インタビュー
ライザはこうして生まれた。「ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜」キャラクターデザインの変遷を,細井Pとトリダモノ氏が語る
「アトリエ」シリーズは,3部作前後で新たな世界観での物語を描くのが通例となっているが,そのキャラクターデザインの魅力は,どの主人公も特筆すべきものがある。キャラクターのビジュアルだけ見ても人気がわかるシリーズといっても,過言ではないだろう。
とくに,「ライザのアトリエ」の主人公である「ライザリン・シュタウト(ライザ)」は,公開後の反響も大きく,まだ発売されていないどころか,ロクに情報が出ていないうちから,多くのファンアートが描かれているほどだ。
そんなライザを見ていてふと気になったのが,「これだけのキャラクターをデザインするまでに,どういったやり取りがあったのだろう」ということだ。「アトリエ」の主人公は毎回魅力的。そんなキャラクターが完成に至るまで,さまざまな苦労や面白い話があるのではないか。そう考えた筆者は,初期のイラストや途中経過などを見せてもらえないか,コーエーテクモゲームスに聞いてみたのだが,これにプロデューサーの細井順三氏からノリノリの反応が。「ライザのアトリエ」のキャラクターデザインを担当したトリダモノ氏も巻き込んで,本作のキャラクター達のデザインの変遷について語ってもらえることとなった。
貴重な制作過程をお見せしつつ,話題のライザがどのようにできていったかをお届けしていこう。
4Gamer:
先日のインタビューの場で,細井さんがトリダモノさんに電話して出演の確認をし出したのには笑いましたが,本当に実現できて嬉しいです。本日はよろしくお願いします。
デザインしてから時間が経っているので,忘れている部分もありそうですが,よろしくお願いします。
4Gamer:
もともと,トリダモノさんへのオファーは,どういった経緯であったのでしょうか。
細井順三氏(以下,細井氏):
これまで,とくに「アーランド」シリーズから続いてきたガーリー(少女らしい)なデザインは,「ルルアのアトリエ〜アーランドの錬金術士4〜」で我々としてのひとつの集大成となるものを作れたと考えています。ですので本作では,そことは違う新しいデザインにしたいと思っていたんです。イラストレーターの候補の中で,トリダモノさんなら新しいデザインをお願いできると考え,連絡を取りました。
とはいえ,どこまで新しい「アトリエ」の作風に合うかはイラストを見てからということで,最初に試しに描いていただいたのがこちらになります。
細井氏:
このイラストで,社内に「今回はトリダモノさんにお願いしたいのですが」と承認を取って,GOサインが出ました。
トリダモノ氏:
オファーを受けたときは,プレッシャーがすごかったですね。自分はガーリーなデザインが全然できなくて,フリルとかを描くのも苦手なんですよ。そんな自分が,煌びやかな「アトリエ」のイラストレーターとしてやっていけるのかが心配で……。
最初は,手を付ける前に悩んでしまうことも多く,弱気だったんですが,細井さんに説得されながらなんとかここまで来ました。
4Gamer:
この子はライザとして描いたものなんですか?
いえ,当時はライザの設定が固まっていなかったので,「農家の娘」みたいなざっくりとしたイメージです。
トリダモノ氏:
「男の子っぽい」とかもあった気がします。ラフの時点だとショートカットだったんですが,企画を通すのにもっとお姉さん感がほしいという話があり,このイラストになりました。
4Gamer:
確かに,決定稿のライザよりも,強気なお姉さんって感じですね。
細井氏:
トリダモノさんにお願いすることが決まって,改めてライザとして描いていただいたのが,こちらのラフです。
細井氏:
長野にあるガストブランドの開発部に来てもらって,私を含む複数人のスタッフとディスカッションをした後に描いてもらいました。当時は,元気に走り回っている印象が強くでるように素足にしようって話だったかな……?
