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[GDC 2022]「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のクリエイターが模索する,“多くの人がプレイするゲーム作り”を行うために考えるべきこと
3年ぶりのオフラインイベントとなったGDC 2022だが,数百種もあるセッションの中にはバーチャルのみで開催されるものや,講演者が渡航のできない海外の人だったり,そのほか諸事情により参加できなかったりして,会場にてZoomを使って講演を行うというものもある。Chen氏も,今回はリモートでの参加となり,Zoomを利用したライブ講演が行われた。
7年もの構想と開発の末,2019年にiOS(2020年にAndroid)版がリリースされて以来,今なお高い支持を受けている「Sky 星を紡ぐ子どもたち」。これまでに1億6000万ダウンロードを記録している。「Journey 〜 風ノ旅ビト」では欧米のゲーマーが中心だったのに比べて,本作はアジア地域のゲーマーが中心となっており,より幅広い年齢層に支持されているという。
そんな「Sky 星を紡ぐ子どもたち」に満足しているというChen氏だが,ゲーム産業が映画ビジネスを超える規模になったにもかかわらず,まだ多くの人々から理解を得ている状態でないことを憂いているという。高校時代に一緒に遊んでいた旧友たちも,「最近はゲームで遊んでいない」と気のない素振りをしたり,バーや会食で出会った人に「自分はゲームを作っている」と話すと,鼻でせせら笑うような態度を取られたりと,まだ“子供の遊び”としか考えていない人が多いとChen氏は言う。
Chen氏は,母国の中国でコンピューターサイエンスを習得後にアメリカに留学し,南カリフォルニア大学にて映像を学び,そこでインタラクティブメディアに興味を持ち,仲間たちとともにゲーム開発を行ったという経歴を持つ。ちなみに,この仲間たちと作ったゲームは,2005年に「Cloud」というタイトルでリリースされ,2006年のIndependent Games Festivalでは学生ショーケース賞を受賞したことで業界入りしている。
もとは映像分野を学んでいたChen氏は,現在のゲーム業界の状況を映画業界と比較し,ゲームのジャンルはアクション,ホラー,スポーツなどに偏っていることを指摘する。こうしたジャンルは映画においても人気ではあるが,映画が大きく異なるのはロマンスやミュージカルなど女性のファン層が多いジャンルも存在するのに加えて,コメディ,アートハウス,サスペンス,ドキュメンタリー,ドラマなど,さらに多様性に富んでいる。
それらはニッチと言える市場規模であるものの,男女の嗜好差が少ないことで,市場により大きな幅ができているのだというのがChen氏の見立てだ。若い男性層が支持するアクション映画は“パワーファンタジー”※を映像化したものだが,ゲームのほとんどはそれと同じで相手に勝つことが中心になっている。そのために,ゲームに夢中になる年齢層は限られているし,彼らが大人になると卒業してしまうというのだ。
※ヒーローが活躍し,世界を救う的な物語のやや蔑称的な表現
こういう話をし始めると,Chen氏の周囲のゲーム開発者の中には,「ファイナルファンタジー VIIはどうなんだよ? 泣かせるゲームなのにドラマじゃないのか?」と反論してくる同業者も多いらしいが,Chen氏が説明するには「同作を含めるゲームの多くはカットシーンで表現されており,プレイしながら感情が昂ることはない」と分析する。Chen氏の英名である“ジェノヴァ”は,同作に登場するキャラクターから取られたと言われるほどリスペクトしているはずだが,このChen氏の断言は,「インタラクティブメディア」とは何かを考えさせるものである。
Chen氏は,かねてからそうした“パワーファンタジー”を排除し,作品を経るごとにゲームシステムを洗練させてきているが,その中心にあるのがほとんどのゲームで表現されることのない人間の側面である,「共感性と脆さ」であるという。Chen氏はそれを,「インタラクティブ・ロマンチシズム」と表現し,「自分の理想を表現するために,現実らしくも現実ではない世界を生み出す」というコンセプトで,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」を練り上げていったと話していた。
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」がローンチされて間もない頃,新しい装備品である「傘」が実装された。これは,雨林の雨の脅威から自分を守ることができるアイテムだが,一人では開くことができないのでフレンドと協力し合わなければならない。もちろん,これは通りすがりの人との親交を深めるという意図があって企画されたものだが,Chen氏自身,雨の中を抜けるとそのままバイバイすることに違和感を覚えるようになり,開発メンバーやゲーマーの中には罪悪感さえ報告するようなケースもあった。そして「報酬で友情を強制することはできない」ことをChen氏は強く感じたという。
Chen氏のセッションは,スライドが非常に多かったせいか,結論に達する前に時間いっぱいとなってしまったが,語られた内容は興味深いものだった。
ライブサービスが続けられている「Sky 星を紡ぐ子どもたち」は今後はどのように進化していくのか? もしくはChen氏はさらに自分の理想を煮詰め,“インタラクティブ・ロマンチシズム”を体現したような新作を想起し始めているのか? 今後のthatgamecompanyの動向には引き続き注目しつつ,ゲーム市場にもさらに多様性のある作品がリリースされていくことに期待しておきたい。
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」公式サイト
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」ダウンロードページ
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