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太陽の騎士ガウェイン卿,若き日の一大冒険絵巻「アーサーの甥ガウェインの成長記」(ゲーマーのためのブックガイド:第32回)
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印刷2025/02/27 12:00

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太陽の騎士ガウェイン卿,若き日の一大冒険絵巻「アーサーの甥ガウェインの成長記」(ゲーマーのためのブックガイド:第32回)

画像集 No.001のサムネイル画像 / 太陽の騎士ガウェイン卿,若き日の一大冒険絵巻「アーサーの甥ガウェインの成長記」(ゲーマーのためのブックガイド:第32回)

 「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。

 オークニー(スコットランド北方の諸島)出身のガウェイン(Gawain)卿といえば,円卓の騎士のなかでも,湖のランスロット(Lancelot du lac)に次ぐ誉れを誇り,多くの書籍に描かれる“アーサー王物語”の重要人物である(関連記事)。
 にもかかわらず,最も有名なトーマス・マロリー卿の原典「Le Morte D'Arthur」――いわゆる「アーサー王の死」においては頑固な堅物として描かれ,復讐心にかられて和平の道を拒み,円卓を崩壊に導いた人物の一人とされている。

 しかし全国数万人のガウェイン推しの皆さんならご存じと思うが,これはマロリーが,何故かフランスびいきだったからにほかならない。作中で自作が「フランスの本」(主に〈ランスロ=聖杯〉サイクル五部作)に基づいていると何度も強調する同作では,ベンウィック出身のランスロ(ランスロットの仏語読み)を主役に押し上げるため,ゴーヴァン(Gauvain,仏版ガウェイン)を脇役もしくは敵役に据えるという手法が取られていたのである。なんという非道な行い!

 このままではいけない。ぜひともガウェイン卿の名誉を復興せねば!
 ……という想いとともに今回お贈りするのが,アーサー王物語のエピソード0とも言える「アーサーの甥ガウェインの成長記 中世ラテン騎士物語」である。

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「アーサーの甥ガウェインの成長記 中世ラテン騎士物語」

著者:R
訳者:瀬谷幸男
版元:論創社
発行:2016年6月10日。
定価:2750円(税込)
ISBN:9784846015220

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論創社「アーサーの甥ガウェインの成長記 中世ラテン騎士物語」紹介ページ


 本作の成立はおそらく12世紀中葉。誰が書いたのかは判然としないが,同じ作者の別作品「カンブリア王メリアドクスの物語」では,冒頭でRとだけイニシャルを名乗っている。本文はラテン語なので,アーサー(Arthur)はアルトゥールス(Arturus),ガウェインはワルウアニウス(Waluuanius)と記述されている。

 ガウェインの父親は,ノルウェー王の甥ロット(Loth)。筆者としては,「ドラゴンクエスト」の勇者ロトのモデルが彼なんじゃないかと思っているのだが,そんなロットは後の物語で(実際にノルウェー領でもあった)オークニーを統べる王とされた。さらにこのロットという名は,イングランドとの国境地帯であるロージアン(Lothian)と語源を同じくする。このロージアンは「光の神ルーの砦の国」という意味であり,つまりはロット本人が「光明神の化身」であることを暗示している。

「ウェールズ語原典訳 マビノギオン」(リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.005のサムネイル画像 / 太陽の騎士ガウェイン卿,若き日の一大冒険絵巻「アーサーの甥ガウェインの成長記」(ゲーマーのためのブックガイド:第32回)
 マロリーの「アーサー王の死」を読むと,この光の属性が,実際にガウェインに遺伝していることが分かる。ガウェインは,陽光が輝きを増す朝から正午までは力が3倍になり,その間はランスロットですら敵わない。「Fate」シリーズでも「太陽の騎士」と呼ばれているのは,このせいである。
 「マビノギオン」などウェールズの伝承ではグワルッフマイ(Gwalchmei),すなわち〈五月の鷹〉と呼ばれ,夏に向かう太陽を浴びて天空高く舞うイメージが伴う。

 話を「アーサーの甥ガウェインの成長記」に戻すと,この物語はアーサーの父ウーテル(Vter)の時代から始まる。ロットはそのブリタニア王ウーテルに仕える騎士ではあったが,人目を忍んで王女アンナ(Anna)と愛しあっていた。このアンナは,後の物語ではアーサーの姉モルゴース(Morgause)に当たる人物である。
 やがてアンナは懐妊し,忠実な侍女の力を借りて秘密裏に出産を終える。しかし父王ウーテルの許しを得ぬ婚外子であったため手元には置いておけず,泣く泣くとある商人に預けることに。成人するまで充分な養育費と,身分を表す外衣と指輪,出自の経緯とガウェインの名を記した証文を受け取った商人は,船でフランスに渡った。しかしそこで少し目を離した隙に,子宝に恵まれなかった貧困貴族ウィアムンドゥス(Viamundus)に,すべてを奪われてしまう。ここまでが第1部だ。

 第2部では,ウィアムンドゥスは名も出自も伝えぬまま,その幼子を7年間養育した後で,皇帝に仕官させるべくローマへと連れて行く。この少年は徐々に才覚を表し,15歳になると皇帝の近衛となるが,名が分からないことから外衣の騎士と呼ばれるようになる。
 ここから外衣の騎士の活躍が始まるのだが,展開はありきたりの騎士物語にはならない。なんと軍司令官として船団を率い,エルサレムまで遠征に乗り出すのである! 海賊との艦隊戦,島の攻略,囚われの姫君の救出,巨人との死闘! 途中,敵軍はナパームを思わせるタチの悪いギリシアの火まで使ってくる。いやはや,なんでハリウッドが映画化しないのか不思議なぐらいのスペクタクルなのだ!

