インタビュー
ライザはこうして生まれた。「ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜」キャラクターデザインの変遷を,細井Pとトリダモノ氏が語る
紆余曲折を経てホットパンツのライザが誕生
細井氏:
初心に戻って描き直していただいて,ついにホットパンツのライザが出てきます。
4Gamer:
あれ? 要素を分析して,「アトリエ」の主人公にはスカートって話になっていたのでは?
トリダモノ氏:
男の子っぽくしたかったんですよ。自分の中で,スカートをはかせた時点で,結局このキャラクターは新しい「アトリエ」の主人公にはなれないんだと,終わった気がしてしまったんです。
細井氏:
トリダモノさんのお話を受けて,ほかの要素も含めて,再考したほうがよいタイミングだと思ったんですよね。
トリダモノ氏:
本当にここで全部変えてしまっていいのかと確認したんですけど……。
細井氏:
全部変わってるからいいですよって(笑)。
4Gamer:
正論すぎる(笑)。
ではこのライザは,トリダモノさんの好みを全開にしたデザインってことですか?
トリダモノ氏:
そうですね。ただ,好みだけではなく,色々なディスカッションをしたからこそ,もう好きなようにやらないとだめだと思って。
細井氏:
それまでのライザも,トリダモノさんの絵作りを制限していたわけではないんです。むしろ「我を出してほしい」と伝えていたんですが,「ようやく自分のことが分かりました」とおっしゃっていました。
ただ,最初は素足でしたが,キャラクターを目にした時の印象的な情報量がどうしても少なくなってしまうので,そこは変えてほしいというお願いは出しました。
それと,このライザは現代的すぎるという問題もあって,調整が必要でした。チーム全体が「どうしようか?」と悩んでいる中,一人黙々と鈴木CGディレクターが帽子の案をまた出してくるんです。
ですが,なかなか響かない。
4Gamer:
(笑)。
トリダモノ氏:
申し訳ないのですが,鈴木さん案,全然刺さらなかったんです。でも,案を出してもらえること自体はとても助かるんですよね。
細井氏:
作業が停滞しているとムードが悪くなってしまいますからね。誰かが進めているのが目に見えることは大切です。
4Gamer:
ところで,ホットパンツのライザを考えてるのって,前のデザインの広報用イラストなどを準備した後なわけじゃないですか。いつ頃の話なんですか?
細井氏:
ホットパンツのライザが出てきたのが今年の1月です。タイトルを発表したのは5月ですから,直前もいいところですね。
4Gamer:
いや,あの,(横で聞いている)広報さんが引いているんですが……。
細井氏:
鈴木も「初報で3Dモデルを出すのは無理なのでは」と心配していました。しかも,ライザが決まっていないということは,対になるクラウディアも決まっていないんですよ。
4Gamer:
ヤバすぎる……。
細井氏:
あらゆる人たちのおかげもあって,何とか間に合いました。
こちらはトリダモノさん案ですね。今作は夏という季節を取り上げているからこそ,トリダモノさんは素足にこだわっていたんですよね。
トリダモノ氏:
こちらは服がだいたい決まったバージョンです。
トリダモノ氏:
やはり,まだ頭部分が弱いですね。
4Gamer:
この服装は,どういったイメージでデザインされたのでしょう。
トリダモノ氏:
自分なりに「アトリエ」っぽさを分析して,錬金術士感を出すこと。それと純朴なイメージでしょうか。
4Gamer:
スカートの頃のライザに比べると,だいぶ柔らかい印象のキャラクターになりましたね。
トリダモノ氏:
近所にいそうな女の子を目指しました。
細井氏:
服が決まってきたので,続いてカラーバリエーションを作り,色を決めていきます。
トリダモノ氏:
いつも好きなように描くと,だいたい白,赤,黒とかになってしまうんです。
細井氏:
ここから検討した結果,この中だとしっくりくるものがないということで,AをベースにFの黄色いアウターを入れる組み合わせを採用しています。
4Gamer:
この時点だと帽子がありませんが,そちらはどうやって決まっていったのでしょう。
トリダモノ氏:
いろいろ案はあったのですが,ストリート系ヘアバンド+ベレー帽を組み合わせることにしました。男の子っぽさと女の子っぽさを混ぜたかったんです。
細井氏:
私は「いいじゃん!」と反応したんですが,CGディレクターは「洗濯とか行きそうじゃないですか?」と言っていました。
4Gamer:
せ,洗濯……?
