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モバイルゲームにおけるライセンスド漫画キャラクター最多数の世界記録……の更新風景を見守った,ある日の3時間
「孫悟空,孫悟空,孫悟空,孫悟空,孫悟空……悟空いました」
「じゃあ,次の編成をしますね」
「はい」
古き下町と景勝地のおもむきを残しつつ,東京都会はド真ん中に位置する町,四谷。最寄り駅近くにそびえる,あからさまに高い高い高層タワー内の一角には,あの「LINE」がオフィスを構えている。
LINEの説明は過半数には不要だろうと思うので割愛するが,ある月のあの日のこと。LINE社屋に「ジャンプチ ヒーローズ」(iOS / Android)の関係者3名と,4Gamerの営業1名,ついでに編集者が1人がいた。
「シャンクスいます,白ひげいます」
「じゃあ,次の編成しますね」
「はい」
そこで黙々と繰り返される不思議なやり取り。さとい人なら,すでにこれがどのような作業なのかに勘づいていることだろう。
少なくとも,これまでの人生で「週刊少年ジャンプ」を一度でも読んだことのある日本人のなかの……たった数名くらいは。
「1010体」。この数字は,2022年某月までにジャンプチに実装された少年ジャンプキャラクターの数であり,「モバイルゲームにおけるライセンスド漫画キャラクター最多数」として世界を塗り替える値だ。
ジャンプチが更新する以前の世界記録は,2019年12月2日に認定された「476体」であったが,今回それが大幅に塗り替えられる。
惜しくも記録ホルダーの座を譲り渡すことになった,以前までの王者であるLINEの「ジャンプチ ヒーローズ」関係者たちはじくじたる思いでいるかもしれないし,別にそうでもないかもしれない。
結局のところ,ジャンプチと少年ジャンプの独壇場に違いはない。
「黒子います,火神います――」
「次の編成しますね」
室内には,ジャンプチのプロデューサーとアシスタントプロデューサーと広報が1名ずつ。資料を前にボールペンを握り,差し出されるスマートフォンのゲーム画面とにらめっこしながら,おぼつかない右手でチェックマークを記す弊社営業。そんな様子を脇目に,高層ビルの窓から見下ろせる都会の風景をゆったりと眺める,午後のぬーんとした私。
“あの世界記録を認定してくれる登録機関”に記録を申請するには証人が求められる。いろいろな事情で呼んではいけないその名になっていることは,自身の教養でもって調べ,その答えを知るといい。
我々がTV番組などでよく見る,機関からの審査員がよこされるケースでないときは,同じ業界かつ関係の薄い外部の第三者に証人を依頼し,記録内容をその者に確認させる様子の始終をムービーで収録・送付する。それを先方が視聴し,認定するかしないかを決めてくれるらしい。
ジャンプチが「モバイルゲームにおけるライセンスド漫画キャラクター最多数」の記録を更新するために課せられたルールは,「モブなどを除くプレイアブルキャラクターの総数であることの証明として,ゲーム内でジャンプキャラを実際に編成し,ちゃんと使えるキャラとして実装されているかを第三者に確認してもらい,数も数えてもらう」というもの。
「日向います,影山います――」
「次,編成しますね」
そうしてこの部屋では,アシスタントプロデューサーがジャンプのキャラクターを16体ずつ,準備した資料と見比べながら間違えないようゲーム画面に編成し,それから弊社営業が差し出されたスマホを見て,キャラが本当に実装されているかどうかをチェックシートに書き込む。
繰り返される確認作業の回数は,計63回(+2体)。
2人の背後で記録用カメラを回す広報は,立ちっぱなしでいる体にテレワークなまりを感じはじめる。ノートPCに向かうプロデューサーは,証人を眺めつつも日々の業務もこなしていく。それらを眺めるだけの私は,客とあって背筋をただして沈痛な面持ちでいなければならない。
こうしてみなで協力し,証人の作業のゴールを目指す――。
というのが,これまでの色気のない写真たちの真相だ。
本稿で最もグッとくるのは,ジャンプチと関係の薄い第三者という条件で,光栄にも4Gamerを選んでもらえたことだろう。ハハッ。
「デクいます」
「次,編成します」
「ナルトいます」
「次,します」
「……こっちの杏とこっちの杏はなにが違うんでしょう?」
「こっちの杏はフェス限定で,ここのアイコンとかが――」
室内はさながら,静まり返った試験会場だった。あいさつもそぞろに作業がはじまると,誰一人大仰なアクションを取ることなく,ボールペンが机をカシャカシャとくすぐる音だけがやけに鮮明に聞こえてくる。
分かりきっていたことだ。これが発表会であれば人物の動き一つで文章を盛れるというものだが,これは作業。日々のデスクワークよりも肩を揺らすことのない,それでいて慎重に念入りに行う,証人の作業。
とはいえ,この取材はジャンプチ側からの要望ではなく,4Gamerなるゲームメディアの編集部の上層が「面白そうじゃん」の一声で無理攻めし,第三者のなかでもさらに第三者であった私に慈しみのない白羽の矢を突き立てて担当を強いてきた案件なばかりに,あまり強いことを言えない。お行儀よくいなければ,将来的に真の第三者になりかねない。
カシャカシャ。「いました」。
カシャカシャ。「次します」。
