連載
NHK「ゲームゲノム」Season2 第7回は「NieR:Automata」。ヨコオタロウ氏や2B役の石川由依さんを迎えてその魅力に迫る
NieR:Automataは,スタイリッシュかつ爽快なアクションと,胸をえぐるストーリーでプレイヤーの心を鷲掴みにするナラティブな要素が話題となって人気を博した。これまでに全世界750万本(2023年時点)を売り上げ,D.I.C.E. AwardsのRole-playing部門賞にも選ばれるなど,世界的に評価されているタイトルだ。
今回はMCに三浦大知さん,ゲストに同作のクリエイティブ・ディレクターであるヨコオタロウ氏,シニア・ゲームデザイナーの田浦貴久氏,そして2B役の声優,石川由依さんを迎えて「罪と罰」をテーマに「NieR:Automata」の魅力に迫っていく。
なお,同番組ならびに本稿には,NieR:Automataの根幹に関わる重要なネタバレが含まれている。閲覧の際は留意いただきたい。
「NieR:Automata」とは?
「NieR:Automata」は,ヨコオタロウ氏がディレクターを務めることで知られる「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズと世界観を共有する「ニーア ゲシュタルト/レプリカント」の続編として生み出された。ご存じのとおり単なる続編ではなく,それまでシリーズで描かれてきた世界観を大きく広げた作品だ。「ベヨネッタ」などでアクションに定評のあるプラチナゲームズが開発を担当したことで,ナラティブな要素だけでなくアクションゲームとしても唯一無二の存在感を見せつけ,日本のみならず多くの国々で広く受け入れられた。
ヨコオ氏が得意とする斬新なストーリーテリングと思想の根幹に迫る深いテーマ性に加えて,上述したアクション性,さらにゲーム音楽も高く評価されたことで,世界各国のさまざまな賞を受賞。その後はスマートフォン向けに「NieR Re[in]carnation」がリリースされるなど,ヨコオ氏を代表するビッグIPへと成長している。
NieR:Automataでシニア・ゲームデザイナーを務めた田浦氏は,元々ヨコオ氏のファンだったことから「NieR」の続編を制作したいと考え,いくつもの企画を提案。しかしそれらはすべてヨコオ氏によってボツにされ,最終的には田浦氏とヨコオ氏が会話を重ねていくなかで,「NieR:Automata」という案が生まれたと話していた。ちなみに,ヨコオ氏は最初,田浦氏から尊敬の眼差しを向けられていたが,脚本の上がりがあまりにも遅かったことで,徐々に蔑むような目線を感じるようになったらしい。
最高の爽快感とオートチップの存在意義
さて,本作といえばプラチナゲームズらしいスピード感溢れる爽快なアクションも魅力の一つだ。人間離れした身体能力を持つアンドロイドの主人公2Bや9Sを操り,テンポよく機械生命体を薙ぎ倒していく気持ち良さのなかに,プレイヤーを惹きつけて離さない力強さと艶やかさが内包されている。しかしそんな本作に,まったくアクションをせずともゲームを進められる機能があることをご存じだろうか。
番組内でも取り上げられたオートチップは,アンドロイドを主人公とする「NieR:Automata」の特徴的な機能だ。プレイヤーはオートチップを適切に組むことで,まるでプログラムしてロボットを動かすように,2Bや9Sといったプレイヤーキャラクターたちのバトルコマンドを自動化して勝手に戦わせられる。単なるオートプレイではなく,実際にコントローラに触れずとも戦闘を終えられるような可能性を秘めた機能である,というのが非常にユニークなところだ。
しかし,アクションが大きなウリの一つである同作において,一見するとオートチップは相性の良い機能とは思えない。その実装意図について開発陣は,大抵のゲームはシナリオ(イベントシーン)をスキップできる。であるならば「ゲームプレイもスキップできて良いのではないか?」と考えたという。
繰り返すが,NieR:Automataの重要な柱となっているのはヨコオ氏のシナリオだ。アクションが苦手で先に進めない……というプレイヤーに向けて実装されたのがオートチップである。実際,オートチップは難度EASYのみで使える機能なので,ストーリーを楽しみにしているプレイヤーをターゲットにしているのだろう。
また,田浦氏はNieR:Automataのアクションについて「触ったときの気持ち良さに全振りした」と番組内で触れた。例えば,攻撃ボタンを押したときにできるだけ早く攻撃がヒットするようにという調整を考えるなかで(おそらくそれが,手触りの良さという観点で非常に重要),ボタン押下からヒットのフィードバックが返ってくるまでの時間に着目した。攻撃までの予備動作が短すぎると,どんな攻撃が当たったのか分からなくて気持ち良くない。かといって長く見せすぎると当たるまでに時間がかかってイライラしてしまう。その間のちょうど良いタイミングというのが,攻撃ボタンの押下からヒットまで0.16秒であったとし,その攻撃をコンボの一段目に入れ,そこから派生する攻撃を組み立てていったとのこと。
異なる視点で明らかになる“真実”
これまでにも触れているとおり,「NieR:Automata」はナラティブな要素が大きな特徴となっているタイトルだ。その舞台は,はるか遠い未来の地球である。異星人たちが送り込んできた機械生命体の侵攻によって地球文明は壊滅。月へと逃げたわずかな人類は,乗っ取られたかつての故郷を取り戻すために,アンドロイドで構成された特殊部隊「YoRHa」を送り込む。このアンドロイドたちと機械生命体たちの戦いをとおして,人類の存在意義や感情,倫理について深く掘り下げた物語が紡がれていく。
最初こそ,感情を持たない機械生命体たちを爽快なアクションで倒していく気持ち良さを味わえるが,物語が進んでいくなかでこの気持ち良さが少しずつ別の感情に変化していく。というのも,ある時から機械生命体たちがアンドロイドたち(要するにプレイヤー)に対して「ヤダ」「コワイ」などという言葉を発するようになるのだ。機械生命体との戦闘のなかで徐々に芽生える違和感。そして,気味の悪さ。そういった感情をプレイヤーがはっきりと認識することになるのが,遊園地廃墟というステージのボスとして登場する「ボーヴォワール」と対峙したときである。
