インタビュー
「パンツァードラグーンVoyage Record」誕生秘話。一人の若者はいかにして会社を作り,「自らパンツァードラグーンを売る」ことになったのか
同シリーズはセガサターンというハードウェアにとって特別なものであるだけでなく,1990年代中盤から後半に発売された第5世代家庭用ゲーム機,要は「CDとポリゴンの革命の時代」を象徴する作品だ。
一方,種々の事情もあって(その一端は本稿の中で解説する),2002年末の「パンツァードラグーン オルタ」以来,シリーズ作品の系譜は途絶えており,移植やリメイクにも恵まれているとは言えないIPでもあった。
……という話から始まると,4月2日に発売されたNintendo Switch版「パンツァードラグーン:リメイク」を思い浮かべる人もいるだろう。
だが,今年登場するのはリメイク版だけではない。むしろ,もう1本の「パンツァードラグーン」の存在が筆者の度肝を抜いた。それが「パンツァードラグーンVoyage Record(仮題)」(以下,PDVR)だ。
しかも,PDVRのパブリッシャはセガではない。開発と販売を担当するのはインディーズゲームメーカーである「株式会社ワイルドマン」。多くの人には耳慣れないかもしれないが,筆者にとってはよく知る名前だった。
「え? 野生さん?」
同人ゲーム開発者でもある野生さん(筆者は普段こう呼んでいるので,以降は“野生さん”とさせていただく)が会社を作ったのは知っていたが,まさか「個人デベロッパ」として,セガから「パンツァードラグーン」のライセンスを取得し,新作を開発していたとは!
野生さんはなぜPDVRを作るに至ったのか? そして,セガとの関係はどうなっているのか? すぐに取材依頼を送ると,快諾の返事と共にこんな提案もあった。
「堀井さんも同席していただいていいですか?」
PDVRには,野生さんと堀井さんの関係も大きく関わっているという。「パンツァードラグーン」に魅せられた若いゲーマーが開発者となり,いかに普通ではあり得ないことを成し遂げようとしているのか。その経緯を2人の言葉から探ってみよう。
※今回のインタビューは3月下旬,オンライン上で実施しました。
「この人はゲームの自給自足をやる気だ」
4Gamer:
今日はよろしくお願いします。
さっそくですが,今回の件は本当に驚かされました。野生さんが「パンツァードラグーン」好きであり,さらに独立して会社を作ったことも伺っていましたけれど,まさか「パンツァードラグーン」そのものを作っていたとは。
野生の男氏(以下,野生氏):
まあ,そうですよね。
4Gamer:
ゲームが好きなエンジニアが,自分が好きなゲームを,しかも自分がパブリッシャになって発売するなんて,聞いたことないですよ。
堀井直樹氏(以下,堀井氏):
狂ってますよね,明らかに(笑)。
4Gamer:
堀井さんが「狂ってる」と言うんだから,相当のことです(笑)。
堀井氏:
ええ。「ガンナーオブドラグーン」の発表当時も「こりゃ,スゴイ」と思っていたら,野生の男さんが「ちょっと見に来て」というので,実際に行ってみました。そうしたら,やっぱりスゴかった。
だから,野生さんをセガさんに紹介するところまでが,僕の仕事だったんですよ。
4Gamer:
堀井さんの引き合わせだったんですね! いろいろと納得しました。
野生氏:
2018年2月に「ホリエモン祭」というイベントがありまして。そこに自作のゲーム「ガンナーオブドラグーン」を出展したんです。
堀井さんに遊んでいただきたくて,イベントにお呼びしたのがきっかけです。
ここで「ガンナーオブドラグーン」というゲームが出てきた。これは,野生さんがずっと作り続けてきた自作ゲームだ。どんなタイトルかを細かく説明するより,以下の動画を見ていただいたほうが分かりやすい。まさに「パンツァードラグーンにインスパイアされたVRシューティング」だ。
ドラゴンに乗って,ハンドコントローラを銃にして敵をレーザーで撃つ。まさに「パンツァードラグーン」なのだが,さらに「ロデオマシン」と呼ばれる乗馬フィットネス機器をソフト制御して連動させることで,「ドラゴンの背に乗って飛ぶ」感覚を完全再現している。
その圧倒的な臨場感から,多数の受賞歴を持つ。野生さんはさまざまなインディーズゲームイベントやVRイベントに積極的に出展し,デモを公開してきた。
4Gamer:
そもそも「ガンナーオブドラグーン」が,なんというか,すごくパンツァードラグーンなゲームじゃないですか(笑)。堀井さんの目から見ても,これは「常軌を逸している」と思ったわけですね。
堀井氏:
いやあ,常軌を逸しているどころか一線を踏み越えて,「この人はゲームの自給自足をやる気だ」と思ったんですよね。
野生氏:
ただ,2018年に独立したときは,“パンツァードラグーンそのもの”を作るつもりではなかったんです。堀井さんをお呼びして「ガンナーオブドラグーン」に乗ってもらったのは,セガの奥成さん(セガ所属の奥成洋輔氏。「セガ3D復刻プロジェクト」や「メガドライブミニ」などに関わる)達にも紹介してほしい,くらいの気持ちはありましたね。
その後,2018年7月に「株式会社ワイルドマン」を作りましたが,直後に堀井さんの紹介でセガさんに「ガンナーオブドラグーン」を持って行ったんです。
堀井氏:
まだ大鳥居でしたよね。
※セガ(当時はセガゲームス)は2018年8月,本社を東京都品川区大崎に移転。
野生氏:
その時に用意した企画書は「パンツァードラグーンを出す」という話ではなく,「『ガンナーオブドラグーン』に(パンツァードラグーンの)ブルードラゴンを出せないか」という内容でした。
「ダライアスバースト」のDLCに「スペースハリアー」のキャラクターが収録されていましたよね。あんな感じで追加キャラとしてブルードラゴンを出せたらいいな,と考えていたんです。
ところが,セガさんから「そんな周りくどいことをしないで,公式にライセンスを取得して作ってみたら?」と言われまして。それで,7月中にPDVRの企画書を作って持っていきました。
4Gamer:
確認したいのですが,会社を作って独立したのは「PDVRを作るため」ではなかったんですね。
野生氏:
ええ,PDVRが後です。
4Gamer:
「デベロッパとして自分でゲームビジネスがしたい」ということで会社を作ったところに,「追加キャラにするくらいなら作ってよ」という話が来たと。
野生氏:
そうですね。ワイルドマンは僕自身の会社です。当初の予定では,2018年のうちに「ガンナーオブドラグーン」をSteamで販売し,当時勤めていた会社でそのまま働きながら,「ガンナーオブドラグーン」の売り上げを元手に,のんびりとゲームを作っていくつもりだったんですよ。
でも,最初の1週間でその計画は破綻しました(笑)。
「この人が作ったほうが,僕らが作るより間違いなくいいよね」
4Gamer:
野生さんとセガのやりとりを横で見ていた堀井さんは,どんな思いで話を聞いていたんでしょうか。
堀井氏:
いやあ,最初から「こうなってほしいな」とは思っていたんです。実は「パンツァードラグーン」というIPは,いろいろなタイミングで「やりたい」という人が現れるんですよ。
僕らもニンテンドー3DSの初期,「パンツァードラグーンをやりたい」という話をセガさんからいただいています。僕も「やりたい」と思っていましたし。
でも,そこで見積もりを出すと,3DSというハードでどのくらい売れるのかが分からず,躊躇する部分があって実現しませんでした。
ただ,「パンツァードラグーン」にすごく熱量のある人がVRで作るということになれば,耳目を集めるだろうし,遊んだ人は満足するだろうなと。
4Gamer:
「ガンナーオブドラグーン」を遊んだときに,「これをしかるべきところに持っていけば,パンツァードラグーンとして世に出る」という直感があったわけですか。
堀井氏:
「世に出る」とまでは思わなかったけれど,「この人が作ったほうが,僕らが作るより間違いなくいいよね」とは考えましたね。
野生氏:
ありがたい話です。
4Gamer:
「僕らが作るよりいい」と思ったのは,どの部分からでしょうか。
「さんざん遊んで,さんざん見たんだな」というのが分かるんですよ。それがなにか,「ガンナーオブドラグーン」を見ただけでわかる理由を言語化しろ,と言われると困るんですけど。
メガドライブ版「ガントレット」(1993年,テンゲンより発売。開発はエムツー。同社最初の大きな仕事でもあった)を作っている時に,「こんなに知り尽くしたゲームを移植できるのは,一生に一度のことだな」と思ったんですが,それと同じものを「ガンナーオブドラグーン」に感じたんですよ。
4Gamer:
セガ側との話し合いはスムーズに進んだのでしょうか。
野生氏:
それはもう,堀井さんのご紹介だったので。
最初からプロデューサークラスの方々にプレゼンしました。……これ,言葉にするとメチャメチャ,スゴい状況ですね。企画書を出してから,ほぼ何事もなく進んでいきましたね。
堀井氏:
おお,そうだったんですね。
4Gamer:
では,すぐに企画にゴーサインが出たと。
野生氏:
もう,ほんとにすぐでした。
2018年9月の東京ゲームショウに「ガンナーオブドラグーン」を出展しましたが,その時には内定していましたね。