トリダモノ氏:
いや,分かりますよ。一歩間違えると,お風呂上りのおばちゃんになりかねない帽子なんです。ですから,そこは可愛く見えるようにしました。最終的には,普通のリボンだと可愛さが足りないなと思って,記号的に分かりやすいうさ耳型にしています。
細井氏:
スケジュール的にいよいよ崖っぷち状態になって,デザインを決めにかかったライザです。
4Gamer:
ついに知っているライザに! 髪の色が変わるだけで,印象がまったく違ってきますね。
細井氏:
もともと,ほかの主人公にない色ということで,グレーにしていたんです。
トリダモノ氏:
ただ,服が白で髪がグレーだと被ってしまいますし,ちょっとチャラくて,田舎娘の設定に合いませんでした。普通な女の子のイメージを保つために,色は茶色っぽくしたかったんですよね。
髪型も2パターン作りました。
細井氏:
私はAの髪型がすごく好きだと言ったのに,採用されたのはBなんです。
4Gamer:
細井さんの好みであっても,採用されるとは限らないんですね(笑)。
細井氏:
あと,カラーバリエーションのライザを見ると,なぜかまた素足に戻っている案があるんですよ。
4Gamer:
本当だ!?
トリダモノ氏:
夏だし開放感がほしかったんです!(笑)。
細井氏:
下半身の情報量が足りないし,絶対に足部分にも装飾があったほうが良いと思ったので,断固として拒否したんですよ。
4Gamer:
このあたりからだいぶ太もものむっちり感が出ていますが,やはりお好きなんですか?
トリダモノ氏:
肉感のある女の子は好きです。でももしかしたら,素足に未練があって,露出している部分を強調した結果,あの太ももになったのかもしれません。
4Gamer:
結果的に,細井さんが素足にNGを出し続けたのは正解だったわけですね。
細井氏:
ようやくライザのデザインが固まったので,最後は対になるクラウディアも決まっていきました。
トリダモノ氏:
ライザが赤いので,クラウディアは青かなと。
細井氏:
ライザが決まってからは,決定稿まで早かったですね。
「アトリエ」の主人公をデザインする重み
細井氏:
それにしてもライザのデザインは,トリダモノさんが描き直してから,ものすごい速さで決まっていますね。トータル17日ぐらいでしょうか。情報公開が5月だったので,トリダモノさんには「描き直していいですよ」と言いましたが,内心「どうしよう……」と思っていました。鈴木は,絶句していました。
4Gamer:
でしょうね(笑)。
トリダモノ氏:
決めるまでの作業をこうして見返すと,私の絵の描き方が本当に飛び飛びですね……。Aをやっていたら,いきなりBみたいな極端なことをやっています。
細井氏:
我々が「次はこういうのを用意してください」と伝えても,それに対してトリダモノさんご自身が納得しないで描いていくと,精神的に弱っていくんです。
トリダモノ氏:
口では「やります」とか言うんですけどね。絶対に描きたくないというところまでいってしまいました。
4Gamer:
そこからよく復活できましたね。
トリダモノ氏:
今までのシリーズとは違ったことをデザインに取り込みたいと思ったんですよ。新作なら新しいことをしたいという思いがずっとあったんです。なんとか完成できて,本当に良かった。今回の錬金術士もアリじゃないですかね?(笑)
4Gamer:
今ライザに注目している皆さんに代わって言いますが,大いにアリです。
細井氏:
でも,心の折れかけたトリダモノさんを説得するのは,本当に大変だったんですよ? 揉めたカップルみたいな感じで何度も話し合いましたから。東京ゲームショウ2018の前ぐらいに「自分はアトリエに合わない」「下りたい」という相談があったんです。
トリダモノ氏:
ありました,ありました。
4Gamer:
そのときはどうやって説得したんですか?
