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[GDC 2021]主人公のいない「ウォッチドッグス レギオン」で自動生成されたミッションシステムの仕組み
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印刷2021/07/21 17:40

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[GDC 2021]主人公のいない「ウォッチドッグス レギオン」で自動生成されたミッションシステムの仕組み

 Ubisoft TorontoでリードR&Dプログラマーを務めるユリー・ホーネマン氏(Julie Horneman)がGDC 2021のAIサミットにてオンライン講演し,自身が関わった「ウォッチドッグス レギオン」PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One)のミッションシステムのついて解説する,「Missions Played As Anyone in 'Watch Dogs: Legion'」(誰を選んでもプレイできるウォッチドッグス レギオンにおけるミッション)と題したセッションを行った。

 「ウォッチドッグス レギオン」(以下,レギオン)は,セキュリティ企業がロンドンの警察権を掌握してしまうという近未来において,プレイヤーは“デッドセク”と呼ばれるハッキングなど最新テクノロジーを駆使する地下組織のメンバーとして反体制活動を繰り広げていくという,オープンワールド型アクションRPGだ。日本でも2020年の10月末から11月にかけて新世代機を含めた各プラットフォーム向けにリリースされている。

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 レギオンの面白いところは,ロンドンで日常生活を過ごしているNPCたちほぼ全てをプレイヤーが自由にリクルートでき,それぞれ異なる能力や背景を持つ彼/彼女たちを操作して,メインストーリーに関わるミッションをこなしていくといゲームシステムである。
 AAA級タイトルであるのに主人公が存在しないという非常に冒険的な作風だが,プレイヤーキャラクターがミッション遂行中にキルされるとリスポーンされることはなく,残されたメンバーや新しいキャラクターを雇用。それと同時に,ゲーム世界のどこかで容姿や背景は異なるものの,似た特性を持つNPCが自動生成されて,いつかプレイヤーに発掘されるのを待ちつつ,自分なりの日常に没頭していく。

ホーネマン氏は1991年にゲーム業界入りしたという大ベテランであり,Atari STからPlayStation 5までコンシューマーゲーム機が進化するごとに自らのプログラミング知識をアップデートし,Ubisoft Torontoにおいては研究開発チームを率いながらもレギオンではミッションシステムとナレ―ティブ技術を担当するという,今なお最前線で活動を続ける技術者である
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Play as Anyoneというレギオンの最重要事項


 ホーネマン氏が解説するには,レギオンが前作「ウォッチドッグス 2」と技術的に異なるのは,以下のような点となっている。

  • ダイナミックに自動生成されるNPC
  • プレイヤーは,そのNPCを使ってより多くのことができ,ゲーム世界もそれに反応する
  • 多くのミッションは,固定されずにNPCや状況に合わせてロケーションが決まる
  • 一連のミッションを自動に微調整して再利用する“Trope”システムを採用
  • よりオンラインモードにフォーカス
  • より多くのミッションタイプ

 また,ホーネマン氏が言うには,現世代のゲーム開発は過去と大きく異なっており,リアルタイムの照明効果や物理ベースの物理効果など,1つ1つのゲームシーンに開発者が手を加えていくのではなく,それらを自動制御するシステムを開発するという方向性に変化しているという。これをキャラクター生成に投影したのが,レギオンで開発された「センサス」(Census)というシステムだ。
 日本語に訳すと“国勢調査”を意味する言葉だが,このセンサスは性別,職業,年収といった様々な情報と,その人口比率などがあらかじめ設定されており,誰かがキルされたりすると,その時点で「似てはいるが異なるキャラクター」を作り出す。個々のNPCの生活拠点や趣味,彼らの政治的嗜好といった現在から,出身地やそれに応じた方言といった過去の情報がタグ化されており,必要に応じて生成されるという仕組みだそうだ。