4Gamer:
この時点だと,だいぶ別人ですね。男の子っぽさが強調されているというか。
トリダモノ氏:
この頃は,たしか「男の子っぽい性格」をどんな感じに表現すればいいのかが分かっていませんでした。実際,吉池さん(「アトリエ」シリーズの生みの親である吉池真一氏)にも「これは違う」と言われましたね。
細井氏:
まだ仕事を始めたばかりで私とトリダモノさんの仲も今ほど打ち解けてはいなかったので,距離感を探り合いながらやり取りしていました。
4Gamer:
このライザは,太ももより胸が強調されていますね。
細井氏:
それは,まぁ色々ありますよね。
4Gamer:
細井さんは胸派なんでしょうか(笑)。
トリダモノさんが得意な作風は,尖ったキャラのリラ
4Gamer:
ほかのキャラクターの初期バージョンも見てみたいです。
細井氏:
このあたりが,ライザ以外のキャラクターの初期イメージになります。
4Gamer:
タオは,この時点ですでに決定稿のデザインほぼそのままじゃないですか。
細井氏:
ええ,タオは一番早く完成しました。最初はダブルリュックを背負っていたのを,3Dモデル化するときの都合で肩がけに変えたぐらいですかね。
細井氏:
一方で,レントやクラウディア,アンペルは初期からけっこう変わっています。
トリダモノ氏:
改めて見ると,今のレントはだいぶ体格がよくなっていますね。
細井氏:
レントは最初,彼の父親が使っていた装備を身に着けているという設定で,つぎはぎ感のあるデザインにしたかったんです。ただ,それではあまりに絵にならなくて。
トリダモノ氏:
あと細井さんが「スキニーパンツ好きじゃないんだよね」と言い出して,デザインを変えましたよね。
細井氏:
あとは色味も最初は白系だったんですが,キレイすぎてレントのイメージと違うなとか,細かなイメージを詰めていきました。そして,新しく出てきたデザイン案がこちらです。
細井氏:
デザインを決める際は,5種類ぐらい用意して「好きなのをどうぞ」みたいな方も多いんですけど,トリダモノさんは基本的に1本勝負なので,複数のパターンがあるこの絵は珍しいですね。……まぁ,このデザインのレントには決まらなかったんですけど。
トリダモノ氏:
なんで決まらなかったんでしたっけ?
細井氏:
トリダモノさんが「なんかヤダ」っておっしゃったんですよ。
トリダモノ氏:
あ,そうでした。
4Gamer:
「なんか」って(笑)。
トリダモノ氏:
自分で描いておいて,気に入らなかったんですよね。骨格とかシルエットとか……。
4Gamer:
レント以上に,アンペルは決定稿と顔がかなり違っていますけども。
細井氏:
ちょっとイメージと違っていたんですよね。アンペルはもともと,お爺ちゃんにしようという話だったんです。でも,冒険するメンバーにお爺ちゃんが混ざっていたら,「ライザのアトリエ」のコンセプトでもある“等身大の少年少女たちのほんのちょっとの成長”を描くうえでちぐはぐに見えてしまうかなと思い,若い見た目に変えたという裏話がありまして。
トリダモノ氏:
髪の色味が薄かったり,ほかのキャラに比べて厚着だったりするのは,お爺ちゃん設定の名残りですね。寒いのは苦手かなって。
細井氏:
順調にデザインが進んだのはリラです。トリダモノさん的に好きな要素が一番入っているキャラクターって,実はリラなんですよ。
トリダモノ氏:
リラはとても謎が多いキャラクターなのですが,実は半獣人なんです。ここでは多くは明かせませんが,ライザ達とは違った背景があるんですよ。そのため,デザインに関して自由度が高く,自分の得意とする尖った要素を入れられたりとイメージが湧きやすいキャラクターだったので,あっという間に出来た記憶があります。
細井氏:
めちゃめちゃ案だし速かったですもんね。ほかのキャラは「うーん,本当にこれでいいんでしょうか」と悩んでばかりだったのに(笑)。
4Gamer:
設定が特殊なキャラクターのほうが筆が進むんですね。
細井氏:
あまりに順調なので,誰も何も言わずに完成したぐらいです。
トリダモノ氏:
何も言ってくれないからすごく不安でしたよ!
細井氏:
完成がライザよりも後になったクラウディアは,とくに難航しました。トリダモノさん,お嬢様系が苦手なんですよ。
トリダモノ氏:
フリルもドレスも,デザインに取り入れるのはちょっと苦手なんです。
細井氏:
「正統派のお嬢様みたいな可愛い女の子が描けないことが分かりました!」って何度もおっしゃっていましたからね。
4Gamer:
えぇ……? 決定稿のクラウディア可愛いじゃないですか。
トリダモノ氏:
そう言ってもらえると嬉しいですけど,苦手意識がすごいです。何をどうすれば可愛いのかが分からなくて。
細井氏:
初期デザインだと,スリットが強調されたデザインになっていました。でも,スリットを入れるとお嬢様感がなく,当時のデザインとは違った形で採用しています。
トリダモノ氏:
フルートを吹くキャラクターなので,指揮者がよく着る燕尾服を参考に描いたんですけど,なんか違うなって。
4Gamer:
生足が出ているデザインもありますが,それだけでクラウディアのイメージがだいぶ変わりますね。
トリダモノ氏:
ライザ,レント,タオの幼馴染組は全員足の部分が黒いので,差別化するために足を出すのはどうかと考えたんです。
細井氏:
結局,お嬢様だしタイツは必要だよねって話になりました。
ライザのデザインは二転三転
「もう描きたくない」という状態に!?