 そんな壮大な大冒険を終えてローマに戻った外衣の騎士は,第3部において,運命に導かれるようにブリタニアへと引き寄せられる。既に王権はアーサーの時代であり,王妃グウェンドレナ(Gwendolena/グィネヴィア)や腹心カイウス(Kaius/ケイ)卿がアーサーを支えていた。
 だが国内には異教徒の反乱勢力を抱えており,頭痛の種であった。ここでも外衣の騎士は優れた活躍を見せ,既に正式に結婚していた父母ロットとアンナの元で,自身の出自と名を知ることになる。アーサー王の懐刀たる騎士ガウェイン誕生の瞬間であった。
 詳細は実際に読んでほしいのだが,以上があまりにも知られていないガウェインの少年時代の概要である。

 ここでマロリーの「アーサー王の死」を参照するなら,ガウェインは見知らぬ弟であるアグラヴェイン(Agravain),ガヘリス(Gaheris),ガレス(Gareth),モルドレッド(Mordred)と出会うことになる。そして長兄として,この弟たちを守りぬくと決意するのであった。それがまた,最終的な悲劇の火種となるとも知らずに……。
 とはいえ,それ以降もマロリーの作に掲載されていないガウェインの偉業は数多く,そのかなりが中期英語の作品である。

「ガウェーンと緑の騎士:ガーター勲位譚」(リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.003のサムネイル画像 / 太陽の騎士ガウェイン卿,若き日の一大冒険絵巻「アーサーの甥ガウェインの成長記」(ゲーマーのためのブックガイド:第32回)
 その代表が,「グリーン・ナイト」として映画化もされ,騎士たるものの倫理に深く切りこんだ傑作にして,緑の巨人との首斬りゲームである「ガウェイン卿と緑の騎士」だ。
 「指輪物語」で有名なJ・R・R・トールキンも現代語訳を出版していて,その結びは「Hony Soyt Qui Mal Pence」,すなわち「悪意に解する者に恥あれ」(境田 進訳)。これは明治以降の我が国の天皇陛下も代々受勲されている,英国最高位の騎士団勲章(ガーター勲章)に刻まれたモットーでもある。

 このガーターとは,ご存じのとおり靴下留め,すなわち女性用の衣類留めのことだ。ガウェインは作中,緑の貴婦人から受け取った腰帯を“悔恨の印”として身に着けるのだが,アーサー王はむしろそれを“栄誉の証し”と定義し直し,宮廷のほかの騎士たちも付けるようになった。
 ガーター騎士団は同じく衣類留めであるガーターを,ガウェインにならって目立つように身に着けることで,女性の名誉を守る意味を込めたとされる。そういう意味で,ガウェインは,ガーター騎士団の思想的な創設者とも言えるのである。

「ガウェイン卿の物語 アーサー王円卓騎士の回想」(リンクはAmazonアソシエイト)
画像集 No.004のサムネイル画像 / 太陽の騎士ガウェイン卿,若き日の一大冒険絵巻「アーサーの甥ガウェインの成長記」(ゲーマーのためのブックガイド:第32回)
 ガウェインには,ほかにも女性の真の望みの実現を問う「ガウェイン卿とラグネル姫の結婚」など,女性がらみの逸話が多い。また「麗しき名無し(リベアウス・デスコヌス)」では,ガウェインの息子の出自が貴種流離譚として語られている。
 いずれも原典からの和訳は入手しやすい決定版がなく,掲載された単行本や論文を個別に探す必要があるが,それが面倒ならとりあえずはみずき書林の「ガウェイン卿の物語」(ニール・フィリップ作,岡本広毅訳)をあたるといい。
 死の間際のガウェインが,上記3エピソードを含む自身の後半生を,部下の少年に回想しながら語り聞かせるという,かなりエモくて涙無くしては読めない一作となっている。

 ちなみにアーサー王は,国土統一を成し得た後でローマ遠征に向かうのだが,そのときガウェインは,ローマへの使節に抜擢される。それは「アーサーの甥ガウェインの成長記」で語られたローマでの生活と活躍あってのことであり,そうでなくては話が通らないものといえる。
 ともあれガウェインは数奇な運命に導かれつつも,騎士として,軍司令官として,そして家族を守ろうとした一人の男として,その生涯を全うした。その生きざまを,ぜひともその目で確認してもらいたい。

論創社「アーサーの甥ガウェインの成長記 中世ラテン騎士物語」紹介ページ


■■健部伸明(翻訳家,ライター)■■
青森県出身の編集者,翻訳家,ライター,作家。日本アイスランド学会,弘前ペンクラブ,特定非営利活動法人harappa会員。弘前文学学校講師。著書に「メイルドメイデン」「氷の下の記憶」,編著に「幻想世界の住人たち」「幻獣大全」,監修に「ファンタジー&異世界用語事典」「ビジュアル図鑑 ドラゴン」「図解 西洋魔術大全」「幻想悪魔大図鑑」「異種最強王図鑑 天界頂上決戦編」など。ボードゲームの翻訳監修に「アンドールの伝説」「テラフォーミング・マーズ」「グルームヘイヴン」などがある。

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