昼間は人であふれて活気があるのに,夜になると,とたんに不気味で近寄りがたい雰囲気になってしまう場所は? そう聞かれて,あなたはどこを思い浮かべるだろうか。学校,病院,公園,いろいろな場所があるが,筆者の一押しは
遊園地だ。誰もいない園内を夜中にひとりぼっちで歩き回ることになったら,たぶん,ひどく怖いに違いない。
ノルウェーのゲームメーカーであるFuncomが2015年10月27日にリリースした
「The Park」は,まさにそんな恐怖を存分に堪能できるホラーアドベンチャーだ。プレイヤーは夜,無人となった遊園地
「アトランティック・アイランド・パーク」を歩き回り,恐怖のアトラクションに翻弄されつつ,謎を解き明かしていくのだ。
「Anarchy Online」や
「Age of Conan」などのMMORPGでおなじみのFuncomだが,本作は同社の出世作
「The Longest Journey」を思わせるシングルプレイ専用のアドベンチャーゲームだ。原稿執筆時点のSteamでの価格は1280円で,小粒なタイトルだと思っていた筆者だったが,美しいグラフィックスを含めて,想像を上回る仕上がりになっていた。今回は,そんなThe Parkの世界観やゲームの印象をお届けしたい。
消息を絶った息子を探し,恐怖の遊園地へ
本作の舞台となるのは,冒頭にも書いたように地方のひなびた遊園地,アトランティック・アイランド・パークだ。主人公である
ロレインは,息子の
カリムを連れてこの遊園地を訪れるが,帰る直前,カリムが
「クマのぬいぐるみを忘れた」と言うので,慌てて受付に戻ったロレインだったが,職員と話している間,なぜかカリムは園内に走り込んでしまう。もう日が暮れようという時間,ロレインは息子を追い,園内に続く長いエスカレーターに飛び乗るのだった。
主人公のロレインと,その息子のカリム。最初は静かに車に乗っているカリムだが,目を離したスキに遊園地内に戻ってしまう
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園内に入ると,そこは異様な雰囲気に変わっていた。エスカレーターに乗る前は夕方だったのに,降りるとすでに月が輝く夜になっており,助けを呼ぼうにも,園内には客どころか従業員の姿すらないのだ。無人の園内をカリムはどんどん奥に進んでいき,ロレインは必死に彼の後を追っていく。
入口ではまだ明るかったのに,中に入るとそこは真っ暗。時間はそんなに経っていないはずなのだが
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園内は無人で職員もいないが,なぜかアトラクションは動き続けている。ここは,どういう遊園地なんだろうか
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カリムの後を追って,ロレインはアトラクションに乗り込むが,ついに見失ってしまう。というわけで,ゲームの目的は,1人で遊園地に戻ったカリムを見つけることだ。
園内にあるアトラクションは,地方の小さな遊園地らしくあまり多くなく,そのためマップはそれほど広くない。だが,園内はオープンワールドのような感じになっており,暗闇の中,自分の足でいろいろなアトラクションを探索する必要があるため,実際の面積より広く感じる。なにせ暗くて無人の遊園地は,全体がお化け屋敷のような雰囲気で,
「次に何があるのか」とビクビクしながら進まなくてはいけないのだ。乗り物や遊具もひなびた遊園地ということもあり,薄汚れていたり,ところどころ塗装がはげていたりと,やたらに怪しい雰囲気だ。
しかも,それらのアトラクションの動作が明らかにおかしかったり,ロレインの前に怪しいフラッシュバックが発生したりなど,プレイヤーを驚かせる演出があちこちに施されている。このへんで,もう帰りたい。
アトラクションに乗ると,夜なので周りが暗くて怖い。それだけではなく,“普通でない”ことがたびたび起きる
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本作の魅力の1つは,そんなムードを生み出すグラフィックスにあるだろう。光と影を利用した表現が素晴らしく,実際にプレイしてみると,低価格のソフトにも関わらず安っぽさは微塵もない。
暗い場所は本能的に近づきたくないし,一方で明るい光は影を強く映し出して不気味さが増しており,本当に暗い遊園地を少ない照明と月明かりを頼りに歩いているような気がしてくる。視点が一人称であるところも,なんだか視野の端に何かがいるような気がして,没入感を高めてくれる。
ゲーム冒頭,「暗い部屋でヘッドホンを使ってプレイしてほしい」と言われるが,筆者もそれをオススメする。没入感がぐっと高まるはずだ
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基本システムはFPSと同じだが,バトル要素はなし
探索をして資料を集め,不気味な遊園地の謎を解け
移動はキーボードのW/A/S/Dで行い,視点操作はマウスを使うといった具合に,操作システムは一般的なFPSと同じだが,主人公が一般人ということもあって,本作には銃を撃ったり素手で殴ったりする戦闘要素はない。基本的には,雰囲気を楽しみつつ遊園地内をじっくりと探索していけばいいという感じで,アクションが苦手な人でも,問題なく楽しめるはずだ。