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 本セッションの表題にもなっている「Play as Anyone」は,レギオンが開発されていくうえで最も重要な,本作のバックボーンとも言えるものだ。例えば,4Gamerでは以前「Access Accepted第664回:リップシンクが日本語にも対応。声の質まで変わる次世代の音声技術とは」関連記事)で紹介しているとおり,本作ではNPCが自動生成されるのに加え,彼らの出身地などの設定に合わせて,異なる声優がボイスを提供した方言が,さらに年齢などを加味して声色までを自在に変更するボイスチェンジャー技術も搭載されているなど,徹底してコンセプトを実現させている。

 しかし,ミッションというカテゴリーにおいては,自動化することにおいて,早くからいくつかの問題が想定されていた。これらは「エッジケース」(稀なケース)と呼ばれ,ミッションに必要なキャラクターがプレイヤーにリクルートされた場合や,ミッションに必要な“アクター”キャラクターを,プレイヤーが警察に逮捕させたり怪我させた場合に,そのミッションを進められなくなるといったことだ。

 ホーネマン氏は,「こうしたセンサスのシステムから見た機械的なミッションが道路だとしたら,実際にプレイヤーがミッションをプレイしていることがタイヤで,エッジケースはまさにそ路面とタイヤが接する部分だ」と表現。もともと敵の建物奥深くに籠る特定のNPCなどはリクルートできない仕様だったものの,なるべくセンサスシステムに手を加えない形でアクターたちもリクルートできないようにした。
 これはセンサスのタグではなく,“ノードグラフ”と呼ばれるミッションエディタによって処理したとのことだが,それはミッションが終われば,当該のアクターをリクルート可能になるようしやすいためだ。NPCが逮捕された場合なども,専用ノードを追加することで対処できた。
 こうして「Play as Anyone」というレギオンの基本コンセプトを,ギリギリの判断で調整しながらゲームを作り上げたといったとホーネマン氏は語っていた。

ノードグラフは,ゲームのナレ―ティブシステムでは良く見られるミッションエディターだが,ミッションの遂行に必要な特定のキャラクター(アクター)の制御にも利用された
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ゲームプレイシステムの一貫としてのミッション


 レギオンでサブクエスト的に発生するのが「リクルートメント・ミッション」というミッションタイプで,これは特定のNPCを雇用するためにアプローチした際に,それぞれの背景から生成されたミッションを成功させることによって仲間になってもらうというミッションだ。プレイヤーがリクルートミッションに同意した時点で,そのNPCがアクター,つまりキルしたり逮捕されたりできないキャラクターとなる。

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 また,同じようなサブクエストとして「リベンジ・ミッション」があり,これは特定のアクションを起こしたプレイヤーに,復讐するためにNPCが活動し始めるというタイプだ。デッドセクの活動で被害にあった,セキュリティ企業の職員の家族や恋人といった関係の近いNPCが,センサスシステムのタグ追加によって,プレイヤーが雇用している特定のメンバーキャラクターに対して攻撃的にプレイしてくるようになるのだ。
 リベンジ・ミッションは,学術関係者の間で“ストーリー・シフティング”(Story Sifting)と呼ばれるナレ―ティブ制作のテクニックの1つが活用されているという。

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 ホーネマン氏が話していて興味深く感じたのは,彼が「ゲームプレイシステムとミッションの関係が正反対になっていた」と表現していたことだ。通常であれば,ゲームプレイの担当者が用意されたシステムを使ってミッションを構築していくが,レギオンではミッションシステムが自動生成するので,ゲームデザイナーがそれを上手くコントロールして特定のキャラクターをシステムに選んでもらったりするという,これまでの開発とは異なる手順になったという。
 そもそも,システムを構築するプログラマーと,ミッションのデザイナーのゲームについての考え方も異なる場合が多いので,ミッションシステムの変化はチームマネージメントにも少なからず影響を及ぼしたという。こうしたチーム内での葛藤が,ゲーム開発の遅延と言う形で現れたと思うが,ホーネマン氏は「我々の次回作に,この経験が役に立っていく」と,こうしたNPCやミッションの自動生成システムは,今後も同社で活用されていくことをうかがわせて,今回のセッションを締めくくっていた。

「ウォッチドッグス レギオン」公式サイト

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