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[CEDEC 2021]「BLUE PROTOCOL」におけるキャラ制作のノウハウ。アニメ手法を取り入れたプレイヤーキャラを手軽に作るためのこだわりとは
ブルプロに注目している読者ならご存じのとおり,本作の各キャラクターには,アニメーションに通じる表現手法が積極的に取り入れられている。今回の講演では,プレイヤーがアニメっぽいプレイヤーキャラを手軽に作成できるようにするための工夫の数々が,社内のアーティストとエンジニアのそれぞれの立場によって語られた。
キャラクタークリエイションにおける基本コンセプト
“アニメの設定画”のようなUIを目指す
本講演の前半部を担当した松尾行恵氏は,バンダイナムコスタジオ所属のアーティストとして,ブルプロの初期段階から関わっているという。同氏は最初に,現在の開発バージョンにおけるプレイヤーキャラの作成画面(キャラクタークリエイション)をムービーで紹介したうえで,そのコンセプトや細部のこだわりなどを語っていった。
プレイヤーキャラ作成時に,プレイヤーの趣向をできる限り多く反映できるようにする一方で,その結果として,見た目が破綻したキャラクターが作成されないように注意が払われているという。たとえばだが,顔を構成する各パーツを自由に位置調整できたり,体の部位ごとに伸縮できたりすると,(本人がどう思っているかは別として)周囲からは奇天烈に見える可能性がある。アニメでいうところの“作画崩壊”のようなキャラクターにはならないように,開発側としては細心の注意を払っているという。
多くのオンラインゲームでは,プレイヤーキャラを作成する際,正面からのカメラアングルで体や顔などをグルグルさせながらカスタマイズを行っている。しかし,実際のゲームプレイ中は,正面だけでなくさまざまな角度からプレイヤーキャラを眺めることになるだろう。そのためブルプロのキャラ作成時は,複数の角度による姿がいっぺんに見られるように画面が構成されている。
このUIは,ブルプロのアートディレクターを担当している奥村大悟氏による,「アニメの設定画のような見た目にしたい」という意向をもとに開発しているそうだ。
キャラクタークリエイションにおける数々のこだわり
アンダーウェアや“ソックス足”なども
続いて,ブルプロのキャラクタークリエイションにおける具体的なこだわりの数々が語られた。本作に注目しているファンなら特に気になる部分だろう。
プレイヤーキャラを構成するパーツは,髪の毛,上半身,下半身,手,足,帽子,後頭部,顔パーツ群,アンダーウェアなどがある。そして,各パーツに衣装データを反映させたうえで,プレイヤーキャラクターの軸となる【骨】にくっつけて,画面内に映るキャラクターが出来上がる仕組みだ。
この骨は,プレイヤーキャラの性別や年齢に関係なく,すべてのアバターで共通となっている。また,キャラクターの各モーションは骨ベースで処理される仕組みとなっており,たとえ少女でもおじさんでも,同じモーションが実現可能となっている。
ちなみに以前の4Gamer取材記事において,2人のキャラが一緒に行う共同ジェスチャー(感情表現)の“手つなぎ”を紹介している(関連記事)。こうしたジェスチャーにも同様の仕組みが用いられていると思われる。
プレイヤーキャラの作成時は,身長のほか,体全体の“肉付”や“胸囲”がスライダーで調整できる。これに関しては,奥村氏が手掛けた“理想の体型”がデフォルトとして用意され,それに対する肉の付き方の最大値と最小値が別途設定されている。プレイヤーがスライダーで調整した際は,この最大値と最小値の範囲内で反映可能だそうだ。これも,前述した作画崩壊を起こさないための工夫のひとつと言えるだろう。もちろん,身長を伸び縮みさせても,頭の大きさや肩幅なども違和感のないよう自動で調整される。
ボディに関しては,ベースとなる体型タイプとして,S/M/Lの3種類が用意されている。このうちSタイプとMタイプは同じモデルアセットをもとに,骨の拡縮で大きさを変更しているという。
そしてここからが細かいのだが,男子のキャラはLタイプにおいて筋肉を強調させるべく,S/Mタイプとは別のモデルアセットが用意されている。女子のLタイプにおいても,肉感を強調するべくMタイプとは別のテクスチャや,一部の部位で専用のモデルアセットが用意されているとのことだ。
本公演では,プレイヤーキャラの衣装へのこだわりの数々も語られた。
まず,グローブに関しては4段階の長さが用意されており,それらが上着の袖と干渉する際は,重なった部分の袖側が非表示となる。ただし,上着の種類によって袖の太さは異なるため,その干渉部分を単純に消すのでは見栄えが悪くなる恐れがある。そこで,境界となる袖の部分に絞りを入れることで,自然な見た目になるようにしているそうだ。
足の指先に関してだが,ブルプロでは“ソックス足”なるパーツが用意されている。そして,プレイヤーキャラが靴を脱いだ際,ソックスを履いているのとそうでないのとでは,シルエットが異なる仕組みとなっているのだ。そもそも靴を脱ぐことができるという仕様も含め,ブルプロならではのこだわりが存分に発揮された部分と言えるだろう。
なお,このソックスをパーツの部位として別途用意するかどうかについて,社内で協議を重ねたという。
最終的に,ソックスは下半身のパーツに統合される仕様となったが,これによる新たなメリットが別途生まれたとのこと。ニーソックスを履いたときの太ももへの微妙な食い込みや,ガーターベルトなどを実現できるのだ。
アンダーウェアに関しては,男子はパンツパーツのみ。女子は加えて,ブラパーツがセットとなっている。
また,女子のパンツパーツに関しては,おしりの部分を少し縮めた差分データが用意されており,これはスカートやワンピースなどの着用時に適用される。タイトスカートなどを履いたときなどは,この差分データを用いることで,見た目のシルエットが崩れない効果もあるそうだ。
