolfenstein: The New Order」は新しい視点から原作を再解釈して「戦争の悲惨さ」を表現している。どちらもid Software初期の名作FPSをリブートしているのに,正反対の道を歩んだのだ。

「Wolfenstein: The New Order」
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 Game Developers Conference 2016の講演において,プラチナゲームズの稲葉敦志氏「ストーリーから考え始めるアクションゲームは絶対に駄作になる」という趣旨を語っている。アクションゲームにおけるストーリーは,「状況の変化」と「行動の動機」さえプレイヤーに伝われば十分であり,入り組んだストーリーは必要ないというのが氏の主張である。

 「襲いかかる敵を迎え撃つ」ことを目的とするFPSは,アクションゲームの一種だと言える。「Wolfenstein: The New Order」はストーリーとアクションを両立させた傑作だが,「純粋にアクションを楽しむためのゲーム」ではない。ストーリーを必要とせず,ただ血みどろの戦闘を楽しむためだけに作られた新生「DOOM」のほうが,アクションゲームの本質に近いのだろう。

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 昨今のFPSはストーリーを重視し,演出も凝っている。「Call of Duty」シリーズではケヴィン・スペイシーさんやサム・ワーシントンさんら名優を迎え,ハリウッド映画を彷彿させる演出手法を取り入れている。「BioShock」シリーズはシューター面よりも,むしろストーリーのほうが高く評価されている。
 その意味では,合理性とドラマ性を度外視してアクションゲームの楽しさだけを突き詰めた新生「DOOM」が異例の存在と言える。「ストーリーがなくても,面白いアクションゲームは存在しうる」ということを,FPSの元祖たる「DOOM」は20年の時を超えて再び証明してくれたのだ。

■■Jerry Chu■■
香港の引きこもりゲーマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。現在はゲームプログラマーを目指して勉強中。
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