細井氏:
「やばい!」と思いながら,冷静な顔でトリダモノさんと本音で話し合い,引き留めました。
トリダモノ氏:
細井さんの想いも伝わってきて,自分自身もチャレンジしたいと思いました。後悔はしたくないですから。
細井氏:
そしたら,一度実家に帰らせてくださいって(笑)。
4Gamer:
カップルというより離婚直前の夫婦じゃないですか(笑)。
でも,それだけ「アトリエ」の新作で新しいキャラクターをデザインすることが,大きなプレッシャーということですよね。
トリダモノ氏:
そうですね。ずっと弱気でした。
細井氏:
ライザのデザインが決まるまで,相当議論を重ねましたが,チーム全体がどうしても「アトリエ」というところに引っ張られてしまうんです。最終的には,トリダモノさんの作家性で作られた部分が半分以上という感じですが,その部分を出してもらうまでが大変でしたね。
トリダモノ氏:
ずっとシリーズを作っている人達の意見のほうが参考になると思ってしまって,なかなか自分の色を出すということに踏み切れなかったんです。
細井氏:
ただ,今のライザが完成してからも,トリダモノさんご自身は「『アトリエ』に溶け込むのか?」「本当に受け入れられるのか?」という不安はお持ちだったようで。初めてトリダモノさんの気持ちが上向いたのが,ライザを実機に載せたときですね。
4Gamer:
ゲーム画面を見たときということですか?
そうです,感動しました。ゲームのビジュアルが良くて,安心したんです。このゲームをより良くしたいという想いが強くなり,このビジュアルにイラストが負けないようにがんばろうと励みになりました。
細井氏:
ライザがダサいって言われるんじゃないか,地味って言われるんじゃないかって,ずっと自問自答されていましたもんね。実機を見てようやく「この世界には,このキャラクターだから合うんだ」と納得してもらえました。
トリダモノ氏:
自分が描いたものは間違っていなかったんだって実感できましたね。
私自身は,その世界に生きている等身大の女の子が描きたかったんです。でも,それをシリーズファンに受け入れてもらえるかが,すごく不安でした。
4Gamer:
実際にライザが世に出て,地味みたいな反応はまったくないですよね?
トリダモノ氏:
なかったですね。
4Gamer:
むしろ,恰好が特徴的すぎて注目されている気が……。
細井氏:
彼女は動きやすい格好をしているだけです。我々は,ライザ達の生きている世界の夏の衣装をずっと追い続けてきた感じです。たまに「感覚が麻痺している」と,私も鈴木CGディレクターも社内で言われますが。
4Gamer:
ええと,申し訳ないですけど,感覚が麻痺していると思います(笑)。
細井氏:
受け入れられるものができたのは嬉しいですけどね。賛否はあると思いますが,注目していただけているだけでありがたいです。
トリダモノ氏:
ライザはこちらの予想を遥かに超えて,とても良い反応をいただいていますね。
もしシリーズ3部作とかになったら,ライザを超える主人公を作るのは大変だと思います。
4Gamer:
「ライザのアトリエ」の世界観で続くなら,当然次の主人公もトリダモノさんが,ということになりますよね。
トリダモノ氏:
がんばるしか……ないですね。
細井氏:
ただ,シリーズの展開の仕方は,これからどうするべきなのか悩んでいます。例えば,これまで2〜3部作をそれぞれ違う主人公でやってきたからよかった部分がもちろんあります。その一方で,ずっと同じ主人公を応援したい人もいるはずだと思うんです。私自身がそうなんですけど,コンシューマゲームって,1回好きになったものを追いたくなりますし。
4Gamer:
確かに,主人公が続投する「アトリエ」というのも,見てみたい気はします。
細井氏:
まだ全然決まっていませんけどね。それも含めて,これからの「アトリエ」を温かく見守っていただければと思います。
とはいえ,今は何よりも「ライザのアトリエ」に全力です。発売を楽しみにお待ちください。
トリダモノ氏:
ライザに注目していただいている人には,ゲームで直接動かしてもらいたいです。いや,ライザだけじゃないですね。みんなの物語なので。ぜひ「ライザのアトリエ」を楽しんでください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜」公式サイト
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