細井氏:
クラウディアは最後でしたが,こうした感じで,ほかのキャラクターのデザインが進んでいる一方,実は肝心のライザは悩んでいました。ライザが進まないから,いったん置いてほかのキャラクターに取り掛かっていたと言いますか……。
4Gamer:
何に悩まれていたんですか?
トリダモノ氏:
モブっぽさが強すぎたんですよね。主人公として見たとき,あるいはゲームに登場する3Dモデルとして見たときに,主人公としての要素が少なすぎたんです。レアリティで言えば,コモンレベルの外見になってしまっていて。
そこで,ライザの要素を増やそうということで,羊飼いのテイストを入れたのがこちらのイラストになります。
トリダモノ氏:
「農家の娘」と言われても,農家要素をどこに入れていいのか分からなくて,羊飼いにしてみようかなと。
4Gamer:
田舎娘寄りになっていったんですね。
細井氏:
でも,やっぱり主人公のデザインとしては物足りなかったんです。制作中のほかのキャラクターと並べると,すごく分かりやすいんですけど。
トリダモノ氏:
めっちゃ地味ですよね。
細井氏:
このデザインのライザに決定していたら,今のような反響は得られなかったと思います。
この後,トリダモノさんとやり取りして,いろいろ描き込みながら,「アトリエ」の主人公がどんな子なのかを分析していきました。帽子を被っている,スカートを履いている,杖やフラスコなどの錬金術に関する道具を持っている,とか。それらを取り入れて改めてデザインされたライザがこちらです。
4Gamer:
確かに,「アトリエ」の主人公感が出てきました。とはいえ,まだ決定稿のライザの面影もないのですが……。
細井氏:
それはまだ先です。一度,「このライザいいじゃん!」という話になったので,しばらくこのデザインをベースに調整が進んでいきました。
トリダモノ氏:
顔は修正が入りましたよね。凛としているという設定を汲んでいたんですが,ちょっと冷たい感じがするとかで。あとは,バストアップにしたときに要素が足りないとか。
4Gamer:
なるほど。ゲーム中の表示に合わせて修正されていく部分もあるんですね。
トリダモノ氏:
あと,このライザのときに,武器のデザインを決めました。
細井氏:
何か注文する間もなく,一瞬でこの武器が出てきた覚えがあります。
4Gamer:
何をイメージしてデザインされたんですか?
風車と風見鶏です。個人的に,エンディングでライザが地面にこの杖を刺して旅立って行って,風車部分がくるくる回っている絵でゲームが終わったりするといいなと,勝手に想像して描きました。
4Gamer:
ああー,イメージが沸きます。良い絵ですね。
トリダモノ氏:
でも実際は回りませんし,完全に槍みたいに使われています(笑)。
細井氏:
という感じで,改めてライザのデザインが固まっていって,広報用のイラストまで制作されます。
4Gamer:
もうこのライザに決定する気満々じゃないですか。
細井氏:
そうだったんですけど……例えばこちらは,帽子の案を考えているイラストなんですけども。
細井氏:
実はこの帽子の案を出しているのは,CGディレクターの鈴木(鈴木康昭氏)なんです。ちょうどこの時期,トリダモノさんがスランプに陥ってしまったんですよ。
4Gamer:
どうしてスランプになってしまったんですか?
トリダモノ氏:
考えても考えても,自分が納得できる良い案が浮かんでこなかったんです。自分の中で,ライザそのものが何なのかが,分からなくなってしまって……。
細井氏:
それで,鈴木CGディレクターもいろいろ案を挙げてみるんですが,トリダモノさんに響かないんですよ。
ディスカッションを重ねれば重ねるほど,キャラクターデザインがどんどん迷走して,しまいには「このライザ,愛着がわかなくて描けません」「描こうと思うと手が止まります」まで行ってしまって……。
4Gamer:
そこまでですか!?
トリダモノ氏:
自分で描いた絵なのに,好きになれなかったんです。
細井氏:
さすがにそこまで言われてしまうと,描き直していただくしかないじゃないですか。でも,この時点でスケジュール的に相当厳しくて,最悪の場合は,最初に描いていただいた案でいこうと話していました。
4Gamer:
お姉さんっぽいやつですね。
細井氏:
あのイラストの完成度が高く,主人公として成立するデザインでもありましたので,そこからまた始めようという……。
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