ささやかな音の連続にまどろんでくる。退屈というより,休日でもめったに味わわない,ほどよく緊張感のある,ほどよく静かな時間。
気持ちがたゆたう。どうやらLINEは安らぎの社屋のようだ。
キャラクターのチェック数が592体を越えたころ,作業開始から一時間半が経過した。以前の確認作業のときはとっくに終わっていたようだが,更新数がダブルスコアを計上してしまう今年はそうもいかない。
テレワークに慣れたゲーム業界人たちの体にも疲れが見えてくる。大してなかった会話の口数もさらに減っていく。
のどかな平日を現すかのように,空に近い場所にある会議室の窓越しにまで,高層ビル直下の学校から中学生たちの甲高い声が届いた。彼女らはこれから帰り道だろうか。あちらはもうテストを終えたのだろう。
ともすれば,窮屈さすら心地よくなってくるアンニュイな空間。
そのうち緩まった脳が口を滑らせる。
主題がこうなら,話題もこうなるものだ。
「ついでにとんちんかんのCM,やたらと覚えてるんですよね」
「〜〜さん,BASTARD!!って読んでました?」
「シャーマンキングの連載してたころ,学校で回し読みしてました」
「ジョジョも最近アニメ化して……あっ最初のはもう最近じゃないか」
「まさか,ダイの大冒険が令和の時代にムーブメントになるなんて」
「いちご100%あたりは,まだラブコメ好きって言いづらかった」
「To LOVEるあたりから一般化しましたよね。でもBLACK CATが神」
「ニセコイ実写の中条あやみちゃんが再現度高いんですよ」
「なぜだかよく覚えてるのが純情パインですかね」
「巻末がうすた京介先生の独壇場だったり」
みな数年単位で世代が分かれているが,不思議なものだ。
同じ少年ジャンプの,違う少年ジャンプの話。ジェネレーションギャップもあり,青春の年代も読んでいない作品もそれぞれバラバラだが,最近の新連載,その人しか知らない読み切り作品,あえなく終わってしまった単巻作品と,どのタイミングで口数が増えるかは人それぞれ。
簡単に思いつくだけでも数十の作品名を追記できるが,それでもまだぜんぜん足りないことで,あらためて少年ジャンプの広さに気付かされる。チェックシートを開くたび,話題はまるでお題のように生まれた。
ジャンプチでの一時期の「魁!!男塾」推しは,前任のプロデューサーが好きすぎたせいだった。「家庭教師ヒットマンREBORN!」が琴線に触れたか,いきなり強火になるアシスタントPがいた。
それぞれの手の動きはそのままに,時間の流れだけが加速する。
そうして最後のボリュームゾーン。全登場人物がいるんじゃないかと思わせる「鬼滅の刃」のキャラクターチェックを駆け抜けると――。
「……1010体いました」
「……ハァ,おつかれさまでした」
3時間超に及んだ証人の作業が,ようやく終わった。
動画収録の最後には,当の証人が試験会場さながらに替え玉でないことの証明として,自前の名刺を胸に「私はこうこうこういう者です。モバイルゲームにおけるライセンスド漫画キャラクター最多数の1010体を確認したことをここに証明します」とビデオカメラの前で宣誓する。
格好は一丁前だが,先ほどまでのジャンプ談義もすべて映像に収められており,これから審査員たちに動画を念入りにチェックされるであろうことを踏まえると,マヌケな温度差が実にゲーム業界らしい。
さて,ジャンプチによる記録発表は7月に行われたが,取材自体はその数か月前に実施したものとあり,今では記憶が薄れている。もはや正確な認定数すらおぼつかなくなっていた現在,覚えていることと言えば,みながいかに少年ジャンプに触れて生きてきたかというバカ話だけ。
そんなわけで,友だち同士でジャンプチを遊べば,その日の話題には事欠かない。飲み会なら夜が明ける前に語り終えられるかも不明なくらい,楽しい時間をすごせるだろう――だなんて今さらのセールス文句が読者らに通用するかは怪しいが,少年のままでいられなくなった大人はこうして事情・責務・維持のために仕事をするのだ。苦笑が漏れる。
そんな者でも,少年ジャンプの作品に関わりながら仕事をしていると,口を開けば誰しも少年に戻ってしまう。不思議なもんだ。
もし,「一番好きなジャンプ作品なに?」と聞かれたものなら。
ためらわずに答えられる人はそう多くはいないだろう。
それでもジャンプチには少年ジャンプキャラクターが1010体。この作業後も総数はさらに増えているだろうから,きっともっと。
さすがに千を超えるキャラがいれば,自分の好きな作品はまずあるはずだが。仮に,まだいなかったのなら運営に報告するといい。
「おい,まだ記録更新の余地しか残ってないぞ?」と。
「ジャンプチ ヒーローズ」には1010体もの漫画のキャラクターが登場。ギネス世界記録認定に伴うキャンペーンも開始に
LINEは本日(2022年7月28日),配信中のスマホアプリ「ジャンプチ ヒーローズ」が,「モバイルゲームにおけるライセンスド漫画キャラクター最多数」の記録を更新し,再びギネス世界記録に認定されたことを発表した。同社は2019年にキャラクター数476体で世界記録を獲得したが,今回はその倍以上となる1010体で認定されたという。
「ジャンプチ ヒーローズ」公式サイト
「ジャンプチ ヒーローズ」ダウンロードページ
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