堀井氏:
やっぱり,現場の人に「凄いよ」と言ってもらえれば,絶対に話が早いですよ。
4Gamer:
堀井さんの経験から言って,こんな風に移植や商品化の許諾が出ることはあるものですか。
堀井氏:
いやあ,こういうパターンは初めてじゃないですか。僕が知る限り(笑)。
一同:(笑)
堀井氏:
ただ,現場の人が面白がってくれないと俎上にも載らないですから。「これが出たらセガのIPに対して,ブランドに対してプラスになる」と思ってもらえれば,10年越しになんとかなったりすることはあります。
でも,まさかこんなトントン拍子に話が決まって,今年度中にPDVRが出ることになるとは。
「『パンツァードラグーン』が一番ビビッときた」
4Gamer:
野生さんが「パンツァードラグーン」好きだ,というのは存じ上げていましたが,そのルーツを教えてもらえますか。
まだ小学校に入る前だったんですけど,セガサターンを父が買ってきたんです。いろいろなソフトがありましたが,なかでも「パンツァードラグーン」が一番ビビッときたところがあって。当時はゴジラや特撮戦隊のブームもありましたし,ドラゴンというモチーフが男の子に親しみやすいというのもありました。
あと,気に入ったのは「音楽」です。タイトル画面と「EPISODE 1」でオーケストラのBGMが流れる。内蔵音源ではなく全部CD音源,というところにすごく惹かれました。我が家で初めて買ったCDは「パンツァードラグーン」のサントラだった気がします。
4Gamer:
お父さんもゲーマーだったんですね。
野生氏:
ええ。1993年にはスーパーファミコンを買ってもらって,「超ゴジラ」を遊んでいました。4,5歳だったので難しくて,ほとんど父がやってたんですけど。スーファミ版の「ドラゴンクエストI・II」は,僕がまったく頼んでないのに父が買ってきて遊んでいたりして。
一同:(笑)
野生氏:
サターンでは「パンツァードラグーン」のほかに,「クロックワークナイト 〜ペパルーチョの大冒険〜」や「ヴァーチャルハイドライド」「ウイニングポスト」とかもありましたね。
とくに「AZEL -パンツァードラグーン RPG-」(1998年発売)が印象的だったんですよ。あれを父がすごく楽しんでいたんです。
4Gamer:
センスのいいお父さんですね。
堀井氏:
サラブレッド的なものを感じます。
4Gamer:
その後,野生さんは「好きなゲームを自分で移植してみよう」と思ったわけですが,実際に作るところまでいく人は多くありません。さらに,そこに特別なパッションを感じる作り込みをする人は希有です。そこに至った理由は何だったのでしょうか。
野生氏:
そこには紆余曲折ありまして。2007年から2010年までに,「パンツァードラグーン」三部作(「パンツァードラグーン」「パンツァードラグーン ツヴァイ」「AZEL -パンツァードラグーン RPG-」)をプレイして,ニコニコ動画にアップしていたんですよ。
その頃,僕は高専の4年生(19歳)で,子供の頃とは見る目が違うわけですね。高専でプログラミングの勉強をしている目で見ることで,「あの時代としては完成度が死ぬほど高かった」ことに気づけたんです。
それなのに2002年の「パンツァードラグーン オルタ」以降,シリーズ作品が途絶えてしまい,「非常にもったいない」という気持ちがありました。
4Gamer:
その気持ちはよく分かります。
野生氏:
その後,2010年に二木さん(二木幸生氏。「パンツァードラグーン」のクリエイターで現グランディング取締役)が開発する「クリムゾンドラゴン」が,Kinect専用ゲームとして発表されましたが,発売直前になって,Xbox 360向けのKinect専用版は発売が延期になっちゃったんですね(同作は2013年,Xbox One向けに発売されるが,パッド操作がメインとなった)
僕はKinect専用版を体験会でプレイしていたんですが,Kinectを使って上半身の動きだけで操作するという,画期的なプレイスタイルのゲームだったと思います。
当時,ソニーが「HMZ-T1」という映像向けのHMDを出していましたよね。それにロデオマシンとKinect専用版「クリムゾンドラゴン」を組み合わせて遊びたいと思って,準備してたんですよ。それなのに結局,発売されることはなかった。
堀井氏:
ああ,そうか。
野生氏:
その直後,Rift(Oculus Rift DK1)のクラウドファンディングキャンペーンがKickstaterで始まったんです。まだ「ガンナーオブドラグーン」の構想はなかったので,DK1が届いてから,Oculus RiftとLeap Motion(2012年に登場した,手の動きを認識するコントローラ)を組み合わせて遊ぶ,宇宙もののシューティング「Perilous Dimension」(現「BLAST BUSTER」)を作りました。これはコミックマーケット84に出展しています。
4Gamer:
なるほど。「Perilous Dimension」を作ったことで,「自分が作るべきは,プレイしてみたかった『アレ』ではないか」と思ったんですね。
野生氏:
そうなんです。
堀井氏:
何か突き動かされている感がありますね。
4Gamer:
「ガンナーオブドラグーン」は長期間にわたってバージョンアップを続けていますよね。個人的にはそのモチベーションが知りたい,と思っていたんです。
というのも,VRコミュニティの皆さんの傾向として,次から次へと興味が移っていくタイプの人が多いですよね。そのなかで,野生さんは興味の多様性は維持しつつも,「ガンナーオブドラグーン」の開発を一貫して続けています。
野生氏:
それは,開発を短期集中でやっているからかもしれないですね。手をつけていない期間が意外と長くて,イベント出展などに合わせて,ガッと集中してバージョンアップをしてきたので。あまり疲れを感じなかったのが,ここまで続けられている要因だと思います。
あとは,「音楽」が最も大きいモチベーションになっていますね。
4Gamer:
音楽ですか。
野生氏:
最初のバージョンからずっと,「AZEL」と「オルタ」の作曲者である小林早織さんのオリジナル曲を使っていますが,やっぱり曲がいいとモチベーションが持続します。
小林さんとは,2014年のBitSummutでお会いして,ご挨拶をしました。そこで直接,楽曲の許諾をいただきました。
「僕がパブリッシャになっている理由は,セガさんが損をしないため」
4Gamer:
今回,ワイルドマンはPDVRのデベロッパだけなく,パブリッシャという立場でもあります。これにはどのような理由があるのでしょうか。
野生氏:
僕がパブリッシャになっている理由は,セガさんが損をしないためです。
パンツァードラグーンシリーズは2002年末の「オルタ」,2006年のPS2移植版以来,セガからの展開が途絶えています。これはなぜかというと,セガサターンとXboxというハードウェアでの展開だったことで,知名度の割に実売本数が伴っていないんですよね。とくに三部作は日本での知名度は高いものの,海外ではセガサターンの売れ行きが不振だったこともあって……。
4Gamer:
そうか。海外ではセガサターンの市場が立ち上がらなかったから,「セガサターンを代表する名作」の知名度が低いと。
野生氏:
一方で「パンツァードラグーン」は,北米を中心にカルト的な人気があるんですよ。
2012年にアメリカのスミソニアン美術館で「Art of Video Games」という企画展がありました。そこでは各ハード,各ジャンルから1本ずつ賞を選ぶという企画があり,「オルタ」(Xbox,シューティング),「ツヴァイ」(セガサターン,シューティング),「AZEL」(セガサターン,RPG)の3本が選ばれているんです。
日本勢が大活躍。スミソニアン・アメリカン・アートミュージアムが開催する,「The Art of Video Games」に展示されるゲームタイトル発表
スミソニアン・アメリカン・アートミュージアムは,来年2012年3月から,ゲームの歴史と芸術的側面を紹介する展示会「The Art of Video Games」を開催する。展示されるタイトルが一般からの投票によって選ばれることでも話題を呼んだが,その投票結果が発表されたのだ。想像どおり,多数の日本生まれのタイトルも選出されている。
とはいえ,想定されるユーザーベースは少ない。しかも,PDVRはVRですからね。2018年には「BeatSaber」フィーバーもなく,「Half-Life: Alyx」も発表されていなかったため,大きなビジネスになっているVRゲームもなかった。
こうした状況のなかで,セガさんにパブリッシャとして予算を出してもらった場合,もし外れたりしたら,「パンツァードラグーン」というシリーズにとって致命的な打撃になると思ったんです。
それだけは絶対に避けたかったので,自分でリスクを全部かぶるために「パブリッシャ」として販売することにしました。セガさんからは1円もいただかずに,PDVRを作っているということです。
堀井氏:
むしろ,セガさんに「払う」側ですよね。
4Gamer:
だから,ニュースを見た瞬間に「胸熱だな」と思いました。普通あり得ないですよ。
逆に言えば,日本のゲーマーにとって,「パンツァードラグーン」はよく知られたタイトルだけれど,新しくゲームを作ってビジネスをする場合,確実に収益が見込める状況ではないということですね。
野生氏:
そうなんです。
4Gamer:
先ほど堀井さんが言っていた“3DSの企画”が実現しなかったのも,まさにそれだったのでしょうか。
堀井氏:
そうかもしれませんね。単に「すごく手がかかりそうだから」という話だったのかもしれませんけれど。
4Gamer:
同じオールドタイトルでも,コードの書き直しが少ないエミュレーションベースで制作できるものなら,話は別だと思います。でも,セガサターンのタイトルで「パンツァードラグーン」だと,そういうわけにはいかない。
堀井氏:
ええ。3DSのときだと書き直すしかないですよね。
4Gamer:
「あの頃だと決断できなかった」というのは分かります。
ここで補足しておきたい。
4月2日にリリースされたNintendo Switch版「パンツァードラグーン:リメイク」も,実はPDVRと同じビジネス構造になっている。セガがライセンス元であり,ポーランドのForever EntertainmentとMegaPixel Studioがそれぞれパブリッシャとデベロッパである。彼らが野生さんと同じく「パンツァードラグーンに思い入れがある人々」であり,リリースを熱望したからこそ,「セガがパブリッシャに対してライセンスを提供して,リメイク版をリリースする」という流れが実現している。
「パンツァードラグーン:リメイク」
(C)SEGA. (C)2020 Developed by MegaPixel Studio S.A. Published by Forever Entertainment S.A
「パンツァードラグーンシリーズが今後も続いていってほしい」
4Gamer:
それでは,PDVRについてお聞きします。「シリーズ3作品に登場したエピソードを追体験できる」という内容になっていますが,どのような意図があるのでしょうか。
野生氏:
PDVRは「VRでの初代のフルリメイク」ではなく,三部作のステージのリメイクを入れることを選びました。
というのは,「ツヴァイ」と「AZEL」は完成度がすごく高いのに,前述の理由でリメイクの機会に恵まれていないんです。
4Gamer:
確かに。
野生氏:
ここで初代「パンツァードラグーン」のVRフルリメイクをやったら,「ツヴァイ」と「AZEL」の制作はその売り上げ次第ということになってしまうわけです。当然,「ツヴァイ」と「AZEL」を作れない可能性が出てくる。
4Gamer:
なるほど。「ツヴァイ」と「AZEL」をもう一度蘇らせるために,初代のフルリメイクではないんですね。
野生氏:
そうなんです。
4Gamer:
「AZEL」はものすごく贅沢な作りのゲームでしたよね。自分としても「AZEL」はもう一度遊びたいし,あのシーンを多くの人に見てもらいたい。けれど,その機会がありません。
野生氏:
今回,「AZEL」に関しては戦闘シーンに特化して,完全VR化の再現に注力しています。
堀井氏:
「VRの特徴を活かして一点突破」という作戦はいいと思う。
野生氏:
PDVRは「パンツァードラグーンの戦闘のいいとこどり」を目指しています。初期実装のステージは非常に少なくなってしまう予定ですが,「3体のドラゴン戦+人気のシーン」という感じになります。
三部作全てを丸々再現してボリュームを出そうとすると,予算が十数億円規模になってしまい,さすがにそれは厳しい。そこで,「少ないステージ数だが,AAA並みのクオリティ」の実現を目指しています。
4Gamer:
もともと「パンツァードラグーン」が当時のAAAでしたからね。リメイクにはお金がかかるのも当然です。
野生氏:
ええ。三部作の全部が無理ならば,それぞれの一番いいところをVRで体験してもらおう,という狙いです。
そして,このプロジェクトのゴールは,今回の注目や実績をもとに,パンツァードラグーンシリーズが今後も続いていってほしい,ということなんです。
4Gamer:
PDVRひいてはシリーズに懸ける思いが伝わります。ちなみに,現在の開発状況はいかがですか。
野生氏:
順調に進んでいますね。
モデルについては外部の力をフル活用する予定です。ブルードラゴンのモデルには「梨の木屋」さん(山本芳和氏)制作のガレージキットを,ケイズデザインラボさんに高解像度の3Dスキャンをしていただいたものを使います。梨の木屋さんのモデルは,オリジナルタイトルのものよりディテールがずっと細かいんですよ。