園内各所で見かける「チップモンク」は,この遊園地のマスコットだ。一見ただのシマリスのキャラクターだが,実は……
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一般人であるロレインができるのは,マウスの左クリックで
オブジェクトを調べることと,右クリックで
息子に呼びかけることだけだ。息子を呼んだ場合,近くにいれば返事をするので,後を追うのが楽になるし,仮にいなくてもアクセスできるオブジェクトが表示されるので,探索を進めるのが楽になる。遊園地の謎に迫り,ストーリーを進めるためにも,積極的に呼びかけを使っていきたいところだ。
(左)一見すると何もない場所でも「呼びかけ」を使うと,空間が歪んだようなエフェクトが表示されることがある。調べられるオブジェクトが近くにある証拠だ。(右)園内に落ちている資料から,この遊園地の裏側をうかがい知ることができる。資料と取らなくてもストーリーに影響はないが,気になるならチェックしていこう
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園内を探索していくと,至る所で手紙や資料,新聞記事などが見つかり,この遊園地の正体がだんだん分かってくるという仕掛けだ。さらに,ストーリーが進むたびにロレインの独白が挿入され,本人の人となりや家庭環境,息子カリムとの関係などもプレイヤーに明かされていく。キモとなるストーリーの詳細は書けないが,ゲームを進めるごとに奇怪な雰囲気が高まってくるのだ。
ロレインの独白は,ストーリーが進んでいる証拠だ。写真のように,アトラクションに乗っている最中に独白を始めることもある
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ゲーム自体は息子の消息を追うメインストーリーのみで,サブミッションのようなものは存在しない。オープンワールドとはいえ,アトラクションの探索も自然に決まった順番で進むようになっていて,迷うことはほとんどないが,逆に任意のアトラクションを自由に回れるようなギミックには乏しいといえる。あえてできることを減らし,雰囲気を壊さずストーリーを追うことを重視した作りは好みが分かれそうだが,個人的には十分アリではないかと感じた。
グラフィックスと演出のクオリティは十分
部屋を暗くして,ビクビクしながら楽しみたい
本作は一見するとよくあるFPSタイプのホラーゲームだが,血みどろのゾンビをヘッドショットで倒していくといったものではなく,あくまで
精神的な怖さを追求している。上記のように戦闘要素はなく,持てるのは途中で手に入るライトだけ。道中何度も出会うモンスターとも直接戦うわけではない。敵がいるとしたら,それはあくまで自分の恐怖心というわけだ。
ストーリーは
「母親として,行方不明になった息子を探す」というシンプルなもので,ホラーでよくある「生きて脱出を目指す」とか「恐ろしいモンスターから隠れながら逃げる」とかいったシチュエーションとは異なり,ある種,淡々とした雰囲気を醸し出している。ゲームの目的でもあり,同時に水先案内人のようにも振る舞う息子カリムの真意はどこにあるのか,これがまさに物語のポイントになっているのだ。
繰り返すが,本作のボリューム感は乏しく,戦闘やパズル要素もないのでゲーム中,詰まることはないだろう。プレイによって展開が変わることもないので,「園内を隅から隅まで歩き回りたい」という人でもなければ,かなりあっさりと終わらせてしまえるはず。マップには遊園地が丸ごと1つ再現されているが,フラグを立てるまで閉鎖されている通路などもあり,好き勝手に回れるような自由度は少なめ。このあたりは,一般的なアドベンチャーという感じだ。
また,原稿執筆時点では日本語ローカライズされていないため,難解な表現やスラングが出てくる作品ではないが,筆者のように英語が苦手な人にとって,それなりにハードルが高いと言わざるを得ない。
とはいえ,「深夜の遊園地をひとりぼっちで探索する」というのは,それだけで恐怖心を煽るし,ホラー作品のシチュエーションとしては十分に成功していると思う。美しいグラフィックスで描写されるわびしげな遊園地は薄気味悪く,美しい月夜のコントラストとも相まって,独特の世界観を作り上げている。ホラーとしては前半は「ドッキリ」といった感じの演出が多いが,後半はまた別の精神的に
“来る”描写が多く,この手の展開が好きな人なら存分に楽しめるだろう。価格的に「ちょっと試しにやってみる」のが十分可能だと思われるのも,見逃せないところだ。
ストーリーを進めていくと,明らかに遊園地とは思えない場所も出てくる。これは幻覚か……
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テーマがホラーであったり,日本語化されていなかったりなど,やはりプレイする人を選んでしまうのは間違いないが,季節外れの肝試しをやってみてはいかがだろうか。敵の肉片が飛び散るといったような派手さはないが,暗闇の怖さと,思わず「うわっ」と声を上げてしまうような驚きが待っている。
深夜の遊園地で,声を張り上げて息子を探すロレイン。カリムは無事に見つかるのか,そしてこの遊園地の正体は何なのか。結末はぜひあなた自身で確かめてほしい。