奥村氏によると,ヘアスタイルはプレイヤーキャラを個性付けるうえで“命”という認識で,ブルプロのキャラクリエイションでも特にこだわっている部分のひとつだそうだ。ヘアスタイルは通常のモデルのほか,帽子やフードをかぶった際,それぞれ別のデータが用意されている。
また髪の毛に関しては,グラデーションやメッシュにも対応。グラデーションは画像データとして用意されており,この柄は変えられるほか,位置や幅の調整も可能とのこと。そのほかには,髪の毛を“揺らす”処理を行う際,少ない数の骨で実現することにもこだわっているそうだ。
キャラクターの表情に関しては,それぞれ25種類が用意されている。これらのバリエーションに関しては,表情の豊かさやユーモラスさなども含めた,アニメチックなものを意識しているそうだ。
なお,ブルプロ開発プロジェクトの初期段階において,キャラクターの表情を骨で動かすか,あるいはブレンドシェイプ(※違った形のモデルを複数用意し,ブレンドして作り出すアニメーション手法)を採用するか悩んだという。ただ,ブレンドシェイプの場合は負荷が大きくなりがちで,多数のキャラクターが一度に登場するオンラインゲームには不向きと判断し,採用を見送ったとのこと。
以前に実施したクローズドβテストの際,「顔パーツが差し替え方式のため,他のプレイヤーと見た目が被ってしまいやすい」というフィードバックが多かったという。これを受ける形で,目(まぶた)や眉に関して,スライドバーで角度調整を行えるシステムを実装したそうだ。
このシステムにより,仮にそれ以外のパーツが同じでも,まるで違った雰囲気のフェイスが実現可能になった。プレイヤーキャラとしてのカスタマイズ幅を広げるのと同時に,思い入れもいっそう深まりそうである。
ちなみに,最初は目や眉をシンプルに回転させるシステムとして実装したところ,奥村氏からダメ出しを受けたという。このようなシンプルな手法だと,表情を変化させた際などで,どうしても違和感が生じてしまうからで,どのように角度を調整しても,感情表現を含め自然な見た目になるよう,非常に細かく調整しているそうだ。
最後に松尾氏は,これらのアニメ的なキャラクタークリエイションの開発経験を踏まえて,リアル系のキャラクリとの比較について語った。
女子(特に年少)のキャラは,目を中心とした部分に多くの情報量を詰め込めるが,それ以外の部分でバリエーションを広げるのが難しいとのこと。そして男子(特に中高年)は逆で目は小さいが,顔の輪郭,眉,鼻におけるデザイン幅が広いそうだ。
つまり,キャラの性別や年代などに応じて,それを特徴付けるパーツは異なる。仮にすべての性別や年代で,パーツ数やカスタマイズ幅を同じように適用する仕組みでは,プレイヤーが個性付けを行うのは困難だと実感したという。
ブルプロのキャラクタークリエイションでは,技術的にはこれといって新しいことは行っていないそうである。その代わり,年齢幅が広いアニメ的な表現による男女のキャラを,作画崩壊せずに,そして簡単に作れるようにするために,数多くある機能を取捨選択し,そのための細かなこだわりの積み重ねを行っていると締めくくった。
エンジニア視点による処理負荷を軽減するための工夫
NPC描画時は外見のみを上書きする“転生”を採用
本公演の後半部では,バンダイナムコスタジオの金田直隆氏が,エンジニア視点によるキャラクタークリエイションの工夫の数々を紹介した。こちらはブルプロが採用しているゲームエンジンのUnreal Engine 4を中心とした技術寄りの内容が多かったため,要点をざっくりと紹介しよう。
オンラインゲームのブルプロでは,ときとして100名以上のキャラクターが画面内に表示される。そのためエンジニアとしては,各処理をなるべく軽くするべく工夫をしているそうだ。ちなみに描画周りの処理に関しては,別のセッションで詳しく語られている(関連記事)。
描画以外に関しては,非同期メッシュマージの採用や,アセット作成の効率化,揺れ処理を行うための開発ツールなど,処理負荷を軽減するための工夫の数々が紹介された。
興味深かったのは,前述したキャラクタークリエイションの仕組みは,プレイヤーキャラだけでなく,NPCやエネミー(モンスター)にも適用されているという話である。プレイヤーキャラと比較すると,NPCを構成するパーツの数は少なく設定されているのだが,キャラクリの仕組みを汎用化させることで,さまざまなメリットがもたらされるのだ。
たとえばプレイヤーキャラが拠点エリア内などを移動すると,画面内に新たなNPCが表示されたり,逆にNPCが非表示になったりする。この際,距離が離れたNPCのデータに関しては,直ちに破棄はされず,いったんプールされ,新たなNPCが画面内に登場する際,プールされたデータに対し,アセットデータを上書きして再利用しているそうだ。
金田氏は,NPCの見た目のみを変える再利用のことを“転生”と語っていたが,これも処理負荷の低減に一役買っているという。
プレイヤーキャラが走り回ると,(内部処理的には)次々とNPCが“転生”を繰り返しているわけで,一部のゲーマーにとっては,ニヤリとするシチュエーションかもしれない。ちなみに余談だが,開発作業中はアセットデータの上書き処理などがうまくいかず,本来ありえないパーツの組み合わせによる転生失敗の事例が生じることもあったそうだ。
※本作は現在開発中のため,本稿で紹介している各種仕様は今後変更される可能性があります
「BLUE PROTOCOL」公式サイト
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BLUE PROTOCOL
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(C)BANDAI NAMCO Online Inc. (C)BANDAI NAMCO Studios Inc.