パンツァードラグーンVoyage Recordに登場するDユニット・タイプ01(通称ブルードラゴン)は、山本芳和(梨の木屋) @nashinokiya 氏が公式説明書を元に作成されたガレージキットを、 @KSDESIGNLAB 様の3Dスキャン技術によって3Dモデル化したものとなります。まだまだ絶賛調整中です。 pic.twitter.com/F5p4pXDYja
— Panzer Dragoon Voyage Record (@PanzerDragoonVR) March 10, 2020
とはいえ,すべてのモデルをガレージキットにするわけにはいかないですが,それらは夏以降のトレイラーで公開できると思います。
また,セガさんからはクラウドファンディング実施の許可もいただいています。ワイルドマンだけでは実装できないステージやシーンの開発資金を募る予定です。
インタビュー実施後,野生さんから制作段階にあるモデルが届いたので紹介しよう。いずれもModelingCafeが制作を手がけており,PDVRに収録される三部作から1体ずつ選んでもらったものだ。
フライスティンガー(「パンツァードラグーン」) シェルクーフ(「パンツァードラグーン ツヴァイ」) アトルムドラゴン(「AZEL -パンツァードラグーン RPG-」)
「別ルートもあったんだなあ」
4Gamer:
堀井さんにうかがいたいのですが,これまで多くのゲームIPが再生したり,そうならなかったりする様を見てきたと思います。その立場から,今回の件はどう見えていますか。
堀井氏:
「再生」してくることは,普通は「ない」ですよ。
先ほども言いましたが,「パンツァードラグーン」は新作を作るにしても,手数がデカすぎます。会社に所属している人間が企画を通すのは,とても難しいと言わざるを得ない。
「サクラ大戦」も似たところがあって,「毎年のように企画書を出していたけれど,ようやく新作が作れました」という話を皆さん,インタビューでおっしゃっています。これまでは「パンツァードラグーン」もそんな風に終わっていたわけです。
でも,今回は自分で作ってドアを叩く無鉄砲な若者がいた(笑)。
一同:(笑)
堀井氏:
「ああ,別ルートもあったんだなあ」という気持ちですよ。会社で日々,次のゲームを作らなくてはいけない人には,選べないルートだったんです。
ぶっちゃけると,僕自身が「パンツァードラグーンの新作を遊びたい」人間なんですよ。野生さんのイベントに呼んでいただいて,HMDを被ってロデオマシンに乗って風を受けてプレイしながら,「これはバカだ!」と笑っちゃいました。
そして,「これをセガのみんなに届けたら,野生さんがパンツァードラグーンを作る未来もありえるし,セガが何かを作る未来もありえる」と思えたんですね。
4Gamer:
現場に影響を与えるのは間違いないですよね。
堀井氏:
ひっかきまわしたのは間違いないです(笑)。
野生さんがセガのプロデューサーの方々にデモをプレゼンしていると,急に人を呼びに行っていたんですね。「ちょっとお前もこれやっておけ」って。
野生氏:
ありましたね。覚えています。
堀井氏:
そうなると思っていたんです。そうなることを僕が望んでいたので。あの日はそれで満足しましたね。
4Gamer:
いい話ですね。今回のことで堀井さんには一銭も入らないのに。
堀井氏:
いやあ,ゲームを遊ばせてもらえれば十分ですよ。欲しいゲームが出れば,それでいいじゃないですか。
4Gamer:
まったくその通りです(笑)。
堀井氏:
野生さんが作るゲームが業界を席巻してくれると,我々もやりやすくなるというところは間違いなくありますし。
最後に一つ提案してもいいですか。ゲーマー全員がVR機器を揃えるのは難しいかもしれません。そこで,セガさんにはPDVRをベースにしてアーケードに持ち込んでいただけないかな,と。そうすれば「アーケードに新作のパンツァードラグーン」が登場する。ぜひご検討いただきたいです。
野生氏:
いいですね。ロデオマシンや送風機も家庭で用意するのは大変ですから。
4Gamer:
なるほど!(笑) セガさんにぜひご検討いただきましょう。
本日はありがとうございました。
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パンツァードラグーン Voyage Record
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Original Game(C)SEGA/(C)Wildman