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[GDC 2022]「Destiny 2」が不振からカムバックできた背景には,ゲーム開発に関する根本的な意識改革があった
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2022年2月1日に,Sony Interactive Entertainment(SIE)の傘下スタジオとなったBungieは,シカゴで起業して今年で31年となる古参のメーカーだ。2001年にMicrosoftに買収され,当時開発中だった「Halo」は初代Xboxのキラータイトルとなり,今なお拠点を置くワシントン州べレビューでHaloシリーズを手掛けていた。
2007年にHaloの権利をMicrosoftに譲渡して独立,その後もHaloシリーズの開発に協力していたが,2011年にHaloからの別離を発表(関連記事)した。その間の2010年には,Activision Blizzardとの10年間にわたるパブリッシング契約を締結している。その結果として生み出されたのが2014年にリリースされた「Destiny」だ。
そして,2017年に続編となる「Destiny 2」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One)がリリースされたが,Activision Blizzardとのパブリッシング契約が2019年1月に解消され,そこから3年ほどは自社で同作のライブサービスを運営してきた。
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こうしたBungieの経緯やSIEによる買収の目的については,本誌連載の「奥谷海人のAccess Accepted第713回:「ライブゲーム」を機軸に,SIEによるBungieの買収を考える」(関連記事)で詳しく説明しているとおりだが,トゥルーマン氏によると,Activisionと提携を解消する直前のBungieの経営的展望は相当に悪かったそうだ。
それは,2018年2月,「Destiny 2」がローンチしてから15週間ほど経過した時期を境に,急激にWAU(Weekly Active Users/月間アクティブユーザー数)が減り始めたからだ。その状況はまったく好転することなく,25週目になるとローンチ時の3分の1ほどにまで激減。トゥルーマン氏によると,「あと5週間もこの状態が続けば,サービスを終了する決断をしなければならない」と社内で話し合われ始めていたらしく,「非常に緊張感がある,恐怖さえ感じるような時期」だったという。
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この時期に,Bungieはこれまで彼らが積み重ねてきたスタジオのカルチャーそのものを変革することを決意し,それを実行することによって,ライブサービスとしての「Destiny 2」へと好転させた。上記の連載記事にも記したように,ローンチから5年以上も経つ「Destiny 2」が,2021年度のGolden Joystick Awardsの「ベスト・ゲームコミュニティ賞」,そしてThe Game Awardsで「ベスト・コミュニティ・サポート賞」を受けるほど,ゲームコミュニティとコミュニティへのサポートが評価される,成熟したゲームになったのだ。
箱製品からライブサービスへの意識改革
トゥルーマン氏のテーマにもあるように,Bungieが行ったのは,「箱製品(Box Product)のマインドセット」から,「ライブサービス(Live Service)としてのマインドセット」に切り替えるということで,これはどんなメーカーであっても,どんなゲームであっても当てはめることができると彼は説く。もちろん,その意識改革の成功が,SIEが36億ドルで買収させる決断を行う要因であったはずだし,今回のセッションも具体的な施策については語るべきはずもないだろうが,集まったゲーム開発者にとっては考えさせることも多かったかも知れない。
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50種以上もの賞を獲得し,全世界で650万本以上のヒットになったと言われる「Halo」(Halo: Combat Evolved)は,トゥルーマン氏の言う典型的な「箱製品」の成功例だ。それに比べて,「Destiny」の当初の評価はそれほど高くなく,改良を行いながら1年間で2000万本のヒットになったものの,Bungieでは成功作だと素直に喜べなかったという。
「我々社内では,まだ“何が成功なのか”という定義が定まっていませんでした。出てしまった評価を直すことはできませんし,ローンチ当初にゲーマーたちが抱いた悪印象を変えるのは簡単ではありません。大切なのは,自分たちのゲームに情熱をもってプレイし,批判してくれるコミュニティを保持し続けることです」とトゥルーマン氏は話し,「Destiny 2」のMAUの急落を目の当たりにして,「ゲームに対して無関心なゲーマーが増えることを最も恐れるべきである」と考えるようになっていったそうだ。