オペラ歌手のような風貌のこの機械生命体は,始終,美への執着を叫びながらプレイヤーに襲いかかってくる。主人公の2Bはこれを撃破するほかないが,相方の9Sは最初こそ否定していたものの,彼女との戦いをとおして機械生命体に感情があるのではないかと疑心暗鬼に陥る。そしてゲームを一度クリアしたうえで,あらためて9Sを主人公とした2周目に挑むことで,隠されていた真実が明らかになっていく。
9Sはハッキングという能力で機械生命体の内部に入り込み,そこで始まるシューティングゲームをクリアすることで,敵に大ダメージを与えられる。そしてこのハッキングには,敵のプログラムに保存されている記憶が再生されるという副産物がある。9Sはボーヴォワールをハッキングした際に,彼女が美しさを求める理由を記憶として見てしまい,同時にそれが機械生命体が感情を持つ存在であることに気付かされるきっかけになった。この頃には,多くのプレイヤーが機械生命体を倒す爽快感が後ろめたさに変わっていることに気が付くだろう。
2Bのキャストである石川さんは,同様の感覚を森の王国というステージで強く味わったと話す。次世代の王となるべき機械生命体を守る森の王国の敵たちを,どこか申し訳ない気持ちで倒していったそうだ。ヨコオ氏はこれに対して「ゲームをやっているときに,あの敵を倒したいとか,なんでこれをやっているんだろうと想いを馳せることは意味があることだと思っている」と話す。「敵である機械生命体たちを通して,シンプルに誇張された感情を鏡のように写して,我々の人間性を描く」というのが,NieR:Automataのようなシナリオを紡ぐ狙いであったそうだ。
逃れられない“罪と罰”
ストーリーを追っていくなかで出会う,機械生命体がアンドロイドを模して作り出した強敵イヴの存在は,これまでの体験で揺らぐプレイヤーの心をさらにえぐっていく。強敵イヴに対してハッキングを試みる9Sと,その結果プレイヤーが選ぶことになる結末。このシーンは,プレイした多くの人の記憶にしっかりと残っているだろう。
ヨコオ氏は,何百体という敵を倒していくゲーム,物語の中でその屍の上に立って笑顔でハッピーエンドというのは成立し得ないとしたうえで,「意味のある代償がないと納得ができない」と話す。イヴと9Sにまつわるシーンは,2Bが多くの(無垢な)機械生命体を屠ってきた罪に対する罰のようなものが描かれているのではないかと三浦さんも共感した。
また,同作をプレイしていなくても知っている人が多いであろう「NieR:Automata」における究極の選択に,セーブデータの消去がある。エンディングで,アンドロイドが全滅するというバッドエンドが描かれるのだが,そのエンディングのスタッフロール中に「死んだアンドロイドたちを復活させたいか?」という希望の選択肢が出現する。それを成立させるためには,スタッフロール中にシューティングゲームに挑む必要があるのだが,これが超高難度でまさに死ぬほど難しいのである。しかし,このシューティングゲームは,インターネットでつながっているプレイヤーを僚機として呼び出して助けてもらえる。そしてこの僚機こそ,かつてセーブデータを消した者たちなのだ。
こういった選択を乗り越えた先に待つ希望のエンディングと,その末に問われる「誰かを助けたいと願うか」という質問。自らも先人たちと同じようにセーブデータを消すことで,誰かを助けられる。しかしその代償は,これまで自分が何十時間何百時間とかけて紡いできた物語と,キャラクターをとおして得てきた体験なのである。
ヨコオ氏は,ゲームはプレイヤーのものであり,エンディングをクリエイターが提供するのではなく,プレイヤーの選択として体験してほしいという。このエンディグをとおして「あなたが思ったことが,あなたのエンディングなんだよ」というのを感じてもらえるのが喜びだと語った。
最後に,今回のゲスト陣の「NieR:Automata」に対する気持ちをまとめて紹介する。
「きっと人間って生きているだけで罪を重ねていることってたくさんある。だからこそ後ろめたさが生まれることもある。けれど,自分が誰かのためにしたことが巡り巡って赦しになるのかなと思う」(石川さん)
「自分の中でゲームっていうもの自体が,触った人がどういう道筋を辿りたいか,どういう遊び方をしたいか,いろんなことに選択肢があって,その人それぞれに感想をもてるように,こちらがこうしてほしいというのはもちろんあるけれど,それを押し付けないようにしていきたい」(田浦氏)
「少しメタな視点になるが,自分たちゲームクリエイターは人間の欲望を使ってお金儲けをしているという意味では汚れた存在だと思う。そういう罪深さに自覚的であることは,大事にしようかなと思っている」(ヨコオ氏)
2024年1月10日 放送開始(全10回)
毎週水曜日 23:00〜23:29/NHK 総合(予定)
※「NHK プラス」で1週間見逃し配信あり
「NieR:Automata」公式サイト
「ゲームゲノム」公式サイト
「ゲームゲノム」関連記事一覧
- 関連タイトル:
NieR:Automata
- 関連タイトル:
NieR:Automata
- 関連タイトル:
Nier: Automata BECOME AS GODS Edition
- 関連タイトル:
NieR:Automata The End of YoRHa Edition
- この記事のURL:
キーワード
(C)2017 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
(C)2017 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
(C)2017, 2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
(C)2017, 2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.