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信用第一,第二は保持力,そして最後が収益性
「Halo」から「Destiny 2」までの20年近くのBungieは,ふんだんな予算を使って最高のゲーム開発者を雇い,彼らにあるがままのクリエイティビティをプロジェクトにぶつけて,大きなマーケティング予算とともにリリースするというスタイルだったとトゥルーマン氏は語る。それまでは,それで成功という結果がついてきた。これが,「箱製品」のメンタリティである。
しかし,この10年ほどでゲーム市場は大きく変わり,ビジネスとして存続していくためには,プレイヤーをいかにつなぎ止めていくかが重要であると変わっていったという。例えば,YouTubeで活躍している人も,頻繁に何かをしでかしては謝罪動画をアップするようなことがあるが,トゥルーマン氏は「その後に彼らが許されるかどうかは,彼らのそれまでとその後の信用による」とし,真摯にゲーム開発を続けていく気持ちがあるのであれば,失敗することに慣れるべきだと説いた。
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Bungieの開発体制が大きく変わったのは,2018年9月にローンチした「Destiny2 孤独と影」以降のことだったという。この頃から,BungieはKPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)の毎日のモニタリング,2週間に1度のライブ・オペレーションの評価,そして3か月に一度の社内説明会が行われるようになったそうだ。
KPIには自社で作り出した独自のライブゲーム向けのマトリックスが作成されているようで,今回のセッションでは,ファンたちがフォーラムやSNSに書き込むメッセージの分析となる「Vocal Statement/ボーカル・ステートメント」からDAU(Daily Active Users/日間アクティブユーザー数),そして収益などをチェックする。DAUは,新規プレイヤー数,先週のユーザーがどれくらい帰ってきたかを示す週間リターン率,そして先週はプレイしていなかったユーザーがどれだけ帰ってきたかを示すウィンバック(Winback)が含まれている。
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このKPIのモニタリングは,全社員が毎日確認することができる。このことで,以前のように実力のある開発者たちが,「自分たちの作りたいものをファンに提供する」のではなく,「ファンの動向を取り入れながら作っていく」というシステムに変更した。机上で構想した自分たちの作りたいものであれば,彼らの能力であれば質の高いものを作れるが,それらは必ずしもファンが求めているものや,ファンに理解されるようなものではないかもしれない。逆に,ファンの動向を優先することは,開発者たちがそのニーズをしっかりと理解できていないままDLCをリリースしてしまう可能性もあるが,そうした場合には失敗を認め,真摯に修正していくことによって,ファンとの一体感を生んでいくというものである。
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トゥルーマン氏は,こうした変更を説明するのに「我々はもはや列車を作っているのではなく,駅を作っているのだ」と話す。列車というのは1つ1つのDLCのことだが,それを総出で自分たちの思うように作っているだけでは,単発で延々とリリースしていくことになる。しかし,自分たちは駅というプラットフォームを作っていることをしっかりと認識すれば,複数のプロジェクトを同時に捌きつつも,事故が起こらないようしっかりとコントロールしていけるというのだ。実際,現在Bungieはチーム内を細分化し,1度に6つのプロジェクトを時間差を置いて進行させ,それに合わせて6人の担当マネージャーや,開発リードを置くことにより,彼らのオーサーシップを大切にしているとのこと。
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2022年2月,SIE体制になって初めてとなる「漆黒の女王」がローンチしたが,今後も2023年の「光の終焉」(Lightfall),そして2024年と目されている「最終形態」(The Final Shape)と,「Destiny 2」は長きにわたってサポートされ,その間にも様々なDLCやライブイベントが予定されている。
また,SIEがBungieを傘下に収めたのも,このノウハウが評価されたからだろう。そのノウハウは「箱製品」として絶大な支持を得ながらも,ライブサービス化では後れを取ってきた「アンチャーテッド」や「ゴッド・オブ・ウォー」,「ゴースト・オブ・ツシマ」のような作品の未来に反映されていくことになるかもしれない。
「Destiny 2」公式サイト
4Gamer:「GDC 2022」記事一覧
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(C)2021 Bungie, Inc. All rights reserved.
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